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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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綾子の家で

夜、和たちは綾子の両親と約束した19時少し前に綾子の家の前に着いた。

インターホンを鳴らすと、綾子の母親が受け答えに出た。

「こんばんは。若狭ですけど」

と和の父親が言うと

「はーい。ちょっと待ってね」

と綾子の母親は明るい声でこたえた。

少しすると綾子の母親はドアを開けて3人を招きいれた。

リビングには綾子の父親と由岐がソファーに座っていた。

「こんばんは」

と和が挨拶すると

「体調は良くなったのか?」

と綾子の父親は聞いた。

「はい…」

と和がこたえたあと、重たい空気が流れてた。

「ま…とりあえず座って。立ち話もなんだから」

と綾子の母親に促されて和たちはソファーに腰かけた。

綾子の母親がお茶を用意してきて、ソファーに腰かけると和は床に膝をつき

「この度は僕の軽率な行動で綾子を妊娠させてしまい、また不甲斐ない自分のせいで入院までさせていまい本当に申し訳ありませんでした」

と頭を床に擦り付けて土下座した。

和に続き和の両親も床に膝を付けて

「この度は息子が綾子さんに大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした」

と土下座した。

「…」

「…」

綾子の母親と由岐がどうしていいのか困って黙ってると

「皆さん、顔を上げて下さい」

と綾子の父親は言った。

和の両親が顔を上げても和が震えながら頭を下げていると

「なっちゃんも上げなさい」

と綾子の父親は言った。

顔を上げた和の頬に涙が流れているのを見た父親は

「なっちゃんだけが悪いわけじゃないだろ?一人で育てようなんて無謀な事を考えた綾子にも責任はある。あの吉川って人にも責任はあるし、親として綾子の変化に気づけなかった私たちにも責任はある。けど…」

と綾子の父親は言ったあと

「何で綾子に会いに行かないんだ?そりゃ、なっちゃんも体調悪かったのは聞いてたよ。けど、自分の子どもが死にかけたんだぞ。綾子だって口には出さないけど自分を責めてただろうし、これからの事を考えたら不安になるだろ?何で綾子を支えてやろうって安心させてやろう思わないんだ?」

と父親は言った。

「父さん。それは俺が綾子には安静が必要だから和がきて動揺してまたお腹の子どもに何かあったら困るからって言ったから…。でも、和は綾子が寝たあと毎晩会いに来てたんだよ」

と由岐が言うと

「それは違うだろ?…おまえだって知ってるだろ?綾子が病院に運ばれた時、うわ言でずっとなっちゃんの名前を呼んで…綾子はなっちゃんに会いたがってただろ」

と父親は言った。

「それは…」

と由岐が言葉に困ると

「すみませんでした」

と和は頭を下げた。

「さっきも言ったけど謝る必要はないよ。ただ、俺も母さんも由岐も綾子がこんな風に苦しむ姿は二度と見たくないんだよ」

と父親が言うと

「女にとって妊娠出産ってスゴい事なのよ。つわりもあるし、ホルモンのバランスなのか分からないけど精神的にも落ち込む事が増えるし、自分の身体の中で小さな命が育ってるって喜びとプレッシャーもあるのよね」

と綾子の母親は和の母親を見た。

「そうよ。つわりだけじゃなくて出産に向けて自分の身体も変化してきて疲れやすくなるし…出産が近付けば出産に対する恐怖と不安も出てくるのよ。産まれたあともしばらくは寝てるのか寝てないのか分からないような状態で育児をしなきゃいけないし…」

と和の母親が言うと

「綾子は事務所や私たちに妊娠のことは堕ろす事が出来なくなる時期までは黙ってるつもりだったみたいよ。なぜか分かる?」

と綾子の母親は和に聞いた。

「産みたいからですか」

と和が震えた声でこたえると

「そうよ。なっちゃんの子どもを産みたいから、もし反対されても中絶出来ない時期になってしまったら誰も何も言えなくなるじゃない。そして綾子は少し離れた所に住んで、なっちゃんに子どもの事を知られないように一人で産んで育てようと思ってたらしいのよ」

と綾子の母親は言った。

和は涙を堪えるように目を強く閉じて身体を震わせていた。

「なっちゃん。別に俺たちは責めてる訳じゃ無いんだ。ただ、綾子の気持ちを知って欲しいんだよ。嫌いになって別れた男の子どもなんて産みたいと普通思わないだろ?認知どころか子どもの存在さえも隠して生きていこうとしたのは、なっちゃんに責任を感じて欲しくないからなんじゃないか?それだけなっちゃんの事を想ってるって事じゃないのか?」

と綾子の父親は言った。

「はい…」

とこたえる和の顔は涙でグシャグシャになっていたが和は震える腕で涙を拭うと、綾子の両親を見て

「これから先、もう二度と綾子を傷付けることもツラい思いをさせる事はしません。頼りない僕ですが、一生かけて守っていきます。幸せしますので綾子と結婚させて下さい。綾子さんを僕に下さい」

と和は頭を下げた。

「…」

「…」

「…」

和の両親と綾子の母親が和と綾子の父親の様子を心配そうに見てると、綾子の父親はため息をついてから

「いつかなっちゃんが綾子と結婚したいって言ってきたら、母さんと結婚するときの親父さんみたいに断固拒否してなっちゃんの本気を見てから許そうと思ってたけど…俺には無理だ」

と父親は言ったあと

「綾子の事をよろしくお願いします。どうか幸せにしてやって下さい」

と父親は和に頭を下げた。

「ありがとうございます」

と涙を流す和を見て綾子の父親と母親も目に涙を浮かべた。

「由岐、今日は綾子のところにはもう行かないのか?」

と綾子の父親は由岐に聞くと

「もし、行くならなっちゃんと一緒に行ってきなさい。今から行っても消灯時間まで間に合うだろ?」

と言った。

「綾子とキチンと話をして安心させてやりなさい」

と綾子の父親が言うと由岐は立ち上がって

「和、行くぞ」

と言った。


和と由岐が病院に向かったあと、綾子の両親と和の両親はダイニングで食事をしていた。

「久しぶりの日本だからと思ってお寿司頼んだんだけど」

と綾子の母親が言うと

「すみません。こんなご馳走を用意してもらうような立場じゃないのに」

と和の母親が言うと

「何言ってるの?なっちゃんと綾子の事は解決したんだし、久しぶりに4人で飲みましょう」

と綾子の母親は笑った。

「そうだよ。もう二人の事は気にしないでさ。お互いに心配の絶えない子どもを持った愚痴でも酒の肴にして飲もう」

と綾子の父親は和の父親のグラスにビールを注いだ。

「本当に和は情けないやつで…」

と和の父親が言うと

「そんな事ないよ。なっちゃんは常に綾子の事を考えてくれてるし仕事も熱心らしいよ」

と綾子の父親は言った。

「和と由岐ちゃんが芸能界に入るって言ったとき、あんなに反対したのに綾ちゃんまで芸能界入ったのは驚いたわ」

と和の母親が言うと

「綾子は由岐の時にスゴく反対したのを知ってるから、自分はやりたくてもやりたいって言えなかったのよ。でも、なっちゃんがやってみろって一言言ってくれたおかげで今の綾子がいるのよ。あの頃からなっちゃんはずっと綾子を支えてくれて感謝してるわ」

と綾子の母親は言った。

「そうだな。一見、綾子がなっちゃんを支えているように見えるけど、実際には綾子が支えられてきたな」

と綾子の父親は笑ったあと

「今も昔もなっちゃんは情けない男なんかじゃないですよ」

と言った。


綾子の病院に向かう車の中、由岐は和の頬に貼ってある絆創膏を見て

「おじさんに殴られた?」

と和に聞くと

「まぁ殴られたけど…。これは違うやつにやられた」

と和は絆創膏を触った。

「そっか…。でもさ、何かおまえ吹っ切れた顔してるって言うか迷いのない顔になったな。何か心境の変化あった?」

と由岐が言うと

「うん。俺の知らなかったいろんな事が見えてきて、自分の愚かさや情けなさとかいろいろ分かって自分を見つめ直したって言うか吹っ切れた」

と和は言った。

「言ってる事があんまり分かんないけど、それは良いことなんだよな」

と由岐が聞くと

「もちろん」

と和は笑ったあと

「綾子に準備してた指輪を取りに家に一度寄りたいんだけど大丈夫?」

と由岐に聞いた。

「大丈夫だけど、おまえ渡せるの?」

と由岐が心配そうに聞くと

「渡せるよ。もしいらないって言われたら無理矢理にでもはめてやるよ」

と和は笑った。

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