初めてのお風呂
家に入るとナナは
「先にお風呂使っても大丈夫?身体ベタベタで気持ち悪い…」
と言った。
「いいけど。あのさ…明日、休みじゃん。それに明日には父さんたち帰ってくるし」
と呟いた。
「そうだね。何時頃帰ってくるのかな?ご飯は用意しておいた方がいい?」
とナナが聞くと
「…じゃなくてさ。明日休みだし父さんたちもいないし声とか気にしないで今日は一緒に」
と奏は言った。
「…一昨日もしたよ。またするの?」
とナナが聞くと
「嫌?…嫌なら」
と奏は言ったあとチロッとナナを見て
「何もしなくていいから一緒に風呂入ろう」
と呟いた。
「お…お風呂!」
とナナが驚くと
「うん。父さんと母さんも一緒に入ってるよ」
と奏は言った。
「そうか…じゃなくて、私は綾子さんみたいにお見せ出来るような立派な身体してないし」
とナナが恥ずかしそうに言うと
「もう何度か見てるじゃん。今さらでしょう」
と奏は言ったが
「明るいところと暗いところは違うでしょ?」
とナナは言った。
「…朝も見たけど」
と奏が言うと
「…で、でもやっぱりお風呂はまだ私にはハードルが高いって言うか」
とナナは呟いたので奏は
「まだって、じゃがいもと風呂入ったことなかったの?」
と聞いた。
「ないよ…」
とナナが言うと
「そっか。一緒に初めてのこと経験するの嬉しいな」
と奏は笑った。
「…。もう、私がその言葉に弱いのわかっててわざと言ってるしょ」
とナナが言うと
「いいじゃん。明日からは父さんたちいて入れないし今日がラストチャンスだよ」
と奏は笑った。
先にバスルームに入ったナナは、考えれば考えるほど奏と一緒に入るのがとても恥ずかしくなってきたので
「やっぱり無理。上がっちゃおう」
と立ち上がったが
「入るよ」
と言う奏の声とともにドアが開いたのでナナはタオルを巻くことも出来ず慌ててバスタブの中で座った。
「…どうしたの?」
と奏が聞くと
「ど…どうしたのじゃなくて、入るよって聞いてすぐにドア開けるのは反則でしょ。返事してからにしてよ」
とナナは顔を真っ赤にして言った。
「あっ、…まぁいいじゃん」
と笑うと奏はシャワーを浴びて身体を洗いはじめたのでナナがじっと見てると
「なに?そんなにジロジロ見られると恥ずかしいんだけど」
と奏は言った。
「…いい身体してるなって思って」
とナナが言うと
「そう?ってか、今さら?」
と奏は笑った。
「否定しないんだ。ちょっとムカつく」
とナナが呟くと
「まぁ、勉強ばっかりするのも飽きるし気分転換に鍛えたりしてたらいい感じについてきたんだよね」
と奏は笑った。
「もしかして、鏡の前で自分の筋肉見て喜んじゃったりする人?」
とナナが聞くと
「さすがにそれは無いな。俺、ナルシストじゃないし」
と言ったあと奏はシャワーで泡を流すと
「入りたいからちょっとよけて」
と言った。
「うん。…どっち側によける?」
とナナがどうしようかと迷った顔をしてると奏はナナの肩を押してナナの後ろに入ると
「一緒に入る時は抱っこするんだって言ってたよ」
と言って座りナナの身体を自分の胸に抱き寄せた。
「…誰情報?…また石井さんに聞いたの?」
とナナが少しムッとした顔で聞くと
「まさか。琳と加藤情報だよ。なんでそんなこと石井さんに聞くの?」
と奏は言ったあと
「そんなことよりさ」
と言ったのでナナは
「そんなことじゃないよ」
と言った。
「…」
奏が黙ってしまうとナナは
「石井さんキレイだし、テキパキ動いて仕事も出来そうだし…。大人の女性って感じで、年下みたいって言われる私とは正反対だよね」
と言った。
「まぁ、そうかもしれないけど。でも、石井さんはもうすぐ仕事辞めて地元帰るからね」
と奏が言うと
「辞めるの?」
とナナは聞いた。
「うん。マネジメントの人たちしか知らない話みたいだけど、ゴールデンウィークに帰った時に結納って言うの?なんか、そうゆうのやってきて9月に結婚するんだって」
と奏は言ったあとナナの肩にお湯をかけながら
「石井さんの旦那さんになる人って高校の同級生で大学入ってからずっと付き合ってたんだって。でも去年、実家の仕事継ぐために地元帰っちゃって遠恋してたみたいでさ。だから、俺とナナのこともスゴいいろいろ考えて応援してくれてるし…。だから、別にナナが焼きもち妬くようなことは何もないよ」
と言った。
「そっかぁ…。奏君、寂しい?」
とナナが聞くと
「別に。寂しいって言うよりも幸せになってもらえたらいいなって方が大きいかな?」
と奏は言ったあとナナを抱き寄せて
「ナナの方が楽しそうだったじゃん。彼氏いなかったら立候補するなんて言われてまんざらでもないような顔しちゃって。…村上さんも言ってたけど、あんなの冗談で言われたんだよ」
と言った。
「そんなのわかってるよ。誰も真面目に言ってるなんて思わないよ。それに、まんざらでもない顔なんてしてないよ」
とナナが笑うと
「そうかな?ニコニコ笑ってさぁ…」
と奏は言った。
「それは、場の雰囲気に合わせて…。あそこで嫌だって言うと何真面目に捉えてるの?って思われそうだったし。あっ、また焼きもち?」
とナナが聞くと
「そっちだってそうじゃん。石井さんに嫉妬して…ってかさ、ナナも嫉妬したりするんだね」
と奏は笑った。
「そりゃ…ね。石井さん、美人だし…」
とナナが言うと
「確かに美人だね。それに大人だし気が利く人だし」
と奏が言ったのでナナが面白くないような落ち込んでいるような顔をすると
「でも、俺とは合わないな。俺自身があんまり感情とか表に出すの苦手だし話するのもどっちかと言うと苦手だから冷めてるって思われること多いけど、逆にバカみたいに怒ったり笑ったりってはっきりしてる人の方が俺には合うような気がする。じゃないと相手がなに思ってるか気付かないしさ」
と奏は言った。
「…でも感情がすぐに表に出るよね?」
とナナが言うと
「そうだね。…今までは嫌なこととか表に出さないで我慢しなきゃいけないって思ってたけど、それは違うんだなって思うようになってきたんだ。表に出さないと誰にも伝わらないし、ただ自分の中でモヤモヤしてるだけで何も解決しないんだってナナに教えられたよね」
と奏は言った。
「私?」
とナナが聞くと
「うん。ナナは笑ったり喜んだり恥ずかしがったり怒ったり拗ねたり泣いたりって何でも隠さずにするじゃん」
と奏は言った。
「それ、子どもっぽいってちょっとバカにしてる?」
とナナが聞くと
「違うよ。ナナはスゴい子どもみたいに素直な人だけど、だからってワガママって訳じゃなくて相手のこともスゴく考えて行動する人だって思ってるよ。それに、そうゆう人だからナナは自分に合ってるんだと思う。自分のことと同じくらい俺のことを考えてくれてる…だから、俺の悪いところは悪いと教えてくれるし良いところは良いと誉めてくれる。それに初めからナナは自分が好かれるために良いことばかり言う人じゃなかったし本当なら話したく無いだろう自分の恥ずかしい部分も話してくれたし…。だから、俺もナナの前では自分に正直な人間になれる」
と奏は言った。
自分が特別だと言われてるように感じナナは嬉しさのあまり泣きそうになったが、それを悟られないように笑い
「私って実はスゴい人だったんだね」
と言うと
「かもね。まぁ、出会いからスゴかったし」
と奏も笑った。
「だよね。奏君、人生初のナンパだったんだもんね」
とナナが言うと
「相川さんに言われて無理矢理ね。怪しい奴とか思われて断られたらどうしようってめちゃくちゃ緊張したよ」
と奏は言った。
「そうなの?そんな風に見えなかったけど」
とナナが言うと
「そう?もうさ、写真撮ったらお別れで良いのに相川さん飯に誘うしさ。なんでそんなこと言うんだよって思ったしさ」
と奏は言った。
「そうだったね。相川さんに誘われてご飯一緒に食べたんだったね。…あの時、奏君全然話しなくて黙々と食べてたよね。…そう言えば、ジップ東京で会った後も琳君たちは話するけど奏君は黙々とおにぎり食べてた」
とナナが笑うと
「女の人と話したことほとんど無いから何を話して良いかわかんないし琳たちと楽しくしてれば俺は黙っててもいいかなって思ってたから。でもさ、駅でみんなと別れたじゃん。あの時ナナが泣いてるの見てビックリしたんだよね。そんな知り合って間もないのになんで泣くかな?って不思議だったし。…そう言えば、連絡先も交換したよね?あれってもしかして…あの時から俺のこと好きだったの?」
と奏は聞いた。
「そうだよ。私、一目惚れだったもん。前にも話したしょ」
とナナが開き直って言うと
「そう言えばそうかも」
と奏が笑ったので
「でも、奏君の顔で一目惚れしたって訳じゃないんだよ。なんか、スゴい直感的にこの人って思っちゃったんだよ。私、それまでそんなこと無かったから自分でも驚いちゃったけど、奏君見れば見るほど話すればするほどどんどん好きになって…。呆れられたりからかわれることばっかりだったのになんでなんだろうね」
とナナは恥ずかしそう笑いながらに言った。
「なんでだろうね?好かれるようなことした覚え無いんだけどね」
と奏も恥ずかしそうに笑いながらナナの胸をさわったので
「何もしないって約束でお風呂入ったんだよね?」
とナナは聞いた。
「ん?…まあ細かいことはいいじゃん」
と奏が胸を揉みながら言うと
「ここでするの?…明るいし嫌だな」
とナナは言った。
「じゃあ、風呂上がったら俺の部屋行こう。明日は休みだしゆっくり寝てても誰にも何も言われないし」
と奏がナナのうなじにキスをすると
「奏君も予定なし?」
とナナが聞いたので
「なし。みんな、それぞれ予定あるみたいだけど俺は何にもなし。…父さんたちもいないし明日は二人でゆっくりしよう」
と言うと奏はうなじから首筋に唇を移動して
「早く部屋行こう」
と甘い声で呟いた。




