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19/21

19 シルビア

 今日から数日間、ライデンさんも参加し、A級、B級魔物の討伐を行う。

 ここからはライデンさん達4人の王宮騎士の試験準備だ。試験では魔物の討伐を行う訳ではないらしく、模擬戦などで能力の確認が行われるという。そのため特に準備は必要無く、体を鈍らせないための準備運動といったところか。

 俺とシルビアはただ見てるだけの方が多く、遠くでただ喋っていただけというのがほとんどだった。参戦したのは複数体の魔物が現れたときぐらいだ。



 数日間の肩慣らしも終わり、4人は王都の自宅に戻っていった。


「あれ? シルビアは王都に戻らないのか?」

 俺はこのロウエスに宿をとっているが、シルビアはいつも王都に宿を取っているはず。

「王都の宿が取れなかったのよ。この時期、王宮騎士の試験もそうだけど、王都で行われるいろいろな試験があって王都の宿はどこも一杯なのよね。だから今日からロウエスの宿なの」

 どの宿かを聞くと偶然にも俺と同じ宿だった。

「あそこは安い割には飯がうまいんだぜ」

「へー、そうなんだ。それは楽しみね」


 明後日から4人の試験が始まる。明日は休みにして、試験は3日間、その翌日に合格発表があるらしい。休日も考えて7日後に集まり、試験結果の報告を行うこととなった。試験で合格となった者はこのパーティから抜けることになる。つまり、4人ともに合格となった場合は必然的にパーティは解散となることが決まっている。

 と言うことで、明日から6日間は休みとなった。4人は試験日以外は家族の元でゆっくりするとのこと。

 俺とシルビアは独身なのでいきなり暇だ。



 宿に入った後、せっかくなので俺とシルビアは夕飯を一緒に食べることにした。

「どうだ? うまいだろ?」

「ええ、確かに美味しいわ」

 ……

 美味しいならもっと美味しそうに食べればいいのに。もしかして、俺の味覚とシルビアの味覚は違うのかな?



「シルビアは明日からどうするんだ?」

「別に決めてないわ。することが無いし寝てようかしら。あはは」

「6日間ずっと寝てるつもりか?」

「意外と寝れるかもよ」

 残念系の美人か? 勿体無い。

「暇なら俺と出かけるか?」

「あら、デートに誘ってくれているのかしら?」

「え? んと、まー、そんなところだな」

「うれしいけど。あんまり出かけるの好きじゃないのよ。だから遠慮しておくわ」

「そうなのか? いつも休みの日はごろごろしてるのか?」

「だいたいそうね」

寝てるだけって、それはダメだろ。なんとか引っ張り出してみるか。

「6日間も寝てたら腐っちまうぞ。だから出かけないか?」

「無理よ。寝てたいもの」

「じゃあ一日だけでもいいからどっか行こうよ? きっと楽しいぞ?」

「…… どうしようかしら」

「お、行く気になってきたな」

「…… じゃあ、一日!だけね」

 一日だけってそんなに強調しなくても…… そんなに寝てたいのか。

「ああ。とりあえず一日な」

 なんでそこまで出かけるのが嫌なんだろう? 美人で目立つから嫌とか? あるいは俺のことが嫌とか? ほんとに寝てたいのか? んー良く分からない奴だな。


 シルビアに行きたい所を聞いてみたが、思っていた通り特に無いってことだったので、とりあえず明日は王都で俺の観光に付き合うってことになった。



 翌日、遅めの朝に集合して王都に向かう。


 俺達はいつもの戦闘服では無く普段着だ。シルビアは白シャツにジーンズにスニーカー、髪はポニーテールにしているが特に飾り気は無い。今日も代わり映えなくいつもと同じだ。美人なのでどんな格好でも似合うのだが、なんとなく勿体無い気がしてならない。そういう俺もいつものようにパーカーにジーンズにショートブーツで人のことは言えないのだが。


 ゲートを潜り王都に入ると、人でごった返している。ここのゲートハウスはショッピング街も兼ねているのでいつも人が多いのだが、今日はいつも以上に人が多い。

 シルビアは一応楽しそうにしているが、まあ普段の狩りの時と変わらないと言えばそうかも。

 バスに乗り、王都の端に向かう。

「バスに乗るのなんて久しぶりだわ。アースはよく利用するの?」

「たまにね。俺もほとんど歩きだな」

「そっかー、アースって体力あるもんね」

「まあね」


 行き先は神殿。

 この神殿はフィンプラス最古にして最大の歴史的建造物だ。全体的に白い石が使われていて一見お城にも見える建物。外壁全体的に見事な装飾がされており、人や鳥、動物などが綺麗に掘り込まれている。

「凄いわね。どうやって掘ったのかしら?」

「確かにどうやって掘ったんだろう。魔法か? 見たことも無い動物もあるし」


 中に入ってみると、中の装飾も外壁と同じく見事だった。とても広く、展示物も結構ある。歴史なども説明されている。

 この神殿では、各人の持つステータスを詳細に確認することができるらしい。自分の適正や進むべき道を決めるときに皆が訪れるという。案内所で教えてもらった情報では、有料にも関わらず訪れる人は後を絶たず、今日は普段にも増して列をなしているとのこと。間が悪かったようだ。

「シルビアは診てもらったことは有るのか?」

「いいえ、無いわね。いつか見てもらおうかしら。アースは見てもらわないの?」

「少し興味はあるけど、また今度かな。混んでるし」

「ふーん」

 まあ俺は診てもらう間でもない。どうせルナがセットしたステータスが表示されるだけだ。

 そう言えば他の人のステータスはどんなだろうか。いろいろとスキルや魔法が並んでいるんだろうか。シルビアのステータスも少し気になるが、聞くのはマナー違反だ。


 神殿を一通り見終わり次は隣接している博物館に行ってみる。古代の石器、土器、王族の衣装、初期の馬車などが展示されている。生前の教科書に載っていそうな感じだ。どの世界も同じような歴史を辿るってことだろうか。

「馬車にタイヤが付いていると、なんか変ね。馬車じゃ無いみたいね」

「あー、そういう感覚なのか」


 最後に、すぐ近くにある記念公園に行ってみる。

 一番に目を引くのはこの国最大の木だ。

「アース、木ってここまで育つのね。びっくり」

「ああ、近くでみると壮大だな」

 この木を称えるための公園だという。周りには多くの花が綺麗に植えられていていたり、広い芝生のエリアがあったりと、ちょっとしたピクニックに良さそうだ。

 ここは少し丘になっていて、王都の壁の外まで一望できる。


 日が沈みかけている。見晴らしが良いことも有り、夕日が物凄く綺麗だ。壁の外に魔物がうようよしているなんてとても思えない。

「綺麗ね」

「ああ、魔物のことなんて忘れてしまいそうだな」


 夕日が照らしだす世界に暫く見とれていたが、帰る時間だということを思い出した。周りを見ると既に人はまばらだ。

「そろそろ帰るか」

「ええ、そうね」


 色々見て廻ったが、結局シルビアはそんなに楽しそうな感じじゃ無かった。本当に出かけるのが好きじゃなさそうだ。特に人が多い所は嫌そうだった。俺は結構楽しかったのだが、連れ出したのは大きなお世話だったのかもしれない。ちょっと申し訳ない気持ちだ。



「そう言えば、シルビアはあのパーティが解散になったらどうするんだ? 別のパーティを探すのか?」

「一旦故郷に帰ってみるわ。その後は決まってないから、それから考えるわ」

「そうか」

「アースはどうするの?」

「俺はパーティが解散しなかったとしても元々の予定通り抜けるよ。また旅に出ようかと思ってる」

「そっか。じゃあ7日後にはお別れね。寂しくなるわね。旅は一人なの?」

「ああ、一人だ」


「一人で旅するのって楽しい?」

「どうだろうか。少なくとも俺を理解してくれない人と一緒よりは一人の方が気楽でいい気がするけどね」

「理解って。アースって確かに凄腕だけど、それ以外は普通そうに見えるけどね。やさしいし」

「まあ、俺にもいろいろ事情があるんだよ」

「そうなのね。アースは今後も一人で生きていくのかしら」

「どうだろうか。基本的には一人なんだろうね」

「寂しくないの?」

「まあ、大丈夫だな」


 ……


 シルビアは急に黙りこみ、少しすると悲しそうにボソッとつぶやく。

「私も一人で生きてきた」

「え? …… スティーブさん達と一緒だったじゃないか」

「まあ、そうなんだけど。心はいつも一人だったわ」

「自分を分かってくれる人が居なかったとかか?」

「その通りね…… あれ? なんで私、こんな話をしてるんだろ。こんなこと誰にも言ったこと無かったのに」

「そうなのか。悩んでるなんて知らなかったよ。話せば気が楽になるかもしれないぞ?」


 ……


 少しの沈黙の後、シルビアの目からポロポロと涙が溢れだす。

「私は…… 私って…… 特殊なの。 信じて貰えないかもしれないけど私は死なないの」

「え? どういうこと?」

「どうやっても死ぬことが無いっていうこと。変よね?」

「変って言うか、そんな事が有り得るのか?」

「ほんとなの。気味が悪いよね。自分でも気味が悪いって思ってるもの」

 シルビアの涙が止まらない。ほんとの事なんだろう。まあ、俺よりも永く生きるとは思えないが。


「気味が悪いだなんて、そんな事は思ってないぞ。少し驚いただけだ。俺も同じようなものだし」

「全然違う! 強いとか負けないとかそんなのじゃ無くって、寿命が無いっていうことなのっ! 何も食べなくても生きていけるし、体力も落ちないし疲れることもほとんど無いのよっ!」

「へー、それも俺と同じだな。なんか嬉しいぞ」


「え? …… 寿命が無いのよ? それが同じなのっ? そんな訳ないでしょっ?」

「いや、同じだ。俺も寿命は無い」


 ……


「そ、そんなの信じられないっ! 私と同じ人がいるなんて思えないっ! 話を合わせてるだけよねっ!」

「そんな事は無いぞ。もっと言うと、俺は人間じゃ無いんだ」

「え?」

「心は人間だけど、見た目も人間だけど、体の構造は人間じゃ無いんだ。俺の特殊さに比べればシルビアのは全然普通だな」


 ……


「嘘よね! どう見ても人間だし」

「だから、見た目は人間だって言ってるじゃないか」


 ……


「私を安心させるための嘘なんていらない……」


「俺も誰かにこの話をする日がこんなに早く来るとは思ってなかったんだけどな」


 ……


「やっぱり信じられない」


「どうやったら信じてもらえるかな…… そうだな…… じゃあ、これを見てくれ」


 俺は左腕の袖を捲り上げ、腰から刀を引き抜き自らの左腕を切り落とした。切り落とされた腕が地面にボトッと落ちる。

「ひっ…… アース! なんでそんなこと――」

「まあ、見ろよ。ほら血が出てないだろ? それに痛くもないんだ。人間じゃ無いからな」

 唖然としているシルビア。俺は刀を腰に戻し、地面から腕を拾い上げる。


「切り落とされた腕の断面も綺麗なもんだ。人間とは根本的に違うしな。ほら、確かめて見るか?」

 俺はニコリとしてから、腕を渡そうとしたが、シルビアは全力で首を振っている。

 そりゃそうか、と思いながら腕を元の位置に戻す。

「ほら、腕は元通りだ」

 指を動かし戻った腕を見せるが、シルビアは呆然と俺の腕を見つめている。涙はすっかり止まったようだ。

「どうだ? まだ信じられないか? 今度は足でも切り落とそうか?」


 ……


 ……


「ううん…… 信じる。 信じられないことだけど信じるしかなさそう」

「そうか。 それなら良かった」


 ルナ!

《はい?》

 シルビアはもしかしたら俺と同じか?

《スキャンしてみましたが、この世界で普通に生まれた生命体だと思います。ただ、エナの保有率が一般的な生命体と比べて有り得ないほど多いです。理由は分かりませんが、なぜかエナを定着させることができるようです。そう言う意味では、普通の生命体とは異なりますね》

 そうか。エナをか…… 俺とは違った意味で特殊なんだな。ただ、俺とは違って、シルビアはこの世界が必要だと判断したからこそ生まれて来たんだろうな。


 その後、シルビアはこれまでの事を俺に話してくれた。

 エルフは基本的に人間の3倍ほど長寿で、20歳の成人になったあたりから寿命になるまで見た目の変化があまり無いという特徴が有るらしい。それでも経年による変化や栄養による変化、疲労による変化など、生きている以上はなんらかの変化が有るのが普通だが、シルビアにはその変化がほとんど無いらしい。数ヶ月食事を抜いてみたりもしたが、それでも体に何の変化もなかったという。

 また、シルビアは子を宿す能力も無く、もはや生きる理由が分からなくなっていたという。

 小さい頃はいたって普通の子供だったのだが大人に近づくにつれ徐々に体に異変が起こり成人になった時には今の特異体質になっていたという。

 いたたまれなくなったことでエルフ大陸を飛び出し、悩みを誤魔化すためにハンターになって忙しく振る舞ってみたけれど、1日たりとも悩みを忘れることは出来無かったそうだ。

 みんなが疲れたとかお腹減ったとか言うたびに思い出す。みんなに合わすために自分でも疲れたとかお腹が減ったなどと心にも無いことを言って自己嫌悪に陥る。周りに人が多くいるほど孤独を感じる。かと言ってずっと一人でいると気が変になりそうになるので、結局みんなとハンターやって気を紛らわすしか無かったという。


 シルビアに俺の事も話す。

 今の俺が第二の人生であることや、体が作り物であること、人工知能が頭の中にあること、シルビアと同じく食べなくても生きていけることなど、それらを丁寧に明かしたことで、シルビアは俺ほどの特殊性が無いことを理解したようだ。

 ちなみに、前世の俺の年齢を話したところ、シルビアは俺の前世の年齢よりも3つ下だということを知った。


「私はもう何年もずーっとずーっと一人で悩んでたんだけど、なんか気が晴れたというか、悩みが無くなった気がするわ。こんなに晴れ晴れとした気持ちは生まれて初めてかもしれない……」


 そう言うとシルビアの目から再び涙が溢れ出し、俺に寄りすがり肩に顔を埋める。

「私……」

 その涙は先程よりも勢い良く流れているようで、わんわんと声を上げて泣いている。

「私…… アースに会えて良かった…… ほんとに良かった」

 先ほどまでの悲しみの涙ではなく、嬉し涙だということは分かっているので、俺はその体をそっと抱きしめて気が済むまで泣かせてあげた。



     §



 宿に戻った俺達は、遅めの晩飯を食べる。

 シルビアは食事に口をつけずに俺が食べ始めたのを見ている。

「アースも食べる必要なんて無いんでしょ? なのに、どうして食べるの?」

「うまいからだよ」

「いくら美味しくても、なんか虚しくならないの? なにも無理して食べなくてもいいのに」

「無理なんかしてないぞ。それに、食べなくていいんじゃ無くて、うまいものしか食べなくていいんだよ。あー、なんという幸せ」

「…… そうか、そうね。美味しいものだけ食べればいいって、そんな風に考えたことは無かったわ。確かにそう考えるとなんか幸せな気分になるわね」

 そう言った後、シルビアは食事を美味しそうに食べている。美味しそうに食べるシルビアを初めて見た気がする。

「私、アースのおかげで生きるのが楽しくなってきたわ」

「それは良かったな」

 食事如きで大げさだと思いながらも、俺はうんうんと頷いた。



「そう言えば、アースが言ってたのって全部本当の事だったのね」

「え? 何が?」

「ほら、アースって自分の事、疲れ知らずとか、胃が底なしとか、食べなくても平気とかって言ってたでしょ? 全部本当の事言ってたんだなーって思って」

「ああ、それか。確かに事実を言っただけだな。誰も本気にしないけどな」

「私なんて、おなか減ったとか、疲れたとか言って、バカみたい」

「まあ、いいじゃないか今度から自然体でいけば」

「うん。そうね。そうよね。アースを見習ってみるわ。きっと楽しそう」



「それはそうと、明日はランスベルに行ってみようと思ってるんだけど、シルビアも行くか?」

「行く! 絶対に行く!」

「お、おお。そうか。じゃあ一緒に行こう」

「うん!」




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