清雅を交えて
病室の中で綾子と和たちが和やかに話をしていると、清雅がやってきた。
「あっ、清雅さん。お疲れ様です」
と和たちが頭を下げると
「おまえたちも来てたの?」
と清雅は言ったあと和を見て
「何だ、和もいるのか。おまえ体調悪くて休み取ってるって聞いたから、その間に綾子を口説こうかと思って来たのに残念だな」
と清雅は言葉とは裏腹に優しい顔で言った。
「事務所からも止められてるんでしょ?口説くなんてやめて下さいよ」
と和が言うと
「分かってるよ。久しぶりにおまえの顔見たら、口説く気も無くなったわ」
と清雅は笑ったあと
「明日退院なんだって?」
と綾子に聞いた。
「はい。ご迷惑おかけしましたが、来週からは仕事にも戻る予定です」
と綾子が言うと
「そっかぁ。でも、あんまり無理するなよ。また倒れたりしたら大変だからな。と言っても、俺の方の仕事もあるから少し大変かもしれないけど篠田さんにも話してスケジュール詰め込み過ぎないようにやってけよ」
と清雅は言った。
「それにしても、子どもがデキたなんてさぁ。俺、ちょっとショックだよ」
と清雅が言うと
「やっぱり、綾子にはまだまだ仕事バリバリやって欲しかったって事ですか?それなら、出産後にすぐに復帰も決まってるし」
と隼人が言った。
「違うよ。なんつーよ。和は昔はあれだったけど綾子にピュアって言うかさ。怖じ気づいてセックスなんて出来ないと思ってたから、綾子は生娘なんだと信じてて、何か和に汚されていたと思うとショックで…」
と清雅が言うと
「確かに俺も…和さんていつも膝枕してもらってたりして甘えてばかりいる姿しか見たこと無いから、二人のセックスって想像出来ないですね」
と渉は言った。
「バカ。想像しなくて良いから。綾子のは想像さえもしてほしくない」
と和がムッとした顔をすると
「やっぱり、和はベッドでも甘えてばかりで綾子にリードしてもらってるのか?」
と清雅が言うと
「そんな事ありませんよ。ベッドでは綾子を隅々まで可愛…って何を言わせるんですか!綾子もいるのに!」
と和は慌てた顔をした。
「ふーん…ベッドでは隅々まで可愛がってやるんだぁ」
と清雅がニヤニヤすると
「清雅さんやめて下さい」
と綾子は恥ずかしそうに言った。
「そうですよ。俺も身内のそうゆう話はリアル過ぎてちょっと…」
と由岐が嫌な顔をすると
「分かったって。幸せそうで悔しいから意地悪してやりたくなっただけだよ」
と清雅は笑ったあと
「でも、おまえらが羨ましいよ。初恋を実らせ皆に祝福されて結婚なんてなかなか出来ないからな。…って結婚するんだよな?」
と清雅が言うと
「はい。綾子がどうしても結婚したいと言うので」
と和が笑うと
「え?なっちゃんが結婚しなさいって言ったんじゃない」
と綾子は言った。
「違うよ。綾子が別れたくないって、どうしてもやり直したいって言うから」
と和が言うと
「そうは言ったけど、結婚したいとは言ってない」
と綾子は言った。
「何言ってるの?お腹に赤ちゃんいて、やり直すって言ったら結婚しか無いでしょ?」
と和と綾子が言い争いをしてると
「あー、はいはい。もうどっちが言ったんでもいいよ」
と清雅は言ったあと
「何か、俺ら邪魔みたいだし帰ろうぜ。そうだ、俺店予約してんだよ、おまえらも行かない?」
と清雅は言った。
「俺たちもいいんですか?」
と渉が言うと
「もちろん。でも、和はダメだぞ。おまえは休養してるのに遊び歩いていたら、どこで誰に何を言わせるか分かんないし、入籍前に変な噂流れたら困るからな」
と清雅は笑ったあと
「おまえは今夜は綾子の側にいてやれよ」
と言った。
清雅に連れられて行った店は、店内の巨大水槽に色とりどりの熱帯魚が泳いでいるとてもお洒落な店だった。
「何か、俺らこんなラフな格好で来たけど場違いじゃないですか?」
と誠が言うと
「大丈夫大丈夫。それに、この席誰も見られないしさ。それからこれ。この水槽の中で泳ぐ魚がスゴい可愛くて癒されるんだよ」
と清雅は笑いながら
「何度か綾子を連れてきた事があるけど、魚見てスゲェ喜ぶんだよ」
と言った。
「綾子、来たことあるんですか?」
と誠が聞くと
「まぁね。前々から口説きたくて、あちこちの店に連れてったんだよ。…もちろん、仕事でだよ。綾子に曲を書いてもらいたくても事務所がOKしないから直接口説こうと思ってさ」
と清雅は笑った。
「清雅さんにそこまでさせる綾子って本当にスゴいんですね」
と渉が言うと
「俺さ、落とせるか落とせないかは別としても良いなって思う女は男がいようと口説くんだよ」
と清雅は言った。
「え?」
と渉が驚くと
「だってさ、相手の子だって今付き合ってるやつが一番相性いいとは限らないじゃん。もしかしたら、俺との相性がお互いに最高だったら勿体なくない?もちろん、セックスだけじゃ無くて性格の相性とかもだよ」
と清雅は言った。
「まぁ、そう言われたら正論よような気もしますけど…」
と渉が言うと
「でもさ、綾子は女としては口説けなかった訳よ」
と清雅は言った。
「なんでですか?」
と渉が言うと
「そりゃ、女としてもスゴい魅力的だけど、女としてよりも音楽の才能の方が魅力的で、どうしても曲を書いてほしくてそっちを口説くのに必死。Speranzaだけで精一杯って断られていたけど、どうしても一緒に仕事したくて。だから、ソロ活動に入るって聞いた時はやっと一緒に仕事が出来るって嬉しかったよ。本当なら、アルバム製作にも関わってもらう予定だったんだけどさ」
と清雅が言うと
「計画性のない事をしてしまいすみません」
と由岐は謝った。
「いやいや、結婚するだろうって事は聞いてたし、作曲メインで活動するって言うのは妊娠も視野に入れてる事だと分かってたから。それに子どもは授かり物だからね」
と清雅は笑ったあと
「でも、綾子の作ってきた曲は本当スゴいよ。Speranzaとはまた違う感じだけど、22であんな曲書けるなんてやっぱり天才だと思うよ」
と言った。
「俺も聞いたけど、正直驚きました。今まで綾子と普通に仕事してきたけど、本当はとんでもないやつと一緒に仕事してるんだって思いましたね」
と誠が言うと
「そんなにスゴいの?」
と隼人が言った。
「俺は曲を聴いたら涙が溢れたよ」
と誠が言うと
「俺だってそうだよ。あれって和を想って書いた曲なんだろ?俺たちは感情を曲や歌で表現するのが仕事だと思うけど、あそこまで強い想いを持ってる綾子に驚いたし、それを表現出来ることにも驚いた」
と清雅は言ったあと
「あれほど女に愛されてる和は幸せだよ」
と言った。
「あ、そう言えば由岐さん。和さんの計算ってなんだったんですか?」
と隼人が聞くと
「計算?あー、あれね」
と由岐は言った。
「何だよ計算って?」
と清雅も乗り出して聞くと
「和、今日綾子にプロポーズしたんです」
と由岐は言ったあと
「でも、その前に既に根回しは終わってて事務所にもうちの両親にも和の両親にも結婚するって言ってて…」
と由岐は笑った。
「あいつ、絶対に綾子がプロポーズ断らない方法で言ったんだよ。その上…」
と由岐が言うと
「その上なんですか?」
と誠が聞いた。
「あいつ、おまえが綾子にキスしたこと怒ってただろ?」
と由岐が聞くと
「はい」
と誠は言った。
「実際、頭にはきてただろうけどあそこまで怒る必要ないじゃん普通は。あいつはキスした事を怒ってるついでに自分の過去を懺悔してこれからは絶対にそうゆう事はしないって綾子に伝えたんだよ。その上、綾子から寄りを戻したいと言わせるために自分たちは別れたんだからってわざと謙虚になる手段を使った。仕上げは綾子が結婚を絶対に断れないように…って感じだな」
と由岐が言うと
「何かスゴいと言うか…」
と渉は言い
「綾子が和さんの手のひらで踊らされてるような…」
と隼人が言い
「和さんは、こんな時も余裕なんですね」
と渉は言った。
「いや、余裕なんかじゃないよ。だからこそ、絶対に断れないように仕組んだんだよ」
と由岐が言うと
「よく分かんないけど、和はプライベートは優しいけど甘ったれた男だと思ってたけど違うんだな」
と清雅は言った。
「そうですよ。あいつが優しいのとワガママなのは本当だけど、甘ったれに見えるのも頼りなく見えるのも計算ですからね。本当は野心家で熱い男ですから。あの瞳を見たら分かりますよね?」
と由岐が言うと
「確かに、あいつの瞳は吸い込まれてしまいそうだし、俺が女なら惚れてしまいそうなほど魅力的だもんな」
と清雅は言った。
「誠は、今回の事で和を見る目が変わったんじゃないか?」
と由岐が言うと
「確かに変わりましたし、綾子が弱音を吐く姿やあんな幸せそうな顔を見たら和さんには敵わないんだなって心底思いました」
と誠は言った。




