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18 最前線基地

 今日から3日間はB級魔物の討伐を行う。日帰りで行ける近場だとB級の魔物までしか遭遇しないので、A級魔物討伐遠征の肩慣らし程度だ。

 一応、ギルドから特大の巻物を借りておく。今まで借りていた大型の巻物と引き換えだ。


 初日は西側の山に入り奥へ進んで行く。この討伐の意味は、作戦を忠実に遂行すること、パーティ連携を意識し戦うこと、他メンバーの持ち味を引き出すことなどであり、魔物を討伐するのは二の次だった。

結局トロール2体と、C級魔物が数体を仕留めたところで時間切れで引き上げる。


「ねえアース?」

 帰り道、シルビアが声を掛けてきた。

「ん?」

「最初の頃は気のせいかと思ってたんだけど、アースって魔法を受け付けないわよね?」

「え……」

 なんで分かった?

「戦闘中に強化魔法を放ってもアースだけは散ってしまうのよね。あ、別にそれが悪いって訳じゃないんだけど」

 そういう事か。

「まあ確かに、魔法を受け付けない体質なんだ」

「ああ、やっぱりそうだったのね。早く言ってくれれば良かったのに。今日なんかも何回かチャレンジしたんだけど全然駄目で、魔法を打つのを失敗しているのかと悩んじゃったわよ。あはは」

「魔法を受け付けない事を、あえて言う必要は無いかと思ってたからね。ごめん」

「ううん、いいのよ。でも、凄いわね。ヒールも効かないってことでしょ? 普通なら怖くてハンターなんてできそうにないのに、アースの強さはそこから来てるのかもね」

「さあ、どうだろうか」



 二日目

 今日は東側の山を進んで行く。

「アースの探査って、普通の探査魔法じゃ無いわよね。Bランク試験の練習の時にそう思ったんだけど」

「まあ、ちょっと独特だけど、探査出来ることには変わりないけどね」

 話し合いの末、今日は俺が魔物を探査することになった。といってもルナのソナーだが。シルビアは探査のバックアップだ。


 俺は的確に魔物やハンターの位置を指示して行く。

「私よりも正確に見えているようね。近くは私にもきっちり見えるんだけど、遠くになるとアースには全く敵わないわ。魔物の数や人の数なんかも正確に分かるようだし、ほんと優秀だと思うわ」


 夕方近くになったので帰路につく。

 町までもう少しというころでシルビアが何かを感じ取った。

「アース! 今の分かった?」

「え? 何のこと?」

「SOS!」

「SOS?」

「誰かの探査魔法がSOSのパターンを発していたわよ」

「パターン? どう言うこと?」


 誰かが探査魔法を使うと、探査魔法を使える人にはそれを感じ取ることができる。他人が感知できてしまうことを逆手に取ってモールス信号のように会話することが可能らしい。そして今、SOSを受信したのだと言う。

 ルナは分かったか?

《いえ、それを感知できる機能はありません》


「ほら、また来たわ。ここから南の方向からよ」


《南に200m、6人のパーティがゴブリン複数体に囲まれていますね。内、2名は負傷したのか倒れています。ゴブリンの方も6体倒れていますが残り12体います。戦況は厳しいようです。状況からしてSOSを発したパーティだと思います》


「ゴブリン12体に囲まれているパーティがいる! 急ごう!」


 俺は先行して走りだす。その場に到着するとゴブリンを2体倒しながら皆を守るためにパーティの真ん中に飛び込んだ。皆を守りながら近寄るゴブリンを切り刻む。

 その直後、遅れて到着したスティーブさんらの火炎魔法が複数着弾する。俺が皆を守っている間に周りのゴブリンがあっという間に殲滅した。

 最後に到着したシルビアが、倒れている2名に駆け寄りヒールをかける。かなりの重症のようだったが命に別状が無い位には回復したようだ。

「危なかったけど、とりあえず命の危険は無くなったわ。気絶しているけど、もう大丈夫よ」

 その言葉を聞くと安心したのかそのパーティの皆はその場にへたり込んだ。


 他のメンバーも全員が負傷していたが、シルビアが一人ずつヒールをかけて回復した。

「ありがとうございました」

 パーティリーダーだろうか、呟くように一言口に出した。

 他のメンバーはまだ呆然としている。

 状況を聞いた所、全員Cランクのパーティでありゴブリン程度なら問題無いと思っていたが、ゴブリンのあまりの多さに冷静な判断も出来なくなってしまったと言う。体力も奪われ全滅も覚悟した中、藁をも掴む思いでSOSを送ったらしい。

 気絶していた2人も目を覚まし皆が落ち着いた後、一緒に町に戻って行った。



 三日目は極普通に討伐し、明日の準備のために早めに切り上げた。



 町に着くと、休む間もなく明日からの10日間の遠征に必要な物資を用意する。

 と言っても、予めギルドに予約してあるのでギルドから受け取るだけだ。

 ギルドの窓口で物資を受け取る。

 

「予約されていた物をお渡しします。魔物用特大マジックバッグ2本。山岳用小型バス1台。携帯食料5名10日分。飲料水5名10日分。バーベキューセット、テント、寝袋5名分。トイレ12日間タイプ、シャワールーム1名用。以上です」

 たんたんと説明され、巻物は大小合わせて10本が積まれた。

 魔物用特大マジックバッグは、各人1本ずつ持っているので、合わせると巻物15本になる。各自3本ずつ持つことになる。

 シャワールーム、トイレ、バスも全て巻物で渡されたのはちょっとした驚きだった。

 レンタル代は全部で30万エルらしい。


 翌日

 いよいよ出発。東の山に入り奥へ進んで行く。A級魔物狙いのため、道中はC級、B級の魔物を避けて奥を目指す。


 初日はバスでの移動だ。ニックさんが運転し、助手席はスティーブさん。後ろの席は俺とシルビアとマルクさん。後ろの席は比較的痩せている3人で軽装備ということもあり窮屈という感じは無い。

「アースは運転免許証は持ってないのか?」

「はい、無いです。欲しいんですけどね」

「簡単だし、取っておいて損はないぞ?」

 王都には教習所があるが、いきなり試験でもいいらしい。筆記と実技だ。

 俺も運転免許を取るかな。筆記はルナがいるから問題ないし、実技も前世で毎日運転していたぐらいなので問題無いだろう。この遠征の帰りに一度運転させてもらうかな。

 そんな事を喋ったり考えたりしている内にバスはどんどん進んで行く。

 山中を進むのでスピードは出せないがそれでも歩くよりは断然速い。途中、休憩をはさみながら一日で200kmを走破した。


 周りが暗くなってきたので、バスを止めて野営となった。

 テントを張って、シャワーとトイレを近くに設置する。

「さて、飯だな。一人一個な。アースは大食いだけど足りるか?」

「大丈夫ですよ。俺は食わないのも得意なんで」

「食い溜めできるってことか、すげーな」



 夜は、ようやく完成した快眠機能で、朝までぐっすりだ。スリープ機能のあの不快さは無く、寝起きが非常に心地よく仕上がっている。この遠征では夜中に何か作業することもできそうに無いので、寝るのはちょうどいい。ルナの図書館制覇が短縮できるので一石二鳥だな。



 二日目はバスを巻物に仕舞い、とにかく歩く。結局50kmほど歩いた。


 特に収穫が無いまま野営となる。

「こんなに歩いても見つからなかったなー。しかし山道は疲れる。もうヘトヘトだ」

「アースは若いだけあって全然元気そうだな」

「まだまだ行けますよ。俺は疲れ知らずですからね」

「羨ましいな。シルビアはどうだ?」

「さすがに疲れたわね」

 そう言ったシルビアを見てみると何故か悲しそうな顔をしている。相当疲れたのだろう。このメンバーの中では一番小柄だし。

「アースの若さを分けてほしいもんだな。なあ、みんな?」

「あら、私もニック達よりは全然若いわよ? そうね、アースと同じくらいかしら?」

「そりゃ盛りすぎだろ? わはは」

「失礼ね」

「ほらシルビア、アースを見てみろ。そんなこと言うからシルビアの年齢が気になりだしてるぞ?」

「別に気になってないから。俺に振らないでください」

 ほんとは気になってるんだが聞ける訳がない。

「まあ、俺達よりだいぶ若いってのは本当だから心配すんな」

「だから、気になってないって言ってるじゃないですか」

「わはは」


 三日目、準備を整えて出発する。

「アース、何か居ないか探ってくれ!」

《5km程行ったところに未知の大きな魔物が居ます》

「1時間ほど歩いたところに魔物が居るみたいです」

「何が居るんだ?」

「分かりません。俺が知らない魔物ですね」


 近づいた頃、シルビアの探査で魔物を特定する。

「ビッグタイガーね」

「ようやくA級魔物のおでましだな」

 さらに近づき、目視できるとこまで来た。

 巨大な虎だ。その風貌はキラータイガーとは異なりいわゆる虎だ。ただしでかい。

「準備はいいか?」

 皆が頷く。

「シルビアも行けるか?」

「いつでも!」

 スティーブさんから指示が出る。

「よし! 手はず通り、ニックとアースが奴を惹きつけて、その隙にシルビアは奴の動きを封じてくれ。俺とマルクは後方から援護する」


 こちらに気付いたビッグタイガーが襲ってくる。巨体に似合わず動きが速い。飛ぶように移動し、空中での方向転換も可能なようだ。

 攻撃の時に手足に炎を纏い、さらに炎を口から吐き出す。素早い動きと空中での方向転換を交えて多彩に攻撃してくる。それらをかわしているとビッグタイガーの動きが急に鈍った。

 シルビアが後方から叫ぶ。

「掛かったわよ!」

「よし! 畳み掛けろ!」


 ビッグタイガーは重力魔法でその巨体を自在にコントロールしている。シルビアの重力魔法封殺により素早い動きが封じられた。

 基本スペックはS級に近いが重力魔法さえ封殺できればそこまでの脅威は無いと言うことでA級にグルーピングされている。ただ、動きが鈍ったとは言え、底力はA級らしくB級とは桁違いだ。

 強烈な力と炎に気をつけながら時間は掛かったが沈めることができた。



「ストーンゴーレムの登場ね」

 見ると、岩のような石のような物でできている巨大な人型の魔物。6mは有るか。

「ちっ。厄介な奴が現れたな。見過ごすか?」

 移動中に聞いていた情報だと、岩なので剣で斬るのでは無く時間を掛けて砕いていくしか無い。剣はぼろぼろになるので打撃専用の剣を使うという。あと、岩だからか衝撃系の魔法以外は効かない。


「戦って見たいですね」

「まあ、そうだな。やってみるか。ダメなら逃げればいいしな。ここは全員で打ち砕くぞ」

 そう言うと、スティーブさんは打撃用の剣を取り出し、全員に配っていく。

 捨ててもいいような既に刃先がボロボロの剣だ。ストーンゴーレム専用ってことか。その剣を構えてストーンゴーレムに向かい合う。


 ストーンゴーレムは、長い腕を振り回し襲ってくる。しかし、その動きは緩慢で、同じような動作しかしないため難なくかわせる。Cランクでも十分かわせそうだ。ただ、運悪く腕が直撃するとタダじゃ済まないだろう。

 振り回す腕の隙をつき剣を叩き込むと、石は砕けて勢い良く飛び散る。飛び散った欠片の半分以上は地面に落ちることなく体に吸い寄せられて再生する。

 切っても砕いても直ぐに合体再生する。確かに厄介だ。


「これって、倒せるんだろうか?」

 シルビアが答える。

「前にも言ったかもしれないけど、倒す方法は魔石を破壊するか取り出すかしか無いわね。だけど、魔石は岩に覆われた体内にあって直接の攻撃はできないし、突き刺そうにも周りの岩が固過ぎて無理だし。そもそも魔石のある位置が個体ごとに全然違うから集中的に狙うこともできないのよ。ただ、100%再生される訳ではないので、ちょっとずつ削って行けば最終的には倒せるわよ。以前に一回だけだけど倒したことがあるから間違いないわよ」

 時間が掛かりそうだな。


 それにしても魔石の位置が分からないのは厄介だな。ルナ、分かるか?

《スキャンしてみます》

《分かりました。映像で表示します》

 そう言うと、ストーンゴーレムの左足太ももの中に赤い魔石が表示された。はっきりと見える。

「見えた! 魔石は左足太ももです!」

「なに! それは本当か?」

「間違い無いです!」

「なら、そこを集中的に狙うぞ!」

 5人でどんどん削っていく。


「有った! 取り出しを狙うぞ!」

 魔石の周りを削っていき、完全に魔石がむき出しになったのを見計らい、マルクさんが素早く手を伸ばし魔石を取り外した。

 その瞬間、ストーンゴーレムの動きがピタッと止まり、暫くするとバラバラに崩れ落ちる。数時間に及ぶ戦闘がようやく終了した。

「やったな」

「ああ、もうヘトヘトだぜ」

 ストーンゴーレムはB級以下のスペックだが、倒すことが困難でほぼ長期戦になるためA級に位置づけられている。


 崩れさったストーンゴーレムがただの石の山になった。そこにスティーブさん達が集まりその山をかき分けて何やら探している。

「何やってるんですか?」

「宝石を探しているんだよ。まれに含まれているらしいからな」

「有った! 有ったぞー!」

「こっちにも有ったぞー!」

「ルビーとエメラルドだ。2つも有るとは運がいい」

 見ると、どちらも5cm程有り、赤色と緑色の鈍い輝きを発している。磨けば輝くのだろう。

「それに加えてストーンゴーレムの魔石か。いい値段になるな」


 ルナ? 他にも宝石を見落としてないか?

《小さいのがあと1つ有りますね。映像で表示します》

 石や岩をかき分けて行く。

「アースどうした? まだ探すのか? もう無いと思うぞ」

「はい。ちょと待ってください」

 小さいながらも見つけた宝石を皆に見せる。小さいといっても1cm近く有る。

「有りました。これも宝石だと思いますよ」

「今日は大儲けだな。ハンター冥利に尽きるぜ」



「マッドベアよ」

 黒く巨大な熊だ。

「爪には気をつけろよ!」

 このマッドベアの攻撃は爪だけだが、この爪はなんと空間を切り裂くのだ。というよりも空間を削り取るというのが正しいか。爪が通った後は何も残らない。空気さえも残らない。かすっただけでも致命傷になり得る。爪を剣で受け止めようものなら剣ごと削り取られてしまう。どんな頑丈な防具でもお構い無しだ。例えSランクハンターであっても油断していると一瞬で命を落とす。まさに防御無効。それがマッドベアだ。


「絶対に油断するなよ! 良く見て行け!」

 マッドベアには遠距離攻撃が定石だが、訓練として接近戦を絡めて攻撃する。防御無効の攻撃が毎回繰り出される訳ではないが、攻撃前にそれとは判断できないため必ずかわす必要がある。


 基本スペックはS級に近いマッドベアだが、動きが鈍いことでA級にグルーピングされている。

 鈍いと言ってもC級のオーガ程度はあり、攻撃を全てかわさなければならない事を考えるとBランク成り立てだとかなり荷が重く、Cランクだと間違いなく即死だろう。


 マッドベアが爪を振るとにシュパッという音が鳴ることがある。空間が削り取られたことで出現した無の空間が塞がる際に音がするのだろう。

 かすることさえも許されない相手。硬い毛皮による防御力。シュパッという音を何度も聞きながらも回避を続け、時間をかけて倒した。



 数日間に及ぶ遠征の成果はビッグタイガー4体、ストーンゴーレム1体、マッドベア2体だ。



 最終日の夜


「予想以上の成果だな。アースの探査が優秀なのが大きかったな。ただ、これだけA級が出没すると言うことはA級がかなり町に迫ってきている証拠でもあるな」


 それから二日掛けて町に戻って来た。

 ギルドに到着し、戦利品を搬入する。それ以外にも魔物の発見位置を正確に報告するという作業もある。討伐時に記録していたポタメの内容から正確な位置を伝えることが可能になっているらしい。


 ストーンゴーレムの魔石は希少価値が高い。ストーンゴーレム自体が珍しいのと、戦闘中に意図せず魔石が破壊されてしまう事が多いためだ。また、ストーンゴーレムが動く原理が解明出来ておらず、その魔石に秘められた謎を解き明かすべく研究機関に送られるらしい。



レベル:32

EP:10974





 一日の休日を取り、その翌日


 ゲートハウスの前で皆で集まっている。今日、ライデンさんが戻ってくるらしい。ライデンさんは、このパーティの前衛でAランクだ。ニックさん達と同じく王宮騎士を目指している。実際には昨日戻ってきていて、今日は王都の自宅からここにやって来るとのこと。

 ゲートハウスから一人の男が出てきてこちらに向かって来るのが見えた。

「帰ってきたな」

 と、スティーブさんがニヤリとしながら口を開いた。

 あれがライデンさんか。ニックさん以上にガッチリした体型だ。


「ひさしぶりだな」

「ああ、一ヶ月ぶりだな」

 皆で再会の挨拶やライデンさんの遠征時の報告など土産話に花を咲かしている。


「おまえがアースだな? 聞いているぞ」

「はい、アースです。はじめましてライデンさん」

「うむ。ハンターには珍しく、なかなか礼儀正しい奴だな」



「なあ、ライデン。Aクラス試験が迫ってきていることだし、ちょっと見てくれるか?」

「もちろんだニック。そのために帰ってきたんだからな。ちょっとと言わずどっぷりと見てやるさ」

「助かるぜ。俺達は直ぐにでも行けるが、ライデンはどうだ?」

「ああ、大丈夫だ。じゃあ、直ぐに行ってみるか?」


 ライデンさんを加えて狩りに出ることが決まったようだ。ライデンさんが全員の力を見てくれるしい。

 これからどこに向かうのかは分からないが、まずはゲートハウスに入る。

 ゲートハウスの端に立入禁止と書かれた飾り気のない扉がある。その扉を入っていくと一つの部屋になっていて、そこにはAランク以上が利用できるゲートが設置されていた。パーティにAランクがいれば利用可能だという。

「このゲートを潜って、最前線基地に向かう」

 ライデンさんが受付のような窓口で何やら話しを行い、俺達全員に身分証をかざすよう促された。ゲートを通れるように登録してくれたらしい。


 ゲートを潜ると文字通りの最前線だった。砦のような高い壁で囲まれていて、そこを一歩出ればA級B級魔物との遭遇率が高い危険なところだという。店などはもちろん無い。ギルドが有るだけだ。


 見物はそこそこに早速狩に行くことになった。現在の力をライデンさんに確認してもらうために、ライデンさんを除く俺達だけで討伐に臨む。皆で打ち合わせを行い、A級魔物の討伐に向かう。

 近辺をサーチすると、数キロ程度ごとにA級、B級が見つかる。一番近くのA級魔物ビッグタイガーをターゲットにし、いつも通りに狩りを行う。数体を狩った後、今日の狩は終了となった。


 ライデンさんが今日の感想を口にする。

「連携はまあまあいけそうだが、個々の動きが少しぎこちないな。特にアースが今一歩だな。絶対的な経験不足から来るんだろうが、剣術、体術がなっちゃいねえ。まあ、基本はできてそうだがな」

 俺か。意外といけてると思っていたんだけどな。

「そうですか。どの辺が足りないんでしょう?」

「んー、そうだな…… 口で説明するより体で覚えた方が早いだろう。明日はみんなで室内での訓練にするか。俺が稽古をつけてやる。特にアースを中心にしごくぞ」

 それはラッキーだ。

 このパーティに永くいる訳ではないので悪い気がしたが、それでも構わないとのこと。Aランクハンターが絶対的に少ないため、合格していつか役に立ってくれればいいと言ってくれた。ただ、今のままでは合格は微妙とのこと。これからの訓練でどこまでものにできるかが鍵だ。


 翌日、ギルドの高ランク専用の稽古場で訓練だ。ライデンさんが数名のAランクハンターを集めてくれた。

 Aランクハンターが稽古を手伝ってくれるようだ。俺の相手はライデンさんがしてくれる。ありがたい。


「アース、まずは素手で来い」

 初めは体術だ。

「俺を転ばすか、投げ飛ばして見せろ」

 そんなの簡単だろうと思っていたが、転ばされるのは俺の方ばかりだ。それはもう簡単に転ばされる。合気道のようなものだろうか。

「無駄な動きが多いいぞ! 隙だらけだ!」


 ライデンさんの動きをよく見る。確かに隙が無い。こんなの攻略できるのか?

《ライデンさんの動きを見切りました。体術のパッケージを更新できます。バージョンアップしますか?》

 そうか、俺にはその手があった。

 ルナ、バージョンアップだ。

《はい。バージョンアップしました》


 ライデンさんに向かい合う。見える。ライデンさんの動きが見える。

「ライデンさん、見切りましたよ」

「ほう。見切ったとは大きくでたな。なら、掛かって来い!」

 ライデンさんに攻撃を仕掛ける。ライデンさんが俺を転ばそうとするが、それをかわす。

「なにっ! …… 見切ったというのは本当のようだな!」


 その後、互角の戦いが繰り広げられて、何回か転ばされながらも、体術のバージョンアップを細かく行い、無駄な動きをどんどん矯正する。ついにはライデンさんを転ばすことに成功した。

「…… アース、お前すごいな。この短時間でぐんぐん技術が進歩したぞ」

「ありがとうございます」


「じゃあ、次のステップにいくか。次も俺を転ばすまでだ。掛かって来い!」

 次のステップが何か分からないまま、向かっていく。

 先程とは異なり、ライデンさんの次の動きを予想できない。動きの予想が完全に外れる。また、転ばされることが続く。

「アースが次にどう動くか見え見えだぞ!」

 そうか、小さくフェイントを使っているな。

 ここでも体術のバージョンアップを細かく行い、俺もフェイントを使えるようになった。それにより相手のフェイントも見えるようになり、転ばされる事が少なくなり、最後にはライデンさんを転ばすことに成功した。

 次のステップでは、力の入れ方、力の抜き方を教わる。ここでも、体術のバージョンアップを行いつつものにする。最後にはそれなりの戦いが出来たんじゃ無いだろうか。


「体術は十分だ。次は剣術だな。基本は体術と同じだぞ」

「はい」

 ルナ、さっき体術に行ったバージョンアップを剣術にも反映できるか?

《はい、可能です。剣術のバージョンアップを実施しました》

 その後、お互いに木刀を持ちライデンさんに稽古をつけてもらう。稽古なのでエナの流し込みは無しだ。無駄な動きの矯正、相手の動きの見切り、流し方、フェイント、力の入れ方など、剣術独特の動きをバージョンアップで取り込んでいき、最終的には剣術でもなんとか戦えるまでになったと思う。


「よし、ここまでだ。終了だ」

「はい。ありがとうございました」

「まあ、何と言うか、飲み込みは早いし応用も効く。次の瞬間にはもう自分のものにしてやがる。体術も剣術も俺と対等か、下手すりゃ俺を超えたかもな」

「え、本当ですか?」

「ああ、本当だ。驚くほどの吸収力だ。Aランクを受けるだけの実力は十分にある。しかし、この短時間でここまで来るなんて普通は有り得ないんだが、嬉しい誤算だな」

「ありがとうございます」



 翌日から、魔物相手にAランク試験の練習をする。

「今からB級魔物の討伐を行う」

「B級? 今更?」

「ああそうだ。ただし、前衛のニックとアースにはこれを使ってもらう」

 渡されたのは小型ナイフ。刃渡り30cm弱のもの。切れ味も悪そうだ。これで戦えと言うことか。

「それから、後衛はCランク魔法のみを使用すること。出力もCランク程度に抑えろよ?」

「Cランク魔法だとほとんどダメージは通らないんじゃないか?」

「まあ、そうなる。力任せは通用しないからな。うまく攻撃を組み立てて、効率良く攻めないと倒せないってことだ」


 打ち合わせした後、出発する。

「アース、どうだ?」

「トロールを見つけました。すぐ近くです」

 Cランク相当のパーティがトロールを倒すのは無茶だが、やって見るさということでトロールに向かう。


 前衛はナイフで斬りつける。後衛はCランク魔法のファイヤーボール、ウインドカッターなどを何発も打ち込む。シルビアが弱体化をこまめにかけ続ける。

 それぞれの攻撃力は弱く、単体では致命傷には程遠い。それに対してトロールは暴れたい放題だ。時には後衛にまで近づくこともあった。こちらは手数で圧倒するしかなく、前から後ろから攻め立てる。徐々にトロールの動きが弱くなり、ついには沈んだ。


 なるほど、ちょっとコツを掴んだ。昨日のライデンさんの稽古のようだ。他の皆も手応えが有ったようだ。


 一体を倒し切るのにかなりの時間が掛かるが、一日に数戦というペースで行い、数日後にはB級の魔物複数体が相手でも、魔物をその場から動かすこと無く倒せるまでになった。


 その翌日からは、各自の武器、最大能力でA級魔物の討伐を行う。ただし、練習の時のように連携や動き、組み立てを考えてより効率的な討伐を目指す。

 攻撃力を落とした訓練が効いたのか、A級魔物のビッグタイガー、マッドベアが簡単に沈んでいく。

 それを試験の前日まで繰り返した。

「よーし十分だ。これなら明日の試験は余裕だな」



 翌日、待望のAランク試験に望む。試験官はAランクハンター6名。試験場所は最前線基地付近。A級魔物を討伐するのは必須だが、パーティの連携や、体の動き、各人の力など各項目が全てAランク相応かを全体的に判断するのだという。

 試験では気負うことなくうまく連携を取り、これまでの練習通りにA級魔物を仕留めるだけだ。2日間でビッグタイガー、マッドベアをそれぞれ2体ずつを討伐した。

 試験官の判定は全員一致で、俺も含めて5名ともにAランク合格となった。

「しかしこのパーティはレベルが高いな。文句のつけようが無い。ライデンが自慢するだけの事はあるな」

 身分証を更新してランクはAとなった。


ハンター:A


「やったな!」

「ああ、ついにAランクだな」

「アースもその若さでよくやった」

「ありがとうございます」

《やりましたねアース》

 ああ、ありがとう。一旦はBランクでさえ諦めかけたのにな。いいパーティに拾って貰ったもんだ。



レベル:36

EP:13386



 さすがに次の日は休日となった。

 こういう休日は普通はごろごろとしてゆっくり休養するのだろうが、俺には疲れが無いため王都へ観光に出かけた。ただ、久しぶりに魔物を見ない日だった。

 また、その日ルナから図書館を制覇したとの報告もあった。




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