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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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ボレロライブ

Speranzaのライブが終わり夕暮れだった空はいつの間にか星空が広がっていた。

Speranzaのライブ後照明の落ちたステージは真っ暗な闇に包まれていた。

観客席からはボレロの登場を待ちわびる声援が聞こえていた。

真っ暗なステージのある一際大きな大スクリーンに近未来を思わせるような映像が流れ重低音の響く音楽がスタジアム中に響いた。

観客が一斉に立ち上がり歓声を上げると、スクリーンにはナゴミの顔が映し出された。

そのナゴミが思いっきり拳を振りだすとパリンという音とともに映像が割れて一瞬真っ暗闇になったあとカンジのギターソロが始まった。

観客の悲鳴にも似た歓声のなか始まった曲は虹の行方と言う題名の曲だった。

4人にスポットライトがあてられてるだけの薄暗いステージで演奏された曲が終わると余韻に浸る暇なく眩しいぐらいの照明がつくのと同時に軽快なリズムの曲が始まった。

スクリーンに写し出されたナゴミの姿とステージを右に左にと動き回るナゴミの姿を見て会場は大歓声を上げた。

その後、2曲演奏したあと和は一度目のMCを行った。

「アニバーサリーライブにようこそ!」

とナゴミが叫ぶと会場は大歓声に包まれた。

「あれ?Speranzaの時より元気ない?既に疲れてる?大丈夫?」

とナゴミが観客に聞くと

「大丈夫!」

と言う声があちこちから聞こえてきた。

「そっか、良かった。今日はスペシャルなライブってことで、久しぶりに対バン組んでみたんだけど楽しんでくれてるかな?」

とナゴミは言った。

「俺たちもね、久しぶりのライブってことでスゴく楽しみにしてたし、Speranzaに負けないようにって気合いも入ってるんだよね。疲れてちょっと休憩なんて思ってるやつは置いていかれるから、みんなも気合い入れてついて来てくれよ」

と言うとナゴミはドラムセットの脇に置いてある水を飲んでから

「じゃあ、そろそろ始めようか」

と言った。

由岐のドラムソロから始まる曲は、出だしから観客との掛け合いがありどんどん観客を引き込んで言った。


奏のまわりでもみんなステージ上のナゴミと同じように拳を振り上げ雄叫びにも似た掛け声を叫んでいた。

奏は、いつも甘えてばかりで情けない父親が、こんなにも観客を煽りステージに引き込ませていく姿を見て、綾子の時とはまた違った意味で驚いた。

観客を引き込ませるだけじゃなく、どんどん観客を魅了していく姿にも、もともと歌が上手いとは思っていたけど、曲によっては力強くも楽しくも切なくも色気もかもし出す表現力が豊かな父親の歌声にも奏は驚いた。


ライブも終盤に近付きナゴミはMCを始めた。

「今日は時間が限られてるから、どんどん演奏しようと思ってノンストップでやって来たけど息切れしてない?」

とナゴミは微笑みながら言った。

「さっき、Speranzaが俺たちの曲をやってたじゃない?あの曲は渉の思い出の曲らしいけど、俺にも思い出の曲なんだよ」

と言うと客席からヒューヒューと言うと冷やかしの歓声が起きた。

「…まだインディーズだった頃に渉がライブに来てあの曲を聴いて俺に惚れたらしくて…初めて会った時もそれからもことある毎にアイツは俺になら抱かれても良いって未だに言うんだよ。…俺さ、男には興味無いんだけど、あんまりしつこく言われてると一度ぐらいなら渉を抱いてやっても良いのかな?って思ったりして…。でも、二人して未知の世界に目覚めたらどうしようとか考えると怖くて抱けないんだけどさ。まぁ、渉を抱くことは一生無いとは思うけど、そこまで男に惚れられるのは嬉しいよね。…ちなみに渉はゲイじゃないからね。本当、こっちが引くくらい女好きだから。…話はずれたけど、Speranzaに自分たちの曲をあんなに格好よく演奏されて悔しいから、俺たちもSperanzaの曲をやってみようかと思ってるんだよね。いいかな?」

とナゴミは客席に問いかけた。

歓声が上がると

「ありがとう。じゃあ…ボレロでAngle's feather」

とナゴミが笑いながら言うとカンジがギターを弾き始めた。


『嵐の夜も 凍える吹雪の日も

あなたが隣で微笑んでるだけで

僕の心は暖かさに満たされた


泣きたい夜も 不安に支配される日も

あなたの言葉を思い出すだけで

僕は愛される喜びに救われた


あなたの存在

それが生きる糧

あなたを守ること

それが生きる使命


Angle's feather

暖かな羽根で二人を守って

Angle's feather

柔らかな羽根で二人を包んで


この愛が永遠とわに続くように』


ナゴミの切なくも力強い美しい歌声がスタジアム中に響いた。

観客が息をするのを忘れるぐらい美しいこの曲に聞き入っていると最後にナゴミは首から下げている綾子とお揃いの2枚の羽根のついたネックレスを口元に持ってきてチュッと音を立ててキスをした。

照明が一度落ちて真っ暗になると、世界は一瞬の間に変わり軽快なリズムの曲が始まった。


楽屋を出てステージに続く通路の脇でSperanzaのメンバーはボレロの演奏するAngle's featherを聴いていた。

「スゴい…」

と誠は呟いたが、他の3人は何も言わず曲を聴いていた。

リハーサルで聴いていたのとまるで違う演奏に4人は驚いた。

この曲がもともとボレロの曲だったかのような演奏で、まるで違う曲のように聴こえた。

Speranzaが演奏すると暖かな春の日差しを思い浮かべるような優しくも壮大な曲なのに、ボレロが演奏すると厳しい冬を越えた雪解けの時を感じさせるような力強い愛に溢れた曲に聴こえる。

曲が終わったあと

「やっぱり、敵わないな…」

と誠は言った。

「そうだな。こんな風に歌われたら何も言えないよ」

と渉が言うと

「だよな。もともと自分たちの曲なのに聞き惚れちゃったよ」

と隼人も言った。

「それに、曲が終わったあと静まりかえっていたのに、次の曲が始まると一瞬にして世界が変わったかのような観客の声…。ボレロはやっぱりスゴいんだね」

と綾子が言うと

「だよな。俺たちもまだまだなんだな」

と誠も言った。


ステージではラストの曲が演奏され、カンジ、タケ、ナゴミがステージの隅から隅まで動き回り観客のボルテージが最高潮になった時に曲が終わり、ボレロのメンバーがいなくなったステージは真っ暗になった。

「スゴかったな。マジ来れて良かったよ!」

と大興奮の琳が奏に言ったが、客席のアンコールの大きな掛け声で奏は琳の言ってる事が聞き取れなかった。

それどころか、自分が話してる声さえも聴こえないような状態のなか、奏は他の観客と一緒に手拍子をしてアンコールの掛け声をしていた。

奏は綾子が作ったAngle's featherを歌うとナゴミを見て涙がでた。こんなにも美しいメロディーを作った綾子、こんなに切なくも美しい歌声のナゴミ。奏は二人の才能に感動した。こんな両親のもとに生まれてきたことを初めて嬉しく思い両親を誇りに思った。

「アンコール、アンコール」

との大きな掛け声が響くなか、突然爆音のようなドラムソロが聴こえてきた。

観客が悲鳴にも似た歓声を上げると、真っ暗なステージの上でドラムセットの前に座るユキだけにスポットライトが当たった。

激しいドラムソロが終わりに近付くと同時に、タケにスポットライトが当たりドラムにベースの音が重なり、その後カンジにスポットライトが当たりギターが重なり…ステージが照明で明るく照らし出されると同時にナゴミの歌が始まった。


アンコールの大きな掛け声が聴こえるなか、ボレロのメンバーは舞台の袖から通路へと移動していた。

スタッフにタオルを渡された4人は汗を拭うと着ている衣装を脱いでアンコール用の衣装に着替えを始めた。

「なぁ、奏いたよな」

とカンジが言うと

「やっぱり?俺も奏じゃないかと思ったんだよね。和がチケット取ってやったの?」

とタケが和に聞いた。

「いや、俺じゃないよ」

と和が言うと

「じゃあ、自分で取ったんか?」

とタケが言った。

「初めさ、見てるだけだったのに途中から拳振り上げてさ。めちゃくちゃノリノリで可愛かったな」

とカンジが言うと

「奏があんなに盛り上がってくれて和も嬉しいだろ?」

とタケが言うと

「あいつばかり見てるわけないだろ?そんな盛り上がってるなんて知らなかったよ」

と和は言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をして言った。

衣装を着替え終えてヘアメイクの手直しをしてもらった4人は

「さぁ、ラスト行きますか?」

と言ってステージに向かって歩きだした。


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