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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
93/356

和の部屋で

居酒屋を出た和は

「じゃ、俺こっちだから」

と渉に言った。

「えっ?家、そっちじゃないでしょ?どこに行くんですか?」

と渉が聞くと

「ホテルに泊まるから」

と和はばつが悪そうに言った。

渉は和の様子から多分綾子にきつく言ってしまい帰りづらくなっているんだと思ったが

「ダメですよ。お金があるからって無駄遣いしちゃ」

と言った。

「無駄遣いじゃないし」

と和が言うと

「3日ぶりに綾子が帰ってくるのにホテルに泊まるなんてダメですよ。送っていきますから帰りますよ」

と言って渉はタクシーを拾うと和の腕を引っ張り一緒に乗った。

「和さん。とりあえず帰ったら謝って下さいね」

と渉が言うと

「何で俺が…」

と和は言った。

「綾子は仕事が絡むと本当に頑固ですからね。自分からは意地でも謝ったりしませんよ。でも、こっちが先に謝ったら綾子も自分に非があったことをキチンと認めますし、話しも素直に聞きますから」

と渉が言うと

「まさか、お前にアドバイス受ける日が来るとはな…」

と和は言った。

「もう20年以上一緒にやってますからね。これからもっと驚く事が起きると思いますけど、そのときは俺たちに愚痴って下さいね。対処法をアドバイスしますから」

と渉が笑うと

「その時はアドバイスしてもらうよ」

と和はため息をついた。


和の家に着くと渉は

「おじさん、すぐ戻るから待っててね」

と運転手に言うと和と一緒にタクシーを降りた。

「別にお前まで降りる必要ないだろ?」

と和が言うと

「ダメです。和さん、逃げるかもしれないじゃないですか?家に入るまで見届けないと安心出来ません」

と渉は言った。

「ここまで来て逃げないよ…。って言うかどんだけ信用無いんだよ。それにどうせ綾子はいないし」

と言いながら和は門の中に入って行ったので、渉も後をついていきインターホンを鳴らした。

「何でインターホン鳴らすんだよ。鍵持ってるよ」

と和が言うと

「奏に引き渡すまで安心出来ませんからね」

と渉は言った。

「はい、はい。分かったよ」

と言ってると

『父さん、鍵無いの?』

と奏がインターホン越しに言った。

「そうなんだよ。和さん鍵忘れたらしくてさ。玄関開けてくれよ」

と渉が言うと

『あれ?わっくん戻ってきたの?』

と奏は言った。

奏が玄関のドアを開けると

「いや、和さんがさ。綾子とケンカしたみたいで家に帰りたくないって言うから連れてきたんだよ」

と渉が言うと

「余計なこと言わなくていいから」

と和は言った。

「ふーん…。どうせくだらないことで父さんが怒ったんでしょ?早く謝った方が良いんじゃない?」

と奏が言うと

「奏にまで言われて謝らない訳にはいきません」

と渉が笑ったので

「分かってるよ。綾子が帰ってきたら謝るよ」

と和はふて腐れた顔で言った。


リビングに入ると和は渉に渡された紙袋から香港土産のフィギュアを取りだし

「あいつも買ったのか…。この胡散臭いブルース・リーどうすればいいんだよ」

と呟いてると

「何そのフィギュア?ブルース・リー…なの?」

と奏が聞いた。

「さあ?欲しかったらやるよ」

と和が言うと

「俺、ブルース・リー好きじゃないし遠慮しておくよ」

と奏は言ったあと

「…母さん、スタジオで仕事してるけど」

と言った。

「綾子、帰ってきてるの?」

と和が驚くと

「うん。20時過ぎには帰ってきてずっと入ってるからもう3時間ぐらい籠ってるかな?」

と奏は言った。

「そっか」

と和がソファーから立ち上がると

「母さん、何か落ち込んでる顔してたからケンカしたこと気にしてるんじゃないかな?」

と奏は言った。


和が地下に行き、綾子のスタジオのドアをそっと開けたが、部屋の中は真っ暗で綾子の姿は無かった。

「俺の部屋でやってるのか?」

と呟きながら、和がそっとドアを開けるとヘッドホンをつけてキーボードを弾いてる綾子の姿が見えた。

真剣な顔でキーボードを弾いてる綾子は和が側にいることに気付かず作業に没頭していた。

何度も何度もキーボードを弾きPCでチェックを繰り返している綾子の姿をずっとドアの前に立って見ていた和は相川と一緒に作らなかったのか?と思った。

綾子はヘッドホンを外しグーっと背伸びをした時にやっと和がドアの前に立っているのに気付いた。

「あ…」

とばつが悪そうな顔をした綾子に

「ずいぶん早くに帰ってきたみたいだけど相川さんのところで作ってこなかったの?」

と和は言った。

「うん。相川さんに曲は作らなくて良いって言われて…。でも、どうしても作りたくて」

と綾子が言うと

「そう。じゃ、明日までには出来るんだよな」

と和は言った。

「うん。あと少し修正すれば終わるから大丈夫だよ」

と言うと綾子はヘッドホンをつけた。

和はッドホンをつけて作業をしているのが気に入らなくて綾子のヘッドホンを外した。

「ちょっと、何してるの?」

と綾子が言うと

「そんなに俺に聴かせたくないのか?」

と和は言った。

「そう言う訳じゃないけど」

と綾子が言うと和はヘッドホンの線を外しスピーカーから音楽が聴こえるようにして

「じゃ、聴かせてよ」

と言った。

「でも、まだ修正が…」

と綾子が言うと

「明日、歌録りあるし曲の流れを知っておきたいんだよね。ねぇ、聴かせてよ」

と和は言葉とは裏腹に鋭い目で綾子を見て言った。 「…」

綾子は何も言わず渋々曲を流した。

曲は二人で作った曲だったが、二番が終わり大サビ前に入る時、綾子は不安そうな顔で和の顔を見た。

「…!?」

和は間奏に入ると驚いた。

パイプオルガンの音色がストリングの音色に変わってる。

その上、もっと前に出てきてたはずのギターが後ろに隠れその代わりにドラムの音が前に出てきてる。間奏の後半は作り変えられていて、音程が下がってるのは同じだけどまるで暗黒から立ち上がろうとしている強さを感じるような曲に変更されている。

そして、大サビに入るとドラムとストリングの音だけが始めに流れて途中から他のサビと同じように曲が流れる。

「…」

和は何も言えなかった。

間奏が変更されたのが気に入らなかったから何も言えなかった訳じゃない。

キーボードの音色も自分が選んだ音よりもずっと良い。

作り変えた部分も自分が作った暗いだけのものよりも強さを感じることでより場面展開がはっきりしたし、大サビの入りもスゴくカッコいい。

綾子には敵わない…。

和は笑ってしまった。

きっと、綾子が頼るのは相川さんじゃなくても良いんだと和は思った。

ちょっとしたきっかけさえ与えれば綾子はどんどん良いものを作り出せる。

そのきっかけを今まで与えてきたのが相川さんだっただけで、綾子はまだ自分の才能の全てに気付いてないだけだと和は改めて思った。

「曲、なっちゃんが仕上げたって相川さんに言われて…。結局、みんな私が作れないって思って陰で動いてたと思うと面白くなくて…。その上、私が考えてもみなかった方法で間奏作っちゃって…それがスゴくカッコくてまた面白くなくて悔しくて…。だから、自分でいじって明日仕返ししてやろうと思って」

と綾子が言うと

「仕返し?」

と言ったあと和は

「こんなに良い曲にされたら何も言えなくなるだろ?仕返しと言ってもやり過ぎだよ…」

と言って綾子を抱き締めた。

抱き締めた綾子の肩が震えてるのに気付いた和は

「…さっきはキツイこと言ってごめん」

と言った。

綾子が首を横に降ると

「それから、勝手に曲を作ってごめん」

と和は言った。

「それから…」

と和は言ってると

「私の方が謝らなきゃいけないのに何で謝るの?」

と綾子は言った。

「私、結局曲を完成させれなくて…でもなっちゃんは歌詞も作らなきゃいけないし仕事もあるしこれ以上負担を増やしたくないって思って言えなくて…。でも、曲は作れないし時間もなくて相川さんに頼っちゃって」

と綾子はすすり泣きながら話をした。

「でも、間違ってた。なっちゃんに正直に言うべきだった。ごめんなさい…」

と綾子は言うとボロボロと涙を流した。

「ごめんなさい…。ごめんなさい…」

と何度も謝る綾子に和は

「もう良いよ。分かったから。俺だって間違ってたところあるし。早いうちにお互いに自分の間違ってたところに気付けて良かったんだよ」

と言った。

「…でも、この仕事が終わったらfateやめるって」

と綾子が言うと

「そんなの本気で言うわけ無いだろ?綾子と一緒にやるのを20年以上夢見て来たんだよ?それがやっと実現するのに簡単にやめたりしないよ」

と和は言った。







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