夕食後 1
夕食が終わると
「あの、お手伝いします」
とナナは言ったが
「大丈夫だよ。食洗機に入れるだけだから。ほら、向こうで奏たちと座ってて」
と綾子は笑った。
ナナがリビングでくつろいでいる奏の隣に座ると向かいに座ってた和は
「お茶でも入れようか?」
とナナに聞いた。
「いえ、大丈夫です」
とナナが言うと
「遠慮しなくていいから。ちょっと待ってて」
と笑って和はキッチンへ行った。
「…優しい」
とナナが呟くと奏がジロッとナナを見たので
「な…なに?」
とナナは聞いた。
「…別に」
と奏が呟くと
「なに?なに怒ってるの?」
とナナは小声で奏に聞いた。
「別に怒ってないし」
と奏が呟くと
「だってジロッて嫌な目で見てたじゃない」
とナナは言ったが
「見てないよ」
と奏は言った。
キッチンでハーブティーを入れてる和が
「ちょっと綾子、見てみろよ。奏のやつ…」
と笑うと
「本当だ。奏もああゆう顔するんだね」
と綾子は和の隣に立って言った。
「ちょっと寂しかったりする?」
と和が笑うと
「別に寂しくなんてないよ。我が家には奏よりも手のかかる人がいるんだから」
と綾子は笑った。
「そんな人いた?」
と和が聞くと
「いるじゃない。ここに」
と綾子は笑った。
「そう?じゃ、その手のかかる人の相手してよ」
と言って和が綾子の頬にキスをすると綾子は和の頭をペチンと叩いて
「何が相手よ。ほら、早くお茶持ってってあげて」
と笑った。
「はいはい…」
と和が言ってお茶を奏たちのところに持ってくとインターホンが鳴ったので綾子は受話器を取って
「はい。あっ、お兄ちゃん?今、開けるね」
と言った。
お茶をテーブルに置きながら和が
「なに、本当に来たの?物好きだな…」
と言うと
「本当だよね。ナナちゃん、ゴメンね。私のお兄ちゃん来るけどすぐに帰ってもらうから」
と言って綾子はリビングを出ていった。
ソファーに座わり和が
「あいつ、仕事から直できたのか。こっちに来るより義母さんとこに顔出してやれよ」
と言ったので
「家に戻る前にばあちゃん家に寄ったら風呂入ってるって言ってたよ。休みだったんじゃない?」
と奏はハーブティーを飲みながら言った。
「マジかよ。仕事すれよ」
と和が文句を言ってるとリビングのドアが開き綾子が由岐と一緒に入ってきたので
「えっ!えーっ!」
とナナは奏と由岐を交互に見て目を丸くした。
「ナナさん、落ち着いて…」
と奏は呆れたように言ったが
「えっ?だって…。あっ…そっか…。えっ?…でも…」
とナナは動揺していた。
ナナの様子が気にならないのか由岐が平然として和の隣に座ると
「綾子、俺にもお茶くれよ」
と由岐は言った。
「はいはい。…ナナちゃん、ゴメンね。急に来て驚くよね」
と言って綾子がキッチンに行くと
「由岐、挨拶すれよ。ほら、奏の彼女の…」
と和は言ったが名前が出て来なかった。
「田口ナナさんだよ」
と奏が言うと
「は…初めまして。田口ナナです」
とナナは深々と頭を下げた。
「初めまして。奏の叔父の早坂です。わざわざお土産持ってきてくれたみたいで。奏のじいちゃんもばあちゃんも喜んでたよ」
と由岐が言うと
「いえ…。そんな…。たいした物じゃなくてすみません…」
とナナは申し訳なさそうに言ったが綾子は由岐のお茶とナナからもらったお菓子をテーブルに置くと和の隣に座り
「ナナちゃん、そんな緊張しなくていいからね」
と言った。
「はい。…すみません」
とナナが謝ると由岐は笑いながら
「別に謝るようなことしてないでしょ?本当、緊張しなくていいからね」
と言った。
「はい…」
とナナが由岐の笑顔にドキドキして顔を赤くしてると
「由岐は優しそうな顔してるけど、本当はスゲェ怖い人だからね。心の中で何を考えてるかわかんないよ」
と和は言った。
すると由岐は和の頭を叩きながら
「人聞きの悪いこと言うなよ。心の中で何を考えてるかわかんないのはお前だろ」
と笑った。
「なに言ってるんだよ。俺はお前らに言われた通り、奏に恥をかかせないようにって頑張ってるんだぞ。誉められても良いぐらいなのに心の中で何を考えてるかわかんないなんてヒドくない?」
と和が綾子の肩に腕をまわして聞くと
「ここでそれを言っちゃう時点でどうなの?もう疲れたの?」
と綾子は聞き返した。
「疲れはしないけどさ…。どうせ、ボロが出るだろうし面倒じゃん」
と和が言うと
「ボロが出ないように頑張れよ」
と由岐は笑った。
「…」
3人のやり取りをナナは黙って見ていたが奏は
「無理に頑張らなくてもいいよ。普段の父さんはナナさんが思ってる人と全く違うって言ってあるし」
と言ってお菓子を1つ手に取った。
「全く違うって。彼女の中での和はいったいどんな人なんだよ」
と由岐が笑うと
「どんなだっけ?」
と奏はナナに聞いた。
「えっ…!」
とナナは和たちがジッと見てるので困った顔をしてると
「なんだっけ?歌も声も顔も全部良くてSが少し入ってるあの瞳で見つめられたらキュン死してしまいそうで…。あとなんだっけ…色気があるんだっけ?」
と奏は笑った。
「まんま、俺じゃん」
と和が笑うと
「…」
「…」
綾子と由岐は呆れてるような冷めた目で和を見たので
「で…でも私、綾子さんもナゴミさんと同じぐらい大好きですよ。綾子さんは覚えてないと思うんですけど、札幌でライブあったときにバイトの私たちに優しく声をかけてくれたり駅で会った時も優しくしてくれて…私も綾子さんみたいな女性になりたいって憧れてます」
とナナは恥ずかしそうに言った。
「憧れてるなんて…そんなお世話いいわよ」
と綾子が言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をすると
「母さん、お世話だから」
と奏は笑った。
「わかってるわよ。本当、奏は一言多いんだから…」
と綾子が言うと
「じゃあさ、由岐はどう?ドラマーのクセにドラマとか出ちゃって何を勘違いしてるだとか、実際会ってみたらそんなに良い男じゃないなとか…」
と和は笑った。
「なんだよそれ。実際会ってみたらたいした男じゃないのはお前だろ」
と由岐が笑いながら和の頭を叩くと
「ユキさんは、優しい人なんだろうなって思ってました。あと、とても真面目な人なんだろうなって…」
とナナは言った。
「優しい人だって。良かったね」
と綾子が笑うと
「真面目だって。良かったね」
と和は綾子の真似をして笑った。
「和が言うとなんかムカつくな…」
と由岐が言うと
「そんなこと言わないでよ。お兄ちゃん」
と和は更に綾子の真似をして笑った。
「なにがお兄ちゃんだよ。綾子の真似しても似てないんだよ」
と由岐が笑うと
「そっくりだと思うんだけど、似てないかな?」
と和は綾子に聞いた。
「似てないし、そんな言い方しないし」
と綾子が言うと
「じゃナナちゃん、奏は?どこが良かったの?」
と由岐は聞いた。
「えっ…。いいよ、そんなの聞かなくても」
と奏が言うと
「俺も知りないな。奏の良いところ」
と和は笑った。
「でも…」
とナナが困った顔をして奏を見ると
「言わなくて良いから」
と奏は言った。
「なんで、私も聞きたい」
と綾子は言ったあと何かひらめいた顔をして
「なっちゃん、ナゴミで頼んでみてよ。そしたらきっとナナちゃんも話すって」
と言った。
「えっ…無理です。奏君に怒られるますから」
とナナは言ったが和は綾子の肩にまわした腕を離すと
「普通、タダではやらないんだよ」
と言ってから眼鏡を取るとナゴミ独特の艶のある瞳でナナをジッと見つめて
「ねぇ、意地悪しないで教えてよ。教えてくれないと、もっと意地悪なことするよ。それとも意地悪されたくてわざと?」
と言った。
「…は…はい。教えます。教えますので許して下さい」
とナナが顔を真っ赤にして言うと
「ナナさん!なにやってるの?騙されてるんだよ」
と奏は言った。
すると、今度は由岐が優しい瞳で
「奏、人聞きの悪いこと言っちゃダメだよ。…ナナちゃん、無理にとは言わないけど僕も聞きたいなぁ。奏のどこに惚れたのか」
と言ってニコッと笑った。
「…言います」
と更にナナが顔を真っ赤にしてこたえると
「ナナさん、これは罠だって。俺たちのことを面白いおかしく笑ってやろうとしてる罠だから。騙されるなよ」
と奏は言った。
「…で…でも」
とナナが言うと綾子はソファーから立ち上がりサイドボードの棚から2枚の色紙を持ってきてナナに見せると
「ナナちゃんにってボレロとSperanzaのサイン色紙用意したんだけど…。欲しい?」
と綾子は聞いた。
「…ほ…欲しいです」
とナナが言うと
「じゃ、話しちゃおうか?」
と綾子は笑った。




