2 機能
夜は魔物でも出そうな雰囲気だ。
マップを拡大して眺めていると、小さな赤い点を発見。草原から少し山に入ったとこ。
マップに従って赤い点まで行くと小さな小屋が有った。
外見は、レンガみたいな四角い石を積んで作られた小屋で、永らく使われていなかったのか苔のようなものが所々に付いていて汚れている。
中は四畳ほどの部屋が1つ有るだけの構造で、家具など何も無く、木でできた細めの扉は朽ち果たのかぼろぼろになり外れて倒れている。
しかし、建物自体はしっかりした作りのようで屋根もちゃんと有る。
小さいながらも窓もある。窓ガラスなどはなかったが雨が吹き込んだ跡が若干あるものの休むぐらいなら十分だ。
床はさすがに木が引き詰められているが、こちらは朽ち果てることもなくしっかりと役目を果たしているようだ。扉とは材質が違うのだろうか。
当然の如くその床は汚れているが、放置されていたことを考えるとそこまでは汚れていないと言えそうだ。
床の汚れを見ていて、そういえばと、自分の体を見るとドロが乾いてへばりついている。たぶん顔も泥だらけなんだろう。
床が汚いのも、自分が汚いのも、まあ、今日は我慢するさ。
汚くてもごろ寝ぐらいできる。そう考え、ここで一泊することにする。
魔物が出そうで怖いけど。
腹が減りそうなので、真っ暗になる前に小屋の周りに食べれる木の実などが無いか探してみる。
赤く親指大の木の実が小屋の裏手に沢山なっていた。
《アカベリーという果実です。食べることができます》
そうかと思い、もいで口に入れてみる。
若干酸味がきいていて、まあ、美味しい部類にはいるかも。
木の実はそれ意外の種類は無く、あとは地面に生えている草だけだ。食べはしなかったが、薬草や、毒草や、ただの草などいろいろらしい。
木の実に水分が多く含まれていたためか、喉は乾いていない。
木の実を食べながら、そう言えばと首を傾げる。
あれ? さっきレベル上げでけっこう暴れた気がするけど何故か疲れは無いな。初日だからか? それとも疲れないスキル? ってスキル無しだったか。
暗さの限界になってきたので小屋に入る。
まあ、小屋に入っても灯りがあるわけでもなく、寝る場所の埃などを払っている内についに真っ暗になった。
暗いし寝るかと思ったが、時間も早いためか眠くない。
窓から外を見ても、真っ暗闇なので何も見えない。
どうするかなと、暗闇を凝視していると、急に見えるようになった! 全てグレー表示で色までは見えないが夕方ぐらいの明るさは有る。
暗視スキルきたー!
そう思っていそいそとステータスを見てみる。
<ステータス>
・名前:(なし)
・種族:人間/クォーターエルフ
・性別:男
・年齢:21歳
・職業:(なし)
・レベル:9
・HP:18/18
・MP:9/9
・スキル:(なし)
・魔法:(なし)
あれ? 相変わらずスキルは無い。え? じゃーなんで見えるようになったんだろう? 魔法もなしのままだし。
目が慣れただけ?
よく分からないが、取り敢えず明るくなったし、眠くもないので、今後のことでも考えることにした。
まずは自分のことをもっと知りたい。
そこで、ステータスやマップがあるのならと、メニュー機能があるのでは? と思いつく。
AIさんにメニュー表示を依頼する。
<メニュー>
・ステータス
・機能
・AIサポート
・EP
・自己診断
あった。よしよし。
ステータスの他にも何個かあるので、一つずつ細かく見ていくことにするか。
まずはステータス。
<ステータス>
・名前:(なし)
・種族:人間/クォーターエルフ
・性別:男
・年齢:21歳
・職業:(なし)
・レベル:9
・HP:18/18
・MP:9/9
・スキル:(なし)
・魔法:(なし)
これはさっきから見てるのと同じだし、後回しにする。
先に機能だ。
<機能>
・クリーニング:1
・暗視:1
おっ、なんか2つある。少ないけどこれから増えるのだろうか。
でも、暗視がある。暗視はスキルではなく、機能なのか。
機能ってなんだろう。そもそもスキルが何かも知らないが。
AIさんにスキルと機能の意味を問い合わせる。
<スキル>
・スキルとは、特定の技術における個人の才能と、訓練により習得した感覚が魔力によりパッケージ化されたものを言います。
・スキルは、その技術を支援するものであり、取得レベルにより支援の程度が大きくなります。
・取得したスキルは無意識でも使用できますが、意識を集中することでパッケージに魔力が強く練りこまれ、感覚を加速することが可能です。
・練り込む魔力が十分な場合、取得レベルに応じた支援を最大限に受けることができます。
・スキルを使い込むと、スキル自体の受け入れ可能な魔力容量が増えることでスキルレベルが上がります。
・スキルにより必要な魔力量は異なります。
・スキルの取得は才能が無いと非常に難しいです。
・スキルはパッケージ化されてはいますが、脳内に生成されるため、他人が取り出したり、他人に譲渡することは不可能となっています。
<機能>
・機能とは、スキルや魔法と同等の現象を実現するために、新たなプログラムで構築しパッケージ化したものです。
・機能は、その技術を支援するものであり、取得レベルにより支援の程度が大きくなります。
・意識を集中することで体内に蓄えているエナがパッケージに流れ込み、取得レベルに応じた能力を発揮します。
・機能を使い込むと、機能自体の受け入れ可能なエナ容量が増えることで機能レベルが上がります。
・機能により必要なエナ量は異なります。
・なお、必要なエナ量が体内に不足している場合は、保有している機能でも使用に制限がかかります。
・個人の才能によらず構築が完了したパッケージを機能として保有することができますが、初期導入に必要なエナ容量に達していない場合は、メニューに表示されず使用することはできません。
えっ? なんて? 説明長いな。
《すみません。これでもだいぶ要約したつもりだったのですが》
つまりは、スキルは才能が無いと取得できないけど、機能は才能によらず取得できるってこと?
意味わからん。同じことができるなら、機能でいいんじゃね? 二種類ある意味がわからん。
あれか、スキルを誰かが努力して取得し、他の人は機能で簡単にコピー可能ってことか? もしくは機能はスキルの劣化版とかか?
《アプローチの手法が異なりますのでコピーでは無く別物です。完成度によっては劣化版と言われても仕方が無い場合や、逆に一般的なスキルよりも優れている場合が有ります》
であれば、結局は誰もが機能によりほぼ同じことができるってことか?
《この世界に機能は存在しません》
いやいや、現に暗視機能が使えているし。存在しないなら、なんで俺は使えるんだ?
《特別だからです》
キター、特別! あれか? あなただけに特別に! っていう悪徳商法か?
《違います》
……
マジレスって……
じゃー聞くが、俺はどう特別なんだ?
《この世界の生命体とは体の構造が根本的に異なります》
へっ?
《この体は人工的に製作されたサイボーグ体であり、召喚された意識により制御が行われています》
……
サイボーグ……?
……
制御って……
……
そういうオチ? サイボーグ?。
自分の体を見ても、触ったりしても人工物とは全く思えない出来栄えだ。ていうか本当に人工物かぁ? ドッキリじゃないの?
《ドッキリではありません》
……
だから、マジレスって……
……
ん? しかしステータスには人間とかクォーターエルフとかって表示されているけど?
《そういう設定です。製作者により設定されました》
……
設定って…… つまり人間じゃ無いってことか……
……
まあ、転生したんだし別に人間だろうがサイボーグだろうがいっしょか。
とりあえず深く考えないほうが良さそうだな。
AIさんの知る限り、この世界に他のサイボーグはいないし、サイボーグという概念も無いとのこと。
ん? じゃーなんでサイボーグって単語があるんだ?
《製作者により定義されAI辞書に単語として登録されています》
そもそも概念も無い中で製作者はなぜサイボーグを作ることができたんだ?
《その質問への解答は辞書に登録されていないため、分かりません》
……
そうだ、寿命は?
《構造上、千年以上持ちますが、どこまで持つかは未知数です。永久に持つ可能性の方が高そうです》
……
もうどうとでもしてくれ。
気を取り直して、個々の機能を見るか。
おっと、ちょっと待て。その前にさっきの機能の説明でプログラムって言ってたな。エナとか、魔力の正体もわからんし。
あーいろいろ聞きたいことがあるが、また後でまとめて聞くか。
ん~。
そうだ、AIさん!
《はい》
俺が覚えておいて欲しい事をメモとして記憶できるか? 後からメモした内容を一覧表示してほしいんだけど。
《はい。いくつでもどうぞ》
よしよし。
じゃーまずは、プログラムについて だ!
《じゃーまずは、プログラムについてだ! ですね》
……
バカなのか?
じゃーまずは、とか、だ!とかは要らないんだよ!うまくやってくれよ!
《マジレスですね?》
……
《ちょっとした冗談です。プログラムについて、を1つ目のメモとして記憶しました》
……
ったく。
じゃー次いくぞ。AI!
《はい》
《呼び捨てですね》
……
エナとは? それと、魔力の正体は? だ!
《エナとは?と、魔力の正体は?の2つをメモとして追加しました》
……
まあ、いいだろう。
つーか、なんでマジレスって言葉を知ってるんだよ!
《製作者によりAI辞書に単語登録されています》
……
なんか、疲れてきた……