ライブの日 2
17時過ぎ、開場への入場が始まった。
前の方を取りたいと早い時間から並んでいた奏たちは最前列は取れなかったが前から5列目の位置を確保できた。
「一番前取れなくて残念だったけど、ここなら近いしいいよな」
と琳が言うと
「だな。とりあえずステージ近いしここら辺の方が見やすいかもな」
と勇次郎は言った。
「ステージ、幕かかってるんだな。曲が始まるまでメンバーはやっぱり秘密ってことなのかな?」
とさっちゃんが言うと
「どこまでも期待させるよな」
と勇次郎は言った。
「そういえばさ、相川さんは2階なんでしょ?他にどんな人来るんだろ?奏ん家の親は来るの?」
と琳が言うと
「うん。来るような事は言ってたけど」
と奏が言ってると開場から突然歓声が上がった。
「な…何だ?」
と奏たちがキョロキョロしてると2階席に隼人とタケとカンジが入ってきた。
2階席に入ってきた3人は先に座ってるマスコミ関係者に頭を下げてから自分たちの席に座ろうとしていた。
「盛り上がってるな」
とタケがチラッと1階を見ると
「あれ?なあ、あそこにいるの奏じゃない?」
とカンジに言った。
「えっ?どこ?」
とカンジは1階を見て
「本当だ。奏、来てたんだ。おーい!」
と言ってタケとカンジは奏に手を振った。
「隼人、お前も振れよ」
とタケに腕を持たれた隼人が
「えっ?俺も?」
と言ったが無理やり振らされた。
1階では3人が手を振ったので、歓声はさらに大きくなったが奏は少しムッとした顔をした。
「タケさんたち手振ってくれてるのに何で無視すんだよ」
と琳が手を振り返しながら言うと
「俺はいいよ。恥ずかしい」
と奏は言った。
2階席のカンジが
「奏、恥ずかしがってるよ。可愛いな」
と笑うと
「そうゆう年頃なんだろ。でもさ、奏が来るなんて思わなかったな。あいつら喜ぶだろうね」
とタケは言った。
「相川さんが招待したみたいですけど、奏はfateが誰かも知らないみたいですよ」
と隼人が言うと
「マジ?でもさ、薄々は気付いているんじゃない?」
とタケは言った。
「そりゃ気付くと思いますけど、奏はアニメと車のライブ招待の企画に申し込んだらしいから、気付いてないのかも知れませんね」
と隼人が言うと
「あれに申し込んだの?よっぽど見に来たかったんだな」
とカンジは言った。
「そうみたいですよ。抽選にはどっちもハズレたみたいですけどね。で、そこに相川さんがチケット渡したらしくてスゴく喜んでたって。奏、fateのことをカッコいいって言ってたらしいしですし」
と隼人が言うと
「なんだよ。ボレロやSperanzaのことなんてカッコいいなんて言わないくせに…」
とタケは言った。
同じ2階席の記者席に座ってるマスコミ関係者は隼人たちが話してるのを見て
「ユキと誠と渉…それに綾子とナゴミも来てないな…」
と話をしていた。
「どう考えてもナゴミがボーカルなのは確定だけど後のメンバーが分かんなかったけど、もしかしたらあの5人が組んだんですかね?」
とライターが言うと
「他のやつらは仕事でギリギリにならないと来ないみたいな話をしていたけど、もしかしたらそうかもな」
と隣に座ってる編集者が言った。
「それならそれで本当スゴいですよね?」
とライターが言うと
「確かに。でも、綾子はSperanza以外では表に出て来なかったしそれは無いんじゃないかな?清雅の誘いも前に断ったんだし」
と編集者は言った。
「それにしても…」
とライターはまわりをキョロキョロ見て
「たくさん来てますね。芸能人も多いしテレビ局もアナウンサー連れてきてるし、雑誌も…。あれ?ミュージンが来てないみたいですね」
とライターが言った。
「ああ、あそこは老舗だからさ。招待されたからって無名のライブなんて来ないんだよ。鼻が高いって言うかさ、有名にならないと雑誌に載せないし」
と編集者が言うと
「でも、今日は来るんじゃないんですか?どう考えてもナゴミがボーカルですよ?ライブあと客を出してから記者会見開くことになったし、取材の受け付けも今日してるのに」
とライターが言うと
「もしかしたら、曲も聴いて無いんじゃないか?曲聴いてたらナゴミだろうと無かろうとこれから売れるの想像つくし来るのが普通じゃん?」
と編集者は言ったあと
「ライブの配信見て、失敗したって思うんじゃない?」
と笑った。
その後、渉、誠、由岐、清雅と次々と会場に入ってきて自分たちの席に座った。
「相川さん、記者会見するなんて聞いてなかったんですけど」
と渉が言うと
「急遽決まったらしいよ。マスコミからの取材申し込みがあまりにも多いからって」
と相川は言った。
「スゴいですね…。やっぱり大物は違うって言うか」
と渉が言うと
「記者会見て、俺たちも見てっていいんですかね?」
と誠が言った。
「2階でおとなしくしてるなら良いって社長言ってたから俺も見てくよ」
と相川が言うと
「でも、不思議な感じだよな。綾子のステージを客席から見るのって」
と渉は言った。
「そうだよな。ずっと一緒だったから見たこと無いよな。…だからかな?何か落ち着かないって言うか心配になるんだよね。あいつ俺たちいなくて大丈夫かなって」
と隼人が言うと
「気分は父親だよな。娘がステージに出てくるのをドキドキして待ってるって感じ。…そういえば、奏が小学生の時に学芸会見に行った時と同じ心境だな」
と渉は笑った。
「そういえば相川さん。奏にチケット渡したんですって?」
と由岐が聞くと
「うん。まぁな。二人の長年の夢が叶った瞬間を見せてやりたくてな」
と相川は言った。
「そうですよね…。口には出さなかったけど俺たちがデビューした時から、いつかは二人でって思ってたみたいですしね」
と渉が言うと
「和もソロの曲を綾子に作らせる企画が上がった時も二人で組める日が来るまで綾子の歌は歌わないって言ってたしな…。…長かったな」
と相川は言った。
「和、感極まって泣いたりして」
とタケが言うと
「いやいや、ステージで綾子に抱きついたりして」
とカンジは笑った。
「おいおい、本当にありそうだから。奏、最近あの二人が仲良すぎて気持ち悪いって言ってたから、本当に嫌がるぞ」
と相川が言うと
「奏、fateが誰かって本当に知らないんですか?」
と隼人が聞いた。
「本当だよ。あいつ全然気づいてないんだよ。普通、声が似てる気がするってだけで終わらないだろ?でも、あいつは声が似てる人ぐらいにしか思ってなくてさ。ボレロやSperanzaのことなんて何も言わないくせに、fateはカッコいいとか言ってさ」
と相川が笑うと
「それが自分の両親だって知った時…どんな顔するんだろ?」
とタケは言った。
「ですよね?奏の驚く顔見たいな…」
と渉が言うと
「わかった途端に後ろの方に移動したりして」
とタケは笑った。
1階にいる奏たちはまわりをキョロキョロ見てた。
「なぁ、あの後ろの方にいる集団て何だろ?」
と琳が言うと
「1つはエンドレスの関係者じゃない?ほら、声優の西宮公祐とか畠山健一とかいるじゃん」
とさっちゃんは言った。
「さっちゃん、詳しいね。俺、声優の顔なんて知らないよ」
と琳が言うと
「結構テレビ出てるよ。ほら、針屋瀬里もいるじゃん。あの子グラビアもやってるから知ってるんじゃない?」
とさっちゃんは言った。
「あー、言われてみれば針屋瀬里だ。じゃあさ、向こうの集団は?」
と琳が20代から30代前半の男ばかりの集団を指さして言った。
「あれは…何だろ?ごちゃっと固まってドリンク飲んでるけど…絶対にfateに興味無さそうな人もいるよな。だったらその分のチケットをこっちに回せって感じなんだけど…」
とさっちゃんが言うと
「でもさ、あーゆー人に限ってライブ始まったら弾けちゃったりするんじゃない?」
と勇次郎は言ったあと
「そういえばさ、2階の席にボレロやSperanzaが来てるけどナゴミさんと綾子さん来てないよな」
と言った。
「言われてみれば来てないな。奏、何か聞いてる?」
と琳が聞くと
「いや、別に。二人とも忙しいみたいで早くに迎えが来て出掛けたけど…」
と奏は言った。
「なぁ、もしかして。もしかしてだけどfateのボーカルってナゴミさんなんじゃない?今まで聴いてた曲と違うから声が似てる人って勝手に思ってたけどさ。もうすぐライブ始まるのに会場にいないってことはさ…」
と琳が言うと
「じゃ、綾子さんも?」
と勇次郎は言った。
「いや、綾子さんはSperanza以外では表に出なかったし…それはないと思うんだけど。奏、何か聞いてる?」
と琳が言うと
「別に何も聞いてないし…。今朝もfateがカッコいいって言ったら父さんがボレロやSperanzaのことはカッコいいなんて言わないくせにってふてくされていたから…違うと思うけど…」
と言いながらも奏は最近の二人の様子を思い出していた。
今まで一緒にスタジオに籠ったりすることなんて無かったのに最近はずっと二人で籠ってるし…仲が良いって言うか父さんの愛情が強すぎてストーカーみたいだって思ってたけど、本当は二人で曲作りや練習してるとしたら…。
今日だって同じような時間に出掛けたし…。
「まさかね…」
と奏は呟いた。




