20 ダンジョン
今日は久しぶりにランスベルに戻る。久しぶりに依頼でも受けようか。できればロネス村にも行ってみたい。壁があの後どうなったか見てみたいし。
もちろんシルビアも一緒だ。
シルビアはランスベルもロネス村も行ったことが無いらしい。
いつもはジーンズとスニーカーばっかりだったシルビア。それが今日はお嬢様風のワンピースにローヒールのパンプス、ピンクのかわいい少し大きめのポーチを肩から斜め掛けして、長い髪も下ろしていて美人が際立っている。
「どうかな?」
ワンピースの裾を少しつまんで俺の方を見ている。
「かわいいし、似合ってるな」
「よかったー。もう何年も前のだけど今でも大丈夫そうなので着てみたの」
ちょっと眩しいくらいだ。
「じゃあ、行くか」
「うん」
シルビアはいつになくニコニコしている。
昨日の一件で気持ちが軽くなったんだろう。かなり雰囲気が変わった。
「ていうか、なんで腕を組んでくるんだ」
「いいじゃない。ようやく気を許せる人ができたんだもん」
「もんって……」
Aランクになったことでどのゲートも無料で使える。俺達は王都経由でランスベルに直行した。
「ランスベルもなんか久しぶりだ」
「私は初めて来たわ」
ここは砂糖の町。甘いものが特産で、女性に人気のある町だ。
ゲートを出た後、ギルドに向かって歩いているとそこら中で挨拶される。
「アースって、結構有名なのね」
「まあ、一ヶ月ほど町を回って依頼をこなしてたんで、知り合いは結構多いかもな」
ギルドが見えてきた。ギルドの前に何組かのハンターが屯している。ハンター犬も何頭かいる。これから狩に出かけるのだろう。
ギルドに入ろうとした時、見るからにガラの悪そうなグループの中の一人が声を荒げてきた。
「おいおい! ここはハンターギルドだぜ? 場所を間違えてるんじゃないのか? ひゃははっ!」
シルビアは首を傾げている。
「アースの知り合い?」
「いや、全く知らない」
Dランク? 良くてCランクか。一応返事をしておくか。
「ああ、大丈夫です。間違えてないですよ」
「ハンター登録なら止めとけって言ってんだ! そんなちゃらちゃらした奴に務まる訳ねーだろーが!」
ハンター登録? 言われてみれば確かにこれからハンター登録しようかというような格好を俺はしている。そんな俺がお嬢様風のシルビアを連れているのが気に触ったんだろう。
「すみませんね。ちょっとしたら帰りますんで。では」
「分からねえ奴だな!」
そいつがシルビアに近づいて来る。
「止めろ! この娘に手を出すんじゃない!」
「ふん、手を出したらどうなるっていうんだ?」
そいつがシルビアの腕を掴もうとするが、それは一瞬の出来事だった。シルビアがそいつに手の平を見せるや否や、そいつは地面へと叩きつけられる。で、そいつは今、地面に転がり気絶している。
「…… そうなります」
そいつの仲間があわあわしているのを横目に、ギルドの扉を入り受け付けに顔を出す。
「あ、アースさん! お久しぶりです」
「フローラさん。こんにちは。久しぶりに戻ってきましたので、依頼でも有るかなと思って寄ってみました」
「Aランクになられたんですよね? おめでとうございます。凄いですよね、こんな短期間でそこまで登るって。びっくりしましたよ」
周りに配慮してくれたのか、Aランクという部分だけは少し小声で喋ってくれた。
「ありがとうございます」
「…… えと、あの? そちらの女性は?」
シルビアが俺のすぐ横で微笑みながら立っている。
「ああ、今お世話になっているパーティメンバーでシルビアと言います」
ハンターギルドのフロアーに似つかわしくない綺麗な身なり。この町にしては珍しいエルフ。さらにこの美貌のため皆の目はシルビアに釘付けのようだ。シルビアはそれに臆すること無く振舞っている。Aランクの貫禄か。
「シルビアと言います。うちのアースが大変お世話になったようでありがとうございます」
「う、うちの? ……」
「ちょ、ちょっと、シルビア! 誤解されるような言い回しはやめろって」
「あはは」
「あははって……」
「え、えっと、アースさんへの指名依頼が1件だけあります。AランクのアースさんにFランク依頼は頼み辛いのですが、どうでしょう?」
「ああ、全然問題無いですよ。受けますよ。それ以外の依頼は溜まってたりしていないんですか?」
「なんとですね、あれからは依頼が溜まらなくなったんですよ。依頼を出しても直ぐに消えていくんですよ。少ないと我先にと考える人が多いんですかね。これも、アースさんに全部片付けてもらったおかげです。もう、大助かりです」
「それは良かったですね。がんばった甲斐がありました」
ギルドの扉を開けて外に出ると、先ほどのグループが待ち構えていた。
「さっきは不意打ちしやがって、きたねーぞ!」
「私は不意打ちなんかしてないわよ? どうしてもって言うなら改めてどうぞ?」
「女、お前はダメだ。変な魔法を使いやがる。そっちのお前だ! お前が堂々と勝負しやがれ!」
そう言って俺を指差す。
「いや別に、勝負するって話じゃ無かったと思うんだが?」
「うるせー!」
「いいのかしら? この人は私より強いわよ?」
「強い? ぷっ! お前にこのブラッカーを倒せるかな?」
ニヤニヤしながら横に連れているハンター犬を撫でている。そのハンター犬は、黒光りしていて図体は大きく引き締まった体形で見るからに戦闘タイプだ。
二人でそのハンター犬を睨むと犬は後ずさりを始めた。俺達の強さが分かったのか、普通じゃないのを察知したのだろう。
「おいブラッカー! どうした?」
犬は一目散に逃げていった。
「ブラッカーーー 待てー! おいみんな追いかけろ!」
それを追って、そいつらグループも一斉に駆け出した。
「いなくなったな」
「うん…… いなくなったわね」
「いったい何だったんだ? お笑いグループか?」
「あははっ」
その後、指名依頼を行った。畑荒らしの動物駆除だ。依頼主がシルビアに見とれている間にさっさと済ませた。シルビアは出されたお茶やお菓子をパクパク食べていただけだ。
「さすが砂糖の町ねー。お茶もお菓子も美味しかったわー。アースに付いてきて得しちゃった」
しかも、シルビアの手にはなぜかお土産に貰ったケーキがある。
それに引き換え、俺の手にはまたしてもアラシグマだ。
「ねえアース。短い鞘ってこの町に売ってるんでしょ? 私もアースとお揃いのが欲しいんだけど」
「いつも使ってるレイピア用か?」
「うん」
「じゃー行ってみるか」
ギルドでアラシグマを搬入した後、ガットさんの店に到着した。
「こんにちはガットさん」
「あ、アースさん! こんにちは!」
「また亜空間鞘を作ってもらおうかと思って寄ってみました」
「ありがとうございます。気に入って頂けたようで嬉しい限りです。武器はお持ちですか?」
「ああ、そうですね。シルビア、レイピアを出せるか?」
「うん、ちょっと待ってね」
シルビアはポーチの中をガサゴソと探し始める。
「凄く綺麗な人ですね」
「ええ、まあ」
「まさかハンター? なんてことは無いですよね?」
「え? ああ、ハンターですよ」
「ほんとですか? それは驚きです」
「ははっ」
そんなことを話していると、レイピアを取り出せたようだ。
「やっと取り出せたわ。ちょっと奥に入れていたので時間が掛かっちゃったけど」
シルビアはガットさんにレイピアを渡す。
その後、シルビアとガットさんで鞘のデザインや色などを決め、明後日の朝に取りに来る約束をして店を後にした。
シルビアが服を買うとのことで、ショッピング街に向かった。派手さの少ない上品な服を選んでいく。いくつか店を回り大量に購入。全部買い替えたんじゃないの?って感じだ。
今までのいらない服を捨てると言うので、シルビアに理由を話して素材として俺が貰うことにした。見るとなんか地味な服が大量だ。下着もいるかと聞かれたのでもちろん断ったところ、なぜかシルビアは微妙に不機嫌だ。なんでだよ。
以前は俺が入れなかった女性用の服屋。シルビアに有無を言わさず何件も連れ込まれた。
《私はシルビアに感謝です。シルビアっていい人ですね》
だそうだ。
その日はランスベルに宿を取り、翌朝ロネス村に向かう。
バスは7時発。二人掛けのシートで窓側にシルビアが座る。
「外を走るバスって初めて乗ったわ」
窓の外を見て何かキャーキャー言ってる。別に珍しい物なんてないだろ?と思うが、小さな村が所々にあるのが珍しいらしい。
「そうだアース。お菓子食べる?」
バッグからなにやらお菓子を取り出したと思ったら、直ぐに食べ始めている。
「お菓子好きなのか?」
「お菓子なんて久しぶりに買ったのよ。ふふ、おいしい」
そう言えば俺もこっちに来て以来、お菓子なんて食ったことが無いのを思い出した。一口貰って食べてみると意外にもうまい。ランスベル産だからか?
「うまいなぁ」
「でしょ?」
そう言いながら、シルビアはパクパク食っている。
「アース?」
「ん?」
「手がベタベタになっちゃった」
……
「ほら、手を貸してみな」
そう言い、シルビアの手を取りクリーニングで綺麗にしてやる。
「え、今どうやったの? 綺麗になったわ。ありがとう」
そうこうしているうちにロネス村に到着した。
「ここは、俺がこの世界に来て初めて人に会った場所だな」
「なんか、のどかでいい所ね。故郷って感じかしら?」
「そうかもな。まあ、生まれ故郷は違うけどな」
「生まれたのは誕生の草原って言ってたわね。そこも行ってみたいわぁ」
「遠過ぎて無理だな」
「そうね、残念だわ」
ドーケンさんと作った壁を見に行ってみる。壁は完全に機能し、新しい建屋がいろいろと建設中だ。それらの建物が何になるのだろうと想像しながら見て回るのは楽しい。
「凄いね。ここはアースが作った壁で守られているのね。どんな魔物からも守ってくれそうな安心感があるわぁ」
「それは大袈裟過ぎだけど、自分が関わった壁に守られているのを見ると感慨深いものがあるのは確かだな」
来月にもランスベルとのゲートが一般開放されるらしい。そうなると人も増え賑やかになっていくのだろうか。次に来た時はだいぶ様子が違っているかもしれないな。
一斉にいろいろな建物が建てられている様子はシルビアも見ていて面白いらしく、二人で飽きずに見て回った。
宿は予め予約していたアンナさんのところだ。ハンターになったことを報告するのと、シルビアの紹介を行った。アンナさんも女将さんも、やはりというかシルビアを見て驚いていた。女将さんに二部屋で良かったのかって冗談交じりで聞かれたが、もちろんと答えた。
翌朝、再びバスに乗りランスベルに戻る。シルビアの亜空間鞘を受け取った後、王都、ロウエスを経由しダンジョンに向かった。
そう、今日はダンジョンだ。俺がダンジョンに行ったことが無いというと、じゃあ二人で行ってみようってことになったのだ。
ダンジョンにはそのダンジョンを管理している村が隣接している。当然のようにギルドもある。また、この村ではダンジョンに溜まる魔力を利用して人工魔石を生産しているとのことだ。
「ここのギルドの建屋は小さいんだな」
「ええそうね。ここはダンジョンが主なので大きな魔物が持ち込まれることが無いのよ」
ギルドの更衣室で戦闘服に着替えてダンジョンに潜る準備を整える。シルビアはいつもよりさらに軽装で、駆け出しのハンターのようだ。俺も人の事は言えないが。
「アースに合わせたのよ」
「それはすまんね」
「これは6年くらい前Dランクの頃に使ってたものなの。ピンク色でかわいいでしょ? 捨てずに取っておいて正解だったわ」
「まあ確かにかわいいな」
「でもここの肩の汚れがどうしても取れないのよね」
そう言って右肩の一箇所を指し示す。
「取ってやろうか?」
クリーニングで綺麗にしてやる。
「え、取れた。凄ーい。どんなに洗っても取れなかったのに」
一部だけ綺麗なのはおかしいので、相談した結果、全部を綺麗にすることにした。
「わぁー、新品みたい。アースの装備がいつも綺麗なのはこれだったのね? でも、ますます駆け出しっぽくなったね」
「確かに……」
村にはCランクからDランクぽいのばっかりがいる。ここは主にCランク以下のハンターの修行の場と言うことらしい。
「私達も全然違和感無いよねー」
「それは喜ぶべき事なんだろうか」
ダンジョンには独特の魔物がいる。魔物の攻撃も素早く多彩で毒などもあるという。
魔物のレベルは低めなので、俺たちなら攻撃を喰らったとしても問題は無いだろう。シルビアは毒を受けたとしても瞬時に治せると言うし、俺はそもそも毒は効かない。
ダンジョンの入り口に向かう。
ダンジョン入り口には監視員が立っていた。ダンジョンに出入りする人を確認するのと、魔物がダンジョンから出てこないか監視しているらしい。
入り口まで行くと監視員が声を掛けてきた。
「もしかして2人か?」
「はい」
監視員はしかめっ面になる。
「おいおい、ほんとかよ! 見たところ兄ちゃんはよくてCランク成り立て、お嬢ちゃんはDランクといったところだよな? ここはデート気分で入るような場所じゃ無いんだぜ?」
呆れたように忠告してきた。
「忠告ありがとうございます。一応慣れてますので、問題は無いかと思います」
「まあ、どうなっても責任は持てないからな? それと、そこの立て看板の注意書きを読んでから入れよ!」
「はい」
「はーい」
ダンジョンの入り口は、人が3人並んでも入れそうな大きさで、さらに周りの土が崩れないように舗装してある。ダンジョンの中を覗くと洞窟のようにも見える。
入り口の横の注意書きに目を通してみると、実力不足を感じたらそれ以上進むなとか、助けが来ると思うなとか、こういう所には近づくなとかがいろいろと書いてあった。つまり、何があっても自己責任だと言いたいのだろう。
「さて、入ってみるか」
「うん」
初めてダンジョンに入る。数mほど歩くとだんだんと薄暗くなってくる。
そのうち真っ暗になるかと思っていたが、暫く進むも、月明かり程度の明るさは確保されているようだ。どういう訳か壁全体が薄っすらと発光している。
壁は一見ゴツゴツしてるが、触ってみると意外と弾力があって少しじめっとしている。
道は乾いており、固くしっかりしている。凸凹もほとんど無く歩きやすい。
「これは本当に全部自然に出来たものなのか?」
「そうらしいわよ。と言いたいけど、ダンジョン自体が魔物だって言う説もあるわね」
「これが魔物? まあ、確かに人という餌をおびき寄せるために工夫を凝らしているように見えるな」
アトラクションのようだ。
進んでみるも一向に魔物が出ない。
「魔物がいないな」
「一階層は魔物がいないのよ」
「ほう。二階層からが本番ということか」
「ええ」
道は曲がりくねっているが、一本道で、少し進むとようやく地下に続くと思われる下り坂が現れた。下り切ると回りの雰囲気が少し変わったように見える。ダンジョンらしくなったと言うべきか。
「ここからか」
「うん。この二階層からはかなり広くてしかも迷路のようになっているはずよ」
「シルビアは入ったことが有るって言ってたな? どの位まで降りたことがあるんだ?」
「有るって言っても、数年前に少し入っただけよ。駆け出しのパーティだったし5階層くらいだったと思うわ」
「道は覚えているか?」
「ダンジョンの迷路は少しずつ変わるらしいから昔の情報は意味が無いようよ」
「ほう。道が変わるというのは自然の洞窟ではありえないな。ダンジョン自体が意思を持っているというのも頷けるか」
ルナのソナーで迷路の全容は確認できるか?
《広範囲は見れないですね。見えるのはせいぜい20mほど先までです。さっきまで歩いていたはずの上の階ももはや見えません。というより上にも下にも何も無いように見えます。土や空気も無く、空間的に何も無いように見えるという意味です》
どういことだ? 単純な地下の階層構造では無いということか。
《このダンジョン自体が異空間に属しているという可能性があります》
…… なんか不気味だな。
二階層に降りてから少し進むと、ようやく魔物が現れた。とりあえず木刀を手に取る。
「なんだ? 蜘蛛か?」
50cmはあるかという巨大さだ。
「キラースパイダーね」
そう話したシルビアを見ると俺の後ろに隠れている。
「どうした? あれがそんなに強い魔物なのか?」
「私、蜘蛛嫌いなの」
ああ、そう言うことか。
キラースパイダーは素早く動きながら、近くまで来ると急にジャンプして俺に攻撃してきた。
まあ、素早いと言っても俺にとっては遅い。木刀を軽く振り抜き真っ二つにする。真っ二つになったキラースパイダーを見ると、地面に沈み消えていった。消えた後には小さな魔石が残っていた。
「消えたぞ?」
「ダンジョンに吸収されるのよ」
「へぇ、魔物は回収しなくていいのか。これは楽だな」
残った魔石を拾い、先に進んでいく。その後もキラースパイダーが何体も襲ってくるが、スパスパとぶった切って進んでいく。
2時間ほど歩いたところでようやく三階層への下り坂に到達した。
「ようやく三階層か。確かに広いな」
三階層の魔物はビッグアントン、1mほどの大きな蟻だ。これも軽く真っ二つにして進んでいく。
「アース、それって木刀よね?」
「ああ、そうだけど」
「木刀でビッグアントンを切るってどういうこと? しかもビッグアントンの外皮って相当硬いはずなんだけど」
「まあ、俺の能力だと思ってくれ」
……
「アースって、もしかして力を抑えてた?」
「え? 今?」
「ううん、パーティで討伐してる時とかのこと」
「そうだなー、難しい質問だな。まあ、力は抑えてなかったな。でも、もっと強い一撃を食らわせるか?っていう質問なら、その通りかもな」
「ああ、そういうことね。もっと強いスキルを使えるってことね」
「おお、そんな感じだ」
「そっかー」
「ん? もしかしてシルビアも力を抑えていたのか?」
「え? ええ、まあ、そうね」
「そうかー。本気のシルビアを見てみたいもんだな」
「えー、私も本気のアースを見てみたいわー」
その後、四階層、五階層、六階層と進むが、たいした罠も無く、たいして強い魔物も現れず、シルビアと交互に倒して進んで行く。
七階層の中ほどまで来た時には、既に夜11時を回っていた。
シルビアが眠たくなったと言うので、ダンジョンの中で野営を行うことにした。シルビアは俺と違って睡眠が必要らしい。野営と言ってもテントなどは無く、シルビアは壁際で横になり寝ている。安心しきった無防備な寝顔が可愛い。俺は眠らず壁を背に座る。
最初は二人並んで座り、俺の肩を枕にして寝ていたのだが、それだと魔物が現れた時に俺が動けないので、シルビアが熟睡したのを見計らってシルビアを横にした。寝にくそうにしていたので簡単な枕を作ってあげた。素材は以前にシルビアから貰った服だ。
朝になり再び進む。
九階層には大部屋があって、そこにはミノタウロスが一体いた。牛のような雰囲気の二足歩行の魔物だ。このダンジョンのラスボスか。それも結局たいした相手では無く、ゴブリンよりは強いかなって程度だった。
ミノタウロスを倒すと、奥の方に魔法陣が光っているのが見えた。
「あれは?」
「出口ね」
ダンジョンはここで終わりということか。
周りをよく見るともう一つ通路があるのを見つけた。
「あそこに通路があるぞ」
暗くて、柱の陰に隠れてひっそりとあるので通常なら見落とすところだ。
「なんか真っ暗ね」
その通路の中を覗くと確かに真っ暗のようだ。暗視機能があるので俺は問題無いが。
「真っ暗な通路には絶対に近づくなって、確か、ダンジョン入り口の注意書きに書いてあったな」
「ここがそうなのかしら」
「どうするかな、ちょっと行ってみるか?」
「アースが決めて」
魔法陣は後回しにして、その通路に入ってみる。結局好奇心には勝てなかったということだ。入り口は暗かったが少し行くと明るさは戻ったようだ。魔物も出ないのでどんどん進んでみる。今までより細い道だ。
「あっ!」
シルビアが急に声を上げる。
「ん?」
「魔力が奪われたわ!」
「え?」
「私の魔力が完全に尽きたみたい。魔力流失攻撃を受けたんだと思う」
《アースの魔力も一瞬で0になりましたね》
「シルビア、大丈夫なのか? 魔力が無くなると普通は動けなくなるんだろ?」
「私は魔力切れでも平気なの」
「そうか、俺と同じだな」
そんな話をしていると、左右の壁から槍のようなものが数本ゆっくりと飛び出してきた。木刀でそれらを叩き切る。
「気絶した俺達を串刺しにする予定だったんだな」
《魔物は近くにはいないようです》
「魔物の攻撃じゃなく、こういうトラップって言うことか」
《普通のパーティならここで全滅ですね》
そう考えると、ちょっと迂闊過ぎたか。
と、反省しつつも気にせず進むと道は完全に行き止まりとなり、そこには白く大きな魔石が置いてあった。
「これは?」
「ダンジョンの核ね」
「心臓部ということか?」
「ええ、そうね。私も初めて見たわ。これを破壊するか持ち去るとダンジョン攻略完了となるのよ」
「攻略するとダンジョンはどうなるんだ?」
「数日で消滅するらしいわよ」
「そうか。まあ、ちょっと見に来ただけだし、このままにしておこう。さて戻るか」
「そうね」
ダンジョンの核には手を出さずに引き返す。
魔法陣はまだ光っており、それに乗ると地上の入り口付近に一瞬で帰還できた。時刻はもう夕方だ。
ダンジョンから出てみると昨日の監視員が声をかけてきた。
「やっぱり無理だったようだな」
「そうですね、途中で引き返して来ました」
「今度はちゃんとメンバーを揃えて来るんだな」
「はい」
今日、明日は王都に宿を取ってあるので、ギルドで着替えてからロウエス経由で王都へ向かった。




