展望室で
琳たちに押しきられ別行動になった二人は札幌駅方面に向かい夕食を食べたあと、クリスマスに二人で泊まったタワーホテルにある展望室へのぼった。
「へぇ…。展望室があったんだ」
と奏がエレベーターの中で言うと
「初日の出はここから見たんだよ」
とナナは笑った。
間接照明で薄暗く照らされた展望室に入ると360°ガラス張りされた窓の外には札幌の夜景が輝いていた。
「スゲェ…」
と奏が目を輝かせて呟くと
「でしょ?」
とナナは嬉しそうに笑った。
「ねぇ、あそこで写真撮ろう」
と奏がナナの手を引っ張るとナナは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
南側の大通りが望める出窓に腰かけた奏がスマホを取りだしナナに顔をくっつけて
「撮るよ」
と嬉しそうに写真を撮ると
「奏君、近すぎだよ」
とナナは言った。
「そう?でも、そうしないと夜景まで撮れないじゃん」
と奏はスマホを見て
「ナナさんにも送るね」
と言った。
ナナのスマホに写真を送ると奏は
「また写真増えたね」
と嬉しそうに笑った。
「奏君、写真好きだよね?」
とナナが笑うと
「そんなことないよ。むしろ嫌いな方だけど」
と奏は言った。
「そうなの?でも、前だって結構一緒に写真撮ったよね?」
とナナが言うと
「それはナナさんと一緒だからでしょ」
と奏は言った。
「えっ…あっ…そっか…」
とナナが照れ笑いをすると
「すぐ顔赤くして、本当面白い」
と奏は笑ったので
「あっ!またからかったの。本当、奏くん嫌だ」
とナナはムッとした顔をした。
「ごめんごめん」
と奏はナナの頭を撫でようとしたが髪をふれるかふれないかのところで手を止めて
「やっぱ、やめておこう」
と手を引っ込めた。
「ん?なに?」
とナナが聞くと
「ナナさんさ、頭撫でられるの好きでしょ。他の男に撫でられても喜んでたよね?」
と奏がムッとした顔をすると
「他の男?…ああ、スキー場で?」
とナナは言った。
「うん。だから、俺はさわんない」
と奏が言うとナナは笑いながら
「先輩だから仕方ないじゃない。それにやめてって言ってたし喜んでなかったよ」
と言った。
「…でも、あの人ナナさん好きなんでしょ?告ったって言ってたし」
と奏が言うと
「それ結構前だよ。奏君に彼氏になって欲しいって言った時にサークルの先輩に付き合って欲しいって言われてるんだって話しなかった?その時の人だよ」
とナナは笑った。
「でも、仲良いし…」
と奏が言う
「奏君、焼きもち妬くんだ。…そっかぁ、妬いてくれるだ。ふふっ。喜んだら奏君に悪いのわかるけど顔がニヤけちゃう」
とナナは嬉しそうに笑った。
「…妬いてるわけじゃないし」
と奏がムッとして言うと
「ごめん、そうだね」
とナナは笑ったあと
「奏君に撫でられるのと他の人に撫でられるは全然意味が違うから。私、奏君の大きな手に撫でられるの大好きだよ」
と言った。
「…なんでそうゆうこと言うかな。結果、撫でちゃうじゃん」
と奏がナナの頭を撫でるとナナは嬉しそうに笑いながら奏を見た。
「絶対に罠じゃん。俺、上手いように転がされてる気がする」
と奏が恥ずかしそうに言うと
「私が転がしてる?いいや、絶対に奏君の方が私のこと転がしてるしょ。ゴロンゴロンっていっつも転がされてるよ」
とナナは笑った。
すると、奏はナナの頭から手を離し
「この前…ごめんね」
と言った。
「この前?」
とナナが聞くと
「スキー場で…女子に囲まれて嫌な思いさせてごめん」
と奏は言った。
「あっ…ああ、別にいいよ。奏君のみよじが若狭だってことすっかり忘れててモテモテの若狭君ってどんな子なんだろうって初めは興味津々だったし。それに私も言い返したし、奏君も助けてくれたじゃない」
とナナは言ったあと
「でも、あんなにモテるなんてビックリしたよ」
と笑った。
「あいつらおかしいんだよ。勝手に俺はこうゆう奴だって決めつけて…」
と奏が言うと
「確かに、まるであの子たちってアイドル見てるみたいな感じだったね。本当は全然違うのにね」
とナナは笑った。
「あと…いろいろ黙っててごめん」
と奏が言うと
「それは…私が悪いんだし。…言いたくないこととか知られたくないことって誰にでもあるよね。教えてもらったからって、何か変わるわけじゃないのに知りたい知りたいってしつこく言っちゃって…ごめんね」
とナナは言った。
「…それから、無神経なことも言っちゃってごめん」
と奏が言うと
「無神経なこと?」
とナナは聞いた。
「……元カレとどうゆう付き合いしてたんだ…とか…」
と奏が申し訳なさそうな顔をすると
「…仕方ないよ。私、奏君みたいに真っ白じゃないし汚れてるもん」
とナナは笑った。
「そうゆう意味で言ったわけじゃないし、汚れてるとかそうゆうのも考えたことないから」
と奏が言うと
「でも、実際そうなんだし仕方ないよ」
とナナは言った。
「…」
奏が黙ってナナを見つめてると
「でも、奏君はいろんな初めてを私に教えてくれるよ」
とナナは言った。
「初めて?」
と奏が聞くと
「私、男の人と二人で写真撮ったことなんて無かったし、手を繋いで歩いたこと無かったし…。ほら、写真も手を繋いで歩くのも本命の彼女に見つかったらヤバいしょ?」
とナナは笑った。
「…」
奏が黙って話を聞いてると
「キスもね、奏君は余裕あってズルいって言ってたけど本当はあんまりしたこと無いからどうやったら上手く出来るかわかんないんだ。前の人って性欲を満たすためだけに上手いこと言って私と会う人だったから、キスするのなんて面倒だったんだろうね」
とナナは笑った。
「ナナさん…」
と奏が困った顔をするとナナは奏の鼻を指先でさわり
「鼻でチューなんてそんな可愛いことうちには無縁のことだと思ってたし、写真撮るのも手を繋ぐのも…みんな奏君が初めてなんだ。だから、ドキドキばっかりで余裕なんて全然無いんだよ」
とナナは言ったあと
「でも、奏君みたいに全部が全部真っ白じゃないだ。ごめんね」
と苦笑いをした。
「俺、本当にそんなつもりで言ったわけじゃないんだ。ただ、あの時ちょっと」
と奏が話をしてるのを遮ってナナは
「いいよ。奏君だって話したくないこと話してくれたじゃない。それに私もまともな恋愛したことないのを黒歴史だとか格好つけて黙ってたしね。本当は、初めてのことばかりだって知られるのも少し恥ずかしいのもあったんだよね」
と言った。
すると奏が
「…そっか。…うん。そうなんだな…」
呟いたので
「なに?」
とナナは不安そうに聞いた。
「ナナさんが言ってた意味がわかるような気がする…。知らないから気になるし教えてもらえないから不安になるんだなって。知ればそうだったのかって納得出来るし教えてもらったら不安は無くなるし…。キチンと話をすることって大事なんだなって思った」
と奏は言うと
「ナナさんが変に気を使ったり見る目を変えたら嫌だなって思って話さないでいたけど、自分のことを見て欲しいって思ったら隠さず全部話すべきだったんだよね」
と言った。
「そうだね。私も中途半端に話さないでキチンと話しておけば良かったね。…でも、奏君がカナデだってことは聞いて良かったの?…今さらだけど」
とナナが聞くと
「いいよ。事務所も他の人に話さないって信頼出来る人には話していいって言ってくれてるし、相川さんも前からナナさんには言った方がいいって言ってたし。…また、ナナさんに誰にも話せないこと抱えさせちゃうけど」
と奏は言った。
「大丈夫だよ。私、奏君の秘密いっぱい持ってるもん。1つ増えたぐらいどうってことないよ」
とナナが笑うと
「いっぱいもあった?」
と奏は聞いた。
「あるよ。意外とマメなところとか意地悪そうに見えて優しいところとか恥ずかしがり屋なところとかロマンチストなところとか…」
とナナが笑うと
「ああ、確かに他の奴には知られたくないな…」
と奏は苦笑いをした。
「でしょ?だからね、1つぐらい増えてもどうってことないんだよ」
とナナが笑うと
「…キスが下手くそなのもナナさんしか知らないことだよね?」
と奏は笑った。
「えっ…まぁ…。ってか私もそうだし…」
とナナが言うと
「…練習した?」
と奏は聞いた。
「えっ…。するわけないしょ。どうやってするの?」
とナナが言うと
「だよね。俺も練習してくるなんて言ったけど練習出来なかったんだ」
と奏は笑ったあとナナを見て
「…練習する?…二人で」
と奏は聞いた。
するとナナは驚いた顔でまわりをキョロキョロ見て
「えっ?ここで?…他に人もいるし無理だよ」
と顔を真っ赤にして言った。
すると奏は一瞬だけとても悲しそうな顔をしたあと笑って
「冗談だよ。また真っ赤な顔して。すぐ引っ掛かるんだから」
とナナの頭を撫でた。
「奏君…?」
とナナが奏を見ると
「それはダメでしょ。なんで拒否っておいてそんな顔するの。反則だよ」
と奏は笑った。




