21 新たなる旅立ち
休日6日目、俺たちは王都にいる。
「試験の結果は昨日発表だったはずだけど、どうだったのだろうか」
「私のポタメにもメッセージは入ってないわね」
「ま、明日のお楽しみだな」
「そうね」
王都を歩いていると、かなりの上空を鳥の大群が飛んでいるのが見えた。大群と一言で済ませられないほどの群れだ。砦の方に向かっているようだ。
「まずいわね」
「ん? あの鳥がそんなに脅威なのか?」
「鳥自体は別に脅威ではないんだけど、それに反応する魔物がいるのよ。ドラゴンよ。数羽程度の鳥が飛ぶのは全然問題ないんだけどあそこまで大きな群れだと魔力が密集するらしく、縄張りを荒らす別のドラゴンかと思うでしょうね、縄張りを守るために排除しにくることがあるのよ」
「ドラゴン?」
「ええ、まあ、ドラゴンといってもここらを縄張りにしているのは、現在はワイバーンだって聞いているけどね」
《ワイバーンはドラゴン種の中でも最弱ですが、それでもS級魔物に指定されていますね》
「で、縄張りを主張するときに町も攻撃されるということか?」
「その通りね」
同じ理由で飛行船も禁止らしい。
暫くすると王都全体にけたたましくサイレンと放送が繰り返し鳴り響く。
「ハンターに緊急招集がかかりました。Aランク以上のハンターは北砦へお急ぎください。Bランクハンターはゲートの前で待機してください」
それを聞いた俺達は砦に向かうべくゲートに到着した。ゲートの前はものすごい混雑状態だ。
ここでもアナウンスが繰り返し流れている。
「現在、北砦行きゲートは、Aランク以上のハンター専用となっております。一般の方のご利用はできません。なお、Bランクハンターはゲートの前にて待機をお願いします」
北砦に到着しギルドで戦闘装備に着替えると、程なくして作戦会議が始まった。
ワイバーンの攻撃パターンはこれまでの経験からほぼ分かっていて、上空旋回後、南側から急降下してロウエス全域にブレス攻撃を放ちながら北側へ抜けて行き、急上昇し再度旋回する。ロウエスへの侵入方向もなぜか決まっているらしい。
攻撃は単純にこれが繰り返され、ワイバーンが飽きるまで続く。
ワイバーンはその巨体を、自らの重力魔法により制御し飛行しているらしい。
迎え撃つロウエス側は、魔法部隊と白兵部隊が配備される。魔法部隊には、重力魔法封殺部隊、魔力障壁展開部隊、攻撃魔法部隊に分けられる。
重力魔法封殺部隊は、ワイバーン接近時に重力魔法封殺を放ちコントロールを奪い墜落させるのが使命だ。
数回放ったぐらいでは絶対に効かない事が分かっているため、ワイバーンが接近するたびに重力魔法封殺を放ち威力を上げていく。また、体力回復時間や詠唱時間を考慮して奇数回目担当の1組と偶数回目担当の2組に分かれて臨むという。
急降下した時が勝負の時で、いかに早くワイバーンを墜落させられるかが鍵だ。
重力魔法封殺部隊が墜落させることができれば、後は地上部隊にて討伐を行う。
もう一つの魔法部隊である魔力障壁展開部隊は、ワイバーンのブレス攻撃に備えて、ロウエス内の建物に魔力障壁を展開。魔力障壁は10回程度までのブレスには耐えれる事を期待している。逆に、ブレス攻撃が10回を超えてくるとロウエスの町は危機的状況に陥っていく。
つまり、墜落までの目標は10回以内だ。しかし、10回で落とせるかは微妙な線だという。
うまく墜落させた後も効果維持のために重ね掛けを行う必要があるため、重力魔法封殺部隊は地上側にも配置される。
墜落後、地上部隊は前衛の白兵部隊、後衛の攻撃魔法部隊に分かれて輸送用装甲トラックで接近し叩く。
ワイバーンの非常に固い鱗は剣などは全く通さないため、鱗と鱗の隙間を狙って剣、槍を押し込むようにねじ込み攻撃するのが定石だ。
後衛は、詠唱完了次第、一斉攻撃。その際、前衛は一旦ワイバーンから離れる必要がある。
など、作戦内容や注意事項が淡々と説明された。
説明が終わると、指揮官は各員の配置を素早く決めていく。
俺は地上部隊の前衛で、装甲トラック3号車付近で待機することになった。
シルビアは重力魔法封殺部隊の2組で、砦の壁の上に登るようだ。
全員が配置につく。
「報告! 北西方向からワイバーン1体がこちらに向かっているのを確認しました。砦到着まであと10分です」
「ちっ。本当に来やがったか。全員戦闘準備!」
近づいたワイバーンはロウエス上空を旋回しだす。
ドラゴンやワイバーンの飛行高度は通常5km辺りだ。
ワイバーンのブレス距離は70mぐらい。地上の敵を襲う時は50mぐらいまで降下する。
見た感じは、濃い青色をしており、かなり巨大に見える。
《翼を広げた全幅は20mといったところです》
暫くすると南側からドドドドドとブレスが放たれたのか轟音と振動が近づき伝わって来た。
「1回目の攻撃だ。耐えてくれよ」
ワイバーンが急上昇していくのが見えた。
暫くするとまたしても南側からドドドドドとブレスが放たれた音が響いてきた。
「2回目の攻撃だ。頼むぞ。なんとか10回で落ちてくれよ」
その矢先、北側、目の前にワイバーンが勢い良く墜落した。
「なっ! 二回で落ちたぞー!」
「北方向300m先に墜落を確認!」
「装甲トラック急げーーーっ!」
地面に激突したワーバーンは暫く動けないようだ。
その間にトラックを飛ばして近づく。
ワイバーンが体制を立て直し立ち上がる。高さにして10mはありそうだ。翼を広げると更に巨大に見える。重力魔法封殺はまだ有効で飛ぶことはできないようだ。
遠距離から一斉魔法による先制攻撃。重力魔法封殺の重ねがけも同時に行われているらしい。
続いて白兵部隊による攻撃。次の魔法の詠唱時間を稼ぐのと、ブレスで後衛を狙わせない意図もある。
暴れるワイバーンに対し白兵部隊が攻めあぐねる中、俺は左足に取り付き攻撃を加える。
なっ!
鱗が硬い。俺の刀を全く寄せ付けない。
《鱗の隙間を下から狙って剥ぐようにしてください》
人を寄せ付けまいと、翼をはばたかせながら暴れるワイバーンをなんとか避け、その場に留まる。そうこうしている内に前方に強烈な閃光を伴ったブレスが放たれた。被害は少なからず出たようだが、俺にはそれを確認している余裕は無い。
脚に狙いを付けて下から切り上げる。鱗が4枚飛んだ。刀を叩き込めるスペースになるようあと数枚飛ばし、鱗の防御が無くなったところを思い切って斬りつける。切り飛ばすことはできなかったが、かなり深く切れたようだ。
ワイバーンは堪らず足を持ち上げる。足の着地点を見定めようと気を取られていると、強烈な尻尾の一振りが俺を直撃し、俺は10mほど弾き飛ばされた。すぐさま立ち上がり、再びワイバーンの足元に取り付く。
先程の切り込んだ周りの鱗をさらに数枚切り飛ばす。今度はエナを多めに込めて叩き込む。
爆発したかのような衝撃と共にワイバーンの大きな左足が吹き飛ぶ。ワイバーンはバランスを崩し地面に倒れていく。倒れながらもブレスを打ち、その後大きな鳴き声が響く。
それを機に何人ものハンターらがワイバーンの首に群がり、左右から鱗と鱗の隙間から幾つもの剣や槍が打ち込まれるが、数が足りないのか、打ち込みが浅いのかワイバーンは立ち上がろうとする。それでも、さらなる加勢により打ち込まれ、ワーバーンはついに動かなくなった。動かなくなったワイバーンを確認した後、皆は首から剣や槍を引き抜いた。
動かないワイバーンを皆で暫く見ていたが、絶命したのを確信し、ほどなくして大歓声が上がった。
「「「ぅおーーー」」」
絶命したワイバーンの回収が始まったのを確認し、俺も他のハンター達も町に向かってぞろぞろと歩いて戻って行く。
戻っていく途中、横で二人のハンターが話しているのが聞こえる。
「二回目の攻撃で墜落ってのにまずは驚いたし、その後もワイバーンが早々に倒れてくれたおかげで一気に片が付いたな。これまでに比べると被害も全くと言っていいほど無いようだしな」
「ああ」
「いくらワイバーンとは言え、これだけ早く決着がつくのは前代未聞だろうな」
「本当にそうだな」
「墜落が早かったのはワイバーンが元々弱ってたのか?」
「そんな事はねーよ。あのブレス見たろ? 弱ってる奴があそこまでのブレスは打てないって」
「すると、魔法が強烈だったってことか」
「そうだろうな。優秀な奴がいたんだろうな」
その話を聞きながらシルビアの顔を思い浮かべた。
「あとは、何で倒れたかだな?」
「あいつが左脚を切り落としたんだ」
「え?」
「あいつだよ。あいつが一瞬で脚をふっ飛ばしたんだ」
俺の方を見ていたのが分かったが、敢えて振り向くことはせず聞こえていない振りを通した。
「本当かよ」
「ああ、大手柄だ」
その後、ワイバーンは大型重機により砦内の倉庫に運び込まれたようだ。
このワイバーン討伐で久しぶりにレベルが上がったようだ。
レベル:38
EP:15528
一旦砦に戻って次の指示を待つ。
ここにいるのは全員AランクもしくはSランクか。結構いるんだな。
《187名いますね》
これから4時間待機とのこと。食事やシャワーなどは自由だ。
「アース、お疲れさまー」
「あ、シルビア。お疲れ!」
「見てたわよ。アースが足を切り飛ばすとこ。凄すぎね」
「まあ、ちょっと手こずったけどな」
「そう? 全然余裕そうに見えたけどね。ふふ」
「それより、ワイバーンを落としたのはシルビアか?」
「そうかもね。頑張ったのよ。えへへ」
「さすがだな」
「それがギリギリだったのよ。ワイバーンじゃなくてドラゴンだったら1回じゃ無理だったわね」
「そうか、がんばったな」
「うん」
倒してから30分ほどして落ち着いたころ、ワイバーン討伐成功のニュースが砦内に流れた。王都やその他の町にも同じように流れたらしい。
さらなる襲撃に備えてその後さらに3時間ほどの待機が言い渡された。
「おーい、アース、シルビア!」
「あ、スティーブさん! お疲れ様でした」
「おう、お疲れ! ニック達も居るぞ。 おーい、ニック! こっちだこっち!」
ニックさんの他、マルクさんとライデンさんもやって来た。
「皆さんお疲れ様でした」
「アース、ワイバーンはどうだった?」
「あの大きさには驚きましたよ。あと、鱗の硬さが強烈ですね」
「ああ、そうだろうな。俺達も久しぶりにワイバーンを見たぜ」
その後、前回のワイバーンの襲撃時の話などを教えて貰った。その時はBランクの出番もあったという。
「それはそうと、俺達の王宮騎士の試験の結果だが、4人ともに合格だ」
「おおー、さすがですね! おめでとうございます!」
「やったわねー。おめでとう!」
「ありがとう! 長年の夢がついに叶ったよ」
「報告は明日の予定だったんだが今日の合格報告を持って、約束通りこのパーティは解散とする。長い間、みんなありがとうな」
「ついにこの日が来たのね」
「王宮の仕事はいつからなんですか?」
「20日後からだ。20日後といっても、それまでに準備とかが結構あるので、ゆっくりできる日は少ないけどな」
「シルビアはこれからどうするか決まってるのか?」
「ええ、そうね。久しぶりに実家に戻ってみようかしら」
「そうか、長い間ありがとうな」
「うん。王都でのお仕事頑張ってね」
「ああ、ありがとう」
「アースはどうするんだ?」
「俺は予定してた通り、他の町を巡ってみようかと思ってます」
「そうだったな。アースもありがとうな」
「いえいえ、お礼を言うのは俺の方ですよ。Aランクにまで引き上げてもらい感謝してます。ありがとうございました」
その後3時間程経ち、さらなる襲撃は無かったため待機は解除となった。
スティーブさん達ともお別れの時間だ。
「永久に会えなくなる訳でもないし、また会える日を楽しみにしている。今度会うときにはもっと強くなってるからな」
「いやいや、アースの方が強くなってる気がするぞ」
「確かにその可能性の方が高いか」
「シルビア、アース、また会おう」
「はい、また会いましょう」
「うん、またね」
再開を近って皆で握手を交わした後、4人は揃ってゲートに消えていった。
シルビアがつぶやく。
「なんか、実感が沸かないけど、終わっちゃったのよね」
「俺も短い期間だったけど、もう何年も一緒に居たような気がするよ」
「うん」
「さて、俺たちも王都に戻るとするか」
「アース?」
「ん?」
「アースはこれからどこを旅するの?」
「前にも言ったと思うけど、この国の町をあと何個か巡ろうかと思ってる」
「その後は?」
「その後はエルフ大陸に行ってみるつもりだ。それ以降はまだ決めてない」
……
「アース?」
「ん?」
シルビアはいつになく真剣な目をしている。
「私、決めたわ。アースに付いて行く」
「え?」
「ダメ?」
「ダメっていうか…… 行き当たりばったりの旅だぜ」
「うん」
「そのうち野宿とかが続くかもしれないぜ?」
「うん」
「ゴールなんか無い旅かもしれないぜ?」
「うん」
「そんな旅でも耐えれるのか?」
「アースといっしょなら全然問題無いわ。というより、ここでアースに付いて行かないと私絶対に後悔するし」
口を真一文字に結び、真剣な目は変わらない。
……
「まあ、それで良ければ俺はいいけど」
そう言うと、シルビアの顔がぱーっと明るくなった。
「本当? 本当にいいの?」
「ああ、ほんとだ。と言うか本音は大歓迎なんだけどね」
いいも何もこっちからお願いしたいくらいだ。
「うれしい」
「あれ? でも、一度故郷に戻るって言ってなかったか?」
「そのうちエルフ大陸に行くんでしょ? だったらその時でいいの」
「数ヶ月後になるかもしれないけど、いいのか?」
「ええ、いいわよ。元々帰る予定にしていた訳じゃないから、いつでもいいのよ」
「そうか。じゃあ、明日の朝に次の町へ出発しようと思うんだけど、それでいいか?」
「うん」
「改めてよろしくな、シルビア」
「こちらこそよろしくね、アース。ふふ」
翌朝、俺はいつものリュックを背負い、既にゲートの前に来ている。
もちろん横にはシルビアがいる。
「じゃあ行こうか」
「うん!」
シルビアのとびっきりの笑顔と共に、俺達はゲートに入って行った。
おしまい。(第1部完)
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なお、この話は第2部『シルビアの剣とアースの魔法』に続きます。
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