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11 町

 バスは順調に進み、後ろを振り返ってみてもロネス村はもう見えない。


《アース、運転席の横に本らしきものが置いてありますよ》

 そう言われて運転席の横を見ると、貸出用と書かれた一冊の本が置いてある。

 早速、運転席まで行き、近くで見てみるとランスベルのガイドブックのようだ。

「この本、借りていいですか?」

「はい、どうぞー」


 席に戻り、寛ぎながら借りた本をペラペラめくってみる。100ページほどの結構しっかりした本だ。カラー写真なんかも有る。目次によると、町の地図の他、町の紹介や歴史、ショッピング、食事処、宿、ギルドの情報なんかも載っているようだ。

 全部をじっくり見るには時間が足りないか。

《ペラペラめくってくれれば私が全て覚えますよ》

 言われた通りペラペラめくり、1分ほどで全ページをルナに見せる。かなりのスピードでめくったのだが、ルナは問題無く全部覚えたという。

《どのページの情報でも説明できますし、表示もできますよ》


 借りてすぐに返すのも何なので、5分ほど見たふりをして運転席の横に本を返した。

「もう良いんですか?」

「ええ、宿のところを見たかっただけなので」

「ポタメでも購入出来ますので良ければそちらでもどうぞ」

「はい」

 そう言いながら運転手さんを見ると、運転手さんはハンドルから手を離しており、ただ座っているだけだった。

 自動運転か。

 眠くならないのかな?



 バスは非常に乗り心地が良く、足が伸ばせるほどにゆったりと広々とした作りだ。座席は適度な弾力があるが、その硬さや高さも変えれるようだ。防具をつけたままの人でも問題無いよう配慮されているのだろう。

 大きなガラス張りのため周りの景色を存分に楽しむことが出来る。


 バス内を見渡してみると、今日のバスが特別空いているのだろうか、座席の数に比べ乗客は少な目だ。

《座席は42で、乗客は16人ですね》

 アンナさんに乗せてもらったマイクロバスも快適だったが、このバスは更に快適だ。これで2000エルは安いんじゃないだろうか。

《空調も効いていますね》

 そう言われてみると快適な温度に保たれているようだ。



 途中、ちらほらと集落があるのが見えた。その集落も壁で囲まれているが、ロネス村のようなガラスの壁ではなく、全て石を積み上げて作った壁のようだ。そのため、中の様子は見ることができなかった。

《利用するお客さんがいる時は、このバスもあの集落に寄るみたいですよ》

 ほう。良く知ってるな。

《さっきのガイドブックに書いて有りました》

 なるほど。


 道中の景色は単調で、道の左右の土地はほぼ平地で開けているが奥には山が連なっている。道もほぼ一直線のためだんだん飽きてきた。

 普通ならうとうとと寝てしまうところだろう。

 そういえば、だんだん睡眠が恋しくなってきたな。

 今はあの不快なスリープ機能しか無い。熟睡感と心地よい寝起きを伴った快眠機能を考えることにしよう。


 ほとんど変わらない景色、バスの速度は早いのか遅いのかも分からない。どのくらいのスピードが出ているのだろうか。

《時速100kmほどで進んでいますね》


 町の予習でもしておくか。ルナに地図を表示してもらい主要な建物を確認していく。

 町自体はほぼ円形をしており、直径は約5kmだ。ロネス村と同じく壁で囲まれており、門はバス停のところ以外にも数か所ある。

 ギルドはバス停から2kmほどの所にあって、ギルドから200mほどの所にも門がある。

 ギルドの周りは武器屋や防具屋などいろいろな店が密集しており、その周りを囲むように宿屋が並んでいる。

 宿の候補を決めておくか。

 ギルドから近くて、宿代がロネス村のときと同じ程度のものを探す。探すと言っても、さっきのガイドブックに載っていた宿から条件に合うものをルナに表示してもらうだけだ。結局、ギルドから300mほどの所に位置する宿を第一候補に決めた。

 空いてればいいな。

《空いてなかったら洞窟ですね》

 いやいやいや、宿はいくつもあるし第一候補の宿じゃなくてもいいんだ。流石に全部満室ってことは無いだろ。

 それとも洞窟に住んで見たいのか?

《はい。住んでみたいです》

 え……

 そうだったのか。

《そうだったのです》

 ……

 じゃあ、そのうちにな。

《はい!》



 車内にもうすぐ到着するとのアナウンスが流れる。

「あと5分ほどでランスベルに到着します。降車時に身分証が必要になりますのでご用意ください」


 山を出てきたときから目的地としていた町がついに見えてきた。ランスベルは町と言うだけあって見た目もロネス村と比べると断然大きい。

 壁はやはり3mほどで、壁質もロネス村と同じようだ。


 門番の誘導に従ってバスはそのまま町の門を入り規程の駐車場所で停車した。


 扉が自動で開き、外で待機していたであろう門番の声がする。

「ようこそランスベルへ」

 バスを降りる際、門番が全員の身分証を確認していく。俺も仮身分証を石板にかざして問題なくバスを降りることができた。


 ついにランスベルに到着したな。

《はい。ようやくですね》

 この町に思い入れがある訳ではないが、当初の目的地に着いたのは感慨深いものがある。


 バス停は村のバス停と比べると若干大きい。俺が乗ってきたバスの他、大型バスがもう二台停車している。

《どちらも王都行きと表示されていますね》

 バス停を離れてまずは宿に向かう。

 ギルド行きの無料マイクロバスも出ていたが、せっかくなので歩いて向かう。

 途中、ショッピング街が有り、その入り口付近から通りを覗いてみると、色とりどりの店が立ち並び、買い物客だろうか多くの人で活気にあふれているようだ。まだ朝9時という時間を考えると、これから更に人は増えるのだろう。

《ちょっと見てみたい気がしますが》

 宿とギルドが先だな。


 しばらく歩いていると、通りには武器屋、防具屋、雑貨屋、道具屋などがだんだん増えて行き、その周りにハンターだろうか防具装備で武器を持っている人もちらほら見えるようになってきた。店は、歴史が有りそうな古めかしい店や、最近建ったのかもしくは改築したのか真新しい店が混在して立ち並んでいる。

 ギルド街っぽくなってきたな。店をちょっと覗いてみるか。

《宿とギルドが先ですね》

 クッ。


 バス停から歩くこと40分ほどで狙っていた宿屋に到着した。

 宿は5階建てで新築のように綺麗な建物で、扉を開けて入るとすぐ目の前にフロントがあった。内装は豪華とまではいかないが木の持ち味が活かされた明るく綺麗な作りになっている。フロントには数名の接客員がいて、その前には宿泊客が少し列を作っていた。列は程なくして進み、宿泊交渉を行うと宿泊可能とのこと。ひとまず安心だ。

《私の思いは通じませんでしたか。残念》

 おいおい。

 一泊4000エルで取り敢えず10泊で契約した。契約はできたが、今の時間的に部屋にはまだ入れないとのことなので、ギルドに向かうことにする。


 ルナがガイドブックから得た情報だと、仮身分証を正式版に更新するには、町役場で一般の身分証を作る他、ハンターギルドか産業ギルドで身分証を作る方法があるとのこと。

 もちろんハンターギルドで身分証を作る方を選ぶ。


 ギルドに行く途中も、武器屋、防具屋などが何件もあり、吸い寄せられそうになるが、ルナにしっかりと止められた。

 ギルドからの帰りにでも寄ってみるか。

《え、ショッピング街の方が楽しそうですよ》

 じゃあ、両方な。

《はい!》

 まあ、どちらも買うものは無いとは思うけど、何が売ってるのか好奇心は抑えられない。


 誘惑に負けそうになりながらもハンターギルドになんとか到着する。

 遠くからでも目に入るくらいの大きな建物だ。一見倉庫かとも思える建物が2つ並んでいる。それぞれ本館と別館と呼ぶらしい。それらの建物には大きな人でも頭をぶつけない程度の大きさの透明な扉がそれぞれ付いている。別館の方はその扉に加えて大きなシャッターになった出入り口が付いている。全開するとトラックが余裕で入れるくらいの幅と高さがある。狩った獲物などの搬入専用だろう。事務的なことはシャッターの無い方に入れば良さそうだ。

 その両方の建屋の上の方には剣と盾が組み合わさったマークがでかでかと飾られている。


 ハンターギルドから広い通りを挟んだ向かいには産業ギルドが建っている。こちらは馬車をベースとしたマークだ。

 建物の作りは全く同じみたいだ。


 ハンターギルド本館の入り口付近には何組みかのハンター達がたむろしている。待ち合わせだろうか、ギルドに入った仲間が出てくるのを待っているのだろうか。犬を連れているグループもいる。ペットという感じではなく、戦闘訓練を受けた犬のように見える。

 それを横目で見ながらハンターギルドに入る。

 扉は自動スライド式だった。


 中に入り辺りを見回すが室内はかなり広い。当然のように防具装備で武器を持っている人が何人かいるが、時間的に遅いからか室内の広さに比べるとかなり少なく見える。

 彼らのほとんどは、革でできた軽装備で、片手剣や短剣を腰に挿している。

 同じような形の装備でも金属でできたものを身に着けている人もいる。強さの違いか、役割の違いか、単なる金持ちかは分からないが。

 重厚な全身を包むような鎧の人はいないし、両手剣みたいな大きな武器を持っている人もいない。軽装備が流行りなのかな?

 何れにしろ男も女も同じような装備で、当たり前のことだろうが極力肌を出さないようにしているようだ。

 ただ一つ言えることは、俺のような普段着を着ている人はいない。ちょっと場違いな感じ。



 と、観光に来たのではなかった。

 入り口を入るったすぐ横に案内カウンターが有るので、早速頼ってみる。

「ハンターの登録を行いたいのですが」

「それでしたら、ここから見て一番奥に登録用窓口が有りますので、そちらへどうぞ」

 ハンター達の隙間を縫うように奥に進む。


 登録用窓口には受付の女性が1人座っている。他の窓口もそうだが、皆美人揃いだ。

「ハンターの登録を行いたいのですが」

「はい承知致しました。ここではハンター登録と、ハンターについての注意事項をご説明致します。ご説明させて頂いてよろしいですか?」

「はい、お願いします」


「まず、ハンターにはハンターランクという概念があります。最高ランクはSで、その下にAからGまであります。初回登録時はGランクとして登録されます。その後、F、Eと上がっていき、Aランク、Sランクとなります。

 Gランクはハンターの仮登録状態です。Gランク用の依頼を1回成功させることでFランクハンターとして正式登録致します。

 Gランク依頼はこの場で発行致します。依頼には達成するまでの期限があるものも多いですが、Gランク依頼の達成期限は特にありません」

 俺は頷きながら聞く。


「また、依頼には難易度により適切なハンターランクが指定されています。基本的にはご自分のハンターランクと同じランクの依頼を受けて頂くことになりますが、依頼内容によっては異なるランクの依頼を受けられるものもあります。ただし、Gランクの方はGランク専用依頼のみしか受けることができませんのでご注意ください。本日時点でのGランク依頼は薬草採取のみとなっております」

 薬草採取ね。


「なお、Fランク以降は、隣の依頼掲示板をご確認頂き、ご希望の依頼の番号を依頼窓口に申し出て頂くことで依頼を受けることが可能です。依頼の詳細内容は、このフロアー内限定ですが身分証で受信して確認することが可能です。あと、ポタメ向けにも配信してますのでそちらでも確認可能です。ポタメでの受信はどこでも行なえますが、配信周期の関係で若干古い情報になりますのでご注意ください。

 ここまではよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


「では、次にランクアップの仕組みについてですが、GからFへは先ほどの説明通りGランク依頼を1回達成すことでランクアップします。FからEランクへのランクアップは規定回数の依頼達成と、筆記試験合格の両方が条件となります。依頼達成の代わりに実技試験の合格、もしくは訓練所での認定でも結構です。詳しくは、この後にお渡しするハンターの手引きという小冊子でご確認ください。もしくは依頼窓口でお尋ね頂いても結構です」

 俺は頷く。


「ここまでで特にご質問が無いようでしたらハンターの登録を進めたいと思います。ハンターの登録は今お持ちの身分証に追記する形になります。身分証の提示をお願い致します」

 仮身分証を見せる。

「ハンター登録には手数料が15000エルかかります。それと、仮身分証から正式な身分証への変更手数料として500エルかかります。よろしければ仮身分証をお預かり致します」

 特に問題無いので仮身分証を渡す。


「登録手数料と変更手数料の合計15500エルはこの仮身分証からのお支払いでよろしいでしょうか?」

「はい、それで結構です」

「それでは、正式版への更新とハンター登録を行いますのでこの鑑定石板に手をお乗せ下さい」

 手を乗せると石板が光ったので手をどける。

「更新と登録が完了致しました。身分証をお渡し致します。表示内容と、おサイフの中身の確認をお願い致します。なお、元の仮身分証は使用不能となりましたのでこちらで処分致します」


 新しい身分証を受け取ると身分証が白く光り文字も浮かび上がる。そこで表示内容を確認する。


アース

ハンター(仮):G


 ついでにメニューからのステータスも確認したところ、【職業:ハンター(仮)Gランク】と表示されていた。


 ついにハンターになったな。

《おめでとうございます》


 次にサイフの中身を確認する。

 15500エルが支払われた後の金額が表示されている。特に問題無いようだ。

「確認できました。問題無さそうです」


「仮身分証ではおサイフ機能に制限がありましたが、正式版には制限はございませんのでご承知ください」

「はい分かりました」

「それと、これが先程お話致しましたハンターの手引きの小冊子になります。本日ご説明致しました内容と、ハンターとしての心構えなどが記載されておりますので、必ず熟読して頂くようお願い致します。不明点などがございましたらいつでもお気軽にお尋ねください」

「はい」


「最後に、Gランク専用の依頼票をお渡し致します。依頼内容は、この依頼票に載っている薬草100束の採取となります。期限は特にありません。集めたものはこの袋に詰めて依頼票と一緒に搬入用のギルド別館にて提出ください。一括での提出でも、毎日少しずつの提出でも結構ですが、日持ちしませんので採取した分は当日、遅くても翌日中には提出ください。枯れてしまうと依頼品としてお受けできなくなりますのでご注意ください。依頼達成と判断できましたらFランク認定と報酬の支払いが行われます。なお、Gランク依頼の報酬は4000エルです」


 依頼票を見ると、薬草の写真と名称、それに今説明して貰った内容が分かりやすく記載されているようだ。袋は1m四方以上ある大きなもので100束の薬草を入れることができるのだろう。

「お手続きは以上になります。ハンターギルドにご登録頂きありがとうございました。これからのご活躍を心からお祈り致します」

「ありがとうございました」


 身分証を懐からルナに渡して受付を後にした。




「おい」

 後ろから男の声がした。振り向くと、ガタイのいい男が立っている。もしや、お約束の新人イジメか。

「ハンター登録したようだな。舐めてかかってると一瞬で死ぬからな。気をつけろよ。まあ、がんばれ」

 それだけを言うとその男は去っていった。

 新人イジメじゃ無かった。疑ってゴメン。


《アースが死ぬと私も死んじゃいますね》


 ……


 君たち…… 登録した瞬間に死ぬ死ぬって言わないでよね。





 先程貰ったハンターの手引きをペラペラめくりルナに熟読してもらう。


 ルナ、このギルドの建物の情報は載っていたか? 上の階には何が有るんだ?

《ギルドは3階建で、2階、3階はFランクハンターにならないと入れません。また、ギルド内に資料や魔物辞典が置いてありますが、それらは2階にあるようです。あと、1階にある練習場もFランクハンターにならないと入れません》

 Gランクはハンター扱いされないってことか。

《資料を見てみたいですね》


 その他の情報としては、1階には依頼窓口、案内カウンター、登録窓口などが有り、ほとんどはここで用が足りるようだ。

 2階は食堂、弁当販売、資料室があり、3階はラウンジ、会議室、打ち合わせスペースがある。

 依頼物の受け入れは別館らしい。別館には、シャワールームや洗い場付きの大きめの更衣室もあるようだ。魔物討伐などで汚れた体や道具を洗うことができると言う。これもFランクハンターにならないと使えないようだ。






 とにかくFランクにならないと何も始まらないということか。

 そうなると、まずはこの薬草採取だな。今から薬草採取に出かけることにするか。

《はい》

 武器屋や、ショッピング街は明日にしよう。

《はい、分かりました》



 依頼票を改めて確認してみる。依頼票は身分証と全く同じ大きさで、仕組みも同じようだ。

 そこには依頼内容のタイトルと数行程度の概略が表示されている。それに続いて薬草収集の方法と注意点が数ページに渡って文字と写真と絵を使って細かく記載してある。ページと言っても縦にスクロールする方式であり、文字サイズも変えられるのでページ番号が振られている訳ではない。


 依頼票の説明によると、採取の対象は、葉の部分と、土に潜っている球根部分のセットで、球根以外の細い根は有っても無くてもいいそうだ。球根は細長く地中に縦に埋まっているようで、ゴボウみたいな感じだ。ただ、一番先端部分が特に重要らしく、先端が無いものは依頼品と見なされず依頼にカウントされないらしい。


 Gランク依頼では折れていても先端部分が揃っていれば問題無いらしいが、一般的には買い取り価格が下がるとのこと。依頼は長さも指定されていて、最低1mほどに成長している必要がある。葉の大きさからおおよその長さが判断できるため、きちんと確認さえすれば引き抜いた後に短かったということも無くなる。


 あと、スコップなどで掘り起こす場合は先端を傷つけないよう注意が必要というのと、おすすめは手で真っ直ぐ引き抜くことらしい。ただ、途中で折れないように引き抜くにはコツと相当な力が必要とのこと。

 さらに、ご丁寧にも薬草が生えていそうな場所も幾つか載っている。ゴブリンなどの魔物が出そうな場所も載っていて、単独では近づかないよう注意が記載されている。


 至れり尽くせりだな。さすが初心者用の依頼票だ。

《依頼の薬草は知っていますので、アースに作って貰ったソナーも使えますよ》

 ああそうか、それがあったな。見つからない時はそれを使おう。


《依頼票からの情報では、一番近い薬草採取場所は、ギルドからすぐの門を出て、ロネス村方向に500mほど行った所ですね》

 門番に挨拶し石版に身分証をかざして出発する。なお、この門だけは24時間営業だ。

 採取場所へ向かってみると、既に先客がいる。体格的には未熟ながらも革装備の鎧を身につけ剣を腰に挿していることからハンターのようだ。ただ、大きめのスコップが横に置いているのを見ると薬草を採っているということが分かる。


 話でも聞いてみようかと近寄ってみると、その先客が声を荒げて怒鳴ってきた。

「おいっ! この辺は俺が先に陣取ったんだ! 薬草採取なら別の場所へ行ってくれっ!」

 そこまで怒鳴らなくてもと思ったが、一応謝っておく。

「ああ、それはすまなかった」

 なんで俺が薬草を探してるって分かったんだろう?

《その袋ですね》

 ああ、そっか。


 その男を見ている時に思ったのだが、その男の力が弱いのか、薬草を引っこ抜くのに相当苦労しているようだった。

 周りを見た感じだとその薬草もまばらにしか生えていない見たいだな。

《目視で確認できる範囲だと14束しか無いですね》

 見つけるのも一苦労なのかもしれないな。薬草採取は新規登録者への試練も兼ねているのかもな。

 などと考えていたが、また文句を言われるのが嫌なので、さっさとその場を離れた。俺はさらにロネス村方向に足を進める。その男が見えなくなるまで歩き、さらに2kmほど歩いた。

 周りは既に林になっており、依頼票に載っていたゴブリンが出るかもしれない場所まで来ていた。


 ルナ、薬草は有りそうか?

《木が邪魔で目視できる範囲には無いようにみえますが、ソナーで半径1kmを探索してみます》

 ああ、頼む。

 ソナーの初使用だな。ソナーの実力は如何ほどか。

《少し散在していますが、薬草100束を見つけました。ここらはあまり採取されていないのかもしれませんね》

 おお、見つかったか。上出来だな。


 ルナの案内により薬草の場所に行くと5束ほど生えていた。


 この薬草を引っこ抜いて集めればいいんだな。地面を少し掘り根が少し見えると、その根を持って引きぬくために力を入れてみる。根がブチブチと切れる大きな音がする。依頼表に書いてあった通り引っこ抜くには意外と力が要るようだ。さっきの男が苦労していたのはこのためか。しかも100束ともなると普通の人間なら相当な重労働かもしれない。まあ、俺には関係ないけど。


 などと余裕を見せて力を込めて引いていると、急に抵抗が無くなりスポッと抜けた。見てみると途中で根が折れている。あれ? 失敗?

《先端が無いのでダメですね》

 先端は遥か1mもの地中だ。こうなると土を掘り起こすしかなさそうだ。土操作で先端ごと土を引き上げる。土をばらしてみると根の先端が無事有るのを確認した。

 引っこ抜いた草は根が土まみれなので、クリーニングで綺麗に土を落とし袋に入れる。地面に開けた穴は元の土で埋めておく。


 さてと、気を取り直し次の薬草に取り掛かる。力を入れつつ、根が折れないよう慎重にゆっくりゆっくりと引き抜く。成功だ。

 しかし…… これは時間がかかるぞ。最初から土操作でいくか? 穴を埋めるのは面倒だが時間短縮にはなりそうだ。そんなことを考えながら薬草にクリーニングを掛け袋へ入れる。

 まてよ、クリーニングしながら引き抜くとどうなるだろうか。

 次の薬草で試してみたところ、薬草は何の抵抗も無くスルッと面白いように抜けた。細い根も綺麗に付いたままだ。この方が断然速いな。根が見えるよう掘り起こす必要もなく、片手で葉を掴み引き抜く。ただそれだけだ。クリーニングも完了いているので、後は袋に入れるだけだ。


 その場にある5本の採取を終えて次の場所へ移動し、採取を続ける。


 採取していると依頼票の忠告通り時たまゴブリンが襲ってくる。まあ、返り討ちだけど。

 そう言えばと、ゴブリンをそのまま埋めてはいけないってドーケンさんが言っていたのを思い出した。

 燃やすことはできないし、大型のマジックバッグも持っていない。どうするか。

 考えた末、ルナにゴブリンを分解してもらい、その後に土と混ぜてから少し深めに埋めることにした。ゴブリンそのままじゃ無いので肥料といえるのでは無いだろうか。分解時に出た水はその辺に適当に撒いておく。


 移動しながら採取を行いゴブリン退治も行いながら2時間ほどで終了。依頼内容より20束ほど余分に採取したせいもあり袋はパンパンになっていた。重量もかなりのものだ。重力操作で軽くした袋を担ぎ帰路につくことにする。


 町が近づいてきた頃、先程の男を遠くに見つけた。男は汗を拭いながらまだ薬草採取をしている。苦労しているようだな。袋を見てもまだ10束も入っていないようでぺちゃんこだ。


 その様子を見ていると分かったことが有る。このGランク依頼がなぜ薬草採取なのかってことだ。

 この依頼を達成するには、力と根気が必要だ。力は、肉体的な力の他、魔法でもいいだろう。それ以外にも人脈や、人を使える権力でも良いだろう。1日1本ずつ100日頑張れる根性でも良いだろう。何れにしろ、何らかの力が無いと達成は見込めない。

 それに、力まかせに引っこ抜くと必ず失敗するというおまけ付きだ。薬草を見つけるのも困難そうだ。あと、細かな制約が有るあたり、依頼内容を正しく読み取る注意深さなども必要だろう。そうした難題を突破できる者だけをハンターとして迎え入れるというのがこのGランク依頼なのだろう。

 そう考えるとなかなか良く考えられた依頼内容になっていると感心する。

《ギルドでの説明で実技試験での合格でも構わないって言ってましたし、ハンターの手引きにもそう書いてありますので、考え過ぎではないでしょうか?》

 そかも。


 そんな事を考えている内にギルドに到着した。ギルド別館の入り口を入る。

 入り口は袋を担ぎながらでも問題なく通れる大きさだ。まあ、通れない程大きい物はシャッターを上げればいいだけなんだろうが。

《そんなに大きいのが有るのでしょうか?》

 トラックでの搬入とかだろうな。


 建屋内を見渡すと、そこは体育館ほどの広さがあり、部屋などは無く視界を妨げるものも無いため一番奥のほうまで見通せる。奥の方には重機のようなものも何台か置いてあるのが見える。

 入り口を入ったすぐ横に窓口が2つ並んでおり、入り口に近い方が搬入受付窓口、隣が依頼確認窓口と書かれている。


 とりあえず搬入受付窓口の女性に話し掛けてみる。

「薬草採取したのですが、搬入はどのようにすればいいのでしょうか?」

「それでは依頼票をこの石板に乗せてください」

 俺は頷き、依頼票を載せると石板が白く光った。

「それではこの依頼票を持って、1番の搬入口で搬入してください」

 そう言って、職員が指差した先を見ると、1番と書かれたプラカードが立っており、その横に担当の男が立っている。搬入口と言っても、部屋が有るわけでも、カウンターが有るわけでも無いようだ。

 依頼票には【1-12】の文字がでかでかと書かれている。1ー12というのは、1番の搬入口と、今日の12人目という意味だろうか。


 1番のプラカードがある搬入口に行き、依頼票と、薬草が詰まった袋を依頼票と一緒に提出する。

「これをお願いします」

「確認しますので少しお待ちください」

 そう言って、依頼票を石板にかざした後に俺に返す。

 待ったのはほんとに少しで、30秒程度だった。

「確認できました。依頼票を依頼確認窓口に提出してください」


 今度は依頼確認窓口に行き、依頼票を提出する。

「依頼達成ですね。身分証をこの石板にお願いします」

 石板が白く光るとともに、身分証に【ハンター:F】と【入金:4800エル】と表示された。余分に取った薬草も含めて全部換金されたってことか。あと、折れた薬草も問題は無かったってことだな。

「Fランクハンターとして正式登録されました。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「しかし仮登録から5時間ほどで正式登録というのは早かったですね。これからもよろしくお願いします」

「あ、はい、こちらこそよろしく」

 搬入手順もだいたい分かったな。納得してギルド別館を出る。



《アース、あまり早く依頼を達成すると目立つかもしれませんね。前にのんびりやっていこうって言ってましたけど、今後はどうしますか?》

 ん~、そうだな~、ルナの言う通り、これを続けていると確かに目立ちそうだな。

 でも時間を調整するには、作業をゆっくりやるとか、作業後に時間を潰すとかが必要になるだろ?

 以前なら疲れて休憩とか、眠くなって仮眠とか、とにかく楽したいとかでそれも良かったけど、今のこの体はどれも不要なので時間調整は逆に苦痛にしかならないわけだ。

 そういうことで目立つのは仕方無しってことにするか。

 まあ、この体ならいざとなったらどこでも生きていけるし。

《好きにするってことですね?》

 そういうことだな。



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