誕生日の出来事 6
ラストのrevolutionと言う曲が終わり映像は終わった。
和が部屋の照明をつけると
「奏、俺の言った意味が分かった?」
と相川は聞いた。
「はい。化け物って言う意味が分かりました。Speranzaもボレロも長年プロとしてやってるから上手いんだと思ってたけど違うんですね。元々、桁違いに上手かったんですね」
と奏は言った。
「他のやつらは?なんか感想ある?」
と相川が聞くと
「今見たやつの曲って誰かのコピーなんですか?」
とさっちゃんが聞いた。
「あれは、アンコール以外はオリジナルだよ。なあ?」
と相川が言うと
「そうだよ。高校の時は曲も歌詞も全部綾子が作ってたんだよ。それを俺たちでアレンジしたりしてやってたよ」
と隼人が言った。
「歌詞も綾子が書いてたの?ラストの曲も?あれって綾子らしくない歌詞だよな」
とカンジが驚いた顔をすると
「はい。私が作ってたんだけど、その中でもあの曲の歌詞は最低な出来ですね。何を言いたいのか全然分かんないって言うか…。あんな歌詞を歌ってくれてた渉に謝りたいです」
と綾子は恥ずかしそうな顔をした。
「そうか?俺はあの曲、結構好きだったけど」
と渉が言うと
「だよな。あの曲、絶対に盛り上がってたもんな」
と誠も言った。
「スゴいですね…。高校生の時からあんなにいろんな曲作れるなんて…。でも、Speranzaとはちょっと違うって言うか…。いや、どっちもカッコいいんですけど」
とさっちゃんが言うと
「あの頃は何も考えないで作ってたから」
と綾子は言った。
「あの頃、綾子が曲を持ってくる度にナゴミが歌ったらもっと良いんだろうなって俺たち話してたよな?」
と隼人が言うと
「あの頃は気付かなかったけど、デビューしてから綾子が高校生の頃に作ってた曲って和さんの事を思って書いた曲だから、ナゴミに歌ってもらえたらって思える曲だったんだなって気付いたんだよな」
と渉は言った。
「確かに…。和さんが歌ったのも聴いてみたいって思いますね」
とさっちゃんが言うと
「おい、何生意気な事を言ってるんだよ」
と琳が言った。
「いいんだよ。別に気にしてないから」
と和は笑うと話を続けた。
「初めて綾子たちの演奏音源を聴いた時に、それが綾子だと知らなくて俺は高校生のくせにギターも作曲も桁違いに才能あるやつがいるなんてって正直驚いたし俺は高校生の頃にこんな曲を作れなかったから才能にも嫉妬したんだ。でも、綾子の才能もSperanzaの実力も認めてたし、Speranza追い付かれないように、抜かされないようにって今までやってきて」
と和が話をしているとボレロのメンバーは静かに頷いていた。
「でも、この映像見て初めて聴いた時と同じように悔しいって言うか…何て表現していいのか分からないモヤモヤ気持ちになって…。でも、なんか今その答えが出たよ。きっと綾子の才能に嫉妬してたんじゃなくて、この曲を自分が歌えない事を悔しく感じてたんだな」
と和は言った。
「あー、確かにそれはあるかもしれないな。デビューしてからの綾子は作曲のスタイルを変えたからな。何も考えないで曲を作ってた高校生の頃とは違い、Speranzaの時はSperanzaのための曲、清雅の時は清雅の曲、佐藤俊太郎には佐藤俊太郎の曲って、相手に合わせてキーの高さだけじゃなくてニュアンス的な物も少しずつ変化させて作ってるからな」
と相川が言うと
「だから、綾子さんが作ってる曲だけどミュージシャンが変わるとまるで違う人が作ってるみたいな曲なんですね」
と琳は言った。
「じゃ、今の映像以外では綾子さんが何も考えないで作った曲を聴く事は出来ないんですか?」
と勇次郎が聞くと
「あー、一曲だけあるよ。ほら、清雅の『愛の形』って曲」
と相川は言った。
「え?あの曲ですか?あの曲スゴいですよね?俺、合唱コンクールで歌った事があるんですけど初めて聴いた時に伴奏だけで泣きそうになりましたよ」
と勇次郎が言うと
「だろ?あれは綾子の全てが表現されてる曲だから俺も初めて聴いた時に泣きそうになったし、実際泣いた奴もいるよ」
と相川は和と誠をチラッと見て言った。
「相川さん、そんな昔の話やめて下さいよ」
と綾子が止めに入ると
「だって事実だろ?あれは、世の中に出てる中で唯一の綾子が感情を全て注ぎ込んで作った曲だろ?」
と相川は言った。
「へぇ…。俺も聴いてみたいな」
と琳が言うと
「絶対聴いてみた方がいいよ。マジ、スゴい曲だから」
と勇次郎は言った。
「あの…ちなみになんですけど、皆さんは俺たちぐらいの時にはプロになりたいとかって思ってたんですか?」
とさっちゃんが突然聞いた。
「俺たち?俺たちは…全然思ってなかったよな?」
とタケが言うと
「そうだな。相川さんに声をかけてもらってインディーズで活動始めてからもメジャーデビューなんて俺たちには無理だと思ってたしな。就活始めようと思ってたらメジャーデビューの話が出てきて、そこで初めて現実的に考えるようになったって言うか…」
とカンジは言った。
「俺の場合はメジャーデビューの話が出ても無理だと思ってた。ほら、由岐は司法の道に進むと思ってたし、和も官僚になると思ってたからさ。それにどこもだと思うけど、メジャー契約となると親も反対したし…」
とタケが言うと
「反対されたんですか?」
とさっちゃんは聞いた。
「そりゃ反対するよ。俺たち、それなりの高校出てそれなりの大学通ってたからさ。それがいきなり何の保証もない芸能界に入るってなると反対するでしょ?特に由岐と和は大反対されたよな?」
とタケが言うと
「まぁ、反対するとは思ってたよ。でも、俺も和も自分たちの実力を試してみたい気持ちが大きかったからな。なぁ?」
と由岐が言うと
「え?そうだっけ?忘れた」
と和はとぼけたように言った。
「まぁ、和はそう言うと思ったよ。じゃさ、お前らはどうなの?プロとか意識してたの?」
とタケがSperanzaのメンバーに聞くと
「俺は、高2ぐらいからプロになりたいって思って曲作りも始めたしオーディションにも出てましたね」
と誠は言った。
「高3の時には既に事務所と契約することも決まってるって言ってたもんね」
と綾子が言うと
「そうなんだ。で?何がきっかけでプロになりたいって思ったんだよ」
と由岐が聞いた。
「それは…恥ずかしいから秘密です」
と誠は笑うと
「お前らは?高校の時からスゲェ人気だったし、やっぱりプロとか意識してたの?」
と渉と隼人に聞いた。
「いや、俺は自分たちが人気だとか上手いとか思ったこと無かったし…プロなんて考えた事無かった」
と渉が言うと
「だよな。プロになる奴ってもっとスゴい奴らがなるんだろうと思ってたしな。まぁ、綾子は上手かったから、もしかしたらプロになれるかもって思ってたけど、自分の事は考えた事が無かった」
と隼人も言った。
「じゃ、プロになったと言うか…意識したきっかけって何だったんですか?」
と琳が聞くと
「きっかけは、相川さんに声をかけてもらった事かな?」
と渉は言った。
「そうだな。相川さんにプロにならないかって言われて、挑戦してみたいって思ったのが初めのきっかけで、渉と俺はやってみたいんだけだお前はどうなの?とかって話をしたよな」
と隼人は言った。
「で、相川さんに返事をする日が来て…。その日がボレロの武道館ライブの日で、相川さんに連れられてライブに行ったら」
と渉が言うと
「そうそう、和さんがアンコールで泣いてて」
と誠が笑った。
「そうだったか?よくそんな恥ずかしいこと覚えてるな」
と和がちょっと拗ねた顔をしてると
「でも、和さんが観客にずっと夢見てた景色を見せてくれてありがとうって泣いてるのを見て、あのステージから見える景色ってどんな景色なんだろう?って思って…」
と渉が言うと
「相川さんが綾子にあのステージに立たないと見れない景色だって言ってるのを聞いて、俺もあのステージから見てみたいってスゴい思ったんだよな。俺たちのプロになったきっかけは、和さんの涙だったな」
と隼人は言った。
「綾子さんは?やっぱり同じですか?」
と琳が聞くと
「そうね。私もあのライブでボレロが見た景色を見てみたいって思ったのがきっかけだったね」
と綾子は言った。
「へぇ…スゴいな。ボレロがきっかけでSperanzaがデビューして、今はどっちも日本を代表するロックバンドになってるんですもんね」
と琳が感心したように言ってると
「でも、いろんな事を乗り越えてここまでやってきたって感じだよな」
と渉は言った。
「特にお前たちは、大変だったよな」
と由岐が言うと
「俺たちって言うか、綾子は本当に大変だったと思うし、奏には悪いことをしたなって思いますね」
と渉は言った。
「俺たち、16年前に皆さんや社長の前で自分たちが綾子のこどもの父親になるって偉そうな事を言ったくせに、結局は綾子を陰で泣かせて奏から母親を奪ってる形になって…。本当なら恨まれても仕方ないのに、奏は本当に素直に育って…」
と隼人が言うと
「そうだよな。どんどん仕事が詰まってて辞めたいって言える状況じゃ無いのをいいことに、綾子が引退して家庭に入りたいって思ってる事を気付かないふりしてたしな…」
と誠が言うと
「俺も綾子と何度も話をしたし、由岐や親父さんやお袋さんとも話をしたよな?」
と和は言った。
「まあね。でも結局、奏には本当に悪いけど好きな事をやらせてもらって」
と綾子が言うと
「まぁ、仕事してる姿カッコいいし、いいんじゃない?昔からずっと変わらず人気あるって言うのも、世界中にファンがいるのもスゴいと思うし」
と奏は言った。




