修学旅行の夜 1
次の日、朝食を食べ終えた奏たちは荷物を片付けると制服に着替えた。
「制服、面倒くさくない?」
と奏が呟くと
「こんな時しか着ないんだから仕方ないじゃん。それよりも足元が心配だよ。今日、絶対転ぶ自信ある」
と勇次郎は言った。
奏と勇次郎がロビーに降りてくると既に同じ学校の生徒たちが集まりにぎわっていた。
「みんなで写真撮ろうって話になってるんだけどカナたちも一緒に撮らない?」
とクラスメイトが声をかけてくると、そこには昨日の女子生徒もいたので奏と勇次郎は気まず顔をしたが
「そんな顔するなって。こいつらもちょっと反省したみたいだしさ」
とクラスメイトは笑った。
「…若狭君、ごめんなさい。昨日言われて気付いたって言うか」
と女子生徒の一人が言うと
「だよね。勝手に若狭君はこうだって決めつけてたとこあったよね。よくよく考えてみたら、若狭君っていっつも寝てばっかりでボケーッとしてるしさ。それにあの本も若狭君が持ってきたなんて…」
ともう一人の女子生徒は笑った。
「確かにイメージ変わったって言うか、私の若狭君はどこに行ったの?って感じだよね」
と女子生徒が笑うと
「もともとそんな王子様みたいなカナなんてどこにもいなかったんだって。ほら、もう終わったことは気にしないでさ。時間なくなるから早く写真撮ろうぜ」
とクラスメイトは奏と勇次郎を呼んだ。
奏たちが仲間と撮った写真を見て笑ってると、ゲレンデに向かう途中のナナはたちが通りかかり
「あれ?勇次郎たちじゃない?」
と武志は言った。
「本当だ。制服着てるよ。学ランって本当だったんだね」
とユイナは言ったあと昨日もめた男子も女子も楽しそうに笑ってるのを見て
「さすが高校生だね。昨日のことが嘘みたいに笑ってるよ」
と言った。
「そうだね」
とナナが言うと
「田口、彼氏と話してこなくていいの?」
と大石は笑った。
「いいですよ。向こうは学校行事で来てるんだし」
とナナが笑ってると
「あっ、ナナさんじゃん」
とナナに気付いたさっちゃんが側にきた。
「さっちゃん、おはよう。もう出発なの?早いね」
とナナが言うと
「ナナさんたちは今日もスノボ?羨ましいな」
とさっちゃんは笑ったあと
「今、奏連れてくるから待ってて」
と言った。
「いいよ、さっちゃん」
とナナが言うのを聞かずにさっちゃんは奏のところへ行って
「奏、ナナさんいたよ」
と言った。
「本当だ。彼女じゃん。奏、行ってこいよ」
とクラスメイトが奏の背中を押すと
「いいって」
と奏は言った。
「なに、恥ずかしがってんだよ。ほら、もうすぐ先生くるし、早くしろよ」
とさっちゃんは笑いながら奏を連れてくと
「ナナさん、お待たせ。奏、連れてきたよ」
と言った。
「…」
「…」
昨日の一件もあり奏とナナが黙ってると
「ああ、俺たち邪魔か?…そうだ、板のチューニングしようと思ってたんだった」
と大石は言ったあと
「田口、先に行ってるから話終わったらこいよ」
と言ってユイナや武志たちと先に外に出ていった。
「…俺も写真撮るのに混じってこようかな」
とさっちゃんもいかにもな理由をつけてその場を離れたので
「…参ったね」
と奏は笑った。
「…だね」
とナナは言うと
「制服…」
と呟いた。
「…ん?似合わない?」
と奏が聞くと
「似合ってるよ。高校生って感じで」
とナナは笑った。
「そう?ナナさんも着てみたら?まだまだ着れるでしょ」
と奏が笑うと
「いやいや、さすがに私が着るとコスプレになっちゃうしょ」
とナナは笑った。
「コスプレか…。コスプレなら制服よりもナースとかの方がいいからな。でも、ナナさんにナース服はちょっと…」
と奏が言うと
「どうせ似合わないですよ。って言うかコスプレなんてしませんから」
とナナは言った。
「冗談だって。誰も着て欲しいとか言ってないじゃん」
と奏が笑うと
「もう、そうゆうのやめてよね」
とナナは言った。
「本当、すぐに怒るんだから」
と奏が笑ってると
「カナ、先生来たぞ。整列だって」
とクラスメイトが声をかけてきた。
「あっ、今行く」
と言うと奏は
「じゃ、また明日」
とナナに言った。
「待ち合わせ場所、ちゃんと来れる?」
とナナが笑うと
「大丈夫だって。12番出入口は二度と忘れないから」
と奏は言った。
ナナが外に移動するとユイナが板を持って戻ってきていたので、奏たちがバスに乗り込むのをみんなで見送った。
「行っちゃうね。寂しいしょ」
とユイナが言うと
「そんなことないよ。また、明日会えるしょ」
とナナは笑った。
1組のバスから順に出発し奏の乗ったバスも動き出すと奏はバスの中から小さくナナに手を振った。
「ああ、行っちゃう」
とユイナが呟く隣でナナも小さく奏に手を振ると
「さっ、行こうか?先輩たち待っててくれてるんしょ?」
とゲレンデに向かって歩きだした。
「そうだけど。…あっさりしてるね」
とユイナが言うと
「だって明日、会えるしょ」
と笑ったナナはチラッと後ろを振り返り遠ざかっていうバスを名残惜しそうに見ていたので
「…明日、会えるもんね。楽しみだね」
とユイナはナナの肩をポンポンと励ますように叩いた。
その日、札幌の赤レンガなどの観光名所を見学した奏たちは夕方にホテルに入った。
夕食のあと、同部屋の勇次郎と一緒にクラスメイトの部屋に遊びに行った奏がスマホを見ると
「『札幌到着。これから帰宅します』だって。いいな、リア充うらやましいな」
と隣から覗き見をしていた勇次郎が言った。
「おい、勝手に見るなよ」
と奏が言うと
「いいじゃん。減るもんでもないんだし」
とクラスメイトのは加藤は笑った。
「本当だよ。リア充組は今頃彼女と遊んでるんだろ?なのにさ、俺たちなんて野郎ばかり集まって…」
とクラスメイトの山本が泣いたふりをしていたが、それを無視して加藤は
「そういえばさ、気になることがあったんだけど聞いていい?」
と奏に言った。
「なに?」
と奏が聞くと
「なんでさ、彼女にさん付けなの?年上なのはわかるけどさん付けする必要なくない?」
と加藤は言った。
「そうかな?」
と奏が言ってると勇次郎が
「仕方ないんだよ。奏はまだ大人の階段登ってないから呼び捨てには出来ないんだよな」
と言った。
「えっ、冬休みって泊まりで札幌来たんじゃなかったの?」
と山本が驚いた顔をすると
「一緒にお泊まりしたんだろ?」
と加藤も驚いた顔をした。
「そうだよ。それがなに?」
と奏が言うと
「それがって…ねぇ?」
と加藤が山本を見ると
「彼女と一晩一緒にいてヤらなかったの?」
と山本は聞いた。
「うん。なに、それが悪いの?」
と奏がムッとすると
「悪くは…ないけど。お前、本当に健康な男子高校生?それともセックスに興味ない人?」
と加藤は言った。
「はあ?健康な男子高校生だし興味も普通にあるって。けどさ、付き合いだして初めて会ったのにヤるとかどうなの?優しさ足りなくない?そこは我慢だろ」
と奏が言うと
「いいや。お前はナナさんとケンカしてあたふたしてたから仲直りしただけで満足したんだろ。ヤることまで頭に無かったんだろ?」
と勇次郎は笑った。
「そっかぁ。まぁ、恋愛初心者の奏には大人の階段登るのはまだ早いかな」
と山本が笑うと
「じゃ、お前らはヤったことあるのかよ」
と奏は言った。
「俺は…」
と山本が言うと
「俺はあるよ」
と加藤は言い
「俺もあるよ」
と勇次郎も言った。
「マジ?」
と山本が驚いた顔をすると
「俺、西高に彼女いるからね」
と加藤は勝ち誇った顔をして
「俺も前カノとは中学から付き合ってたからね。それなりにはしてきたよ」
と勇次郎も言った。
「なんだよ。チェリーは俺と奏だけかよ」
と山本は言うと奏の肩を掴んで
「奏、優しさは大事だぞ。早くに童貞捨てたからってなんも変わんないからさ。ゆっくりじっくりでいいんだぞ」
と山本は言った。
「…加藤もヤったことあったんだけど」
と奏が言うと
「なにそれ。俺は無さそうに見えるのかよ」
と加藤は言った。
「無さそうって言うかさ。勇次郎と琳は知ってたけど…。そうか、結構俺のまわりにもいるんだな」
と奏が言うと
「逆に奏みたいにモテる奴が童貞って方が驚くわ。まさかとは思うけど、キスも彼女が初めてとか?」
と加藤は笑った。
「…悪いかよ」
と奏が言うと
「マジ?それ聞いたら女たちまた大騒ぎするぞ。若狭君、見た目によらず可愛いって」
と加藤は言った。




