第一章2 検査
第一章 記憶喪失
「ん...」
「あっ、起きた?」
いつ間に寝たのか、瞼を擦りながら目を開けるとシャルトさんがいた。綺麗な長く赤い髪が微かに揺れ、香りが私を包む。ふと時計がある方を見上た。
(30分くらいしか経っていない。)
「まだ寝かせておこうとしたけどタイミング良く起きちゃったね。検査の準備できたんだけど大丈夫?」
「・・・はい、大丈夫です。」
シャルトさんの後をついて行き検査室へ向かった。
大きな扉を開くとそこには検査をする為の機械がある。私達が来たことに気付いたのか別部屋からトュリが出てきた。最初に脳の検査をすると私に告げ、トュリの指示通りに動いて、ベッドに横になった。シャルトさんが気を使って「女の子は体冷やしたら駄目だからね、ふふ」と言い、私のお腹から下まで薄い毛布を掛けてくれた。確かにこの部屋は暖房が効いているけどちょっとひんやりする。
「狭い所は大丈夫か?」とトュリに聞かれ、「大丈夫」と返した。ヴーという始まりのブザー音が鳴り、トンネルのようなものに私は自動的に入っていく。こんな機械で脳に異常があるのかどうか分かってしまうなんて凄いと思った。一般人からしたら普通なのかもしれないけれど記憶のない私からしたらそれは凄いと感じるのだ。それから約10分くらい経った。
「疲れ様。次は血液検査だからね。」
機械は元の定位置に戻り、私は機械のベッドから降りてさっき掛けてもらった毛布をたたんで、シャルトさんの後をついて行った。
「そこに座ってね」と言われ白い椅子に腰を下ろす。細い横に伸びている白いテーブルの向こうにはシャルトさんがいる。この人が血液検査担当なんだなぁ。慣れた手つきでゴム手袋をし、黒いゴムのようなもので左腕を縛り「ちょっと痛いけど我慢してね。」と言い、コットンに消毒液を付け、私の左腕をコットンで擦る。
「チクッとするからね」
針が皮膚に触れゆっくりと痛みと共に血管の中に入った。すぐに細いホースを繋ぎ血液を3本くらい抜き取る。抜き取り終わるとまた軽い痛みがスゥと消えていくのが分かる、針を抜き、血を止めるため絆創膏変わりにシールを貼った。
「はいこれで終わりだよ。最後に精神鑑定とかするからね」とシャルトさんは言った。トュリによると私は昔から貧血気味だから血液を抜いた後は安静にしといてくれと言っていた。シャルトさんが私の為に、あらかじめ用意してくれていた車椅子に腰を下ろし、自室まで車椅子を押してもらう。
部屋につくと見知らぬ女の子がいた。年齢は大体13くらい?銀色の髪にツインテール。その少女はゆっくりこちらを振り向いた。
「...」
何も喋らずこちらを、ただずっと見ている。
「あ、雪ちゃん。」
シャルトさんがこの子の自己紹介をしてくれた。幼いけれど実はここの研究員の1人で名前は雪乃という。「雪とよんで」とこの子がいっていたから「雪ちゃん」と呼ぶ事にした。この子は人造人間で検査結果が出るまで私の世話をしてくれる子らしい。
シャルトさんが後は宜しくねと言い、ドアを閉めたあと長い沈黙が続いた。雪ちゃんは何も喋らない。かなり気まずい・・・!
「...お腹空いてないの」
「え?あ、うん。さっき食べたよ」
「そう」
唐突に「お腹空いてないの」と聞かれ心臓がビクッとした。あちらから話しかけてくれた、良かった。この子は大人しい子なのかな?それとも人見知り?何回も話しているうちに仲良くなれるかな...。
そういえばここに来てからトュリ、シャルトさん、雪ちゃん以外の顔をまだみていない。
「ねえねえ、雪ちゃん。ここにいる人達のこと知りたいな。」
雪ちゃんとも仲良くしたいので少し会話になるか分からないけど少しでも此方から話しかけよう。だが期待している通りとは違った。
「だめ、トュリ来るまで寝てて」
予想外の言葉と冷たく返された返事。いくら小さい子供でも流石に今のは怖かった。怒っているわけではないというのは分かるけど冷たすぎて怖い。早くトュリ達に会いたいから雪ちゃんの言う通りに、また少しだけ眠ることにした。
誰かに肩を揺すられ目がさめた。雪ちゃんかな?と思い後ろに寝返りを打つとトュリだった。検査結果を伝えにきたのと、メンバー紹介をしにきたのだ。確か精神鑑定とかあった気がするけどそれはもしかして後なのかな?
検査結果はやはり記憶喪失、原因は不明。そして_私はどうして記憶喪失になったんだろう?思い当たる節は家族に関しての事、トュリに関する事、自分の事、この3つを考えようと
すると頭痛が酷くなる。過去に何か大きな出来事があったような、重要な事があったような気がするけれど思い出せない。そう考えているとトュリが私に声をかけた。
「大丈夫か?メンバー紹介しようと思うんだけど」私は考え事をすると顔つきが変わる、あまりトュリを心配させたらいけないな。「あー、うん大丈夫。行こう」と私は言う。トュリの後を小走りでついていく。