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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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誠の恋物語 1

和の部屋から帰ってきた誠は鏡に顔を映し

「和さん、手加減ないな…」

と殴られた拍子に切れた口元に消毒薬の染み込ませたコットンを当てた。

「痛っ…」

消毒薬が滲みた。

「悪役もラクじゃないないな…」

と呟いたあと誠は

「今度こそ諦めろよ…」

と鏡に映る自分に言い聞かせた。


誠が初めて綾子と会ったのは高2の冬だった。

友達と楽器屋に寄ったときに見かけたのが初めての出会いだった。

小さな身体でギターを背負って店員と話してる可愛い女の子。

それが綾子の第一印象だった。

「あれ?あの子、西高の早坂さんじゃない?」

と当時、誠とバンド組んでる仲間の一人が言った。

「おまえ知ってるの?」

と誠が聞くと

「逆におまえみたいに超女好きが知らないのが不思議だよ。彼女、スゴいモテるし有名だよ。ほら、俺らの学校の佐藤先輩も早坂さんに告ったらしいよ」

と仲間は言った。

「佐藤先輩が?じゃ、あの子先輩の彼女?」

と誠が言うと

「いや、断られたらしいよ」

と仲間は言った。

「ふーん…。だったら、俺が彼氏になろうかな?」

と誠が言うと

「いやいや、おまえみたいに女遊び激しい奴と付き合ったら泣くの見えてるじゃん。絶対に早坂さんに手出すなよ」

と仲間は言った。

「そんなの分かんないじゃん。音楽やってるって共通点もありそうだしさ。それに俺だって惚れた女には一途だよ」

と誠が言うと

「どの口が言うんだよ。本当にやめろよ」

と仲間は言ったが、誠は話を聞かず

「いいじゃん。西高の早坂さんね…」

と呟いた。

その時はまだ誠には恋心なんてものはなかった。

誰のものにもならない女を自分に惚れさせたら面白いなくらいににしか思って無かった。

数日後、中学時代のバンド仲間だった隼人に会った誠は綾子の事を聞いた。

「おまえの学校に早坂さんって音楽やってる可愛い女の子いるだろ?」

と誠が聞くと

「知ってるよ」

と隼人はあっさりと言った。

「で?どんな子?」

と誠が聞くと

「…それっておまえ、狙ってるの?」

と隼人は言った。

「狙ってるって言い方悪いだろ?友達になりたいなぁって思ってさ」

と誠が笑うと

「へぇ。だったらさ」

と言って隼人は自分たちのライヴのチケットを取り出して

「明日これ見に来いよ」

と言った。

「なに?隼人のライヴ?」

と誠が聞くと

「そ、おまえ絶対に来ないだろ?このライヴに綾子…早坂も出るから、ライヴの後ででも紹介してやるよ」

と隼人は笑った。

隼人と別れたあと、誠はチケットを見ながら考えていた。

隼人にはライヴ見に来るように誘われた事が何度もあったし、対バンでライヴやろうって言われた事もあった。

けど、誠は隼人のドラムを聞くと一緒にやりたいと絶対に思ってしまうのが怖くて誘いを断っていた。

今のメンバーに不服がある訳じゃないんだけど…隼人に比べると…。

ましてや、中学卒業してから2年、隼人は更に上手くなってるに決まってるし、隼人のバンドの情報は結構入ってきてて、自分たちで曲も作ってて対バンするとチケットがすぐにさばけると言う噂もあった。

そんな隼人に嫉妬してしまうかもしれないと思うと恥ずかしくていつも誘いを断っていた。

「でもな…。いい加減、未練たらしくしてるのも男らしくないし、あの女の子を紹介してくれるって言うしな」

と誠は呟いた。

次の日、ライヴハウスに入ると客席は既に熱気で溢れていた。

「あれ?誠じゃん」

と声をかけてきたのは、誠の高校で一番モテる軽音部の佐藤先輩だった。

「こんにちは」

と誠が頭を下げると

「おまえ、聞いた話だと早坂綾子狙ってるって?」

と佐藤先輩は言った。

「いや、狙ってるって言うか…」

と誠が言うと

「あの子は無理だよ。俺もダメ元で告ったけどやっぱり無理だったもん。やっぱりあの子は次元が違うって」

と佐藤先輩は言った。

「何ですかそれ?」

と誠が聞くと

「綾子のライヴ見たこと無いの?」

と佐藤先輩は言ったあと

「俺なんて、フラれたくせにライヴとか毎回来ちゃって、今じゃalienの大ファンだよ」

と佐藤先輩は笑った。

「エイリアン?」

と誠が聞くと

「そ、綾子のいるバンドの名前だよ。おまえもダメ元でも狙ってるならバンド名ぐらい覚えて来いよ」

と佐藤先輩は言った。

一番初めのバンド、次のバンドと演奏が続いた。

それなのに楽しめるけど…、何かな。

俺たちのバンドの方が絶対に上手いだろ?

「ボレロがボロになってるよ」

と誠が呟くと

「上手い!おまえ、上手いこと言うな」

と佐藤先輩は笑ったあと

「でもさ、このあとalienだから。本当言うとトリでいいと思うけど、じゃんけんで順番決めてるらしいから最後から2番目なんだと」

と佐藤先輩は言った。

「へぇ…じゃんけんね」

と誠は言いながら、じゃあ隼人のバンドはトリなんだと思ったのと同時に、佐藤先輩がここまでひいきするalienという綾子のいる女の子バンドはどんな演奏をするんだろう?と興味が湧いてきた。

多分、アニメの影響で組んだバンドで、フリフリのコスプレでアニソンとか演奏して、その姿に萌えるんだろうか?誠は勝手に想像して、それも悪くないなと思った。


ボレロのコピーバンドの演奏が終わりメンバーが舞台袖に消えると入れ替わりで次のバンドのメンバーが出てきた。

楽しそうにドラムスティックをクルクルと回しながら出てきた隼人を見て誠は、隼人は中学の頃と変わらないなと思った。

隼人と一緒に出てきたベースを持った健太は結構可愛い顔をしてる。

次に出てきた渉はまぁまぁイケメン。

「隼人のやつ、顔でメンバー選んだんか?」

と誠が呟いてると、ギターを持った綾子が現れた。

「え!女?」

と誠は驚いた。

「何言ってんだよ。綾子だろ」

と佐藤先輩が言うと誠はますます驚いた。

楽器屋で見かけた可愛い女の子とはまるで別人のような…男の中にいても負けてない存在感。

「あれが綾子?」

と誠は驚きの声をあげた。

誠の驚く顔を見て佐藤先輩はニヤッと笑い

「驚くのはこれからだぞ」

と言った。

♪~♪♪~

優しいギターの音色がライヴハウス中に響いた。

それに続いて渉が切ない声で歌を唄い始め、ベースが重なりドラムが重なる…と、突然優しい曲調から、激しい曲調へ変化して…またギターだけの優しい音色に戻り2番を誠が唄い出した。

激しい曲調のサビから続く間奏は思わずギターに聞き入ってしまった。

「スゴい…」

誠は思わず呟いた。

一曲目の演奏が終わると、今まで出てきたバンドとは比べられないほどの歓声が上がった。

と、次は軽快なポップスが2曲続き、同じバンドが演奏してるのが信じられないようなロックで観客と一体となるとその流れでラストの曲を演奏してalienのステージは終わった。

メンバーが舞台袖に消えようしてるなか、客席からは黄色い声と図太い声でいっぱいになった。

「アンコール!アンコール!」

客席の大合唱に渉が

「最近、5曲しか練習してなくて他の曲は全然聞かせれないのですみません」

と頭を下げると他のメンバーも頭を下げて舞台袖に消えた。

「…」

呆然としてる誠を見て

「どう?次元が違うって意味分かっただろ?」

と佐藤先輩は言った。

「はい。彼らは次元が違います。スゴいです」

と誠が言うと

「綾子は天才なんだよ。演奏も曲作りも…」

と佐藤先輩は言った。

「曲作り?」

と誠が聞き返すと

「そうだよ。彼らの曲は全部綾子が作ってるんだよ」

と佐藤先輩は言ったあと

「でも他のメンバーも高校生レベルじゃないよな。あいつらはプロになるじゃないかな?」

と話していたが、誠は驚きと動揺で話なんて耳に入ってこなかった。

正直、あんなギターは男だって勝てない。技術も表現力も自分が見たギター弾くやつの中で一番だ。

曲だってそうだ。

目を閉じると風景が見えてきそうな音楽から、勝手に体が動いてしまうようなポップスや拳を振り上げたくなるようなロック…それを全部作ってるなんて…。

隼人と同じバンドのやつに嫉妬すると思っていたが、今は隼人に嫉妬してる。

あんな才能のあるやつと一緒にバンド組めるなんてズルいとさえ誠は思った。


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