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15 Fランク依頼

 今日は依頼を受けてみようか。

《実技試験でランクアップを狙わないんですか?》

 町に慣れる意味でも、依頼達成でのランクアップを狙おうと思う。

《分かりました》


 早速、リュックを背負いギルドに出かける。


 ギルドに到着してみると、早朝にも関わらずかなり混雑している。ハンターの朝は早いということだろう。

 ギルドの掲示板はデジタル化されている。その依頼掲示板を見るも、Fランクの魔物討伐関係は無い。

 Fランクでも1つ上のEランク依頼なら受けれるが、Eランク依頼も討伐は無い。討伐で有るのは何れも常時依頼で、Dランク相当のゴブリン討伐からだ。


 常時依頼しか無いのになんでこんなに混んでるんだ? 常時依頼は申し込みは不要のはずだよな。

《パーティの募集が目当てなのだと思います》

 見ていると、確かにパーティ募集の掲示板の前が混雑している。

 パーティ募集の掲示板もデジタル化されていて、表示内容が随時更新されている。表示されるも直ぐに消えていくものや、長く残っているものなど様々だ。


 Fランク依頼から探すか。他のランクと異なりFランクは結構な数の依頼票が掲示板に表示されている。討伐じゃないので人気が無いのだろうか。

 その中で気になったものがあった。


・無指定ランク依頼(Fランク相当):ペットの捜索。成功報酬2万エル。


 Fランク依頼の中では報酬が高いな。

《報酬額はギルドが実際の依頼現場を見て決めているらしいのでそれが適正額なんだと思います》

 難しいってことか。


 依頼内容の詳細を身分証に表示し依頼内容に目を通す。5日前にいなくなった仔猫の捜索のようだ。子猫の写真も載っていた。

《ペットの毛など、ペットの情報があればソナーで見つけられると思いますよ》

 そうか。依頼主宅を探せば何かしらの情報がありそうだな。



 依頼窓口にて依頼番号を告げることで依頼を受けることができる。

「5日前にいなくなったペットを探すという内容です。この依頼を昨日までに3人が受けていますが現在のところ手掛かりすら得られていません。失敗する可能性が高くなっていますが、依頼を受けることでよろしいでしょうか?」

「はい」

「それでは登録しますので身分証をこの石板にお願いします」

 身分証を石板に乗せて登録する。

「それでは、これが依頼票となります。依頼票には依頼主の住所と地図の情報が載っていますので、確認をお願いします」


 受け取った依頼票に地図が載っているのを確認し、頷く。

「すぐに依頼主宅へ向かいますか?」

「はい」

「では先方に連絡しますので少々お待ち下さい」

 そう言うと、手元を何やら操作しだした。たぶんポタメで連絡を取っているのだろう。

「連絡が取れましたので、今から向かって頂けるようお願いします」

「わかりました」


 地図を頼りに依頼主の家に行く。

「おはようございます。ギルドから依頼を受けて来ました」

「おはようございます。アースさんですね。よろしくおねがいします」


 挨拶もそこそこに詳しい話を聞く。依頼主の横には小さな女の子が寄り添っていて悲しそうな顔をしている。

 依頼票の写真の通りペットは白い仔猫で、名前はハナちゃんだそうだ。

 家の中にあるというペットの小屋を見せてもらう。小屋に落ちていた白い毛を採取しルナに確認してもらう。

《猫の毛で間違いないですね》

「それでは探してきます」

「よろしくお願いします」


 家を出て、確認した毛を頼りに1kmの範囲をルナにソナーで探査してもらう。

《いませんね》

 エナを使ったソナーはこの世界とは異なる系からの探査となるため物理的な障害は関係無い。範囲内にいれば必ず見つかるはずだ。

 範囲を広げよう。2kmを探査してくれ。

 ルナが首を横に振る。

 5kmを探査してくれ。町全体をカバーできる範囲だ。これで見つからなければソナーの機能を疑うところだな。

《見つけました。ここから4kmほど先です》

 子猫のような小ささでもソナーはしっかり機能しているようで安心した。

 依頼主に発見した可能性を連絡した後、その場所に向かう。


 場所はほとんど町の反対側だ。反応の有った所まで走って行き、ソナーの情報から場所を特定する。

 いた!

 石と石の間に隠れるようにうずくまっている。

 名前を呼ぶと、ミャーと小さな鳴き声を出し、よたよたとこちらに来た。ちょっと衰弱しているみたいだ。抱き上げてみても弱々しい。

 依頼主から手渡されていた猫用のミルクをあげると一生懸命飲んでいる。

 どうやってこんな遠くまで来たんだろう。

《車か何かの屋根にでも乗って意図せずここに来たのではないでしょうか》

 ミルクを飲み終わったのを確認し、抱きかかえながら歩いて帰る。猫は安心したのか、お腹一杯になったからか腕の中ですやすやと寝ている。依頼主宅に着き依頼主に引き渡す。猫もちょうど起きたようだ。依頼主を見てミャーミャーと声を出している。

「この猫でしょうか?」

「そうです! この子です! もう見つからないものと諦めかけていました。ほんとにありがとうございます」

 女の子も泣いて喜んでいる。

「お兄ちゃん、ハナちゃんを見つけてくれてありがとう」

 猫も嬉しそうだ。女の子にしがみついている。

 依頼主に何度も何度もお礼を言われ、依頼達成証明を貰いその家を後にする。


 ギルド本館1階にある依頼確認窓口に報告する。物の搬入が無い依頼の場合は、搬入用の別館では無く、

 本館にて報告するのが普通らしい。別館でも構わないらしいが、荷物も無いのに別館を利用する意味は無いということか。報酬を受け取り依頼完了となった。



 意外と早く終わったので、別の依頼も受けてみるか。


・無指定ランク依頼(Fランク依頼相当):庭の雑草の草むしり。報酬7千エル。


 草刈りでもやるか。

 依頼番号を依頼窓口に伝え、依頼票を受け取る。依頼主に連絡を取ってもらい早速向かうことになった。


 地図を頼りにギルドから40分ほど歩き依頼主の家に到着する。家は小さめだが、家の敷地面積の倍ほどの庭がある。

 庭は依頼内容通り雑草だらけだ。依頼は草刈りではなく草むしりだ。この雑草全てをむしるのは確かに大変そうで、人に頼りたくなるのは頷ける。

 大量の雑草を見ながらふと閃いた。何かホウキのようなものでクリニングしながら抜けば時間を掛けずにできるんじゃないか?。

 とにかく依頼主に話を聞くか。


「こんにちは、ギルドから依頼で来ました」

「こんにちは、よろしくおねがいします」

 まずは、草むしりの対象となるエリアを細かく教えてもらう。

「今教えて貰った範囲の草を根こそぎ抜くことでいいですか? 抜いてはいけない花などは無いですね?」

「全て抜いてくれると助かります」

「抜いた草はそちらで処分して頂くことで良いですか?」

「それで結構です」

「ちょっと準備がありますので、一旦ここを離れます。すぐまた来ます」

「はい。よろしくお願いします」

 そう言って少し家から離れ、人目のつかない場所で熊手のような道具を作る。材料は鉄ベースで柔らかめのものだ。


 熊手を手に依頼主宅に戻り挨拶する。

「では作業を開始しますので、家の中でお待ち下さい」

「よろしくお願いします」

 そう言って、依頼主は家の中に戻っていった。


 基本的には熊手で草を引っ掛けて抜く感じだ。

 熊手を通してクリーニングを雑草に流し、土操作で雑草を熊手に吸付て抜く。手で掴めないような大きさの土でも土操作では手のひらに吸い付けて持つことができるのだが、対象が土でなくとも吸い付けることができる。この土操作で、雑草を熊手に吸い付けることで抜くことができている。

 土操作とクリーニングのコンボにより、熊手を引きずるだけで雑草が根こそぎ抜けていく。熊手が通った後には何の草も生えておらず、文字通りペンペン草一本も生えていない状態になっている。


 抜いた草を集めるのはルナの仕事だ。抜いた草をドローンで集めて片隅に山積みにして行く。30分ほど作業すると草は全て抜け、後はクリーニング無しの熊手で整地して終了だ。

 庭の片隅に山積みとなった草があるだけになった。


 作業がちょうど終わっころ依頼主が様子を見に来た。

「えっ!」

 綺麗になった庭を見まわして唖然としている。

「終了しましたので確認をお願いします」

「どうやればこんなに早く……」


「どうでしょう?」

「え? あ、そうですね。申し分ありません。こんなに綺麗にして頂けるなんて…… ほんとに頼んで良かったです。ほんとにありがとうございます」


 依頼主に何度も何度もお礼を言われ、依頼達成証明を貰いその家を後にする。

 ギルドで報酬を受け取り完了。



 こう言う依頼でハンターランクが上がったとして、ハンターとして意味あるのかね。

《探索力とか根気とかが認められるとかじゃないでしょうか》

 そうなのかな。

《それか、町への貢献度とかですかね》

 でもハンター本来の仕事の魔物討伐力は上がらないよな。

《下積みという意味かもしれませんね》

 んー、良く分からんけど、そう言う事だと思っておくか。




 翌日の朝。

 ギルドの混雑を避けるべく、遅めの時間にギルドに向かう。

 予想通りギルド内には人があまりいない。


・無指定ランク依頼(Fランク依頼相当):飲食店の厨房の掃除。報酬3万5千エル。


 高額な報酬だ。

 依頼番号を依頼窓口に伝え、依頼票を受け取る。


 依頼主の飲食店に行くと、店の入り口には臨時休業と出ている。掃除のために休みにしたのだろうか。依頼主と会い、厨房の様子を確認し、依頼内容を聞き取る。

「この厨房の換気扇やコンロ周り、天井の油や、フライパンなどのコゲ取りなど全て綺麗にしてもらいたいのですが。どうでしょうか?」

 確かに油まみれでコゲまみれ、もうどうしようもないような感じだ。かといって全て新しく買い換えるとなると相当な金額になる。

 掃除してはいけない物は既に他の部屋に退避済みであり、とにかくこの厨房全てを綺麗にしてほしいとのことだった。


「落とした油やコゲや埃など、掃除で出たゴミはそちらで処分して頂くことで良いですか?」

「それで結構です」

「ゴミを入れるための大きめのポリバケツとかありますか?」

「ありますよ。その角にあるポリバケツを使ってください」

「ありがとうございます。ではちょっと準備がありますので、一旦ここを離れます。すぐまた来ます」

「はい。よろしくお願いします」


 そう言って、またまた人目のつかなそうな所へ行く。

 踏み台とハンディ掃除機モドキを鉄で制作する。ハンディ掃除機モドキといっても掃除機のT型のノズル部分だけを鉄で作っただけだが。

 それらを持って飲食店に戻ってきた。


「では作業を開始しますので、休憩部屋などでお待ち下さい」

「よろしくお願いします」

 そう言って、依頼主は休憩部屋に入っていった。


 まずは、作業場所を確保するために部屋の片隅を片付ける。

 棚に収納されている道具や、壁などに掛けてある道具を全て取り外し、確保した作業場所に全て集める。

 次に天井にハンディ掃除機モドキを当ててクリーニング機能で油、コゲ、黄ばみなどの汚れを剥がす。剥がれた汚れはルナが即座に異空間に取り込み、さらにドローンを使ってポリバケツに排出していく。ハンディ掃除機モドキでひとなですると新品ピカピカになっていく感じだ。


 天井の掃除が終わると、壁、棚、流し台、換気扇、照明、窓、扉、床など、固定されている全ての物に対して同じように掃除し、ピカピカにしていく。

 固定されている物の掃除が終わった後、今度は一箇所にまとめてあった道具を綺麗にする。道具を1つずつ手に取り、ポリバケツの上でクリーニング機能を使い油やコゲなどを落とし、汚れをポリバケツに直接入れていく。

 クリニングしたものは元有った場所に片付けていく。元々どこに有ったかはルナが全て覚えているので間違うことは無い。


 最後に、道具を一時的に置いてあった場所をハンディ掃除機モドキで綺麗にして終了だ。

 だいたい1時間ほどで完了。部屋も道具もピッカピカで、油汚れやホコリなどゴミは全てポリバケツの中に移動させたことになる。


 休憩場所にいる店主に声を掛ける。

「店長さーん」

 休憩場所から声がする。

「はいよー。何か問題でもありましたかー?」

 休憩場所から店主がゆっくり扉を開けて出てくるが、厨房を見るなり足が止まる。

「えっ!」

 ピカピカになった厨房を見て唖然としている。

「終了しましたので確認をお願いします」

「どうすればこんなに綺麗に…… しかもこんなに早く……」


「どうでしょうか?」

「え? あ、はい。そうですね。申し分ありません…… こんなに綺麗にして頂けるなんて、ほんとに頼んで良かったです。ほんとにありがとうございます」

「ゴミなどはポリバケツの中ですので処分をお願いします」

「は、はい、わかりました。ほんとにありがとうございました」


 依頼主に何度も何度もお礼を言われ、依頼達成証明を貰いその店を後にする。

 ギルドで報酬を受け取り完了。



 今日も早く終わったので他の依頼も受ける。


・無指定ランク依頼(Fランク依頼相当):町の掃除、道路のゴミや落ち葉拾い。報酬6千エル。

・無指定ランク依頼(Fランク依頼相当):町の掃除、側溝の掃除。報酬6千エル。


 2つ同時に受けられるとのことでまとめて受ける。

 依頼主は町役場とのこと。

 掃除する場所を職員の女性に案内してもらう。

 ゴミや落ち葉拾いは、100mほどの長さの道で、その両サイドが落ち葉でものすごいことになっている。

 次に側溝を見に行く。側溝は、30m程だが、土砂が泥状になって詰まっていて水がほとんど流れておらず、溢れかけている。

 土砂用の袋を50枚ほど受け取る。それを渡した職員は役場に戻って行った。


 まずは、道の清掃を行う。

 袋を片手に、ハンディ掃除機モドキをもう片手に持って引きずるように歩くだけ。異空間経由でゴミや落ち葉を袋に送る。袋が一杯になると口を縛り、それをルナがドローンで片隅に移動させる。

 片側を1往復し10袋を使った。


 もう片方は別の方法で行ってみる。

 俺は道の片隅に座り袋の口を開け、手を袋に突っ込んで待つ。ルナがドローンで枯れ葉を集めて、俺の手から出す。道から枯れ葉がどんどん消えていき、袋は見る見る一杯になる。口を縛った後、次の袋を広げる。


 俺が歩きまわるより早いな。

 だが、これはダメだな。

《え、どこがダメなんでしょう?》

 俺が暇過ぎる。


 ……


 結局、数分で終了。一杯になった袋は20袋で、それを所定の場所に置く。


 次は側溝の掃除。

 ハンディ掃除機モドキの先を、側溝の形に合った金網状の大きな板に変更する。

 側溝にクリーニングを掛けてそれを端から引きずるように歩くだけ。異空間経由で土砂を袋に送る。水はそのまま側溝に残す。袋の中には水分の無い乾いた土砂やゴミなどが積み込まれていく。

 これも数分で終了。土砂やゴミで一杯になった15袋を所定の場所に置く。側溝は新品の綺麗さだ。水も綺麗に流れていて問題なさそう。


 町役場に戻り、先程の担当の女性に終了報告する。

「あの、終わりました」

「え?」

「作業が終わりました」

 ……

「終わったって…… 掃除の依頼2件が終わったということですか?」

「はい、終わりましたので確認をお願いします」

 ……

 半信半疑の担当の女性と現場にいっしょに行き、確認してもらう。


「ほんとにどちらも終わってますね…… しかも想定以上に綺麗に…… 何人でやればこんなに早く…… いやいやそれでもこの側溝の綺麗さはあり得ないレベル…… 新品に取替えたとか…… そんなことって……」

 何やらぶつぶつ言っているが、問題なさそうだ。


 依頼達成証明を貰い町役場を後にする。

 ギルドで報酬を受け取り完了。



「Fランク依頼を5つ達成しましたので、Eランクに昇格しました。おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 立ち去ろうとした時、その窓口の女性がさらに声を掛けてきた。

「あの」

「はい?」

「アースさんにちょっと相談したいことがありまして。少しお時間よろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

 そう言った後、身構えた訳じゃないが俺は反射的に窓口に置かれている女性の名札を確認した。フローラさんか。

「えと、フローラと言います」

「あ、ども」

「実は…… ここ最近Fランク依頼を受けてくれる人が減ってきていて、依頼が結構溜まってしまいギルド側も困っているんです。ほとんどのFランクの人達は固定の仕事やアルバイトを持っていて、たまに受ける依頼もEランクが中心でFランクはあまり受けてくれないんです……

 そこで相談なんですが、たまにでも良いので、これからもFランクの依頼を受けて貰えないでしょうか?

 んと、EランクのハンターさんがFランクの依頼を成功させたとしても成果に反映される訳では無いですし…… 報酬額が上がるわけでも無いので…… アースさんにメリットが有る訳では無いんですが…… えと、図々しいお願いにはなるのですが……」

「ええ構わないですよ」

「え! ほんとですか?」

「はい。必要な時は遠慮せずにどんどん声をかけてください。ただ、この町にいるのは1ヶ月ほどかなと思っていますので、その間だけでもということで良ければですが」

「はい! それでも助かります!」

「であれば毎日でもいいですし、急ぎの依頼があるならば今からでも受けますよ」

「ありがとうございます! では明日にでも、これを受けて頂けないでしょうか?」

 手元に出された依頼票を見ると、畑を荒らす動物を見つけて退治するというものだった。

 明日にでも依頼を受けると約束をしてからギルドを後にした。



 Eランクになったので魔物討伐も始めるとするか。


 Eランク依頼は今は常時依頼の魔物退治しか無い。対象の魔物はゴブリンだけだ。Eランクだと単独の討伐は普通無理なので、パーティを組んでの討伐が推奨されている。

《常時依頼は、登録が不要で討伐証明となる魔石を搬入口に直接持ち込めばいいらしいですよ》


 上位のDランク依頼のキラーウルフなどでは毛皮や肉や牙なども売り物になるのだが、それらもギルドの搬入口で買い取るとのこと。飲食店への直接売買は違反らしい。


 朝からFランク依頼をこなして、早く終わったら魔物討伐を行う事にしよう。





 夜、新しい武器として刀を作り始める。

 材料は鉄ベースの合金にするか。合金生成機能により、手持ちの材料から制作できる合金がメニューに一覧表示される。

 合金生成機能は、ゴブリンの剣をリメイクした時からバージョンアップされており、材料の配合を自分で調整することもできる。開発環境にあるシミュレーション機能を組み込み、エナ伝導性や、重さ、硬さ、柔軟性、色合いなどをグラフで簡単に確認できるように改造してある。素材もいろいろと集めてあるので多種の合金を検討できる。


 切れ味や強度、耐久性、エナの通り具合いの確認を繰り返し、合金を選定していく。

 今回選択した合金はエナの流しやすさを再優先とし、その条件の中から軽くて丈夫そうな合金を選んだ。

 制作実行し、出来上がった物を手に持ってみる。一見普通の刀ではあるが、非常に弾力性があり横方向にかなりしなる。少しエナを流すとそれも無くなるため使用上の問題は無さそうだ。

 まあ、エナを流すことが前提なので、エナを流さない状態だと一般的には駄剣と言われそうだ。


 今回使用した合金には誕生の草原で見つけた石が材料の一つとして練り込まれてある。そう、ナイフの材料になっている石だ。それによってエナの流れが抜群にいい刀が出来上がったのだ。

 ただ、この石の正体は分かっていない。石かどうかも分かっていない。合金生成機能でも名称は表示されず、ルナも見当が付かないと言うことだった。

 なお、ナイフを作った時の残りの石は誕生の草原からドローンで全て拾ってきてあり、誕生草原石と勝手に名前を付けて素材として登録してある。


 手持ちしていない素材でもいろいろシミュレーションして遊んで見た。

 やはり鉱物などの素材を増やすと選択できる合金のバリエーションがは広がる。

 今後、材料を増やした都度合金の試作を行って、もっと良さそうな配合の物が見つかれば刀を作り直して行くことにしよう。



 刀を作ったことで亜空間鞘が必要になった。ついでに木刀用も欲しい。

 明日、ガットさんに頼みに行くのだが、ちょっと手ぶらでは行けない。

 ガットさんがゴブリンの剣を欲しいと言っていたのを覚えているので、新しい刀を見せるのに気が引けるのだ。

 そこで、ゴブリンの剣と全く同じ材質で短剣を作ることにした。短剣というには小さすぎてナイフに近いが、この形は実際にどこかのゴブリンが持っていた短剣と同じ形で、それを少し小さくしたものだ。

 これを売るか上げるかしようと思う。うまくすれば鞘の値段を負けてくれるかも、という思惑もある。





 朝になり、ガットさんの武具屋に行く。

「おはようございます」

「あ、アースさん。おはようございます」

「新しく亜空間鞘を作ってもらおうかと」

「ありがとうございます。気に入って頂けたんですね」

「はい。非常に使いやすいですね。なので、別に2つ作って頂けますか」

 そう言って、リュックを下ろし、中から刀と木刀、それに短剣を取り出す。

「その3本ですか?」

「いえ、この刀とこの木刀用の2つをお願いします」

「2つですね。承知しました。値段はこの前のと同じくらいになりますがよろしいですか?」

「はい、それは構わないのですが、ちょっと相談があります。この短剣を買って頂いて、その差額を引いてもらうことは可能でしょうか?」

「短剣ですか…… 当店では買い取りは行わないのですが、ちょっと見せて頂けますか?」

 ……


「こ、これは! もしかして、アースさんのその剣と同じ材質ですか?」

「さすがですね。そのはずです」

「ぜ、是非買い取らせてください! いくらで売って頂けますか?」

 いくら?って…… 俺が決めるのか? ルナ、いくらだ?

《100万エルでどうでしょう》

 え、短剣だぜ? それもこんなに小さくてナイフ見たいなやつ。そんなにする訳が……

《もっとするかもしれませんよ》

 ……

 決めれない。もういくらでもいいや。


「鞘をただで作ってもらえるなら差し上げます」

「え、たったそれだけで? そんなことで本当によろしいのですか?」

「え、ええ…… 構いませんけど。俺が今欲しいのは鞘だけなので」

 ……

「あの…… これほどの材質のものはほぼ出回ることは有りませんので、普通に売れば100万エルはしますよ? きちんと調べればもっとすると思います」

 マジかー。ルナの言った通りだ……

「それでも問題ありません」


 ん? であれば、このゴブリンの剣はいったいいくらするんだ?

《1200万エルです》

 ……

 そんなに…… 適当に作っただけなのに。


その後、刀と木刀を渡し、鞘のサイズなどを決めてから店を後にした。刀、木刀ともに一般的な形状だったこともあり昼過ぎには出来上がるらしい。




 その足でギルドに行き、掲示板をみようとすると、後ろからフローラさんが声をかけてきた。

「アースさん、おはようございます」

「あ、フローラさんおはようございます。昨日約束していたFランク依頼を探そうかと」

「ありがとうございます。依頼窓口の者にも話は通ってますので、直接依頼窓口へどうぞ」

「はい」



「アースさんですね。私はヘレナと言います。ギルドのわがままを聞いていただけるということで申し訳ないです」

「いえいえ、いいんですよ。どうせ暇ですから」


・無指定ランク依頼(Fランク依頼相当):畑を荒らす動物退治。報酬1万5千エル。


 早速向かい、依頼主に動物の大きさや見た目を確認する。大きさは普通の猫くらい。黒っぽい色、ちゃんと見た訳では無いので見た目はよくわからないとのこと。

 ソナーで聞いた大きさほどの生き物を畑一面を範囲に土の下3mまでを探索する。

《いました。1匹だけです》


 その場所に行くと確かに巣穴らしき穴がある。

 巣穴の形は分かるか?

《ソナーでスキャンした結果を立体的に表示します》

 土の中を透視しているかのように地面に表示される。

 その部分だけを1秒間に10回のペースで連続的にソナーでスキャンしてもらい、リアルタイムで透視映像が表示される。


 巣穴の一番奥にそれらしき動物が映っているのが分かる。巣穴は単純な構造だが、途中で折れ曲がっていて全長は2mほどか。手をツッコんでも奥までは届かないだろう。動物は輪郭が分かる程度だが十分だろう。完全スキャンを行えきちんと分かるだろうが、今はそこまでは必要ない。

《体長50cmほどですね》

 寝ているのか、身を潜めているのか、じっとしている。


 動物の大きさに合わせて生け捕り用のカゴを鉄で作る。円柱型で、蓋は上に開く。

 その動物がいる真上の地面に手を当て、カゴよりも一回り小さい円柱型をイメージし土機能を実行。動物の周りを囲むように、土の箱が組み上がる。動物は少し驚いたかのように一瞬身構えたように見えたが、暴れる様子はない。


 箱を重力障壁で囲み引き上げる。動物は少し暴れているようだが、箱の中は無重力状態なので思ったように動けないようだ。

 土の箱をそのままカゴに入れ、蓋を閉める。それと同時に、土機能と重力障壁が解除される。土がバラけて動物とようやくご対面だ。

 黒っぽい小型のクマのようだ。少し暴れているが、既にカゴの中だ。

《アラシグマという品種ですね。なんでも食べる雑食で特に農作物を荒らすようです。かなりすばしっこく、暴れたりもするので捕まえるのはかなり難しいらしいですよ》


 土機能で開けた穴と、元々の巣穴は周りの土を使って完全に埋めた。

 依頼主にアラシグマと埋めた巣穴を確認してもらい、完了。

 依頼主に何度も何度もお礼を言われ、依頼達成証明を貰いその家を後にする。


 生け捕りにしたアラシグマはギルドの搬入用建屋で引き渡す。もちろんカゴは返してもらった。

 ギルドで報酬を受け取り完了。



「アースさん、指名依頼が入りました。受ける受けないは選択できますが、どうしますか?」

「え? 先に申し込まれている順ではないんですか?」

「指名依頼は優先順位が上がります。その分、報酬は5割増しですが」

 提示された依頼を見る。前に厨房を掃除した飲食店からの依頼で、今度は厨房では無く、店側を掃除してほしいとの内容だ。報酬は1万2千エル。


 すぐに向かってみたところ、店主は前回と比較にならないほど愛想がよかった。

「アースさん、受けて頂きありがとうございます。。今度はこっちの客席側をピッカピカにして頂きたいんですよ」

「はい、分かりました」


 前回同様に清掃範囲を確認する。

 前回使ったポリバケツを今回も借りる。

「それでは作業に入りますので、休憩場所などで待っていてください」

「あの」

「はい?」

「掃除しているところを見ていてもいいですか? 邪魔にならないようにしますので」

「ああ、構わないですよ」

 この回答は既に用意していた。いつかは誰かが言い出すだろうとルナと話をしていたのだ。隠す必要も無いので隠さず見せることに決めていたのだ。


 前回同様、物を片隅に片付ける。

 ハンディ掃除機モドキを取り出す。店主が見ているので、リュックから取り出したように見せかける。これでリュック内のマジックバッグから取り出したように見えるだろう。そのうち大きめのマジックバッグを1つ買っておくか。


 まずは天井だ。

 天井にハンディ掃除機モドキを這わせる。ハンディ掃除機モドキが通った後はいきなりピッカピカだ。

 この時点で店主は目を丸くしていて、開いた口が塞がらないようだ。

 店主が見ていなければ、汚れはいきなりポリバケツ行きなのだが、取り敢えず異空間収納庫に貯める。

 天井を一通り掃除した後、ハンディ掃除機モドキのノズル部分をポリバケツの中に突っ込む。あたかもハンディ掃除機モドキ内に溜めた汚れがノズル部分から放出されたように異空間から吐き出す。


 同じ様に、壁やテーブル、椅子、床などを掃除する。

 わざとゆっくりやったが、それでも1時間ほどで作業は終了した。


 店主はハンディ掃除機モドキに興味津々のようだ。

「ちょっとそれを見せて貰えないでしょうか?」

「ああ、いいですよ。でもこの道具に特殊な能力がある訳では無いですよ」

 それでも店主はハンディ掃除機モドキを凝視し、暫くしてから返してくれた。

「というと、やっぱりアースさんの魔法ということですか?」

「まあ、そうなりますね」


 依頼主に何度もお礼を言われ、依頼達成証明を貰いその家を後にする。

 ギルドで報酬を受け取り完了。



 Fランク依頼を2件終えて、今あるFランク依頼全てを優先順に並べた一覧を見せて貰う。今日の時点でまだ46件もある。

 1日2件消化しても、23日かかるな。

 依頼内容を予め聞いておけば準備を前もってできるので効率は上がりそうだ。

「印刷したものは渡せないんです」

「ああ、構わないですよ。だいたい覚えましたから」

 覚えたのはルナだけど。





 Eランクの常時依頼は、E級魔物の討伐だ。E級魔物はゴブリンだけだ。

 報酬は少なく、魔石1つ400エルの固定だ。

 ただし、討伐時の戦利品を売ることでそれなりの金額になるようだ。


 ゴブリンの魔石30個集めるとDランクになれる。パーティでの活動ならば魔石の必要個数は増える。5人パーティなら150個必要ということだ。

 俺はソロなので30個で良く、ロネス村での討伐などで俺は既に30個以上持っているが、時間もあるし刀を試す意味でも新たに30個集めてみようと思う。


 なお、討伐後に収集した魔石は、一度でも鑑定石板に通すと魔石自体にマーキングされるため討伐証明としては使えなくなる。

 つまり、店などで購入した魔石を持ってきてもダメってことだ。



 倒したゴブリンはどうするか? いつまでも埋めるって訳にもいかなさそうだし。

《ギルド別館でマジックバッグを借りれるみたいですよ》

 そうなのか。


 別館で申し出ると、Eランク以上であれば中型のマジックバッグを1つ無料で貸りられるそうだ。

 職員からすぐさま手渡される。

「中型のマジックバッグです。ゴブリンなら10体ほど入ります。魔石は別途ご用意下さい」

「はい分かりました。お借りします」

 形は俺が持っている小型のマジックバッグと似ている。構造は若干異なっていて、レジャーシート状のものを小さく丸めたものが本体で、それに肩に斜め掛けするための紐がついている。

《その形状から通称巻物って呼ばれているようですよ》

 巻物か。

 形はどちらも似ているが、中型の方が巻物部分に厚みがある。

 受け取った中型の巻物をリュックに入れる。





 武器屋に寄って、今朝頼んでおいた亜空間鞘を受け取る。

 これで左の腰には、ゴブリンの剣、木刀、刀の3つが装備されることになった。亜空間鞘は短かく軽いので3つでも特に邪魔にはならない。

 なお、店主のガットさんは短剣を解析してみたとのことで改めてべた褒めしていた。あまりにも褒め過ぎていたので、俺に貰ったことや、俺の剣のことを他言しないようお願いしておいた。



 早速、ゴブリン討伐に行く。ゴブリンを討伐しながら刀の使い勝手を確認する。

 木刀よりも長く取り回しには少し慣れが必要だったが、エナの通りが良く切れ味もいい。

 エナの通りが良ければスピードもパワーも出る。これは既に木刀で実証済みだ。

 材質は非常に軽くかなり柔らか目では有るが、エナを流せば硬化するため全く問題ないことも実証できた。

 これからは、討伐でのメインの武器として使い、使い慣れれば最強の武器になりそうだ。



 討伐したゴブリンはマジックバッグに収納する。魔石がセットされた巻物を広げると亜空間で出来た大きな穴が開いているので、そこにゴブリンを放り込むだけだ。その後、元のように封をして小さく丸める。土に埋めるより遥かに楽だ。



 ギルドに到着し、別館で討伐したゴブリンを搬入する。巻物からどうやってゴブリンを取り出すのかと思っていたのだが、職員に指示される通りに行うと凄く簡単だった。指定された位置で巻物を広げ、魔石を取り外すだけだ。魔石が外されると亜空間能力が徐々に無くなりゴブリンが中から浮き上がってくる。完全に浮き上がれば取り出し完了だ。

 使用した巻物は洗浄するとのことで回収され、代わりに洗浄済みの別の巻物を手渡された。

 よくできたシステムだ。



 この日以降、同じようなFランク依頼を繰り返す。


 Fランク2件の後の時間を使い魔物退治を行う。

 8日ほどで、ゴブリンの魔石30個が集まった。

 魔石30個をギルドに渡してEランク依頼のノルマは達成だ。

 結局、この間の儲けは戦利品も含めて5万エルほどだった。


 受験の資格が揃ったところでDランクの試験を受ける。

 筆記試験だった。簡単な算数と、魔物の知識の確認だ。魔物の知識はルナがいるから楽勝だ。決してカンニングなどでは無い。3分ほどで回答し終了。その日の内に合格が発表され、Dランクに昇格した。





「アースさんって依頼達成がものすごく早いのですごく助かっています。それに、ギルドでは作業の数日後に実際の現場を確認して評価をつけるようにしているのですが、全て満点がついています。満点なんて滅多に出ないんですけどアースさんに限っては全て満点で、ほんとに驚きです」


 どうも以前に行った飲食店の掃除がきっかけで指名依頼がちらほら出てきているようだ。

 店主がおせっかいにも店に来た客に宣伝をしてくれたのだ。

 密かに噂が広まるにつれ、ペット探しや、草刈りの実績なども掘り起こされ、噂に拍車がかかっているらしい。

 ただ、ハンター連中に俺の顔が売れることは無い。俺はギルドに朝遅くやって来て、夕方になる前に戻って来るので他のハンターとの接点がほぼ無いのだ。




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