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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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和の怒り

「綾子が俺に連絡してきたんだよ」

と相川が言うと

「えっ?連絡?」

と和は言った。

「昨日の朝、聞いたら曲が作れないって電話よこして。でも、和は歌詞をやらなきゃならないし、大見得切っちゃって今さら出来ないなんて言えないって、だから、綾子だって……」

相川はまだ話を続けていたが、和の耳には相川の話は入ってこなかった。

「俺には連絡してこなかったのに…」

と和が呟くと

「それは和さんもやらなきゃならないことがあったから遠慮って言うか負担になりたくないって思ったからで」

と誠は言った。

「何なんだよ…」

和は怒りと失望の声をあげたが、心のどこかでまだ綾子を信じていた。

二人でやろうと言った時に綾子も頷いた。

相川との間に築いた信頼関係…自分だって長年築いてきた信頼関係がある。

連絡はしたかもしれないけど、それはその場の勢いと言うか…切羽詰まって愚痴をこぼしただけ。

…愚痴?

どうして相川さんに愚痴をこぼすんだ。

どうして自分には愚痴をこぼさないんだ。


相川のスマホが鳴った。

相川はスマホを見て一瞬固まったが、和の顔をチラッとみてからスマホをとった。

「もしもし?……あぁ、うん。……うん。そうか。……分かったよ。じゃ、待ってるから」

と相川は足早に話を切り上げるとスマホを切ると

「これから客が来るからさ、二人とも悪いけど帰ってくれないか?」

と言った。

「客?…それって綾子ですか?」

と和が聞くと

「違うよ。ほら、あいつ、アクセルの小太郎。アイツ最近暇だからってちょくちょく遊びに来るんだよ」

と相川は言った。

誠は相川を見て多分それは嘘だと分かったが、これ以上和をここにいさせない方がよさそうな気がしたので

「そっか。じゃ、帰りますか?」

と和に言ったが

「いや、俺は帰らない」

と和は言った。

「えっ?」

と誠が驚くと

「久しぶりだし、小太郎に挨拶してから帰る」

と和は言った。

「いや、でも…あいつ話始めると長いし、明日歌録りあるんだし早く帰って休んだ方がいいだろ?」

と相川が言うと

「大丈夫ですよ。…それとも俺がいたらまずい事でもあるんですか?」

と和は疑いの目で相川を見た。

「別にまずい事はないけど…」

と相川が言うと

「そ。じゃ、誠も小太郎来るまで待ってようよ。て言うか、このフィギュアどこで買ったんだよ。絶対にブルース・リーじゃないだろ?」

と和は話題を変えた。


30分が経過しても綾子…小太郎は来なかった。

「小太郎、遅くない?」

と和が言うと

「やっぱり来るのやめたのかもしれないな。そうゆうこと結構あるんだよ。あいつは自由な奴だからさ」

と相川は言った。

綾子が来る前にどうにか和を帰したいが、どうすることも出来ない。

無理やり帰しても、結局は綾子が来たと思い込むだろうし…。

平然を装ってくだらない話をしているけど、今の和はかなり機嫌が悪い。

キレる一歩手前だ。


『ピンポーン』


相川の部屋のインターホンが鳴った。

相川の背中に冷たい汗が流れた。

「相川さん、出ないんですか?」

と和が鋭い目付きで相川に言った。

もう、隠す事は出来ない…けど、方法はあと一つだけあるかもしれない。

「あー、インターホン出るの面倒だから俺、直接玄関に行ってくるからお前らはここで待ってて」

と相川は部屋を出た。

綾子にとりあえず和がいることを伝えて帰ってもらえば…どうにか事を納められるかもしれない。

相川はそう考えながら汗ばむ手でドアを開けると

「相川さん、昨日は泣きついてしまい本当に申し訳ありませんでした」

と綾子が深々と頭を下げていた。

「あ…その事だけど」

と相川が小声で言ってる後ろから

「昨日って。なんの話?」

と和が怒りで震える声で言った。

和は顔を上げた綾子の顔に血の気が引いていたのを気づかないふりをして込み上げてくる怒り…悔しさ…失望感…いろんな感情をグッと堪えて綾子に話しかけた。

…が、話せば話すほど綾子は怯えて黙ってしまう。

その姿を見てまたムカついて問い詰めてしまう。

何もかも知っていながら、知らないふりをして責めるのは汚い事をしてるって自覚もある。

…曲が作れないって言えば…、相川さんを頼ったのは間違いだったと言えば…こんなバカげた事はすぐにやめるのに。

どうしてその一言を言わない?

どうして相川さんに泣きついたくせに自分には何も言わない。

…そんなに俺は頼りないのか?

「…俺はこの仕事が終わったらfateはやめる」

和はそう言うと、相川の部屋を出た。


大通りに出ると和はタクシーに乗った。

「TKホテルまで」

と運転手に言うと和は目を閉じた。

fateなんて組まなければ良かった。

夢見てるだけの方がずっと良かった。

綾子の作った曲を歌いたいって20年以上前から思ってきて、綾子の曲を歌う渉や清雅…他のやつらをずっと羨ましいと思い、一緒に仕事をして信頼関係を築いてるやつらに嫉妬していた。

けど、いつか二人で組むことを夢見て嫉妬心も羨ましがる気持ちも隠してきた。

…男女として夫婦としてだけでなく仕事のパートナーとしてまで信頼関係を築くなんて欲張りだったのだろうか?

突然、和のスマホが鳴った。

もしかしたら綾子かも…なんて少し期待をしてスマホを手に取ると渉からの着信だった。

「もしもし…」

と渉が電話に出ると

『和さん。今、家に行ったんですけどまだ帰ってこないって奏に言われて。どこにいるんですか?』

と渉は言った。


お土産を渡したいと言う渉に誘われて、和はタクシーを降りると渉がよく利用する完全個室の居酒屋で渉が来るのを待っていた。

「遅くなってすみません」

と渉が慌てて来ると

「本当だよ。明日、歌録りなのに」

と和は言った。

「えっ?明日?曲は出来たんですか?」

と渉が聞くと

「相川さんと作ってるんじゃない?」

と和は言った。

「相川さんと?」

と渉が聞くと

「そうだよ。綾子は俺なんかより相川さんの方が頼りになるんだってさ」

と和は言った。

「へぇ…」

と言うと渉はクスッと笑った。

「何笑ってるんだよ」

と和が言うと

「だって、和さんが…。いっつも余裕な顔してるのに…綾子が相川さんを頼ったからって拗ねて」

と渉は笑った。

「拗ねてなんかないよ。お前と一緒にいると本当にムカつく」

と和が言うと

「すみません。もう笑いませんから」

と渉は言った。

「…」

和がムッとした顔をしてると

「俺、思うんですけど…。綾子は和さんより相川さんが頼りになるなんて別に思ってないと思いますよ」

と渉は言った。

「別にお前に慰められなくないよ」

と和が言うと

「綾子って昔からそうなんですよ。時間が迫ってでも煮詰まってどうしようも無くなった時って相川さん頼っちゃうんですよ。俺も同じメンバーの俺たちより相川さんの方が信頼してるのか?って思ってた時期あったけど、別にそうゆう意味じゃ無いんです。相川さんは客観的な見方をしてくれるし、綾子とずっと組んでるから二人でやれば早く仕事も進むんです。信頼とかそうゆうのじゃなくて、作業効率を考えると相川さんを選んじゃうんですよね。あとは…」

と言って渉はクスッと笑った。

「綾子はたまにバカな行動にでますからね。歌詞もアニメ用の尺合わせも頼んできたのに、自分は曲を完成させれない。あれもこれもと和さんに負担かけたくないし出来ない奴だと思われたくない。、けど曲は作れない。どうしたら良いだろう?相川さんなら良いヒントをくれるかもしれないし作業も早く進む。とりあえず曲は完成させて、それから和さんに相川さんに相談して作ったと言っても良いんじゃないか?出来ない奴だとは思われてしまうけど、曲は完成して和に負担はかけなくて済む。…まぁ、そんな感じですよ」

と渉が言うと

「ずいぶん綾子の事を分かってるんだな」

と和は言った。

「そりゃ、何度もそうゆうこと経験してきましたしね。…あと、最近綾子は本当に楽しそうに曲作りの話をしてましたよ。今まで気付かなかった見方も出来るようになったし、スゴく勉強にもなるし刺激も受けるし楽しいって。こんなに楽しんで曲作りをするのは高校の時以来だって言ってましたし、綾子の姿を見てると本当にあの頃の綾子を思い出すって隼人とも話をしてました。信頼関係とかそうゆうのは分かりませんが、綾子は和さんの才能を認めてますよ」

と渉は言った。



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