第一章5 謎の小動物
第一章 記憶喪失
ステラは不気味な表情を絶やす事の無い少女の後ろへ周り、無意識で右の片手の平から銃を召還し少女を目掛け連続射撃した。が、少女は弾丸を全て避け上手く交わす。
「その化け物をよこせ!!」と怒り散らしながら少女は手の平から黒い鎌を魔法で召還し慣れた手つきで振り回す。瞬きする余裕もない。ちょっとでも触れたり当たったりしたら大きな打撃があるのは間違いない。
しかし今の鎌の勢いでステラに隙が出来てしまった。
「おいおい、隙できてるぜ?」
少女は一気に距離を詰めステラの顔に自分の顔を近づけ最後の警告のようにニヤリと微笑みながらそう呟いた。
その途端ステラの腹のど真ん中を目掛け蹴りを飛ばす。
「がぁッ!!」
ステラは蹴りの威力に飛ばされたが地面に足をついた。蹴られた感覚が腹部に刻まれ激痛に息が詰まるステラは少しでも痛みを和らげようと自然に左腕で腹を抑えていた。少女は鎌を消し、拳を握り容赦なく連続でその恐ろしい怪力で殴りかかる。あまりの激痛で意識朦朧仕掛けていたが間一髪でステラは首を横にかしげ逃げ少し少女と距離をとる。
「・・・やばい殺される。」
ステラは確信した。壁は粉々、地面はステラと少女が勢いを付けて駆け出した足跡がくっきりと残った巨大なヒビ。住宅地は少女の拳の勢いによって破壊されている。死角と隣合わせのステラは少女の攻撃を避けるだけで精一杯だ。
(蹴りがかなり効いている・・・痛い)
「うっがぁ!!」
また少女の拳が頬に命中し、隙が出来たステラに少女は飛びかかり馬乗りする。頭を地面に叩きつけられ腹の次に頬、後頭部と続き猛烈な激痛を味わされる。
(やばいこのままじゃ私もこの子もシャルト
さんも皆死ぬ!こいつにが隙がない・・・!)
「あ」
ステラはそんな危機の中何かを思いついた。馬乗りして少女は最後に重みがかかった拳を顔面へ振り下ろそうとした時、ステラは膝を曲げ足を上にあげて少女を蹴り飛ばし、後ろへ倒れそうになった隙を見、回し蹴りを食らわした。少女はその時初めて余裕満ちた表情を眉間にしわを寄せ目は鋭くなり痛みに耐えながらも殺意満ちた表情をする。
ステラは地面から勢いをつけ、壁を蹴り走り、空中へジャンプした。ステラは無意識に「戦闘モード」へ切り替え左目から赤い炎を出した。
先程とは違う大型武器召還をし、ステラの体をバチバチと赤い雷電が包み込む。そして両手から生み出した魔方陣から、とても大きな兵器(銃)「アルバレスト」を召還し攻撃の合図をする。
「なんだこいつッ・・・!」
「イグニス__!」
呪文を発した時、銃口から赤色の閃光が眩く光らせ少女へ撃ち放った_!
「なッ・・!」
少女はやばいと感じたのかその攻撃を受ける前に風のようにすばやく消え去った。
「私にこんな力が・・・?」
ステラは信じられなかった。まさか自分にこんな力があると思わなかった。
少女が消え際に舞った風のせいか偶然小さなガレキが地面に落ちた。そして、その場はさっきの騒がしさがまるで嘘のように静まり返る。
しかしステラ達が起こした騒ぎに街の人々が少しざわつき、警察、特殊部隊のパトカーの警報音が鳴り響く。人だかりが出来そうだ、見つからないように、騒ぎにならないうちにステラ達はさっさと急いで研究所に戻ることにした。
(_この子が危ない。)
ステラ達の住処、研究所に15分程度で到着し、シャルトが急いでその小動物に酸素用マスクをつけカプセルの中にゆっくりと丁寧に入れ、青いボタン=ONを押し、青透明の水(液体)を機械によって自動的に流される。現在その小動物が浸されている青い水は体内の細胞を活性化させ回復をはやめる効果があるらしい。
「とりあえず、これで大丈夫なはずよ」
一旦小動物の安全を確保できた。ひとまずステラ達は安心したのかほっとした軽いため息をつく。小動物が着ていた洋服は小動物の血であろう青い血痕が取れない状態だったので後々シャルトが処分するであろう。小動物の血の成分を研究に使用する、といのも一つの理由である。どうやらトュリがかけつけてきたようだ。
「様子はどうだ!?」
「今カプセルの中にいれてるから多分大丈夫だと思うよ」
「そうか・・・」
トュリは深刻そうな顔をする。
「黒い少女がこの子を追いかけたり攻撃したりしてたよ」
「!_そいつの特徴覚えてるか?」
トュリはレポートのようなものを取り出しメモをし始める。
「長くなるから私が話すわ。・・・髪の色は黒色、太ももあたりまである癖っ毛に長い髪。目の色は赤でかなり鋭い、いつでも殺人犯しそうな目をしていたわね。服装は赤色のYシャツ、黒いスカート、下は黒ニーハイに赤い靴・・・ムートンぽかったわ。そして_」
「そして?」
トュリとステラは息を飲み込む。
「_黒魔術を使っていた。」
シャルトさんの目つきが変わり少し冷や汗をかいたようにも見えた。それに継ぎトュリも目つきを変える。
「黒魔術・・・!?確か法律で禁止されているはずじゃ」
「えぇ、ステラちゃんが戦っている間申し訳ないけど観察させて貰ってたわ。私が感知した限りあの黒い少女の魔力はかなり強い。いや・・・強いどころじゃ定まらない。」
「ステラが、戦った?」
トュリは黒い少女の話よりも、シャルトが言ったステラの戦闘についての方に気が行き、ステラの方を、長細いその目でジロリと見る「どういうことだ?」とトュリは言う。
「そうなの、ステラちゃん何か右目から赤い炎のようなものを出して・・・あの武器召還魔法、巨大武器召還を使って黒い少女を追い払ったのよ。私驚いたわ。」
「嘘、だろ。」
トュリは目を見開きしばらく固まる。
そして口を開く。
「今回は色々な事があるな。色々と調べる必要がありそうだ。そして_お前の事は後でゆっくりと聞かせて貰おう。ステラについてまだまだ分からない事があるから、レポートに書かせてくれ。」
とステラに言い小動物の方へ視線を向けて、シャルトさんと話し始めたが、またステラの方を振り返る。
「ところでステラ。怪我はないか?」
あ、そういえばさっき吹っ飛ばされた。とステラは思い出す。
「さっきその黒い少女飛ばされたかな。少し体のあちこち痛むし・・・」
「!大丈夫か?先に部屋に戻っててくれ。雪乃に治療するよう頼んでおく。」
「う、うん。有難う。_あ、あと」
ステラは口を少し篭らせる。
「まだ、ここの道・・・覚えてない。」
「なんだそんな事か。ついでに雪乃と部屋に行きなさい。」
「うん、分かった。」
話を聞いていたのか雪乃ちゃんが奥のテレビが置いてある奥の部屋からチラリと顔を見せる。
「さぁ部屋に行くんだ。僕達は話があるんだ、すまないな。」
トュリは無表情だが何処か申し訳なさそうに淡々と静かに言う。ステラはトュリの言う通りに雪乃と部屋に戻った。
ステラがリビングを出た後トュリは考えていた。偶然じゃない誰かが仕掛けたのか?そしてこの生き物とステラを襲った黒魔術を使う黒い少女。黒魔術とは主に闇属性要素を使うのだ、悪魔を召還したりすることが可能で、あまりにも危険なのと魔力が高すぎて人の体に比較にならないくらい、かなりのリスクと
ダメージを負う。最悪命を落とす事だって考えられるのだ。その為、ある一部の国以外ではある国の四天王から許可が下りた者しか使用できない。とりあえずステラが無事でよかった、とトュリは考える。
「さて」
本題に入ろうではないか。シャルトはため息をつきながらソファに腰を下ろす。
「あの子、凄いわよ。貴方あの話したの?」
「いいえ、まだしてないです。凄いとは?」
「ステラちゃんが上級武器召還魔法を使って
銃みたいなものを召還して追い払ったのよ。記憶喪失だっていうのに凄い進み具合よ。しかも下級魔法だけどイグニスを使ったの。」
イグニスは下級魔法、それがどうしたんだ?
トュリは疑問に思う。
「ほら、気付かない?・・・もうステラちゃんが目を覚ました時から私は感づいていたけど貴方達ラァールクロウスじゃない?ならちょっとの魔法使っただけでも闇属製の性質が少し混ざって出るはずなのにあの子だけ_火属性、闇要素がないのよ。」
「え」
「そして契約者の臭いがしない。しかも。ラァールクロウスと言えば悪魔契約_悪魔と共同行動のはずなのに悪魔の匂いすらない。貴方達は隠しているでしょうけど匂わない。まさか匂いを隠してるとも思えないわ」
気のせいじゃなかったようだ。トュリはもしかしたらと思っていたがやはり_。
「えぇ。あのこ契約者じゃないわよ。本当に貴方の妹なの?」
その言葉にトュリは心を少し取り乱した、
「_ッ!はい!確かにあのステラです、ステラです絶対_それは絶対です。」
そうだ、ステラはトュリの妹だ。それは絶対。証拠に真吸血鬼族という種族の持ち主である兄妹同士だからわかるのだ。
「そう・・・」
シャルトはこれはどうしたものか、という困った表情をし、眉間にしわをよせ左手を台に頭を乗せる。
が、すぐに顔を上に上げトュリの方を見る。
「あ、そうだ。後で種族の事とか契約のこととか全部教えてあげなさいよ」
そうだ、落ち着いてから話そうと思っていた。「え、えぇ」と曖昧な返事をし早速例の小動物の方へ視線を向ける。
白い羽毛に体長は恐らく大体30cmくらいであろう。眠っている状態なので目の色は分からない。そして羽毛だが角のように見える角らしくものがあった。
角_?
どこかで見た事あるとトュリは思う。ふと何となくその小動物のお腹あたりに目を移すとそれはトュリは何度も見た事ある紋章があるではないか_!
「_ラァールクロウス?」
「は?」
その言葉にシャルトは伏せていた顔を頭を重力を跳ね返すかのように素早く反応した。
_ラァールクロウスとはトュリ達が契約している悪魔契約の事だ。
「マスター、この小動物・・・所持品とかもってました?」
「えぇ、所持品っていうかパーカー着てたわよ。青い血だらけだったからこれから調査するつもりだけど。」
_青い血?
「それ僕に見せてください。」
「?え、えぇ。」
シャルトは小動物がきていた青い血痕が染み付いたパーカーをトュリに渡す。
やっぱり_
「マスター、この小動物_色々と調べないといけないです。」
「どうして?」
「ラァールクロウスの紋章があります」
シャルトさんは目を見開いた。
「ラァール、クロウス_!何かヒントになりそうなものはあるの!?」
いや残念ながら今の所はないのだ。しかし今回の事はやはり偶然ではないことが分かった。きっとステラ達が言っていた「黒い少女」もラァールクロウスに何か関係しているに違いない。ステラが目覚めた今日に起こったのだ。偶然じゃない。
_何かが起ころうとしてる。
_俺達の身にも、何かが
「この子、どうするの?」
「傷が完治した後、事情聴取してみます。」
「なるほどね。大体話は丸まったわね。・・・このことステラちゃんに話す?」
「はい。」
これは何かの暗示に違いない。
もう人事ではないのだ。
この小動物についても、契約のことも、全てステラに話す必要があるのだ。そして協力も必要だ。
「今日はもう遅いわ。話は明日にしましょう?それから・・・行動を起こしましょう」
「そうですね。」
「貴方は先に休みなさい。私はまだ調べたい事があるから」
「分かりました。ではお先に失礼します。」
トュリはシャルトの言葉に甘え自室へ戻ろうとリビングを後にした。シャルトは冷めたコーヒーを口に含みながら、その小動物の方を再度見る。
「随分と大変な事になったわね・・・やっぱりステラちゃんが関係しているのかしら。」
リビングにシャルトの声が静かに響く。
そして_
「・・・話を聞いていたようね。そこにいるのは分かっているわ。」
「・・・」
謎の黒い影はゆっくりとシャルトの目の前へと姿を現す。