入籍後
4月2日夜、マスコミ各社に事務所からと和と綾子の連名での二人の結婚報告と綾子の妊娠報告のファックスが届いた。
また、同じ時刻にボレロとSperanzaの公式サイトと和と綾子のオフィシャルFacebookやツイッターでも結婚と妊娠の報告をした。
次の日には、報告番組やワイドショーでは二人の結婚が大きく取り上げられ、スポーツ新聞各社は一面で二人の結婚記事を載せた。
Facebookやツイッターには多くのファンからの祝福メッセージが届き、二人と親交のある多くのミュージシャンや芸能人がブログやツイッターで二人にお祝いコメントを発表した。
なかには、芸能界の大御所と言われる人や人気絶頂のアイドルなどもいて、テレビではそのことも報道され二人がたくさんの人に愛されてることを世間に知らせた。
ある、ワイドショーの司会者は
「僕も二人とは別々ではあるけど交流あるけど、プライベートでは本当に物腰が低くまわりに気を使う良い奴らなんですよ。一緒にいると楽しいと言うか本当に心地よい二人なんですよね」
と二人のことを誉めると
「芸能界であの二人のことを悪く言ったりする人も見たことないし、二人の交際を良く思ってない人っていないんじゃないかな?ってぐらい本当に良いカップルですよね」
と芸能リポーターも言った。
Speranzaのメンバーは遅れていたアルバム製作を終わらせたあと、アルバム発売前の雑誌取材やラジオ出演の仕事をこなしていたが、その合間に個々に始まる活動の準備もしていた。
渉はソロデビュー、誠は清雅のワールドツアーへの参加が決まり、隼人はシーラボの雄大が新しく結成するソロユニットに参加が正式に決まり、それぞれ忙しく動いていた。
もちろん、綾子も清雅の新曲のレコーディングに参加し、作曲家としてでは無く、相川と清雅とともにアレンジャーやミュージシャンとしてのピアノやギター収録の役割も果たしていた。
「綾子、体調は大丈夫か?」
と清雅が心配すると
「大丈夫です。最近、スゴく体調もいいんですよ」
と綾子は笑った。
「そりゃ、結婚もしたし幸せいっぱいだもんな。顔に幸せが滲み出てるよ」
と相川が言うと
「本当だな。それにしても、こんな若い才能ある奥さんもらって和が羨ましすぎるよ」
と清雅は言ったあと
「和は今、どんな仕事してるの?」
と綾子に聞いた。
ボレロのメンバーは、アジアツアーの最終を飾る1ヶ月後の埼玉にあるアリーナで2日連続で行われるライブとその翌日に行われるファンクラブ限定ライブのリハーサルを毎日していた。
「やっぱりさ、限定ライブはインディーズの頃の曲とか古い曲もやりたいんだけど」
と和が言うと
「確かにな。インディーズからのファンって人もたくさん来るだろうし…。長野さん、今からセトリ変更って無理ですか?」
と由岐はたまたま来ていた舞台監督の長野に聞いた。
「今から?間に合うけど、早く決めた方が他のスタッフも動きやすいし、せっかくだから今考えるか?」
と長野が言うと
「ありがとうございます。やっぱり長野さんは頼りになるな」
と和は言った。
和たちはリハーサルを中断して、曲選びをしていた。
「やっぱりさ、今でも昔からのファンが好きでいてくれる曲って言えばloverだろ?」
とタケが言うと
「あとは…destinyも良いかな?」
とカンジが言った。
「あー、確かにあの曲は盛り上がったよな」
と和が言うと
「じゃあ、あとは…、長野さんどんな曲が良いと思います?」
と由岐は長野に聞いた。
「そうだな。loverとかdestinyならライブの中盤に入れたら盛り上がりそうだし流れで言ったらRayとかgameとか入れて、MCからloverに入ってRayとかgameに続いてdestinyと続く流れでどうだろ?」
と長野は言ったあと
「あ、でも俺がインディーズの曲の中でRayとかgameみたいなのが好きだから言った個人的な意見だからさ。おまえたちで、やりたい曲あるなら別の曲で良いんだぞ」
と言った。
「いや…。俺はl良い流れだと思いますよ」
と由岐が言うと
「うん。俺もlover、Ray、game、destinyの流れは良いと思います。けど…弾けるかな?Rayとかdestinyって久しぶり過ぎてちょっと忘れてる部分もあるな…インディーズの時の曲は重点的に練習しないといけないな」
とカンジが不安そうに言い
「destinyとgameって俺もギター弾く曲だし、重点的に練習しないとコケるから絶対的に練習増えるって」
と和は笑った。
「何言ってるんだよ。おまえ、ギター上手いじゃん。それに家に帰ればギターの先生いるし」
とカンジが言うと
「バーカ。一応、俺にもミュージシャンのプライドあるからね。嫁にギター教えてもらうなんて恥ずかしくて出来ないし、綾子も教えるのなんて嫌がるよ」
と和は言った。
「嫁だって!何それ?俺は妻帯者だって言う自慢?」
とタケが言うと
「そんなつもり無いよ。嫁は嫁だろ?悔しかったら、早く相手見つけておまえも結婚すれよ」
と和は言った。
あっという間に時間は流れて綾子は清雅との仕事を終え、Speranzaのアルバムプロモーション活動も終えた。
CDショップでは、アルバム発売とともに活動を一年休止するSperanzaの特設コーナーが設けられ、4年間で出したアルバム5枚とシングル8枚とライブDVD等が並べられた。
Speranzaの活動を終えたメンバーは今まで支えてきてくれたスタッフとともに打ち上げを行った。
これから一年、別々に活動する4人にとってもスタッフにとってもとても感慨深い打ち上げだった。
宴も終盤に差し掛かってきたとき
「俺はSperanzaがこの4人で良かったってスゴい思うよ。きっとメンバーの誰一人として違ったら、ここまで売れることは無かっただろうし、最悪解散してたかもしれないな」
と誠は突然言った。
「確かにね…。私もこの4人じゃないと無理だと思う」
と綾子が言うと
「あー、一年も別々に活動するなんて俺出来るかな?途中で恋しくなっちゃうって言うか、既に恋しいよ」
と渉は言った。
「そうだよな。でもさ、一年後また集まった時にお互いどれだけのものを吸収して成長したか楽しみじゃない?それが、これから先のSperanzaの長い歴史に必要な物なら、たった一年あっという間だよ」
と隼人が言うと
「そうだね。私はまた全国回ったりいつかアジアやワールドツアーもやりたいな」
と綾子は言った。
「俺もツアーやりたいな」
と隼人が言うと
「じゃ、一年後は復活ライブツアーかな?」
と渉は笑った。
「ところで、綾子はもうこのまま産休に入るの?」
と隼人が聞くと
「実は、もう一件仕事が残っててそれが片付いたらお休みもらう事になってるの」
と綾子は言った。
「へぇ、まだまだ休めないんだな。で、誰の曲を作るの?」
と誠が聞くと
「佐藤先輩が歌手デビューに向けてアルバム製作してるんだけど、それに一曲書かせてもらうんだ」
と綾子は言った。
「佐藤先輩?佐藤先輩ってあの佐藤先輩?」
と誠が驚くと
「そうだよ。佐藤先輩、高校の時にバンドやってて歌上手かったじゃない?結構前からモデル業の傍らアルバム製作はしてたみたいで、何度かオファーはされてたんだけど事務所の方針もあって断ってたんだけどさ。お世話になった先輩からのせっかくの頼みだし受けてみることにしたんだ」
と綾子は言った。
その後、2ヶ月が過ぎ佐藤俊太郎のデビューアルバムが発売された。
初めはモデルが出したアルバムなんて…と言う感じでファンの女の子以外は購入することが少なかったが、テレビ出演したときの佐藤俊太郎の歌唱力の高さが話題になり、発売から2週間を過ぎた頃にはヒットチャートのトップ10に入るアルバムとなった。
そして、アルバムを購入した人の口コミで綾子が作詞作曲した『recall the past』と言うバラード曲が話題になり、佐藤俊太郎が生放送の歌番組に出演する際に披露するピアノバージョンで綾子はピアノ演奏をすことになった。
人前で初めてピアノ演奏をする綾子は大きなおお腹でグランドピアノの前に座っていた。
綾子の姿はテレビ画面に大きく映し出されたが、Speranzaの時とはまるで別人のような女性らしいスカートを履いて優しいフェミニンな印象の素顔に近いメイクをしている綾子にテレビの前の視聴者はピアノの前に座っているのが綾子だとは気付かなかった。
司会者が
「今日はこの曲の作詞作曲をしているSperanzaの綾子さんが出産前、最後のお仕事でピアノ演奏を披露してくれます。今日は特別バージョンです。佐藤俊太郎で『recall the past』」
と言うと、綾子はスーっと深呼吸をしてピアノを弾き始めた。
綾子がまだalienとして活動していた頃の思い出を積めこんだ曲のとても美しいメロディーと佐藤俊太郎の優しい歌声にスタジオ内の人もテレビの前の視聴者も釘付けになった。
演奏が終るとステージ上に一緒に出演していた他のミュージシャンやアイドルたちや司会者から次々と集まってきて綾子に花束を渡した。
最後に一緒に出演していた清雅が
「綾子、お疲れ様」
と花束を渡すと綾子は涙を堪えることが出来ず泣き出してしまった。
清雅が泣き出した綾子を抱き締めようとすると、横からやってきた大御所で綾子をとても可愛がってくれてる女性歌手が綾子を抱き締めて泣き始めた。
「元気な子を産んで、また帰っておいでね」
と大御所女性歌手が言うと、綾子はうんうんと頷いた。
放送後の反響はスゴかった。
放送を見逃した人たちが殺到したために動画サイトはパンク寸前になり、ネットでは綾子のテレビ出演の話題が持ちきりになった。




