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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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誠の怒り

次の日、綾子は相川とともに事務所に行き、清雅と新曲の打ち合わせをした。

綾子が仕上げた曲を清雅はとても気に入り

「情景が浮かぶよ。歌詞のイメージも一度聞いただけで出来てたし…。これをどうゆう言葉で表すか考えるだけでも楽しみだ」

と言って綾子を褒めた。


その後、清雅のスタッフとレコーディングの日程の確認等をした綾子と相川は、Speranzaの打ち合わせに参加した。

打ち合わせと言っても、ジャケットはSperanzaがデビューしたときから数人のデザイナーに頼んで制作してもらってるので、今回もデザイナーが作った何点かの候補の中からジャケットに使うものを選ぶ作業と、発売までの間に行われるプロモーション活動の確認をした。


打ち合わせがほぼ終えたあと、打ち合わせをしていた部屋に由岐とカンジ、村上と下を向いてばつの悪そうな顔をした吉川が入ってきた。

4人は血色が悪く一回りも二回りも小さくなった綾子を見て一瞬驚いた。

和だけじゃ無くて、綾子もかなり大変な状態になっている…。

今は気力で持ちこたえているみたいだけど、その気力が尽きたら和よりもひどい状態になるかもしれないと4人は思った。

「皆さん、どうしたんですか?」

と突然の出来事に驚いた隼人が聞くと

「いや、ちょっと綾子と話がしたくて…」

Speranzaのメンバーが和と綾子が別れた事をまだ知らないと篠田から聞いていた村上は平然を装って言った。

「じゃ、綾子は残ってもらうとして…3人は解散で」

と篠田が言うと

「待って下さい。そちらは4人でこっちは綾子と篠田さんだけっておかしくないですか?俺も話を聞きたいです」

と誠は言った。

篠田と村上は困ったと言う顔をしていたが、いつも冷静な誠がそんなことを言い出すには何か理由があると感じた由岐は

「いいんじゃない?俺だって一人で来るって言ったのにカンジ連れて来たんだし…。綾子は誠と一番仲が良いし何の話をするか気になるんだろ?」

と言った。

「まぁ…じゃ。誠には残ってもらって…渉と隼人には明日にでも話をするからとりあえず今日は解散で…」

と篠田が言うと、渉と隼人は腑に落ちないような顔をしていたが部屋を出て行った。


「まず誠、お前は何か他の知ってるのか?」

と由岐が聞くと

「はい。全て知ってます」

と吉川を見た。

吉川は蛇に睨まれた蛙のような生きた心地のしない不安感でいっぱいと言う顔をした。

「全て?」

と由岐が言うと、誠はうつ向いてる綾子を見て

「はい、全てです。でも、その事を綾子はどうしても知られたくないみたいなので言いません」

と言った。

誰もが次の言葉に困ってるとカンジが

「綾子、本当は和と別れた事を後悔してるんじゃないの?」

と言った。

「私は…後悔してません」

と綾子が言うと

「綾子、俺は綾子が小学生の頃から知ってるんだぞ。由岐だってお前が産まれた時からずっと一緒に育って…そんな嘘がバレないとでも思ってるの?」

とカンジは言った。

「…私は本当に…」

と綾子が言葉に困ってると

「だったら何でそんなに痩せたんだ?顔色だって普通じゃないだろ?」

と由岐は言った。

「別にいつもと変わらないよ」

と言う綾子の顔が一瞬歪んだ。

またあの腹痛がやってきた。

一瞬だけどとても重い痛み。

「綾子、大丈夫か?」

と隣に座る誠が心配そうに綾子に聞いた。

「大丈夫」

と答える綾子と、誠の心配そうな様子を見て

「…和と別れた原因は誠か?」

と村上は聞くと

「違います。それは絶対にありません」

と綾子が答えた。

「でも、前に誠は綾子の事を…」

とカンジが誠を見ると

「…確かに俺は綾子の事を好きですし、綾子にもそれは伝えました」

と誠は言った。

「じゃ、やっぱり」

とカンジが言うと

「でも、それは和さんと別れた後の事だし俺はすぐにフラれましたよ」

と誠は言った。

「…」

部屋に沈黙が流れていると

「じゃ、何が原因なんだ?言えないのか?」

と由岐は言った。

「言えません…」

と綾子がうつ向くと由岐はカンジと村上と顔を合わせて仕方ないって表情をして

「そうか。じゃ、これ以上聞くことは出来ないけど…」

と由岐は言ったあと

「本当に後悔してないのか?もし後悔してるなら和の所に戻ってもいいんだぞ」

と言った。

「後悔してない」

と綾子がこたえると、由岐はため息をついた。

「あの…どうしてそんなに二人が別れた事を気にするんですか?…口では綾子も後悔してないって言うけど、ずっと別れた事を後悔して、でもそれを悟られないように仕事に打ち込んで…でも陰で毎日泣いて。でも、前を向かなきゃならないって必死に頑張ってるのに」

と誠が聞くと

「そうですよ。相川さんに聞きましたけど、和と二人で食事に行った時にも別れたのが嘘のように楽しく笑って酒も飲んで…仕事にも熱心だとスタッフから聞いたって。綾子はそんな事も知らず、ずっと和を傷付けた事にも別れてしまった事にも後悔してて…。そして元気にやってると聞いて今度は和にはもう自分は必要ない自分の存在価値が無いって落ち込んで…。そんな綾子に和の所に戻りたいのかって聞くなんて…いくら兄妹でもひどすぎる」

と篠田は言った。

由岐とカンジと村上は困った顔をしたが

「…綾子、お前が苦しんでた事に気付かなかったのは本当にすまないと思う。でも、後悔してるなら和の所に戻る方がいい」

と由岐が言った。

「いい加減にしろよ!兄貴なら綾子の気持ちももっと考えろよ!」

と誠が怒ると

「誠、すまない。おまえが怒るのも仕方ないと思うけど…違うんだ。戻る方がいいんじゃ無くて、戻って欲しいんだ」

と村上は言った。

「どうゆう意味ですか?」

と篠田が聞くと

「…今、和はオフって事にしてるけど本当は仕事なんて出来る状態じゃないから休ませてるんだ…」

と村上は言った。

「仕事が出来ない?」

と篠田が言うと

「別れた後、和は見違えるように仕事熱心だったし、相川さんが言う通り明るく笑ってて人付き合いも良かったよ。でも、全部綾子のためだったんだよ。仕事を休んでるって知ったら綾子が自分を責める。和の様子が変だって噂がたっても綾子が自分のせいだと責める。だから、無理して仕事して笑って明るく振る舞って…」

と村上は言った。

「メンバーやスタッフを誘って毎晩飲みに歩いていたのは、家に帰るのが一人になるのが嫌だから。それと酒に弱い和は自分でもすぐに眠くなるのを知ってたから、酒を飲んで家に帰ってすぐに寝てしまえば綾子を失った喪失感や孤独感を感じる事なく眠れるからなんだよ」

とカンジは言ったあと

「アイツの部屋に行った時に、俺たち驚いたよ。几帳面な和の部屋に脱ぎ捨てた服や空き缶が散らばってるんだよ」

と言った。

「机の上におまえの好きな向日葵のデカイ花束が枯れたまま置いてあって、アイツそれを捨てようとしたんだけど捨てれなくて泣いたんだよ。どうしてか分かるか?」

と由岐は綾子に聞いた。

「…」

綾子がうつむいたまま黙ってると

「どうして綾子は別れたいって言ったんだろうって、自分の何が悪いんだろうってアイツ俺たちに聞くんだよ。…おまえのためにって気丈に振る舞ってたけど、10日ぐらい前から何かのスイッチが切れたみたいに毎日何をするでもなく部屋の中で過ごしてる」

と由岐は言った。

「毎日、吉川が和の部屋に行ってるんだけど、アイツは無理やりにでも食べさせないと飯も食べないし睡眠も取れてないみたいで…。俺たちも昨日行ったけど、何にも反応しないって言うか無気力でただ生きてるって言うか…あいつには生きる事なんて意味がないみたいで」

とタケが言うと

「綾子がツラい毎日を送ってるのは様子を見れば分かるし、おまえがいつ和と同じ状態になってもおかしくないって言うのは和を見てきた俺たちには分かるし、前を向いて歩こうって思うのも理解出来る。…でも和ともう一度やり直して欲しい。頼む」

と村上は床に座り込み土下座をした。

「…村上さん。やめて下さい」

と綾子が慌てると

「俺が和のために出来ることはこれぐらいしか無いんだ。頼む…和を救ってくれ」

と村上床に頭を擦り付け涙声で綾子に言った。

「…」

誠は村上の隣でガタガタ震えてる吉川を見て

「吉川さん。上司が土下座してるのにあなたは出来ないですか?」

と言った。

「お…俺は…」

と動揺している吉川に

「出来るわけないですよね?だって全部あんたのせいだもんな」

と誠が言うと

「誠、黙ってて。私が悪いんだよ。吉川さんは関係ない」

と綾子は誠に言った。

「綾子、おまえいい加減にしろよ!何が自分のせいだ?全部吉川のせいだろ?おまえも和さんもこんなに苦しんでるのは全部吉川のせいだろ?おまえが別れるって決めたのだってこいつが」

と誠が怒りを吉川にぶつけてるのを綾子は

「誠、やめて!もう言わないで!」

と必死に止めていたが、次の瞬間綾子は下腹部を押さえてた。

「綾子?どうした?大丈夫か?」

と誠が心配そうに聞くと

「お腹が…お腹が痛い」

と真っ青な顔に汗をダラダラ流しうずくまった。

「綾子?大丈夫か?」

と由岐が綾子を支えた。

「綾子?綾子?」

と慌てる由岐と真っ青な顔でお腹を押さえる綾子を見て誠は

「篠田さん…救急車呼んで下さい。」

と言った。

「え?救急車?でも…救急車は…マスコミが…」

と篠田が言うと

「何がマスコミですか?マスコミなんて関係ありません。綾子、妊娠してるんです。こんなに痛がっておかしいじゃないですか!早く救急車呼んで下さい!」

と誠は言った。




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