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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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開演前

琳たちと学校近くの駅で待ち合わせした奏は4人で電車に乗り横浜に向かった。

「マジ、楽しみだな」

と琳が言うと

「まずはグッズ買うか?今日のイベント限定グッズとか販売するらしいよ」

と雄二郎が言った。

「そうそう、ボレロとSperanzaが一緒に写ってるポストカードとかあるらしいよな。激レアだよ」

と琳が興奮気味に言うと

「マジ?絶対に買いだな」

と雄二郎も嬉しそうに言った。

スタジアム近くの駅に近付くにつれて電車の中はどんどん混んできて、駅に付くとホームも改札も人で溢れていていた。

やっとの事で駅を出た4人は

「まだ、時間まで早いのにスゲェ人だらけだな…」

と呟いた。


スタジアムに着くと、そこには既に大勢の人が集まっていた。

グッズ販売のブースがいくつもあり、その他にも飲食物を販売するブースもあった。

まだ、開場されてないスタジアムの中からは、楽器の音が聴こえてきていた。

「スゲェ、誰が弾いてるんだろ?」

とさっちゃんが言うと

「ローディーとかスタッフだろ?メンバーが弾いてるわけないじゃん」

と雄二郎が言った。

「そっか…。だよな」

とさっちゃんは残念そうにしていたが、奏はギターを弾いてるのが綾子だと言う事に気付いていた。


ステージの上ではSperanzaのメンバーが最終リハーサルを行っていた。

音響のチェックをするためにギターを鳴らしてる綾子は真剣な顔をしてスタッフと話をしていた。

他のメンバーもスタッフと話をしながら、それぞれの楽器のチェックをしていた。

ボレロのメンバーは客席の一番前に座り見ていたが

「もう時間だけど終わんないな…」

とタケは心配そうに言った。

「Speranzaは全員が納得するまでリハーサルするのがいつもの事だって聞いたことあるし…。納得いかないものをお金払って見に来た人に見せるよりは開場時間やスタート時間を遅らせても最高のものを見せた方がいいじゃん」

と由岐が言ってると、Speranzaのメンバーがスタッフに楽器を渡してステージを降りた。


スタジアムの外にいる奏は

「グッズ買いに行こうぜ」

と言うと琳たちに連れられてグッズ販売のブース前に並んでいた。

20分くらい並んでやっとテントの前に着いた琳は

「ボレロとSperanzaのキーホルダーとタオルを1つずつとポストカードとSperanzaのバックと…このネックレスとブレスレット」

と次から次へとグッズを買っていた。

雄二郎とさっちゃんも琳と同じぐらいグッズを買っていたが奏は何も買おうとしなかった。

「奏、買わないの?」

と琳が聞くと

「あ…うん。俺は…ブレスレット」

と言って和がデザインしたブレスレットを買った。


その後、飲食物ブースで食べ物と飲み物を買った7人は縁石に座って食べていた4人のところに、3人組の女の子が話しかけてきた。

「あの…。写真撮らせてもらえませんか?」

と1人の女の子が言うと

「え?俺たち?」

とさっちゃんは驚いた顔をした。

「はい。スゴい格好いいなってわけ思って…。で、良かったら連絡先とか教えてもらえないかなって…」

と女の子が言うと

「いいけど。本当、俺たちで良いの?」

と琳が言った。

「はい。ぜひ。みんな格好いいけど…」

と女の子たちは奏を見て

「ナゴミに似ててスゴい格好いいですよね?」

と言った。

奏はとても嫌な気分になったが、琳たちの手前気にしてないふりをして

「そう?初めて言われた」

と笑った。

「本当目元とか似てて格好いいです!」

と女の子たちがキャーキャー言ってると、まわりにいた人達も奏たちの方を見た。

「あれって、ナゴミの子どもじゃない?」

「うそ、ナゴミの子どもだったら、こんなとこにいないでしょ?もっと別の所から来るでしょ?」

「でも、ナゴミにも似てるし、どことなく綾子にも…」

とヒソヒソと話す声が聞こえてきて奏は我慢できず俯いて拳を握りしめてると

「あのさ、やっぱり写真はやめとくよ。コイツ目立つの大嫌いでさ、イケメン過ぎて騒がれるのにもうんざりしてるんだよ」

と雄二郎が言った。

「そうそう、ナゴミに似てるって言われたら普通嬉しいけど、しつこく言われたらいい加減にしてくれって思うんじゃない?本当、勘弁してやってよ」

と言うと琳は

「おまえも、気にするなよ。世の中には似てるヤツがいっぱいいるんだからさ」

と奏に言った。

「…ごめんなさい。何か調子に乗って…」

と女の子たちが謝ると

「いいよ。悪気があって言ったわけじゃないのは分かるから。こっちこそ、嫌な気分にさせてごめんね」

と奏は言った。

まわりで見ていた人達も

「そうだよね。似てる人っているもんね」

と話ながらその場を去って行った。

「何か…ごめん」

と奏が謝ると

「別に謝る必要ないじゃん。おまえは何も悪いことしてないんだし…」

と琳が言った。

「そうだよ。だいたいさ、ナゴミも綾子もプライベートな事は一切話さないし、こんな風にもしも子どもが騒がれたら嫌だから言わないんだろ?何でそうゆうの分かんないかな?こんなんじゃ、子どもだって見に来たいと思っても騒がれるのが嫌で来れないよ」

と雄二郎が言うと

「そうだよ。親と子どもは関係ないんだから。そう考えたら似てるだけのおまえなんて全然関係ないじゃん。気にするなよ」

とさっちゃんも言った。

奏は3人が言ってくれた言葉が嬉しかった。

今までの友達は自分の事を羨ましがるだけで、自分の気持ちになんて誰も気づいてくれなかった。

なのに、3人は自分の両親がナゴミと綾子だと隠してるのにも関わらず自分の気持ちを理解してくれてる。

奏が泣きそうになってると

「おい、こんな事で泣くなよ」

と雄二郎は笑った。


開場時間が過ぎ、開演まで30分を切ってやっと奏たちは自分たちの席に座れた。

「長かったな…」

とさっちゃんが言うと

「既に疲れたような気がする…」

と雄二郎は椅子に座った。

「こんな前の席で見れるなんてスゴいよな」

と琳が言うと大きな幕のかかったステージを見て

「確かにな…。それにしてもステージ大きいな」

とさっちゃんは言った。

奏は少し離れた所にある関係者席にやってきた清雅と相川に気付き頭を下げた。

清雅が嬉しそうな顔をして手を振ろうとしていると、相川が清雅の腕を押さえて何か話をしていた。

清雅は相川の話に頷くと、奏に軽く頭を下げて席に座った。

奏は満員になったスタジアムの中をぐるっと見渡した。

「スゴい人だな…」

と奏は呟くと、改めて自分の両親のスゴさを感じた。

こんなにたくさんの人が父さんや母さんのステージを見に集まってくる…。それだけじゃない。ここに来る事が出来なかった人もこの何倍もいると考えたら身震いがした。

前に由岐が言っていた大きな船の話が今ならわかる気がした。

こんなにたくさんのファンに囲まれ、こんなに大きなステージでライブをやるにはいろんな人が携わっている。

たくさんの人の夢を乗せて父さんも母さんも音楽をやってる。

それを勝手なワガママでどうすることも出来ないし、プライベートで写真を撮られるのを我慢しなきゃいけないのも何となく理解できる気がした。


会場に流れていたBGMが小さくなり消えるとともに大きな音量でライブの始まりを合図するオーケストラの演奏が流れ、左右に設置された大きなスクリーンにはSperanzaのメンバーが楽屋を出てステージに向かう様子が映し出された途端、スタジアムは観客の歓声で地響きがした。

「綾子!」

と隣に立ってる琳が何度も叫んでる。

琳だけじゃない。スタジアム中の観客が悲鳴にも近い歓声をあげ、渉、隼人、誠、綾子の名前を叫んでる。

奏がまわりをみると、みんなSperanzaが出てくるのを今か今かとワクワクしながら嬉しそうな顔でスクリーンを見ている。

ステージ脇で円陣を組み、綾子と誠がスタッフから楽器を受け取り4人でステージの上がる映像の画像が悪くなるのと同時にSperanzaの演奏が始まり幕が降りた。

スタンド席は観客がリズムに乗って跳び跳ねてるせいで揺れていた。

さっき、話しかけてきた女の子たちが見えた。

彼女たちは興奮し過ぎて顔を押さえて泣いている。

「…スゴい」

今までも、自分の両親やボレロやSperanzaのメンバーが日本を代表するミュージシャンだと言うことは知っていたけど、本当の意味ではわかってなかったかもしれないと奏は思った。


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