祖父の家と奏の家
商店街を抜け住宅地に入ると
「おばあちゃん家って、どっちのおばあちゃんの家なの?」
とナナが聞くと
「母さんの方だよ。あれ、言ってなかったかな?父さんの方のじいちゃんたちは東京にいないんだよ」
と奏は言った。
「初めて聞いた。東京じゃないってどこに住んでるの?」
とナナが聞くと
「どこだったかな?しばらく会ってないから忘れた」
と奏は笑った。
「忘れたの?」
とナナが笑うと
「うん。そのうち思い出したら言うよ」
と奏は笑った。
その後、路地を曲がり歩いて行くとナナは奏の家を見て
「ずいぶん大きな家だね…。あっ、車も外車だ。多分あの2台だけでも家買えちゃうよ。スゴいお金持ちの家なのかな?」
と聞いた。
「怪しい人みたいだから人の家をジロジロ見ない方が良いよ」
と奏は笑いながら家の前を通り過ぎると奏は
「ここ、ばあちゃん家だよ」
と言った。
「ここなの?…あっ、おばあちゃん家も外車だ」
とナナが驚いた顔をすると
「これ、おじさんの車だよ。ナナさん車に詳しいんだね。初めて知ったよ」
と奏が門を開けて敷地の中に入るとあとに続いて入ったナナは
「詳しいはないけどお隣さんもだけど超高級車ばかりだもん。びっくりしちゃうし、おばあちゃんたちもどんな人なんだろうって緊張しちゃうよ」
は言った。
「大丈夫。普通の人たちだよ。琳たちとも仲良いし、本当普通のどこにでもいるじいちゃんばあちゃんだから」
と笑いながら奏はインターホンを鳴らした。
「うわぁ…。ちょっと緊張してきた。日本酒なんかよりお菓子の方が良かったかな…」
とナナが言うと
「ばあちゃん家には日本酒なの?」
と奏は聞いた。
「うん。年配の人は日本酒の方が良いかと思って…。失敗したかな…」
とナナが呟いてると
『あら、奏。どうしたの?勝手に入ってきて良いのに』
とインターホンから祖母の声が聞こえてきた。
「北海道から知り合いが遊びに来てばあちゃんたちにお土産持ってきてくれたから届けに来たんだけど」
と奏が言うと
『北海道?…あっ、ちょっと待ってね。今、玄関行くから』
と祖母は嬉しそうな声で言った。
「うわぁ…緊張する」
と言うナナに
「大丈夫だって。本当、どこにでもいるばあちゃんだから」
と奏が笑ってると玄関のドアが開き
「お待たせしてごめんね」
と祖母が言った。
「うわぁ…若い!」
とナナは驚きの声をあげたあと慌てて
「あっ…。すみません。はじめまして、奏君の友人の田口ナナです。これ、地元の地酒なんですけどもし良かったら…」
とナナは紙袋を差し出した。
「こちらこそ、はじめまして。あらあら、お土産なんて申し訳ないわね」
と祖母は紙袋を受けとると
「ごめんなさいね。おじいちゃん、ちょっと出掛けてていないのよ。奏のおじさんも帰ってきてるんだけど、ちょうどお風呂入ってて…。そうだ、夕食まだでしょ?食べていったら?」
と笑いかけながらナナに聞いた。
「えっ…いえ。…あの…」
とナナが奏をチラッと見ると
「ばあちゃん、ごめん。今日は家で食べるって母さんたちと約束してるから」
と奏は言った。
「あら、そうなの?でも、少しぐらいは良いんじゃない。由岐もお風呂からあがってくるだろうし奏がお友だち連れてきたって言ったら喜ぶわよ」
と祖母が言うと
「7時までには帰ってこいって言われてるからさ。それに由岐ちゃん、後で家に来るって言ってたから大丈夫だよ」
と奏は言った。
「…そうなの?…あっ、そうだ。由岐が来るって言ってたから唐揚げ作ったのよ。なっちゃん、唐揚げ好きでしょ?少し持ってってくれない?」
と祖母は言った。
「えっ…」
と奏が困った顔をすると
「いいから、ちょっと玄関の中で待ってて」
と言って祖母はキッチンの方へ歩いて行った。
「ごめん。ばあちゃん、はしゃいじゃって…」
と奏が恥ずかしそうに言うと
「そんなことないよ。思ってたよりも若くてびっくりしたけど、明るくて優しそうなおばあちゃんだね」
とナナは笑った。
「まぁ、明るいね」
と奏が苦笑いしてると祖母はタッパーに唐揚げを入れて持ってきて
「じゃ、これ綾子に渡してね」
と奏に渡した。
祖母の家を後にすると
「奏君っておばあちゃん子だったの?」
とナナは聞いた。
「おばあちゃん子?」
と奏が聞き返すと
「おばあちゃん大好きだったのかなと思って」
とナナは言った。
すると奏は隣の自分の家の門の前で立ち止まり
「まぁ、ずっと世話になってたからね。…ほら、前に話さなかった?家出してた話」
と聞いた。
「ああ、なんとなく」
とナナが曖昧にこたえると
「半年ぐらいずっとばあちゃん家に居座ってても文句1つ言わないでくれたからね。まぁ、家出してても親の方がばあちゃん家に来てたから顔は嫌でも合わせてだけどね」
と笑いながら奏は自分の家の門を開けた。
「えっ…えっ…ちょっと奏君!」
とナナが驚きの声をあげると
「どうしたの?」
と奏は言った。
「ちょっと待って…。ここ、奏君のお家なの?」
とナナが恐る恐る聞くと
「うん。ばあちゃん家と隣なんだ」
と奏は何にナナが驚いているんだろうという顔をした。
「いやいや、お隣とかって問題じゃなくて何でここが奏の家だって言ってくれなかったの?まだ全然心の準備してなかったし…。どうしよう。ねぇ、あと5分…待って。心の準備するから」
とナナが震えながら言うと
「心の準備なんてしたってなんも変わらないって。それに唐揚げ冷えるからさ」
と奏は言った。
するとナナは奏の服をギュッと引っ張り
「いや、本当。ちょっと待ってよ…。突然のことに緊張し過ぎて震え止まらなくなってきちゃったよ。せめて震えが収まるまで…」
と言ったが
「そんなの待ってたら朝になっちゃうよ」
と言って奏は鍵を取り出して玄関のドアを開けたが、ナナは落ち着かない様子でソワソワしながら、チラッ駐車してある車を見て
『…やっぱり住む世界の違う場違いのところに来てしまった』
と思った。
「ただいま…」
と奏は玄関の中に入ったがナナが入るのを躊躇しているので
「ほら、入って」
と奏は言った。
「えっ…。でも、本当震えヤバいから」
とナナがガタガタ震えてるとリビングから綾子が出てきて
「いらっしゃい、ナナちゃん。疲れたでしょ?入って入って」
とニコニコして言った。
「はい!ありがとうございます!」
と異常なほどの緊張に声が大きくなってしまったナナに奏が笑うと
「奏、なに笑ってるの失礼よ。ほら、早く上がってもらいなさい」
と綾子は言った。
「わかったよ。ナナさん、行くよ」
と奏が言うと
「う…うん。お邪魔します」
と言って靴を脱いだ。
奏に続いてナナがリビングに入ると奥のキッチンで綾子が飲み物を準備し和が洗い物をしていた。
「…眼鏡男子だ。カッコいい」
憧れのナゴミがキッチンに立つ姿にナナがボーッと見とれてると
「ナナさん、いつまで立ってるの?座ったら?」
と奏は言った。
「えっ…あっ、うん。ありがとう」
とナナは奏の隣に座るとリビングを見渡してると
「まだ、ご飯まで少し時間あるからちょっと待っててね」
と言って綾子はナナと奏の前に飲み物を置いた。
「ありがとうございます。…あっ、あの…」
と言ってナナはソファーの横に置いた紙袋から次々とお土産を出して
「これ、北海道のお菓子です。もし良かったら食べて下さい。あと小樽の地酒とワインで…。でも、奏君のお父さんお酒飲まないんですよね?よく考えないで来ちゃって…すみません」
とナナは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言った。
「こんなにいっぱい良いの?」
と綾子が言うと
「はい。どうぞ。地酒はうちの親がお世話になるからって持たせてくれたもので…」
とナナは言った。
「そんな気を使ってもらわなくても良かったのに。なっちゃん、ちょっと」
と綾子が言うと
「ん?なに?」
と和はキッチンから言った。
「ナナちゃんがいっぱいお土産持ってきてくれたからちょっと来て」
と綾子が言うと和は手を拭くとリビングに来て綾子の隣に座ると
「本当だ。こんなにたくさん悪かったね」
とナナに笑いかけた。
「い…いえ、本当たいした物じゃなくて恥ずかしいんですけど」
とナナが顔を真っ赤にすると奏がボソッと
「また鼻血出すんじゃない?」
と笑ったので
「出さないわよ!」
と大きな声で言ったあとナナはハッとして
「あっ、すみません」
と縮こまって言った。
「いやいや、いいんだよ。昔の綾子見てるみたいで元気あっていいよ」
と和が笑うと
「また、そうゆうこと言う。奏も女の子にそうゆうこと言ったらダメよ。ナナちゃん、うちの男連中は意地悪な人ばかりだけど気にしないでね。それから、嫌なことを言われた時ははっきり嫌だって言っていいんだからね。じゃ、ないとこの人たち気付かないから」
と綾子は言った。
「えっ、俺なんか嫌なこと言った?」
と和が聞くと
「別に言ってないよ。ものの例えでしょ」
と綾子は言った。
「本当?」
と和が綾子に顔を近付けてると
「本当だよ。もう、そんな近くに寄らなくていいから」
と言ったあと綾子はナナがくれたお菓子の箱を見て
「ここのお菓子好きなんだよね。ご飯のあとにみんなで食べようね」
とナナに言った。




