12 ショッピング
Fランクになったので、ギルド2階の資料室に行ってみるか。
《行きましょう》
ギルド本館に入ると、すぐ横に案内カウンターが有るのでとりあえず挨拶を行う。
「こんにちは」
「こんにちは」
「2階にはどこから行けますか?」
「はい、そこを入って頂きますと、ゲートフロアがあり、そこにゲートと階段がありますのでどちらかをご利用ください」
「分かりました。ありがとうございます」
ゲートフロアが何か分からないが、とにかく行ってみるか。分からなくても階段が有るなら別に構わないだろう。
手で指し示された先にには男の職員が立っている。目の前まで行くと職員は石板を手で指した。これで、Fランク以上かを確認するんだな。身分証を取り出しかざして通る。職員を見たところ問題は無さそうだ。
石板から数メートル進み右へ曲がると、少し広いフロアになっていて2階ゲートと3階ゲートと書かれた門が並んでいる。さらにその横には階段がある。
ルナ、ゲートってなんだ?
《分かりません》
ゲートは頑丈な門のような形をしていて、そこだけ少し霧がかかったようにその先が若干見えにくくなっている。ここ通ってもいいのだろうか?
《どうでしょう》
ゲートの霧の直前まで進み、手を入れてみる…… 特に何も感じない。大丈夫な気がする…… 通ってみるか。
恐る恐る一歩進んでみた。
ん? 視界が晴れた。霧が無くなっている。あれ? と思い後ろを見ると、後ろには霧がかかっていいて、その先には先程のゲートフロアがぼんやり見えていた。
なんだ、驚かせるなよ。
そう思い、潜ってきたゲートを良く見てみると、今度は1階ゲートと書かれている。え?…… あーそういうことか。ここはもう2階ということだな。直通のエレベータみたいなものか。
《どういう事ですか?》
たぶん、このゲートは1階と2階の空間を繋げてるんだと思うぞ。原理は分からないけど。
《そんな事ができるんですか》
……
すごいね…… だんだんカルチャーショック慣れしてきたよ。
ゲートフロアを見渡すと案内板が壁に貼ってあるのを見つけた。見取り図になっていて、資料室の場所が確認できた。
資料室に入ってみると、そこには誰もいなかった。あまり使われていないのだろうか。資料室は小学校の教室ぐらいの広さだ。8人掛けテーブル1つが部屋の真ん中に置かれていて、片隅に小さな本棚が1つ置かれているだけだ。
予想していたより狭いな。
《魔物辞典という本が3冊ありますね》
そう言われ、本棚から背に【魔物辞典】と書かれているその本を手に取ってみる。本というよりはバインダー式の資料であり、3冊ともに中身をさらっと見てみるが、全て同じ資料だった。
目次を見るとざっと250ページほどだな。
《全部、魔物に関する情報のようですね》
ルナ、取り合えす全部覚えてくれ。そう言い、1ページ目からペラペラめくる。
《知らない魔物が沢山載っていました。ゴブリンやオークの説明は、今までの経験と一致しています》
そうすると、他の魔物についても信憑性が高いと考えて良さそうだな。
めぼしいところをルナに表示して貰い確認してみる。
内容は、これまでにギルドが確認できている魔物の種類、特徴、戦闘方法、注意事項、出没地図、討伐後の処理方法、解体方法、その他にも魔物毎の売れる部位などが文字と絵と写真を使い細かく載っている。
倒し方の定石も記載してあるようだが、主にパーティによる魔法を組み合わせての戦略であり、俺にはあまり役に立たないものかもしれない。
魔物毎の出没地図がこの国全土をカバーしていることから、この資料はこの国の共通資料なのだろう。
差し替え履歴も載っており、それを見ると新しい情報が入る都度情報の差し替えを行っていそうだ。
資料は1種類しか無かったが、かなり有用な資料だと思える。ただ、一度全部見てしまえばこの資料室を訪れる理由はほとんど無くなってしまうのだろうが。
って、全部見たのはルナだけど。
そんなことを思いながら資料室を後にした。
一応、食堂も見てみたが、やはり誰もいない。ここは弁当販売のみで、その弁当を食べるのにここを食堂として使っても良いということらしい。ただし、弁当は予約が必要とのことだ。
《アースには無縁の場所ですね》
確かにそうだ。
3階にも行ってみるか。
ゲートフロアに行き、1階ゲートと3階ゲートと階段があるのを確認すると、今度は躊躇せずに3階ゲートを潜る。
3階にははラウンジ、会議室、打ち合わせスペースがあったが、特にカルチャーショックっぽいものは無かった。
一通り見た後、1階に戻った。
《役立ちそうなものは魔物辞典だけでしたね》
まあ、ちょっと期待外れだったな。
2階、3階は今後もあまり世話になることは無いだろう。使うとすれば魔物図鑑が更新されていないかをたまに確認する程度だろうか。
次は依頼掲示板を見てみよう。そう思い、掲示板の前まで行く。
結構大きな電子掲示板に、依頼がいっぱい並んでいるので、ざっと見てみる。
・無指定ランク常時依頼(Gランク相当):薬草採取100束。報酬4000エル。
・無指定ランク依頼(Fランク相当):自宅庭の雑草の草刈り。
・無指定ランク依頼(Fランク相当):飲食店の掃除。
・無指定ランク依頼(Fランク相当):町の掃除。
なんか、ハンターっぽくない依頼ばかりだな。魔物討伐とかが並んでいるのを想像してたんだけどな。
《この町の近辺にはFランクが倒せる魔物が存在しないからだと思います》
他の町ではFランクの魔物討伐依頼が有るのだろうか?
《魔物辞典によると、Gランク、Fランクが倒せそうな魔物が存在するようですので、当然のように依頼も有ると思われます》
そうか。そうすると、この町はあまり低ランク向けでは無いのかな?
《ゴブリンの討伐依頼は有るようですので、それを低ランク向けと考えると、この町は超低ランク向けでは無いというのが適切でしょうか》
なるほど。
《王都で実技試験を受けて一気にランクアップすることもできますよ。そうすれば討伐依頼も受けられますけど》
その方法も有りか。まあ、慌てる事も無いし、いろいろ依頼を見てからちょっと考えてみるか。
Fランク依頼の報酬は内容によって色々だが、だいたい6千エルぐらいは貰えるようだ。
内容はざっと見ただけなので詳しくは分からないが、魔物討伐はEランクからだ。まあ、日によって違うのかもしれないが。
ルナ、依頼の種類とか仕組みとか分かるか?。
《ハンターの手引きによる情報ですが、Fランク以降は、そのランクに見合ったランク指定依頼、もしくは無指定ランク依頼、常時依頼が受けられます。
見合ったランクとは、Fランクなら、Fランク依頼まはたEランク依頼です。
無指定ランク依頼は、どのランクの人でも受けられますが、例えばEランクの人がFランク相当の依頼を受けても成果に反映されません。
同様に常時依頼もどのランクの人でも受けられます。
それぞれ、期限が指定されているものや、個数が限定されているものがあります。
期限が指定されているものは、期限が来た時点で失敗と判断され、罰金として報酬額の2割を支払うことになります。
個数が限定されているものは、最初に達成した者から報酬が支払われます。それ以外の者は依頼失敗となります。
ざっとこんな感じですね》
そか、分かったような分からないような。その都度聞くことにしよう。
日も沈みそうなので、宿に戻るとしよう。
フロントで名前を言い、部屋の鍵を受け取る。鍵といってもカードタイプだ。大きさは身分証の半分程度だ。部屋は5階だった。
先に夕食を食べ終えてから部屋に向かう。
階段のある場所に行ってみると、階段の横にまたしても見慣れぬものが。と思ったが、これはたぶんエレベータだ。扉の横にボタンが有り、押してみると扉が開いた。扉の中は10人ほどが入れる小さな部屋になっていて1から5のボタンが並んでいた。ということで、普通にエレベータで5階まで行くことができた。
しかし、どのような仕組みで動いているのだろうか。
《重力魔法の魔法陣で昇降を制御しているようですね》
またしても重力魔法か。
部屋の扉にカードキーをかざして入る。部屋をざっと見たが、設備はロネス村と変わらない。これが一般的なのだろう。
今日の夜はランスベルのガイドブックを見て、余った時間は快眠機能の制作を行う。と言っても実現方法は検討もつかないので完成は暫く先になるだろう。快眠が今から待ち遠しい。
朝になり、朝食を食べ終えると、町の見物も兼ねて早目に宿を出る。武具屋も見てまわるのでハンターらしく剣ぐらいぶら下げて行くか。といっても防具を身に着けてないので全く様になっていない。ヘタすると唯の不審者だ。
時間的に早いが、ほとんどの店は開いている。朝が早いハンター相手の店なので普通なのだろう。
まずは武器専門店に入ってみる。周りの店と比べても綺麗なちょっと大きめの店だ。俺の他にも数名の客が既にいる。店主は店を入ったすぐのカウンターの中で座っている。
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「どうぞー」
店主は愛想良く返事をしてくれた。
さすが武器屋と言うだけあっていろいろな武器が売っている。片手剣、両手剣はもちろん槍や弓などが綺麗に飾られていて、品揃えは良いのではないだろうか。
ざっと見たところ値段は数万エルのものから十数万エルのものが主流のようだ。それ以外にも、数百万エルもする高級品もあるようだ。
《綺麗な武器ですね》
ガラスケースに入っているのは売っているというよりは飾ってある感じだな。
もちろん店主に言えば触らせてくれるだろうが、買う気も無いのにそこまで図々しくはなれない。見るだけでも結構楽しいので不満は無い。
しかし、この値段の差は何が違うんだ?
《そこに説明が書いてあるようですよ》
見ると、高級感漂う両手剣には確かに説明書きがあった。それを読んでみると、どうも、主には製作者の違いのようだ。腕の良い鍛冶師が作ると同じ素材を使ってもより良い品質の物が作れるということだろう。
《アース、見て見て~》
え?
騒いでいるルナを見ると、その高級な両手剣のミニチュア版を手に持っていた。
おおーっ! ってデザインをコピーしたな。なんか羨ましいぞ。
いや、ちょっと待てよ…… その手があるな。と、ちょっとニヤリとしてしまった。やばい不審者だ。
ルナ、とりあえず全部のデザインを覚えてくれ。
《もう覚えてますよ。一度見たものは忘れませんので》
そうか…… 凄いな。
まあ、今後自作する時の参考にできそうだな。見た目だけなら完全コピーもできそうだが、それは危険そうだし。
一通り見たので他の武器屋も見てみよう。
それから3軒ほど見てみたが、置いてあるものは似たり寄ったりで収穫なしだった。言っておきますが、決して盗みじゃないですよ。ただルナが見ただけですよ。
《え、見たらダメなんですか?》
そんなことは無いぞ。どんどん見てくれ。
《はーい》
最後にもう1軒だけ見てみよう。店の看板には【武具店ガット】とある。武器も防具も扱っているということだろう。
この店は少々古めかしく、今日見た中では一番小さい。中に入ってみても6畳ほどしか無くかなり狭い。品揃えも少なさそうだ。ただ、先ほどまでの店には無かったデザインのものばかりが置いてある。防具も少し置いてあるが武器のほうが多いいか。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。ちょっと見せてください」
店主だろうか、その男の年齢は俺と同じくらいに見え、その若さはこの店の古めかしさと釣り合っていないように思える。背丈は俺よりも低いが頑丈そうな体つきをしている。
《ドワーフという種族ですね。ドワーフは一般的に鍛冶の技能に優れていると言われています》
店主に話を聞いてみたところ、ルナが言うように鍛冶師とのことで自分で作ったものを売っていると言う。
何点か手に持って見てみる。剣の良し悪しは俺には分からないが、持った感じは良さそうな気がする。
「気に入ったものがあれば手に馴染むように調整できますよ。もちろん特注も受け付けています」
「この店はカスタマイズもできるんですか」
それがこの店の強みか。なるほどと思いながら、俺は頷いていた。
店内をもう一度見渡すと一つ気になるものを見つけた。
ん?
マネキンがある。まー、マネキンはどうでもいい。そのマネキンは武器防具を一式装備しているが、問題はその腰に巻いているベルト部分だ。
そのベルトに短剣用の鞘が付いていて、剣が刺さっている。鞘は短剣用というよりその短さはナイフ用だ。しかしどう見ても剣の柄が短剣の短さでは無い。
思わず柄を持ち抜いてみた。
「えっ!」
なんと、鞘の長さの5倍以上の長さの剣が出てきた。
いったいどういう仕組みなんだ? まじまじと鞘を見ていると後ろから店主が声を掛けてきた。
「それは亜空間を利用した鞘なんですよ。最近ようやく実用化にまで至った新商品です」
おおー、鞘の中がマジックバッグみたいになっていて短い鞘でも長い剣が挿せると言うことだな。
すげー。
ルナ、異空間を使って同じ物を作れるか?
《異空間を開けっ放しにすることは出来ないので無理ですね。開けている間は常にEPを消費することになります。その大きさの異空間を1秒間開けているとEPをおおよそ2消費します。なので、40分ほどでEPが枯渇してしまいますので無理ということになります》
無理かー。
そうなると何が何でも欲しくなる。
あれ? ちょっと待てよ。亜空間でも同じじゃないのか? 店主に確認してみるか。
「亜空間を開けっ放しにすると魔石の消費が激しいんじゃ?」
「はい、その通りですね。ですが、これは剣を抜いた状態でも挿した状態でもきちんと蓋がされるような仕組みになっています。そこが開発で苦労した点なんですよ」
「そうすると、これを開発したのは、えっと……」
「申し遅れましたが、ガットと申します」
「ガットさんが開発したんですか?」
「はい。その通りです」
「ということは、亜空間の鞘はこの店しか売ってないってことですか?」
「そうなります」
……すごい。
「鞘だけって売ってるんでしょうか?」
「もちろんです。ただし、剣側にも若干細工が必要ですけどね」
値段を聞くと鞘だけでも12万エルだそうだ。鞘は数千エル程度からでも買えることを考えると激高だ。それでも欲しい。
「この剣でも大丈夫ですか?」
腰にぶら下げていたゴブリンの剣を抜き、細工が可能か見てもらう。
「ちょっと拝見します」
店主が剣を手に取ってまじまじと見ている。ちょっと驚いているような顔をした。
「デザインはかなり前のものですね。ですが、問題なくできますよ。ただ、この形に合った鞘は手持ちに無いため、作るのに1日ほどかかります。その間、剣はお預かりすることになりますが」
「特注だと値が張りそうですね」
「いえ、この店で売ってるものは全て特注みたいなものですから値段は変わらないですよ」
ちなみに細工とは、亜空間の蓋となるリング状の部品を剣の根元に巻くように取り付けるだけだと言う。
剣自体をいじらないのであれば問題ないだろう。
「じゃあ、頼むことにします」
「ありがとうございます! 今日中に仕上げますので、明日の朝の引き渡しとなります」
その後、鞘の長さなどを打ち合わせ、代金を支払い、預かり証を手に店を後にした。
その後、防具専門店も見て回る。
防具をいろいろ見ていると、ハンターらしく防具を揃えないといけない気がしてくる。今すぐ必要とは思わないが、とりあえずどんな物が有るのか頭にはいれておこう。
重厚な全身鎧のような防具よりも、革で作られた軽量な防具の方が俺には魅力的に見えた。
昨日今日見たハンターはほとんどが革装備だったので、見慣れたというのもあるのかもしれないが。
同じ革装備でもいろいろな形があるし、値段も様々だ。
《高いのは、丁寧に作り込んでありますね。あと、革の素材がいいみたいですよ》
なるほど、ブランド品は高いというのと一緒か。
革装備を中心に見て回ったが、特に欲しいと思った物は結局無かった。
《軽装備なら自分で作れるんじゃないですか?》
確かに作れるかもしれないな。革で作れるかは分からないが、鉄とかで作るのはできそうだ。
でも軽装備だと腕とか太ももはむき出しになりそうなので、その部分は買うのが良いだろうが。
雑貨屋も少し見てみる。
ハンターに必要そうな道具類が多種に渡って売っている。それはもう、毒消しや回復などのポーションから野営道具などまでいろいろだ。
いろいろ有り過ぎて、全てを細かく見て回ることはできないので、ざっと見て終わりにする。
もちろんルナは全て見たらしい。まあ、何に使うか分からないものが大半だったらしいが。
ここは目的を持って来ないと何を見ていいのか分からない店だ。
カバンや、リュックなども売っている。マジックバッグタイプのものも売っている。また、それらにはジッパーやマジックテープが普通に使われている。
剣や木刀を人前で取り出すのに小さいポケットだとやはり無理がある。俺が今持っているマジックバッグであれば大きさは十分だが、いつもそれを手に持っているわけにはいかない。はっきり言って邪魔だ。その点、リュックだと両手が自由になるし、剣を振るっても邪魔にはならないだろう。
そう考えてリュックを中心に見るが、なかなか良さそうなものがない。所持品のほとんどは異空間収納庫を使うので、リュックに入れるものはマジックバッグ程度だろう。柔らかめのリュックだといつもぺちゃんこになってしまう。なにも入れなくてもしっかり形をキープしてくれるのが良いが、そうすると選択肢が少なくなり気にいるものが無いという状況だ。
無いなら自分で作る。考え方を切り替えリュックの構造をまじまじと見るが、詳しく分かるはずもなくルナに覚えておいてもらうことにする。俺はいろいろなリュックの形や機能を見ながら、欲しい形のイメージを考えることにした。
結局、雑貨屋で買ったものと言えば、ガラスのコップや、ステンレスの皿、プラスチック製やビニール製の小物など、素材になりそうなサンプルを細々と買っただけであり特に使う予定が無いものばかりだ。
広い通りの反対側には道具屋などが多く並んでいる。そちら側にはハンターはちらほらといるだけで、商売関係の人が多そうだ。広い通りを挟んで、こちら側がハンターギルド用、向こう側が産業ギルド用のようだ。治安の関係で分けているのだろうか。
通りを渡って店を覗いてみる。
アルミニウムなど、いろいろな金属の塊が素材として売っている。武器屋などが買うんだろうか。雑貨屋で買ったものにも使われていそうだが、それでもサンプルとして少しずつ買うことにする。
魔物の革なども素材として売られている。キラーウルフ1体の皮5万エル、マッドウルフ1体の革10万2千エル、キラータイガー1体の革30万2千エル。
結構な値段がするな。
《キラーウルフは比較的弱い魔物ですが、多くは生息していないので素材としても結構な値段になっているようですね》
ショッピング街に行ってみると、結構な人で賑わっている。
全体的に女性が多い。特に若い女性が目立つ。ショッピング街だからそれが普通か。
《このランスベルは砂糖の町らしいですよ。砂糖が特産で甘い物が多く、女性に大人気の町みたいですね》
よく知ってるな。
《ガイドブックに書いてありました》
ほう。でも俺にはあまり関係がなさそうだな。
その人混みに紛れて通りの入り口から端までゆっくり歩き、店の様子を見てみる。普通の人が着る普通の服とか、アクセサリーとか、ケーキとか、ジャムとか、チョコとか…… 確かに甘い物が多そうだ。
服屋などもほとんどが女性向けだ。男物の店は少ない。
通りを歩いている人のファッションを見ると、みんな綺麗な格好をしている。正装っぽい人もいる。俺はどうだろう? 村ではなんとも無かったが。
《可も無く不可もなくってとこですね》
なんで分かるんだ?
《だれも気にした様子が無いからです》
……
まあ、目立たないってことは良いことだ。
《アースも正装のような綺麗な服を買ってもいいんじゃないでしょうか?》
確かに1つ持ってれば何かと使えるかもしれないな…… でも今は必要もないし、必要になる場面も思いつかない。止めとこ。なんか服買うのって面倒臭いし。
その後、服屋も含めていくつかの店を中まで入り見て回ったが、特にめぼしいものは無かった。
《アース》
ん?
《女性用の服屋さんも入ってください》
絶対無理。
夕方宿に戻り、夕食を食べてから部屋に入る。
リュックの自作を考えよう。
できれば、硬い革でできたがっちりしたリュックがいい。
手持ちの革は無いので、取り敢えず鉄だけで形を作ってみるか。
背中がちょうど隠れる大きさで、やや丸みをおびた箱状のものを作ってみる。見た目は厚さ20cmほどの薄型のリュックだ。とりあえず手持ちの紐を付けて4点シートベルトのように完全に固定した形で背負ってみる。
少し体を動かしてみるとダメなことがわかる。
体を前後に曲げたり左右に曲げたりひねったりが思うようにできない。背中部分が一枚の板状なため全く融通が効かないのだ。背中の伸び縮みに対応させるためにはジャバラみたいな構造にするか、伸び縮み可能なゴムのような材料で作る必要がありそうだ。
ゴムのような柔軟な金属なんて有るのだろうか。
《合金生成機能で探してみてはどうでしょう?》
そうだな、合金生成機能で探してみるか。探してみると一覧に有るにはあるが、それを作るための素材を持っていない。ルナに聞いてみたが雑貨屋にも置いてなかったようだ。
柔軟な合金はとりあえず諦めて、形を工夫することにする。
何回も作り直して試行錯誤を繰り返す。やはり気軽に作り直せるのは便利だ。結果的には大きなスプリングというかバネのような構造のものが出来上がった。基本的にはバネなので背中の動き程度の曲げやひねりなら全く問題ない。最終的には革を被せれば見た目や使い勝手は問題ないだろう。
バネと言っても円柱状にする必要は無いため、しっかりとリュックの形にすることが可能だ。構造上、隙間だらけという欠点はあるが、材料の強度や柔軟性を調整すれば網目状のバネにしたりと更なる改善もできそうだ。
リュックの骨格の検討はここまでとし、革の加工を作りこむ。
革製品や布製品の加工が可能な裁縫用モジュールがあるのは確認済みだったこともあり、特に苦労することなく縫製機能が出来上がった。勢いで作ったので使い勝手は良くなさそうだが、実際に使う時に改善することにする。
当然の如く、材料として動物や魔物の革が必要だが、今の手持ちには素材は無い。
次に魔物解体モジュールを使い解体機能も作っておく。
これで魔物を討伐した直後のものでも、解体と革加工ができそうだ。ただし、解体時に皮をなめす機能を使用するために、なめし剤が必要だ。なめし剤はアカベリーの実から抽出可能で、アカベリーが必要と表示されている。
アカベリーって誕生の草原にあったあの果実か?
《そうです》
もっと近くにあれば取りに行けるのにな。売ってるかな? 食べずに取っとけば良かったな。
《今からでもドローンで取ってこれると思いますよ》
ほんとか! でもどうやって?
《ドローンで触れるくらいに近くに寄れば異空間に収納できます。ただし、木になっているものは取れないので、収集できるのは下に落ちた実だけですけどね》
それで十分だろ。リュックのサイズだと30個ぐらい必要らしいので、今後のことも考えてとりあえず100個集めてみてくれ。
《はい。ちょっと待ってくださいね》
その後、ルナから有ったとか、形が…… とか、色が…… とか聞かされながら3分ほど待つ。
《100個集まりました。あまり落ちていなくて、その中でも色と形がいいものを探したのでちょっと時間がかかりました》
いやいや、全然時間はかかってないぞ。ごくろうさん。
後は、実際の魔物などが必要か。
《キラーウルフが倒しゃすそうですね。あまり見かけないらしいですが》
明日にでも狩りに行くとするか。見つかるかな?
朝、剣と鞘を引き取りに店に入った。
「アースさん。出来上がってますよ」
預り証と引き換えに、剣が挿さった短い鞘を受け取る。軽い。剣を引き抜くといつもの長さのいつもの重さの剣が現れる。なんか感動する。亜空間の蓋となるリングも目立たないよう取り付けてある。店の外で剣を振り回して見るが、剣を振る時にも影響はなさそうだ。エナも問題なく流せるのも確認した。
おまけで貰ったベルトとともに腰に着けてみる。剣が軽くなっていることもあり、腰にしっかり固定されるようだ。剣を抜いたり挿したりしてみるが使い勝は良さそうだ。
今までブラブラさせていてちょっと鬱陶しかった剣も、この鞘のおかげで歩くのにも全然じゃまにならない。 衝動買いにみたいなものだったが、いい物を手に入れた気がする。
「アースさん、出来栄えはどうですか? 気になる点などございますか?」
「思ってた以上にいい感じですね。問題は無いですよ」
「そう言って頂けるとこちらも嬉しい限りです」
「ところで、アースさん」
「はい?」
「その剣は素晴らしい出来栄えですね」
「え、そうですか?」
「はい。その剣は一見古いデザインの普通の剣に見えますが、材質が有り得ないほど優れています。リングを付けるのに必要なため材質を解析致しましたが、不純物が全く無いと言っていいほどの純度で、素材の混ざり具合が均一で、見たこともないような高品質の材質になっています。
相当腕の良い鍛冶師が作ったのだと思います。
ただ、それほどの剣にも関わらず製作者の名前が刻まれていないのが不思議でたまりません。
お手本として一本欲しいのですが…… 差し支えなければ、どちらで購入されたのか教えて頂けないでしょうか?」
そこまでいい剣になっていたのか。拾ったとか自分で作ったとか言えそうに無いな。
「貰い物なので出処は分からないんですよ」
「そうですか。残念です…… もし、同じような剣が手に入ったら是非とも売って頂けますようお願い致します」
「はい、覚えておきます」
そんな事を話しつつ店を後にする。
「またのお越しをお待ちしております」
その剣を持ち、早速狩りに出かける。もちろんキラーウルフ狙いだ。




