誕生日の出来事 5
「化け物ってどうゆう意味ですか?」
と奏が聞き返すと
「それだけスゴかったって事だよ。本当、桁違いだったからな。まぁ、見てれば分かるよ」
と相川は笑った。
スクリーンに隼人と健太の姿が映し出されると、黄色い歓声がドッと上がった。
「健太だ。懐かしい」
と綾子が言うと
「隼人、全然変わんないな」
とタケが笑った。
隼人と健太が演奏の準備をしていると、渉と綾子もステージに出てきて、今度は渉と隼人と健太を呼ぶ黄色い歓声に混じって図太い低い声で綾子を呼ぶ声も聞こえてきた。
「渉、緊張してるの?なんか初々しいな」
とカンジが笑うと
「だから、こんな映像見たくなかったんですよ」
と渉は嫌な顔をした。
「綾子さん、めちゃくちゃキレイ。こりゃ、スゴいモテたでしょ?」
と琳が言うと
「そんな事ないよ。全然モテなかったよ」
と綾子は笑った。
「何言ってんだよ。琳、綾子はめちゃくちゃモテたよ。高校の時だけで100人に以上には告られてるから」
と渉が言うと
「100人!マジっすか?やっぱりモテも血筋ですね。奏もモテまくりですよ」
と琳は言った。
「へぇ…。奏、モテまくりなんだ。羨ましいな」
とカンジが言うと
「全然モテませんよ。嘘ばっかりですよ」
と奏はムッとした顔で琳を見た次の瞬間、alienの演奏がスピーカーから流れてきた。
「…!」
奏はハッとスクリーンを見るとまばたきをするのも忘れるぐらい映像に引き込まれた。
Speranzaとは似てるけど、ちょっと違う演奏。
もっとロック色が強い曲調で歌詞もSperanzaとはまるで違う。けど、スゴく引き込まれる演奏。
間奏に入ると、綾子のギターソロが始まった。
「スゴい…」
琳は思わず呟いた。
今まで自分の中では、奏のギターが高校生レベルを越えてると思っていたけど、綾子のギターは高校生レベルを越えてるどころかプロ並の演技術だと琳は思った。
琳と同様に奏も綾子はプロだから上手いのは当たり前とは思っていたけど、まさか高校時代にこれだけの演奏をしていたなんて…信じられないと思った。
3曲続けて演奏が終わると、今までの曲とはうってかわってとてもキレイで切ないようなギターの音色で始まるバラードの演奏が始まった。
「今さらだけど、高校生のレベルじゃないな」
とタケが呟くと
「だよな。初めて相川さんに聴かされた時の衝撃を思い出したわ」
とカンジも言った。
「そういえば、初めて聴いた時って音源だけで誰がやってるか分かんないでさ。和が珍しく音楽の才能に嫉妬してたよな」
とタケが言うと
「そうそう。まぁ、気持ちは分かるけどな」
とカンジは言った。
二人の会話が聞こえた勇次郎が和の事をチラッと見ると、真剣な顔でスクリーンを見ていた。
他のボレロのメンバーとは違い笑うことも話をすることもなくスクリーンの中のalienを見ている和は少し前までの優しいふわふわとした暖かい雰囲気とは違い、今まで雑誌やテレビで見てきた鋭くも艶をまとった見たもの全てを魅了する瞳をしたナゴミと言うミュージシャンの顔をしていると感じた。
『ありがとう。こんばんは、alienです!』
とスクリーンには渉のMCの映像が始まった。
「うわ、本当やめてくださいよ!早送りしてー!」
と渉が騒ぎだすと
「渉、うるさい!せっかくのMC聞けないだろ!黙ってろ」
とカンジが怒ったので、渉は何も言えなくなりおとなしくなった。
『卒業記念ライブってことで、俺たちがトリなんてやっていいのかな?プレッシャーが半端なかったけど、こうやってみんなが盛り上がってくれて本当安心しました。……高校入って、隼人と綾子と健太とバンド組んで毎日部室で練習して学校帰りに寄り道したり試験勉強をしたりと、本当4人で過ごしてきた3年間でした。思い出の全てにalienのメンバーがいます』
と言うとスクリーンの中の渉は言葉に詰まり涙を拭いてると、観客から渉コールが上がった。
『ごめん…。泣くつもりは無かったんだけど…俺、最後までダセェな。…俺たち4人で演奏するのは今日が最後になります。明るく楽しく弾けて、スゲェ楽しかったと思えるライブで最後は終わりたいと思います。みんなも弾けちゃって下さい。じゃ、ラスト、新しい世界』
と渉が言うと隼人のドラムソロから始まるハードロックの曲が始まった。
『ありふれた日常に不満を感じてる?
そんな暇あるなら自分を変えてみろ
自分で出来ないなら俺が手を貸そう
見たことない新しい世界を見せてやるよ
ジャンプ!ジャンプ!殻を破って
ジャンプ!ジャンプ!弾けてみろ
ありふれた自分を捨てて
ジャンプ!ジャンプ!自分を信じ
ジャンプ!ジャンプ!誇りを持て
きっと世界が輝き始めるから』
スクリーンは曲に合わせて拳を振り上げてジャンプしてる観客でalienの姿が見えなくなっていた。
「スゴい…」
奏は思わず声を上げてしまった。
間奏の綾子の早弾きのギターもスゴいし渉の観客のあおり方もスゴい。そんな中でもリズムを狂わせない隼人のドラムとしっかりと音楽を固めてるベースもスゴい。
スゴい以外の言葉が見つからない…と奏は思った。
最後の曲が終わり、alienのメンバーがステージから去ると客席からは観客の熱気で湯気が立ち上ぼるなか、アンコールの声が上がっていた。
「スゲェな。確かに相川さんが化け物って言ってたのが納得出来るわ」
とカンジが言ってると
「俺、一度で良いから生で見てみたかったな。綾子、何で誘ってくれなかったんだよ」
とタケが綾子に言った。
「だって、ライブやり始めた頃にお兄ちゃんとなっちゃんが見に来てくれたんだけど、そのあと一晩中二人にスゴいダメ出しされて…。もう二度と呼ばないって決めてたから」
と綾子は言った。
「ダメ出し?マジ?高校生にダメ出しとか普通しないだろ?」
とタケが言うと
「それがされたのよ。本当、泣きたくなるぐらい延々と。こっちはプロになるつもりなんて無いんだから、そこまで言わなくてもって本当ムカついたんだよね」
と綾子は言った。
「由岐さんと和さんは見に来てくれたことあったんですね。スゲェ嬉しいけど、ダメ出しってどんなことを言ってたんですか?」
と隼人が聞くと
「ダメ出しした覚えなんて無いけどな…。なあ?」
と由岐は和に聞いた。
alienの演奏が終わりいつもと同じように穏やかな表情に戻った和も
「俺も覚えて無いな…。だいたい、一晩中ダメ出しとか相川さんでもしないだろ?そんなことしないよ」
と言った。
「本当だって。どうして、あそこであんな演奏したんだとか、リズムをきちんと聞いてるのかとか…」
と綾子が言ってると
「あ、ほら。ステージにいっぱい人が出てきたぞ。あれ?綾子の隣にいるのって誠じゃないか?」
と由岐は言った。
「あ、本当だ。ってかさ、何で綾子の隣にいるんだよ。もっと離れろよ」
と和が言うと
「そんな、今さら言われても困りますよ。これ、昔の映像ですから。変なヤキモチ妬かないで下さいよ」
と誠は言った。
『えー、アンコールって事で、前のライブん時と同じように出演した全員でステージに出てみました。今日は、最後って事で店長の許しももらってるのでアンコールは3曲やりたいと思います。リハの時にみんなで少し練習したから前の時よりは上手く出来るとは思うんだけど…。じゃ、始めます』
と言うとalienのメンバーがボレロのloverの演奏を始めた。
「お、loverじゃん。何、お前らこの曲高校生の時もコピーしてたの?」
とタケが言うと
「はい。はじめの頃はボレロのコピーバンドでしたから」
と渉は恥ずかしそうに言った。
スピーカーが壊れてしまうのではないかと思うほどのステージ上と客席とのloverの大合唱に
「loverの大合唱なんて初めて聴いた」
と由岐は驚いた顔をした。
次の曲は当時のボレロの代表曲だったhappinessだった。
「綾子、さっきの間違ってないか?」
と由岐が言うと
「こうやって言われるから嫌だったのよ」
と綾子はムッとした顔をした。
「確かにな。自分達の曲だから間違いとかはすぐ気付くけど、コピーしてる方にしたら楽しくやってるだけだしダメ出しされたら嫌になるな」
とタケは笑った。
「でしょう?そうゆうところが、お兄ちゃんもなっちゃんも分かってなかったのよ。私は楽しくやるのが一番だったのに」
と綾子は呟いた。




