東京2日目 1
駅までの道沿いで
「…奏君もピアス着けてくれてるんだね」
とナナが嬉しそうに言うと
「気に入ってるから…」
と奏は言った。
「気に入ってくれたんだ」
とナナは嬉しそうに笑ったあと
「あのさ…昨日の夜って…」
とナナは聞いた。
「なに?」
と奏が聞くと
「…朝起きたらパジャマだったし。その…夢…だったのかな?って思って…」
とナナが言ったのでと奏は顔を真っ赤にして
「夢って…。ナナさん、どんな夢見たの?」
と聞いた。
「…それは。…別にいいんだ。今、聞いたこと忘れて」
と言ったナナは、あんな夢を見たなんて自分はまるで欲求不満みたいで恥ずかしいし奏には絶対に言えないと思った。
「…」
「…」
二人の間に妙な沈黙が流れたまま駅に着くと奏は
「切符買ってくるから、ちょっと待ってて」
とナナから離れて券売機の列に並んだ。
奏はナナが突然何を言い出すんだろうと考えていた。
…昨夜のことってあれのことだと察しはつくが、それをどうして夢だと思えるんだ?
もし、夢だと言うならいったいナナはいつもどんな夢を見てるんだ?
パジャマを着てたって言ったけどそれは夜中にナナが目を覚まして、もしも裸いるのを親に見られたら困るって言って自分で着たんだし、俺にも服を着ろと言ってたんじゃないか。
…本当は朝まで素肌と素肌で温もりを感じてたかったし、朝起きた時だってもう一度ナナを感じたいって思ったのを必死に我慢して寝かしてあげたのに。
それを夢だったとか思い込むなんて…。
今朝だって、昨夜のことで気まずい感じになりたくなかったからその話題に触れないように気を使ってたのに…。
それを夢で済ませようなんて…。
「…」
奏は切符を買いながら、少しイライラしてきた。
自分にとっては初めての経験だったし、改めてナナを自分とは違ってか弱い女性なんだと認識して大事にしなきゃなんないんだって思ったとてつもない大きな出来事だったのに、ナナの中では夢だと言えばそれで済まされてしまうような出来事だったなんて。
「…なんかムカつくな」
と呟いた奏は切符を手に取るとナナのところに戻り
「はい。往復分買ったから無くさないように気を付けてね」
とナナに渡した。
「ありがとう」
と言ったナナは奏が少し不機嫌そうな顔をしてるのに気付いて
「…どうしたの?」
と聞いた。
「…別に」
と言って奏が改札機を抜けるとナナも後を追うように改札機を抜けた。
「…奏君」
とナナが声をかけると
「なに?」
と奏はこたえたが、ナナはそれ以上なにも言わないで奏の隣を歩いた。
いつもなら握ってくれるはずの手を握ってくれない…。
ナナは寂しい気持ちと悲しい気持ちでいっぱいになった。
奏はなにに怒っているんだろう?
いや、もしかしたら奏の気持ちが離れ始めているのでは?
でも、どうして突然こんなことになったのか?
昨日のことが夢だとしたら、ナゴミや綾子に会って浮かれた自分に愛想尽かした?
奏は優しいから今日も無理に自分に付き合ってくれてるのかもしれない。
ナナはあれこれと考えながらも奏の小指をキュッと握った。
奏は嫌なのかもしれないけど、…それでも奏の手を離したくない。
こうゆうことをして奏を引き留めようとするのはズルいことなのかもしれないけど、それでも奏には側にいて欲しい。
自分を捨てないで欲しい…。
一方、奏は自分が手を握ろうと思った時にナナから小指を握られてドキドキしていた。
今までナナから手を握ってきたことなんて無かったし、こっちから握ると毎回恥ずかしそうな顔をしていたのに今日はどうしたんだろう?
…それも小指だけなんていじらしいことをして。
ちょっと前に感じたナナへの苛立ちなんて、あっという間に無くなりナナへの愛しさで心はいっぱいになり…ナナのとる行動の1つ1つに一喜一憂してる自分はとんでもなく単純な人間だと思い思わず笑ってしまいながら、ナナが繋いでる小指を離すとキュッとナナの手を握った。
「奏君、怒ってない?」
とナナが不安そうな顔で聞くと
「怒ってないよ」
と奏は笑った。
「そっか…よかった」
とナナが安心したように笑ったので、奏はナナのことを今すぐ抱き締めたいと思ったがその気持ちをグッと堪えて
「乗り換えあるからね。はぐれないように手握っててよ」
と言った。
舞浜駅に着いた奏とナナは駅を出て歩いているも
「やっぱり混んでるね…」
とナナは言った。
「そうだね。先にチケット買っておいて良かったよ」
と奏は言ったあと
「ランドで良かったの?本当はシーに行きたかったんじゃないの?」
と聞いた。
「そんなことないよ。シーは行ったことあるからランド来てみたかったんだよね」
とナナが言うと
「ランドはないの?」
と奏は聞いた。
「うん。なかなか来る機会なくてね」
とナナは苦笑いすると
「奏君はある?」
と聞いた。
「俺?去年の春休みに琳たちと来たよ。男だけで夢の国って行くまで不安だったけど、行ってみたら楽しくてさ。だから、今年はシーに行っちゃったんだよね」
と奏が言うと
「そっか。東京に住んでたら近いし来るよね?私だったら年パス買っちゃうかも」
とナナは笑った。
「そんなにディズニー好き?」
と奏が聞くと
「うん。だからね、今日も楽しみだったんだ。シンデレラ城で写真撮ってミッキーと写真撮って…」
とナナは目をキラキラさせて言った。
「写真ばっかりじゃん」
と奏が笑うと
「違うよ。乗り物にも乗りたいしパレードも見たいしポップコーンも食べたいし…」
とナナは言ったので
「入る前からそんなにはしゃいでたら疲れちゃうよ」
と奏は笑った。
「大丈夫」
と言ったナナは入口が近付いてくると
「ねぇ、早く行こう」
と奏の手を引っ張った。
パーク内に入るとナナはすぐにショップを見たそうな顔をしていたが
「先に買っちゃうと荷物になるよ。後で来よう」
と奏が言ったので
「…そうだね」
とナナは名残惜しそうにショップを見ながらも先を進んだがシンデレラ城が見えてくると
「うわぁ、シンデレラ城だよ。ねぇねぇ、奏君。シンデレラ城」
とナナは嬉しそうに言った。
「わかってるよ」
と奏が笑うと
「パークの中って隠れミッキーいるんだよね?奏君、探してみたことある?」
とナナはテンション高く聞いた。
アトラクションに乗り二人で写真を撮ったりパレードを見たり…としているうちにあっという間に時間は過ぎ辺りは夕暮れになってきた。
奏が空にスマホを向けていると
「何撮るの?」
とナナは聞いた。
「ん?夕焼け雲。いろんな色しててキレイじゃない?後でインスタに載せようかと思って」
と奏が言うと
「インスタ?…そう言えば、マメに更新してるもんね」
とナナは言った。
「仕事だからね」
と奏が苦笑いすると
「それも仕事なの?」
とナナは聞いた。
「仕事ってほどの仕事じゃないけど、仕事ってことにしてないと面倒くさって思って更新サボっちゃうからさ。3日サボると石井さんから連絡くるようにしてるんだ」
と奏が笑うと
「石井さん…マネージャーさんだっけ?」
とナナは聞いた。
すると奏はスマホを開き
「うん。…うるさいだよね、あの人。今日だって休みだって言うのにline寄越してさ…。その内容がまたくだらないって言うか…」
と言って奏はlineの開くと
「見て、実家に帰ってるからって富士山の日の出写真送ってきたんだよ。どんだけ暇なんだよ」
と言った。
「でも、富士山の日の出なんてスゴいじゃない」
と言ったあとナナは名前を見て
「石井郁美…さん?石井さんって女の人だったの?」
と驚いた顔をした。
「そうだよ。言ってなかった?」
と奏が言うと
「うん。男の人だとばかり思ってた」
とナナは言った。
「そうなんだ。石井さん、見た目はキレイなお姉さんって感じの人なんだよ。写真あったかな?」
と奏が言うと
「ふーん…。別に奏君の仕事のことわかんないし写真見なくてもいいや」
とナナは言った。
「そう?」
と奏は言ったあと
「もしかして、ちょっと心配だったりする?」
と笑った。
「別に。仕事の人でしょ?」
とナナが言うと
「本当?ちょっとは気になったり妬いたりしない?」
と笑った。
「そりゃ…ちょっとは…」
とナナが言うと奏は嬉しそうに
「マジ?ちょっと嬉しいかも」
と笑った。
「う…嬉しいの?」
とナナが聞くと
「そりゃ嬉しいよ。ナナさんが妬くなんてこと今まで無かったじゃん」
と奏は言った。




