14 世界情勢
今夜は、この世界の歴史や情勢をルナに教わることにしよう。
ルナが説明してくれる。図書館で得た知識だ。
このルーン大陸が抱えている最大の問題である魔物の勢力圏についての話をしましょう。
約千年前、この大陸には今程多くの魔物はいませんでした。そのころの魔物の主な生息地は大陸の最北端の極一部の土地のみでした。その土地の大きさは大陸の約20分の1ほどで、丁度このフィンプラス国と同じ程度です。
人々はその土地を魔国と呼んでいました。
魔国以外の魔物の生息地としては、大陸全土に散らばって存在するダンジョンが有ります。個々のダンジョンの面積は小さく、そこに潜む魔物を全てを合わせても魔国に存在する魔物の全体量に比べると圧倒的に少ないものと考えられています。また、ダンジョンから外に出てくる魔物は皆無なため、近づきさえしなければ脅威になることもありませんでした。
魔国に隣接している国は4つあり、それらの国は魔国との国境に砦を築き自国を守っていました。砦付近の魔物を討伐することで魔物の勢力圏の拡大を阻止するとともに、討伐により得られる魔石や皮や牙などの戦利品を他国に輸出するなどして結構な利益も得ていました。魔物は家畜程度の存在と考えられていて魔物に対する脅威をほとんど感じる事は無いようでした。
魔国は、奥へ進むほど強力な魔物が存在していることが知られています。強力な魔物を狩ることで得られる戦利品は、希少品を好む貴族達が競って高値で買い取っていくことから、狩る者に大きな富をもたらすものでした。魔国の奥に向かって危険を冒しながらも探検し魔物を狩る者達はいつしか冒険者と呼ばれるようになりました。
職業の一つとして認知された冒険者は、一歩間違うと死が待っているという非常に危険な職業です。にも関わらず、一攫千金が狙えることから、冒険者を志願する若者は後を立たないほどの人気でした。
冒険者の増加により、砦を守るのも冒険者が組織だって行うようになりました。
冒険者の人数は、砦を脅かす魔物の数を圧倒していたこともあり、魔物が年々強力になっていることに気が付く者はいませんでした。例え気づいた者がいたとしても、得られる報酬が増加することを喜んでいたことでしょう。
次第に、砦近辺で命を落とす冒険者が増えるに従い、人々は魔物が強くなってきていることをようやく認識するようになりました。
冒険者と魔物の力が拮抗してくるに従い、魔物を抑えるのが難しくなってきました。冒険者や騎兵などの戦力増員を繰り返しなんとか砦を守っていましたが、ついには魔物が砦を突破し国を侵略し始めたのです。
砦を突破され始めた国は、隣国に応援を頼むも、魔物の侵略は止まりません。魔国と隣接している4つの国の砦がほぼ同時期に突破されましたこともあり、こちらの戦力も分散せざるを得なく、まともな防衛がでません。
そのころの魔物は現代ほど強くなかったらしいですが、こちらの戦力も今ほどの力はなく、戦えば戦うほど戦力は削られる一方です。
その時を皮切りに、魔物は徐々に勢力圏を拡大していくこといなります。
力のある魔物が現れると、そこを中心に弱い魔物が外側に押し出されます。よって、人々が一番よく見る魔物、現代でいうとゴブリンは一番外側にいる魔物であり、魔物の中では最弱のものと言えます。魔物の中心、つまりルーン大陸の最北端に向かうに従い強さは増していき、真の中心部分には巨大な力を持った魔物が存在していると考えられています。ただし、中心部を見た者は皆無なためどのような魔物が生息しているかは定かではありません。
何れにしろ大陸という閉ざされた条件下では、最北端に君臨する魔物の力が大きくなったり、強い魔物が増えるにつれ、周りの魔物はどんどん南下して行くことになります。
千年前には今のゴブリンよりも遥かに弱い魔物が一番外側に存在していたのですが、人がそれらを狩り尽くすとそれらよりも少し強い魔物が一番外側になります。弱い魔物を狩ると強い魔物が出てくる。狩らなければ侵略される。悪循環、というより、ほとんど積んでいるというのが現状です。
魔物の侵略により、魔国に隣接していた4つの国は滅びました。魔物の脅威にさらされた国民のほとんどは、隣国に逃げ込みました。ただ、年月とともに魔物の侵略は加速し、元の4つの国を埋め尽くした魔物はさらなる国々への侵略を開始します。
それらの国々の防衛も時間の問題で持ち堪えられなくなり、ついには国を放棄すことになります。こうして魔物は生息圏を広げ、南へ南へと侵略していきます。
現に、フィンプラスの北側に存在していたテーラ国は南下してきた魔物の勢力に押され、約200年前に消滅しました。国を放棄したテーラの国民達はほとんどがフィンプラスに移住することとなりました。フィンプラスはそれまで魔物領との接点が地形的に無かったのですが、テーラ国の崩壊によりフィンプラスも魔物の脅威に晒されることになったのです。
なお、フィンプラスの南側は海もしくは山脈ですので、魔物が砦を突破して来た場合、フィンプラスの国民に逃げ場はありません。北に魔物、南が海という地形はフィンプラスに限った話ではなく、ほとんどの国が同じ状況です。つまり、人類の逃げ場は既に無いということです。
そのような歴史もあり、千年の時を経た今、実に大陸の3分の2を魔物が占めるようになっています。
このまま魔物が南下し続けると、人類は住む場所を全て奪われ、絶滅という未来が待っているだけになります。
根本的に解決するには、魔物の南下を食い止めるだけで無く、より北側にいる力ある魔物を討伐し、魔物の北上を促すしか手は無いようです。
話は変わりますが、ルーン大陸には、至る所に高い山が連なった巨大な山脈が存在しています。大陸の半分以上が山脈といっても過言ではありません。また、大陸にはいくつもの国がありますが、山脈が国境になっている国がほとんどです。ただ、山脈は高く深いため、人が山脈を超えて国境越えすることはほぼ不可能と考えられています。高さと広さにより、体力や食料が尽きてしまうためです。そんな理由もあり山脈に近づく者は少なく、ほとんどが未開のままのようです。誕生の草原のあるナナ山も未開の地の中にあったようです。
平地での国境も当然ありますが、山脈の国境と比べると極一部であり、そこに砦を築き守ることで実質的に魔物や他国からの侵略を防ぐことができます。
フィンプラスも例に漏れず国の周りには巨大な山脈が囲んでおり、そのおかげで魔物の生息地との接点は一箇所であり範囲も狭いため、そこの砦に勢力をつぎ込むことで国民は魔物の脅威をそれほど感じることが無く暮らしているようです。ただ、ぽっかり空いたテーラ国の土地を魔物が埋め尽くすまでの時間的余裕があっただけで、脅威は数年後までに迫ってきているのが現実です。
各国も魔物から土地を奪い返す必要性を感じ、百八十年ほど前、冒険者はハンターに名称変更され、ハンターギルドは各国共通の組織として一新されました。ハンターとして有望な者の育成や勧誘など、積極的に魔物討伐を推し進めるようになりました。
ただし、現実は各国とも魔物から自国を守ることだけで精一杯であり、他国に協力する余裕が全くないのが実情です。ただ、ギルドがうまく機能しているのというのが唯一の救いとなっています。
大陸の東側の国の中には、魔物生息地との接点が大きく苦戦を強いられている国も存在しています。
そうかと思うと、フィンプラスの南東に隣接するマドラン国などは、魔物領との接点が無い事をいいことに、魔物よりも他国を警戒しているようなありさまです。
事情はいろいろと有るようですが、各国とも自分の国を守るのに必死で、まだまだ一致団結とはいかないようです。
何れにしろ、このままほっておくと人類が絶滅するのは時間の問題と言えます。
魔物が千年で6000kmを南下してきたことを考えると、単純計算で人類はもって後七百年です。魔物の進行速度が加速していることを考慮すると、400年で人類絶滅という予想もあります。
ルーン大陸の他にエルフ大陸がありますが、大陸といってもフィンプラスの倍ほどの大きさしか無く、エルフという種族の先住民もいるためそこを新天地にすることもできません。
ちなみに、エルフ大陸の場所はフィンプラスから海を隔ててすぐ横になります。フィンプラスとエルフ大陸の間には長大な橋が架かっていて交流もあります。
エルフは優れた魔法使いが多く、その腕をふるうためにルーン大陸で活躍する者も多いようです。また、エルフは人間よりも数倍長命であり、その分長く活躍できるようです。
フィンプラスが魔物に占領された時にエルフ側がどう判断するかは分かりませんが、フィンプラス国民にはエルフ大陸に逃げ込める可能性が少なからず残っていますので、他国よりは希望があるのかもしれません。




