夕食を囲みながら
奏とナナがダイニングに行くとダイニングテーブルにたくさんの料理が並んでいた。
「ナナちゃん、お腹空いたでしょ?こっちに座って」
と綾子が言うと
「ナナさん、俺の前に座りな」
と奏は言った。
「うん…」
と言ってナナが奏の正面の椅子に座ると綾子はキッチンから
「ナナちゃん、お米は食べる?」
と聞いた。
「はい。あっ、少しで大丈夫です」
とナナが緊張気味に言うと和はグラスにミネラルウォーターを注ぎ
「氷は使う?」
とナナに聞いた。
「はい。…いえ、大丈夫です」
とナナが更に緊張気味に言うと
「そんなに緊張しなくていいから」
と和は笑った。
ご飯の入った茶碗を奏とナナの前に置きながら綾子が
「大好きなナゴミの前だもん緊張するわよね?奏は面白くないかもしれないけど」
と笑った。
「はい。…いえ…」
とナナが困った顔をすると
「別に面白くないなんて言ってないよ。俺は父さんとは違うんだから、それぐらいで怒んないよ」
と奏は言った。
「そうなの?」
と言いながら綾子がナナの隣に座ると和も奏の隣に座り夕食が始まった。
奏の家で…奏の家族とご飯を食べるだけでも緊張するのにその家族が自分の憧れてる二人だと思うと緊張で食が進まないナナに
「ナナちゃん、あんまり食べてないみたいだけど嫌いなものばかりだった?ゴメンね」
と綾子が聞くと
「いえ、そんなことはないです。…いっぱいあってどれから食べていいか迷っちゃって…」
とナナは笑った。
「なんでもいいのよ。ほら、このサラダとお肉はパパが作ったのよ。食べてみて」
と綾子が勧めると
「はい。頂きます」
とナナは小皿にサラダと肉を乗せてサラダを一口食べた。
「美味しいです。…えっと、ナゴミさん…おじ…お父さん…?お料理上手なんですね」
とナナが和のことをなんて呼んで良いのか迷いながら話をすると
「呼び方なんてどうでもいいのよ。好きなように呼んで」
と綾子は笑った。
「そうだよ。…あっ、でも綾子はおばさんって言われるの嫌がるから言わない方がいいよ」
と和が笑うと
「琳たちは父さんたちのこと普通に和さん綾子さんって呼んでるし、ナナさんもそれで良いんじゃない?」
と奏は言った。
「うん。じゃ、生意気かもしれませんがお名前で呼ばせてもらいます」
とナナが恐縮して言うと
「そんな緊張しなくていいから。リラックスリラックス」
と綾子はナナの肩をポンポンと叩いた。
「はい…」
と笑ったナナは綾子と和の胸にライブの時や雑誌で見る時に必ず着けているお揃いのネックレスが着いてることに気付き
「あの…」
と言った。
「なに?」
と綾子が聞くと
「そのネックレス…。いつも着けてるんですね」
とナナは聞いた。
「ああ、これ?…うん。高校生の時からずっと着けてるお守りなの」
と綾子が言うと
「お守り…ですか?」
とナナは聞いた。
「そうなの。パパがね、ライブで成功するお守りだって作ってくれたネックレスなのよ」
と綾子が笑うと
「自分でデザインして作ったんだよ」
と奏は言った。
「和さんがデザインしたんですか?」
とナナが聞くと
「うん。世界に2つだけの綾子と俺だけのお揃いの物が欲しくてね」
と和は言った。
「そうなんだ…。ロマンチックですね」
とナナが言うと
「でしょ?それで綾子がこのネックレスをモチーフに曲を作って…ねぇ?」
と和は綾子に聞いた。
「まぁ、若かったから出来たことね。今じゃ、恥ずかしくて貰ったものをモチーフに曲なんて作れないけど」
と綾子が笑うと
「もし貰ったもので曲を作るとしたら何曲ぐらい作れそう?」
と奏は聞いた。
「そうね…50曲以上は出来ると思うけど作らないよ。なっちゃんが図に乗るから」
と綾子が言うと
「図に乗ったりしないよ。今度作ってみてよ。ほら、この前買った綾子のスタジオ用の空気清浄機で」
と和は笑った。
「作れるわけないじゃん。だいたい空気清浄機の歌なんて誰が聴きたいのよ。ねえ?」
と綾子が笑いながらナナに聞くと
「そうですね」
とナナも笑った。
「でもさ、そこを上手く空気清浄機って思わせないように作るのがプロでしょ?」
と和が笑うと
「じゃ、曲作るからなっちゃん歌詞書く?空気清浄機を歌詞にするんだよ」
と綾子は笑った。
「聞いてておかしいでしょ?」
と奏がナナに聞くと和は
「なにがおかしいんだよ。だいたい空気清浄機の曲なんて誰が作るんだよ。レコーディングなんてしばらくしたくないのに」
と言った。
「でも、ニューヨーク行ってまたレコーディングするんでしょ?」
と奏が聞くと
「向こうではミックスだけだよ」
と綾子は言った。
「…ミックスだけって言ってもミックスがキツいんだよな。それに撮影も入るんだろ?10日滞在したってなんも楽しいことない…」
と和が言うと
「そうだね。大事なお友だちに会う時間もなくて残念ですね」
と綾子は棘のある言い方をした。
「うっ…。半年以上も前の話をまだ言うか?お客さんだっているのに」
と和が言うと
「先に釘を刺しておかないとね。だいたいニューヨークなんて嫌だったのよ。日本でやっても良かったのに…」
と綾子は言った。
「あの…」
とナナが困った顔をすると
「気にしなくていいよ。…母さんもいい加減やめなよ。父さん、可哀想だろ」
と奏は言った。
「いいんだよ。どうせ俺が悪いんだし…」
と和が言うと
「なっちゃんズルいよね?そうやっていつも自分の方に見方をつけようとして…」
と綾子は言った。
「母さん、本当やめてって。ナナさんもいるんだし」
と奏が言うと
「わかったわよ。ナナちゃん変なところ見せてゴメンね。別にケンカしてる訳じゃないから気にしないでね」
と綾子は笑った。
「いいえ、大丈夫です。うちの親と比べたらお二人なんて仲の良いですよ。うちのお父さんなんて台所に立ったのなんて見たことないし、お父さんリビングで寝ちゃうからお母さんはお父さんに怒ってばかりだし…」
とナナが言うと
「ナナちゃんのお父さんは何してる人なの?」
と綾子は聞いた。
「うちはパン屋で…」
とナナが言うと
「パン屋なの?」
と奏は驚いた顔をした。
「うん。小さいパン屋だからお父さんとお母さんだけでやってるんですけど」
とナナが恥ずかしそうに言うと
「だったらお父さん家でまでキッチンに立ちたくないよ。毎日一生懸命パン作ってるんだろ?」
と和は聞いた。
「はい…まぁ…」
とナナが言うと
「そうね。パン屋さんって朝も早いだろうし大変よね。ちなみに兄弟はいるの?」
と綾子は聞いた。
「はい、兄4つ年上の兄が1人います」
とナナが言うと
「お兄さんはパン屋さん継ぐの?」
と綾子は聞いた。
「いえ、兄は大学出て税務署に勤めてるんで…」
とナナが言うと
「税務署なの?…じいちゃん、国税庁だったんだよね?」
と奏は綾子に聞いた。
「そうよ。税務署に勤めてた時もあったはずだよ」
と綾子が言うと
「綾子の父さん見て公務員って良いなって思って官僚目指したもんな」
と和は笑った。
「奏君のおじいちゃん、官僚だったんですか?」
とナナが驚いた顔をすると
「違うわよ。そこまで出世できるコースの人じゃなかったから。普通の公務員よ」
と綾子は笑った。
「普通がいいんだよ。綾子の家はいつも賑やかで楽しかったし、ああゆう家族に憧れてたもん」
と和が笑うと
「それが本当に家族になっちゃったからね」
と綾子も笑った。
「あの、お二人は幼なじみなんですよね?」
とナナが聞くと
「そうよ。お隣にパパの家族が引っ越してきてそれからずっと一緒。私のお兄ちゃんとパパが仲良かったからね」
と綾子は言った。
「だな。兄弟のいない俺には由岐も綾子も兄弟みたいなもんだったからね。遊ぶときも飯食うのもいつも一緒で自分になつく綾子は本当の妹みたいで可愛かったな…。いつも俺が手を繋いで歩いてやって、なんでも自分も出来るんだって真似して」
と和がしみじみ言うと
「父さん、この話始めると長くなるだろ?今日はやめておいたら?」
と奏は言った。
「あっ…そうだな」
と和が言うと
「幼なじみ同士で結婚ってスゴいですよね?いそうでなかなかいないし」
とナナはしみじみと言った。
「でも、俺は結婚するのは絶対に綾子だって昔から決めてたからね。付き合い始めてすぐにプロポーズもしたし」
と和が言うと
「そうなんですか?」
とナナは驚いた顔をした。
「そうだよ。綾子が大学卒業したら結婚しようってね」
と和が綾子に笑いかけると
「そうだったね」
と綾子も笑った。
「うわぁ…スゴい。それで実際にはどうだったんですか?大学卒業してすぐに結婚したんですか?」
とナナが目をキラキラと輝かせながら聞くと
「そんなに興味ある?」
と綾子は笑った。
「はい。…いえ、すみません」
とナナが言うと
「この話は長くなるから、ご飯のあとに話そうか?奏は耳にタコが出来るぐらいいろんな人に聞かされた話だから聞きたくないかも知れないけど」
と綾子は笑った。




