暴かれた真実 その2
沈黙の続く会議室の中で、顔を伏せてる由岐のすすり泣く音が響いた。
「…俺は、インディーズの頃からボレロのファンでした」
と渉が話をはじめた。
「ボレロに憧れてバンド始めて、事務所もボレロと同じところに入ってスゴい嬉しくて…。今もボレロは俺の目標でボレロが歩いた道を自分も歩きたいっていつも思ってて……。けど、俺は今日ほどボレロに失望した日はありません。何が世界進出だよ。ふざけんな…。俺なら世界進出なんてしなくてもいい。綾子と綾子のお腹の子の方がずっと大事だ!」
と渉は言った。
「俺もそう思います。皆さんは世界進出成功させて下さい。綾子と綾子のお腹の子は立派に育てます。事務所が反対するなら俺は事務所辞めてもいいです。どんな仕事でもして立派に育てますから安心して下さい」
と誠も言った。
「俺たちはSperanzaである前に仲間で友人で家族のような存在です。血の繋がりが無くても俺たちは家族です。家族を支えるのも家族です。俺たちがこれから綾子を支えていきます」
と隼人も言った。
「違うんだ…。俺が悪いんだ…俺が何も知らないで綾子と和を離れさせようとしたから…」
と吉川が言うと村上は吉川の顔を思いっきり殴り
「ふざけるなよ!だから前々から和と綾子の事に口出しするなって言ってただろ!お前がボレロのナゴミしか見ようとしかてなかったから、こんな事になったんだろ!和にも綾子にもどう謝るつもりだ!もしも綾子のお腹の子の何かあったらどう責任取るつもりだ!」
と言った。
「すみません…すみません…」
ひたすら謝る吉川に社長は
「お前もボレロのためにと考えてやった事なんだろ?…けど、お前は間違ってる。前にも言ったがうちの事務所は恋愛も結婚も反対しない方針だ。音楽で勝負してるからそんな事は関係ないんだよ。それがいつまでたっても分からないようだな。その上、二人の人生をめちゃくちゃにしようとして…。こんなことして責任取れるのか!」
と怒ったあと
「お前は明日から来なくていい。和のところにも行くな」
と言った。
「社長、申し訳ありません…」
と足元にすがる吉川に
「お前はクビだ。もう二度と顔も見たくない」
と社長は言った。
一方、相川は和の部屋にきていた。
「和、いい加減機嫌なおせよ」
と相川が言ったが和は反応しなかった。
「そうかそうか。俺とは話をしたくないってか?まぁ、いいさ。…そうだ。今日はお土産持って来たんだよ。スゴい曲見つけてさ。お前にも聴かせてやろうと思って」
と言って相川はカバンからPCを取り出した。
「2曲あってさ。どっちもまだデモなんだけどお前も絶対に気に入るよ」
と相川は音源を流した。
その曲は、綾子が清雅に渡した曲だった。
とても切ないメロディーに和は目を閉じた。
綾子の姿がうかんできた。
悲しい顔で笑う綾子は、この世の物とは思えないほど美しい。
和の目から涙が流れた。
次から次へと流れる涙を拭うことなく、和は目を閉じて心のなかに浮かぶ綾子の姿を見ていた。
曲が終わると
「いい曲だろ?俺も始めて聴いたとき泣きそうになったよ」
と相川は言って、次の曲を流した。
とても軽快なリズムで始まる曲は、明るく優しく心が暖かくなるような可愛い曲だった。
「…綾子」
和が呟やくと、相川は和を見て微笑んだ。
曲が終わると相川は
「どうだった?いい曲だったろ?」
と言ったが和はこたえなかった。
「…これさ、二つとも同じ奴が書いたんだよ。全然違うよな。でも、どっちもそいつの大事な人を思って書いた曲らしい。。書く時期によってこんなに変わるなんて驚いたよ」
と言って相川はメモリースティックに音源をコピーして和に差し出し
「一曲目は別れてから書いた曲で、清雅が使う曲だ。二曲目は別れる前にお前のために作った曲らしい。Speranza以外で作る時は一番初めにお前に作りたかったんだって」
と言ってから
「どっちもお前を想って書いた曲。お前への愛が込められてる曲だよ。せっかくこんなに想われてるのに、お前がこんなになってるって知ったら綾子は悲しむだろうな」
と言ってメモリースティックを和に持たせると相川は部屋を出て行った。
和の部屋を出ようとしたとき、相川のスマホの着信音が鳴った。
「もしもし」
相川が電話に出ると
『もしもし、結城だけど。今、電話大丈夫か?』
と結城は言った。
「大丈夫ですけど、どうしました?」
と相川が言うと
『あのさ、オフのところ申し訳ないけど、今すぐスーツ持って事務所に来てくれないか?』
と結城は言った。
「え?スーツ?」
と相川が不思議がると
『ちょっと事情があってさ。社長も待ってるから急いで来てくれ』
と言って結城は電話を切った。
何があったんだろう?と思いながら相川が歩いているとマンションのエレベーターで由岐と村上とすれ違った。
肩をガクッと落として足を引きずるように歩く二人に
「どうしたんですか?」
と相川は声をかけた。
「和のところに…」
と村上が暗い表情で言う隣で由岐は泣いていた。
「何かあったんですか?」
と相川は聞いた。
「いや…どこからどう話して良いのか…。とりあえず、俺たちは和と話をしなきゃいけないんで、相川さんは事務所に…社長が待ってますから」
と村上は涙で目を腫らした由岐を支えて和の部屋に向かって歩いて行った。
27歳を過ぎた男が…それもボレロの中で一番大人でしっかりしている由岐が人前で泣くなんて…。
そして、突然スーツを持ってすぐに事務所に来いと呼び出されて事にとてつもない不安感でいっぱいになった。
村上と由岐がインターホンを鳴らすと和が出てきた。
「どうぞ…」
とうつむいたまま招き入れる和の手には相川に渡されたメモリースティックが握りしめられていた。
部屋に入ると、和はいつものようにソファーに腰かけたが、由岐が泣いてる事には気付かないでいた。
和は机の上に持ってきたPCにメモリースティックを繋ぎ、綾子が和のために作った曲を流した。
「…和、これ…お前が作ったのか?」
と村上が言うと
「綾子」
とだけ和はこたえると目を閉じて曲を聴いていた。
楽しかった頃の思い出が頭に次々浮かんでくる。
「…」
「…」
いつも無表情に宙を見てるだけだった和の口元が少しだけ緩んでる姿を見て村上と由岐は驚いたが、それと同時に和にとっての綾子の存在の大きさを改めて感じて、二人は涙を浮かべた。
曲が終わると和は
「俺にも曲作ってって頼んでたら、こんな可愛い曲作ってたんだよ。こんなの俺には唄えないよ…」
と和は泣きそうな顔をした。
そんな和の姿を見て村上と由岐は胸が痛くなったが
「和、実は話があるんだ」
と村上は言った。
「話?…もう俺は無理って事?…いいよ、別に。俺は一生暮らしてくぐらいは稼いだし」
と和が言うと
「違うんだ。綾子の事なんだ」
と村上は言った。
「綾子?…もういいよ。聞きたくない」
と和が言うと
「和、どうして綾子がお前と別れるって言ったか原因が分かったんだよ。だから、お前にもキチンと話さないといけないと思って」
と村上が言うと
「もう止めてくれよ!原因?そんなの聞いてどうすんの?今さら聞いたって何も変わらないだろ?」
と和は声を荒げて言うと、由岐が泣きながら
「綾子が突然別れるって言った原因は俺たちなんだよ」
と言った。
「俺たち?…何だよそれ?…意味が分かんないよ」
と和が言うと
「そうだよな…。俺たちも信じられなかったし、聞いたときは驚いたよ」
と言ってから
「吉川が綾子にボレロの世界進出が成功するまで結婚を待つように和と話をしてくれって言ったんだよ」
と村上は言った。
「吉川?…世界進出?」
と和が困惑してると
「結婚したことで、ナゴミの人気が下がりその事が世界進出の重荷になるかもしれないって言って…」
と村上は言った。
「そんな事あるわけないだろ?それにだったら結婚はまだしたくないって言えばいいじゃないか?何で別れるって話になるんだよ。大事にしたい人が出来たとか嘘までついて…」
と和が言うと
「…すまん。綾子に大事なものが出来たのは本当だ。でもそれは…」
と村上が言うと
「もういいよ。聞きたくない!俺のせいで悩んだんだろ?で、新しい奴を見つけたんだろ?結局、俺は捨てられたんだよ」
と和が言うと由岐は和の腕を掴んで
「違うんだ。お前の思ってる事なんて無いんだよ。綾子もずっと苦しんでるんだよ!綾子は俺たちの重荷にならないように一人でお前の子どもを産もうと決めて別れたんだよ!」
と言って号泣した。




