Speranzaライブ
大音量のオーケストラの音楽が歓声でかき消されてるステージ脇でSperanzaのメンバーはいつものように円陣を組んで気合いをいれた。
隼人と誠はステージに向かっていたが、綾子は渉とともにまだステージ脇にいた。
「俺も今日は緊張するな…」
と渉が言うと
「そんな事言わないでよ。余計に緊張するよ」
と綾子は言って渉に背中を向けた。
「じゃあ、緊張がぶっ飛ぶぐらい思いっきりやるからな」
と言って渉は綾子の肩を叩いて
「よし、行くぞ」
と言った。
綾子はスタッフからギターを受け取り目を瞑り深呼吸を繰り返した。
演奏の始まりを合図する隼人のシンバルの音に合わせて目を開いた綾子はギターを弾き始めた。
一曲目の曲は今では懐かしいSperanzaが売れるきっかけになったdaybreakだった。
幕が降りると遥か遠くにまで観客がいた。
渉が客席をぐるっと見渡すように眺めながら歌を歌ってると、清雅と相川の姿を見つけた。
間奏の時に清雅が何かを指差しているのに気付いた渉が指差している方向を見ると奏がいた。
「!!」
渉は奏がいることに驚いて綾子を見たが綾子は気付いてない様子でギターを弾いていた。
間奏が終わり歌を歌い始めた渉は奏に向かい手を振ると奏は嫌な顔をしていたが、隣の席の琳に腕を掴まれて無理やり手を振っていた。
そんな奏の姿を可愛いと思った渉が微笑みながら歌ってると、客席からは黄色い歓声が上がった。
その後3曲演奏しSperanzaは一度目のMCに入った。
「ようこそ、アニバーサリーライブへ!」
と渉が言うと大きな歓声が上がった。
「今日は、俺が昔も今も抱かれてもいいと思うほど愛してやまないボレロと同じステージに立つことが出来るってことで、とても緊張してるんだよね」
と渉は言った。
「Speranzaを長年やってきたけど、この緊張は5本指に入る緊張だね…。でも、みんなの笑顔を見てたら緊張なんてぶっ飛んでスゴくハイな気分になってきたから、みんなも俺たちのライブ楽しんでいってもらえると嬉しいな」
と言うと渉は隼人の方を見てから
「じゃあ、次の曲いこうか?」
と微笑んだ。
大歓声が上がるなかSperanzaの演奏が始まった。
客席で見てる奏は渉が自分に気付いて手を振っていたのが何となく恥ずかしくて振り返す事が出来なかった。
「おい、渉がこっちに手を振ってるぞ」
と興奮して手を振り返していた琳たちは奏が立ち尽くしているのを見て
「おまえも振れよ」
と言って琳は無理やり奏の手を振った。
その姿を見て渉が笑っているのに気付いた奏は恥ずかしさでどこかに隠れたい気分になった。
「おい、渉がこっち見て笑ってるよ!スゲェ!渉~!」
と言って琳たちは大興奮していた。
その後のライブでは綾子と渉と誠が広いステージを走り回ったり、バラードではドラムセットの置かれてる台に3人で座り演奏したりと見応えのあるライブをしていた。
客席で見てる奏には、いつもは小さく見える綾子がとても大きく見え、ギターも自分が今まで知っていた綾子の演奏とはまるで違うテクニックとスケールの大きな演奏で本当にこれが自分の母親なのかと疑ってしまうほどのステージだった。
ライブのラストに向けてどんどん盛り上がりラストの曲を演奏し終えると渉のMCが始まった。
「お疲れ…。疲れた?」
と客席に聞いた渉は
「みんなには準備運動で身体が暖まったって感じかな?いよいよね、ボレロが出てくるから」
と言った。
歓声が上がると渉はちょっと待ってと言うゼスチャーをしてから
「その前に、一曲目だけどうしてもやりたい曲があるんだ。やってもいいかな?」
と客席に聞いた。
客席から歓声が上がると
「実は、俺が中学の頃に歌って告白したんだけど…想いが届かずフラれたって言う切ない思い出の曲なんだよね。でもね、スゴいいい曲で、当時まだインディーズだったボレロのナゴミが書いた曲なんだけど…」
と渉が言うと人一倍大きな歓声が上がった。
「この曲聞いてナゴミみたいな格好いい男でも片思いするだって俺と同じなんだってナゴミが片思いするような女ってどんな良い女なんだろうってずっと思ってさ。…まさかね、身近にいるなんて思って無かったからさ…」
と渉が笑うと誠と隼人も笑った。
「まぁ、そうゆうわけで今日ラストです。lover」
と渉が言うと綾子が優しいメロディをギターで奏ではじめた。
『僕の存在する場所は君だけなのに
どうして君を遠くに感じるの?
あとどれくらい夜を越えたら
この想いが君に届く』
切ない声で歌い上げる渉にスタジアム中の人が聞き惚れていた。
曲が終わり、Speranzaのメンバーはいつものようにステージの中央に立ち手を繋ぎ客席に深々と頭を下げるとそれぞれ名残惜しそうに客席に手を振りステージを降りた。
ボレロのステージの準備の間、奏たちは椅子に座り話をしていた。
「Speranza最高だったな」
と勇次郎が言うと
「本当、ラストの曲。初めて聞いたけどスゲェ良かったよな。あれってボレロの曲なのかな?」
とさっちゃんが言った。
「だよな。俺、泣きそうになったもん。あの曲入ったCD欲しいな」
と勇次郎が言うと
「あれ、インディーズの時の曲だから今は手に入らないよ」
と奏が言った。
「え?そうなの?って言うか、詳しいな」
と琳が言うと
「親父がファンで聴いた事があったから」
と奏は言った。
「そっか…。でも、インディーズの頃って何年前だよ。そんな昔にあんな名曲作るなんてナゴミは本当にスゴいな」
と勇次郎が言うと
「あの歌詞って綾子の事だろ?ナゴミと綾子って本当にスゴいな。憧れるよ」
と琳は言った。
楽屋に帰ってきた渉は綾子に
「奏、来るなら教えてくれよ。スゲェびっくりした」
と言った。
「何?奏が来てたの?」
と隼人が言うと
「私も途中で気付いてびっくりしたよ。なっちゃんがチケット渡したら行かないって断られたって聞いてたから」
と綾子は言った。
「そういえば、一般席に座ってたよな。友達も一緒だったみたいだし、自分でチケット取ったのかな?」
と渉が言うと
「ごめん、俺が頼まれて取ってやったんだ」
と誠は言った。
「あいつの友達がSperanzaとボレロの大ファンらしくて、一緒に一般席で見たいって言われて取ったんだよ。それから、綾子たちには見に行くのバレると恥ずかしいから黙ってて欲しいって頼まれてさ。ごめん」
と誠が言うと
「別に謝ることないじゃない。逆に感謝してるよ。私たち、奏はライブには絶対に来ないって思ってたから、すごい嬉しかったし」
と綾子は言った。
「でもさ、アイツも恥ずかしさがあってノリきれてなくてさ…。まわりがノリノリだから余計目立って…」
と渉が笑うと
「確かに戸惑いが見えたよな」
と誠も笑った。
「で、綾子どうするの?和さんに奏が来てること教えるの?」
と隼人が聞くと
「言わないよ。言ったら楽しみ減るじゃない。なっちゃんの驚く顔見たいし」
と綾子は笑った。
「和さん、泣くんじゃない?」
と誠が言うと
「さすがにプロだし、奏が来たくらいで泣かないでしょ」
と渉も笑った。
「そうだよな。…そろそろボレロのライブ始まるかな?和さん、奏に気付いたらどんな顔するかな」
と隼人が楽屋に設置されてるモニターでステージの様子を確認すると
「あー、俺も客席でライブ見たいな…」
と渉は言った。
「バカ、騒ぎになるから無理だって。モニターで我慢しろ」
と誠が言うと
「分かってるって。腹減ったし飯食いながらボレロ見るか。綾子、飯取りに行こう」
と渉は言って綾子と一緒に廊下に出て行った。
観客席の琳たちはボレロの登場を今か今かと待っていた。
「Speranzaもボレロもアルバムよりライブの方が良いってよく聞くじゃん?Speranzaがあんだけスゴいライブやったって事はボレロはもっとスゴいのかな?」
とさっちゃんはワクワクしながら言った。
「俺、ライブブルーレイ見たことあるけどスゴかったよ。どうスゴかったかって言ったら一言では言い表せないけど、一度ライブ見たらまた次も必ず行きたくなるって言うのがわかるよ」
と琳が言うと
「そうなの?そんなにスゴいの?」
と奏は言った。
「奏はSperanzaやボレロに無関心だよな。どっちのバンドもいい曲ばっかり作ってるし演奏も上手いのにさ。俺、奏の曲を聴いた時に奏はSperanzaやボレロに影響受けて曲を作ってるのかな?って思ったけど」
と勇次郎が言うと
「どうかな?小さい頃はSperanzaやボレロの曲聴いて育ったからやっぱり影響はあるのかな?本当は影響なんて絶対に受けたくないけど」
と奏は言った。
「でもさ、どっちもいい曲作るじゃん。特に綾子なんて頭に風景や情景が浮かぶような曲でさ。奏の曲を聴いた時も頭に映像が浮かんで同じだなって思ったんだよな」
と勇次郎が言うと
「それ、俺も思ったし、俺はSperanzaとボレロが一緒になったような曲を作るなって驚いたよ」
と琳も言った。




