ナナの知らない奏 2
ナナたちが席に着くと相川は
「じゃ、うちの可愛い子たち紹介しますね。俺の隣から渡辺君と石川君。村上さんの隣が田口さん…田口さんはたぐっちゃんて呼ばれてるうちのアイドルだから。くれぐれも手出しはしないように」
と笑った。
「よろしくね」
と村上が言うと
「村上さんはカナデのチーフマネージャーとボレロのチーフマネージャー兼任でやってるし顔も含めて業界じゃ有名なマネージャーなんだよ」
と相川は言った。
「そうなんですか…」
とナナが言うと
「たぐっちゃん、村上さんにナゴミのこと聞いてみたら?確か、大ファンだったよね?」
と相川は言った。
「そうなの?ナゴミのファンなんだ」
と村上が驚いた顔をすると
「はい。兄がボレロのファンでその影響で私も小学生の頃からずっと好きです」
とナナは言った。
「小学生の頃から?すごいね…、それ聞いたらナゴミ喜ぶだろうな」
と村上は嬉しそうに笑うと
「そうだ。俺たちの紹介してなかったな。まず、俺はオリエンテーションでも会ったとは思うけど村上です。そして石川君の隣に座ってる女性がカナデの現場マネージャーの石井でその隣が今回君たちにプロモーション活動を手伝ってもらったカナデ。一応、カナデは顔出ししないことになってるから今日ここで会ったことは内緒にしてもらいたいんだけど」
と言った。
「はい。大丈夫です」
とナナが緊張ぎみにこたえると、その様子を見てた奏がクスッと笑ったので石井は
「奏君、何笑ってるの」
と小声で言うと奏が太ももを軽く叩いた。
「痛い…」
と奏が呟くと
「これが痛いわけじゃないでしょ?だいたいね、ピーマン嫌いとかって好き嫌いするからちょっとしたことでも痛く感じるような弱い身体になるのよ」
と言って奏の皿にピーマンを入れた。
「好き嫌いするから痛いって意味わかんないですよ」
と言いながら奏は石井の皿にピーマンを入れていたが、先日ナナがピーマンの肉積めを作ってくれたのを思い出しハッとした顔をしてナナをチラッと見た。
「奏、またたぐっちゃんのこと見てる。お前、彼女いるのに本当ダメだぞ」
と佐藤が言ってたが耳に入らない奏が困った顔をしてると
「…ピーマン、苦手なんですか?」
とナナは聞いた。
「あっ、いや…苦手って言うか。これはたまたま苦手で」
と奏が言うと
「これじゃなくてピーマン入ってると絶対食べないのよ。子どもじゃないんだから好き嫌いしないで食べればいいのにね」
と石井は言った。
「…そうですね」
とナナが無理に笑ってると
「ほら、たぐっちゃんも言ってるんだし食べてみなよ」
と石井は笑った。
「わかりましたよ…」
と奏がピーマンを一口食べると佐藤が
「おお、奏がピーマン食べてる」
と驚いた顔をして
「えらい。えらい。今度はパクチー食べれるように頑張ろうね」
と石井は嬉しそうに笑った。
「パクチーはいいよ…」
と奏が言うと
「パクチーも苦手なんだ…」
とナナは呟いた。
ナナが驚いたような顔をしているに気付いた村上が
「俺も苦手だけどね」
と笑ってると渡辺が奏を見て
「カナデさんの付けてるネックレスってボンダのですよね?ボンダ好きなんですか?」
と聞いた。
「はい。…これは貰い物ですけど」
と奏が言うと
「俺も好きなんですよ。そのネックレスって限定ですよね?よく手に入りましたね」
と渡辺は羨ましそうに聞いた。
「そうなんですか?」
と奏が村上に言うと
「そうなのか?ボレロの撮影の時に奏がボンダのアクセサリー好きだったよなと思って買い取っただけだから知らなかった」
と村上は言った。
「…」
ナナは奏がピーマンやパクチーを嫌いなこともボンダと言うブランドが好きなことも知らなかったなと思いながらビールを飲んでると
「たぐっちゃん、今日は結構飲むね。本当は飲める方なの?」
と石川は聞いた。
「そう?…飲み過ぎかな」
と笑ってナナが枝豆を手に取ると
「また枝豆。それ、誰のかわかんないのに勝手に食べて」
と石川は笑ったので、ナナは恥ずかしそうに枝豆を小鉢に戻した。
「大丈夫大丈夫。それ、俺が食べてた奴だしもう食わないからたぐっちゃん食べな」
と佐藤が笑うと
「私食べないから、これも食べていいよ」
と石井が小鉢をナナの前に置いた。
すると奏が
「石井さん好き嫌いはダメですよ。ほら、俺の食べて下さい」
と石井の前に自分の枝豆の入った小鉢を置いた。
「…」
石井がムッとした顔をしてると
「人に食べろって言うなら自分も食べないと」
と奏は笑った。
「奏、ついに石井ちゃんに勝ったな」
と大川が笑うと
「別に嫌いなわけじゃないですよ。たぐっちゃんが好きだって言うからあげただけで。…食べますよ」
と言って枝豆を食べたので
「えらい。えらい」
と奏は笑った。
「すっかり立場逆転だな。石井、このままだと奏に頭上がらなくなるぞ」
と村上が笑うとまわりもみんな笑ったが、ナナは女性が苦手な奏が石井とはふざけ合うぐらい気を許してるんだと思うと複雑な気持ちになった。
「…」
ナナが無理して笑ってるのに気付いた相川が
「そういえば、君たちの間で今、流行ってることがあるって聞いたんだけど何が流行ってるの?」
とナナに聞いた。
「流行ってることですか?」
とナナが言うと
「あっ、それ北海道弁じゃないですか?」
と石川が言ったので
「北海道弁?」
と村上は聞いた。
「はい。鈴木さんとたぐっちゃんが北海道の人なので話をしてると北海道弁が出てきて、聞いてるうちにうつったと言うか」
と石川が言うと
「へぇ。それってどんな感じなの?」
と村上は聞いた。
「どうゆう感じって言われたら困りますけど。…渡辺が上手いですよ」
と石川が言うと
「俺?俺、北海道弁なんて上手くないべさ。なまら練習してもたぐっちゃんみたいに話せないしょ」
と渡辺は笑った。
「渡辺君、うちら北海道民をバカにしてるしょ」
とナナが言うと
「バカになんてしてないべさ。なぁ、石川?」
と渡辺は笑った。
奏は隣に座る大川たちと話をしていたが、ナナが楽しそうに渡辺たちと話をしていることが気になって大川たちの話は耳に入ってこなかった。
「…」
でも、この場で俺の女に親しくするななんて言ったらまわりが引いてしまうのは目に見えてるし、ナナの立場もなくなってしまう。
とりあえず落ち着こうと思った奏はウーロン茶を飲もうとしたがグラスが空になっていたのでナナたちと楽しそうに話をしている石井に
「石井さん、飲み物欲しいんですけど。頼んでもらえますか?」
と少し不機嫌そうに言った。
「ごめんなさい。えっと…皆さんは何にしますか?」
と石井が聞いてると
「すみません。気が利かなくて」
とナナは言った。
「いいの。私の仕事だから。たぐっちゃんはビール?それとも違うの飲む?」
と石井は聞いた。
「すみません。私はウーロン茶でお願いします」
とナナが言うと
「ウーロン茶?ラストオーダーだよ?」
と石井は聞いた。
「はい。あまり飲むと皆さんに迷惑かけてしまいそうなので」
とナナが苦笑いをすると
「そう?全然しっかりしてるのに」
と石井は言った。
飲み物が運ばれてくると、石井は手際よくみんなに飲み物を配り
「奏君、たぐっちゃんも北海道に住んでるんだって」
と言った。
「そうなの?たぐっちゃんは北海道のどこに住んでるの?」
と大川が聞くと
「私は小樽です」
とナナは言った。
「そっか。奏の彼女も北海道なんだよ。奏の彼女は北海道のどこに住んでるの?」
と大川が聞くと
「別にどこでもいいじゃないですか。彼女の話はやめましょう」
と奏は言った。
「奏は照れ屋だからな。たぐっちゃん聞いてよ。こいつ、こんな顔してるくせに女慣れしてなくて今の彼女が初カノなんだよ。でさ、初めは向こうに押されて嫌々付き合ってたみたいなことを言ってたんだけど」
と大川が話をしてると
「大川さん。やめましょうよ。田口さんもそんな話聞きたくないと思いますよ」
と奏は言ったが大川は話を続けた。
「そのうち、相手が年上だから慣れてないと思われたくないみたいで、キスの仕方やエッチの仕方まで俺たちに聞いてきてさ」
と大川が言うと
「勝手に大川さんたちが話してきただけで、俺は教えてくれと言ったことないじゃないですか」
と奏は言った。
「そうか?でも、ゴールデンウィークに初エッチして大成功だったんだろ?それって俺たちがいろいろ教えてやったおかげじゃん」
と大川が言うと
「ゴールデンウィークって…そんなことまで話してるんですか?」
とナナは目を丸くして驚き奏を見た。
「話してないよ」
と奏は言ったが話に交じってきた佐藤が
「話してただろ。次の日シーに行く約束してたのにめちゃくちゃヤりまくったとか、彼女の喘ぎ声がエロ過ぎて興奮したとか」
と笑ったが
「そんなことまで言ってませんよ」
と奏は困った顔をした。
「…じゃ、どんなこと言ったのよ」
とナナがとても小さな声で呟くと村上が
「おい。いい加減にしろよ。石井はお前たちのエロ話を聞きなれてるにしても、たぐっちゃんは困った顔してるだろ」
と言った。
「そうだよね。つい、いつものノリで話ちゃったけど女の子いるんだもんな。たぐっちゃん、ごめんね」
と酒井が言うと
「酒井さん、私も一応女の子ですよ」
と石井は言った。
「そっか。石井ちゃんも女の子か。エロ話してても全然嫌がらないし、女の子ってこと忘れてたよ」
と酒井が笑うと
「嫌がらない訳じゃなくて、聞かないようにしてるんです」
と石井は言った。
「いいや。しっかり聞いてるよ。ゴールデンウィークだって奏は彼女とホテルとって泊まろうと思ってたけど石井ちゃんに止められて家に泊まらせたじゃん」
と大川が言うと
「それはどこに泊まるか相談されたからですよ。それに、ホテルになんて泊まるお金あれば彼女に何か買ってあげたり北海道に行ったり出来るんだよってアドバイスしてあげただけで止めたわけじゃないですよ。そうだよね、奏君?」
と石井は聞いたが、何を言ってもナナに誤解されるだけだと思った奏は
「いや…。俺、わかりません」
とあやふやにしかこたえられなかった。
「…」
ナナが怒りや恥ずかしさでこの場から今すぐ立ち去りたい気持ちをグッと堪えながらウーロン茶とグイグイと飲んでると
「たぐっちゃん、それ俺のウーロンハイ」
と村上は慌てた顔で言ったので、ナナは慌ててグラスから口を離し
「すみません。自分のグラスと間違えちゃって。本当にすみません」
と謝った。
「俺は別にいいけど、たぐっちゃんは大丈夫?あんなに勢いよく飲むと酔いがまわるんじゃない?帰り大丈夫?」
と村上が心配そうに言うと
「私、お酒は強い方なので大丈夫ですけど、ラストオーダーだったのにほとんど飲んでしまって。本当にすみません」
とナナは言った。




