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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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泣かないで

由岐と村上が帰ったあと和はソファーに座った。

二人に聞いた話があまりにも突然であまりにも信じられないようなことばかりで、頭の中はとても混乱していた。

綾子が別れると言ったのは、吉川がボレロのために結婚を先伸ばしして欲しいと頼んだから。

でも、綾子のお腹には俺の子がいて、先伸ばしなんて出来ないから、綾子は一人で産もうと決めて別れると言った。

綾子の大切にしたい人って言うのは俺の子…。

でも、綾子は俺を傷付けたと悩み、俺の事をいつも心配していた。

まわりにも気をつかわせないようにと明るくふるまって仕事も今まで以上に頑張って、俺の事を考えないようにと紛らわしていた。

けど、俺を含めていろんな事が心労になり、食事も取れなくなって睡眠も取れなくなった。

そして無理ばかりしたせいで最後には倒れてしまい、お腹の子も流産しそうになった。

「…」

俺は今まで何をしていたんだろう?

綾子を失った悲しみに自暴自棄になって挙げ句には綾子の心の中に別れた後悔とともに自分が残るなら死んでもいいとか考えて…。

綾子がどれだけ気丈に振る舞い頑張っていたかも知らず、自分だけが被害者のような顔をしていた。

「…どこまでもダメな男だ」

と和は呟いた。


事務所の人たちが帰ったあと両親は、もしも和が立ち直れなくて綾子に会う事が出来なくても、綾子だけでなく家族で産まれてくる子どもを育てていこうと話をした。

「本当は子どものためにも二人一緒の方がいいんだけど」

と母親が言うと

「大丈夫。和は綾子に会いに行く。会いに行って綾子を幸せにするよ。俺も由岐もあいつなら綾子を幸せに出来るって認めた男だ。そう簡単にダメになってしまうような弱い男じゃない」

と父親は言った。


その頃、由岐は綾子の病室に入ると、眠ったまま起きない綾子には渉と隼人と誠が付き添っていた。

3人とも…特に渉と隼人は肩を落として落ち込んだ顔をしていた。

「疲れてるだろ?俺が付き添うからおまえたちは帰ってゆっくり休んでくれ」

と由岐が言うと

「俺たち、頼りないんですかね…」

と渉は言った。

「俺や隼人は高校からずっと一緒にいるのに、綾子の事何にも気づいてやれなかったんですよね?それに綾子も俺たちに気つかって何にも言わないで…」

と渉は泣きそうな顔をした。

「俺だって同じだ。綾子が産まれた時から一緒にいるのに何にも分かってなかった」

と由岐が言うと

「それは、仕事が忙しくてなかなか会えないから…」

と隼人が言うと

「それでも和と別れたって聞いた時、おかしいって気付いてたのに何もしなかった。会おうと思えば少しぐらいの時間だって作れたのに…もっと早くに綾子と会ってれば、綾子の異変にも気付いてやれただろうし、こんな事にならないで済んだかもしれないとも思う」

と由岐は言った。

「…すみません。綾子に止められてても俺がもっと早くに話をしてたら良かったんですよね?」

と誠が言うと

「いや、おまえが悪い訳じゃない。おまえは綾子の気持ちを大事にしてくれたんだろ?それに渉も隼人も自分を責める必要ないよ」

と由岐は言った。

「でも…」

と渉が言うと

「それに、みんなが落ち込んでる姿を見たら、また綾子が自分のせいだと悩むだろ?だから、悩むな。俺も悩まない」

と由岐は言った。


渉たちが帰ったあと、由岐は綾子の近くに椅子を置いて座った。

眠っている綾子を見ながら由岐は泣きそうになった。

自分よりも遥かに小さな身体でいろんな事を抱え込んでいた綾子。

和の事。

子どもの事。

子どもを一人で育てようと決めるのは簡単な事じゃない。

仕事だってしばらくは今と同じようには出来なくなる。

子どもと二人で生きていくためにはお金が必要だし、そのためにも無理してでも仕事をしていたのかもしれない。

自分を頼ってくれたら…無理なんてさせなかったのに。

…きっと頼る事なんて出来なかったんだと今は思う。

俺は綾子の兄だけど和の親友でもあるから。

俺に知られたら和の耳に入る事はすぐに察しがつく。

だから、綾子は俺にも両親にも黙ってたんだ。

「…」

病室のドアの開く音がした。

肩を落として座っていた由岐が重い頭を上げてドアの方を見るとゆっくりとドアを開けて立っている和が見えた。

「和…」

由岐は和に声をかけると

「…由岐、入ってもいいかな?」

と和は震える声で聞いた。


由岐に促されるまま、綾子の眠ってるベッドのすぐ側にある椅子に和は座った。

「綾子…」

和はとても小さく見える綾子を見て呟いた。

由岐は和の肩を叩くと、少し離れたところにある椅子に腰掛け、テーブルの上の飲み物を震える手で飲んだ。

和は小さく見える綾子を見て驚いた。

自分と別れると言った綾子の胸元にはあのネックレスが光ってる。

和がどうしても外す事が出来なかったネックレスを、綾子も外さずに身に付けてくれてる。

離れていても綾子はずっと自分の事を想っていてくれたと思うと、今まで深い闇に包まれて冷たく凍って少しの風が吹くだけで粉々に壊れてしまいそうだった心が癒された。

和は点滴の管が繋がれた綾子の手を優しく握ると、眠ってる綾子の頬に自分の頬を寄せた。

久しぶりに近くで見る綾子は、とても小さくなったように見えるけど、いつも心の中で見ていた綾子とは比べ物にならないほど美しかった。

どうして、自分はもっとすがって綾子の側にいようとしなかったのだろう?

なぜ、納得出来ないと言って会いに行かなかったのだろう?

和は綾子の寝顔を見ながら後悔していた。

「…なっちゃん」

うっすらと目を開けた綾子が呟いた。

「綾子?」

と和が言うと

「なっちゃん、どうしたの?仕事は?」

と綾子は聞いた。

「…綾子に早く会いたいから急いで終わらせてきた」

と和が微笑むと

「またワガママ言って迷惑かけたんじゃない?ダメだよ」

と綾子は言った。

「…大丈夫。キチンと終わらせてきたから」

と和が言うと綾子は反対の手で和の髪を撫でながら

「なっちゃん、痩せたみたい。仕事無理してる?」

と綾子は言った。

和は綾子の言葉に一瞬ドキッとしたが、それを悟られないように

「そんな事ないよ。綾子に会ったら疲れも無くなったよ。やっぱり綾子はスゴいな」

と和は微笑んだ。

「そっかぁ。でも、なっちゃんはワガママ言いながらも頑張りすぎちゃうから心配だよ。忙しいのは分かるけど、ご飯だけはキチンと食べてね」

と綾子が言うと、和の目に涙が浮かんだ。

「綾子だって、…無理して仕事するだろ?男と同じように頑張っても綾子は女の子なんだからさ。…俺も綾子の事が心配だよ」

と和は溢れてきそうな涙を綾子に気付かれないようにと平然を装った口調で言ってると、和の髪を撫でる綾子の手が優しくそっと和の頬を触った。

「…」

和が黙って目を閉じると

「なっちゃん、どうして泣くの?そんなに仕事キツい?それとも私のせい?」

と綾子は聞いた。

「泣いてないよ。笑ってるよ。綾子といるといつも心が暖かくて笑顔になるんだもん。泣くわけないだろ?」

と和が涙を流しながら笑うと

「そっかぁ」

と綾子は言ってから

「なっちゃん、泣かないでね。なっちゃんが泣いてると私はどうしていいか分からなくて悲しくなる…泣かないで」

と言うと綾子は目を閉じて眠った。


綾子が眠ったあと、和は溢れる涙を拭い綾子を見つめた。

綾子にはやっぱり敵わない。

綾子だって傷付いて俺よりも痩せて倒れてしまったのに、どうして俺の事ばかり心配しているんだ…。

何でそんなに優しいんだ。

どうしてそんなに大きな心で愛で俺を包んでくれるんだ。

和は涙をグッと堪えていた。

自分が今ここで出来ることは、涙を堪えることしかない。

綾子に心配かけないように悲しい想いをさせないように笑う事しか出来ないと和は思った。

必死に涙を堪え肩を震わせてる和の側に由岐がきた。

由岐は涙を流して綾子を見ていた。

「俺の妹は、世界一の女だな」

と由岐が言うと

「そんなの俺はずっと昔から知ってたよ」

と和は言った。


テーブルのある椅子に腰掛けた和と由岐は話をした。

「和、来てくれてありがとう」

と由岐が言うと

「こっちこそ礼を言いたいよ。何も知らないでいたら、俺はずっとあの部屋に閉じ籠ったままで綾子に会えなかったと思う」

と和は言った。

「和、これから綾子とはどうするんだ?」

と由岐が聞くと

「綾子が退院したら今度こそプロポーズする。…けど、それは妊娠とは関係ない。俺は綾子とだから結婚したい。一緒にいろんな事を見て感じて笑って泣いて…たまにはケンカもして、仕事ではお互いに感性を刺激しこれからもずっと成長していける関係で…。そうやって二人で生きていきたい。年取ってじいさんばあさんになった時に、子どもや孫の成長する姿を遠くで見ながら綾子のギターの音色合わせて俺は鼻歌歌って…互いに一緒になって良かったと思えるような夫婦になりたい」

と和は言った。


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