和の想いと吉川
アジアツアーをまわってるボロレのメンバーはどこの国に行っても大人気で、空港にも記者会見の場にもライブ会場にも溢れんばかりのファンが集まっていた。
「次は世界進出だな!」
と移動のバスの中で村上が言うと
「そうですね。次のアルバムは世界同時発売。その後はワールドツアー…。ついにここまで来ましたね」
と吉川が嬉しそうに言った。
「でもでも…。和にはその前に一生に一度の大仕事が残ってる
とタケはニヤニヤして和を見た。
「な…なんだよ」
と和が言うと
「だってツアー終わったら綾子にプロポーズするんだろ?そしたら由岐の親父さんに娘さん下さいとか言いに行ってさ。お前みたいなチャラチャラしたやつに娘はやれん!とか言われて…」
とタケが笑うと
「え?由岐の父さんも早く結婚しろって言ってるけど、やっぱりそうゆうのやるの?村上さんは奥さんと結婚するとき行った?」
と和は聞いた。
「そりゃ行ったよ。大事な娘さんを嫁にもらうんだもん。俺だってスーツ来て菓子折り持って行ったよ」
と村上が言うと
「俺はえびす堂の和菓子がいいと思うぞ」
と由岐が言うと
「えびす堂…ってそれ由岐が好きなだけじゃん」
と和は言った。
「で…プロポーズって言ったら指輪だよね。もう準備してるの?給料3ヶ月分」
とカンジが聞くと
「まぁ、給料3ヶ月分かどうかはわかんないけど注文はしてあるよ。出来上がりまで時間かかるらしいからツアー終わったら取りに行ってプロポーズして驚かすんだ。だから、おまえら綾子に会っても絶対言うなよ」
と和は嬉しそうに言った。
久しぶりに休みが合った綾子と和はデートを楽しんでいた。
交際宣言をしてから、和はメットヘアをやめて普通に綾子と街中を歩くようになった。
何も隠さずコソコソしないで付き合えるなら、初めからこうしていればよかったと二人は思っていた。
和は1年ほど前から仕事が忙しくなかなか家に帰るのが難しくなって仕事の時はホテル暮らしをしていたが交際発覚したのと同じ時期からマンションに引っ越して暮らしている。
二人の休みが合うときは、綾子が和の部屋に行き料理を作ったりと二人で過ごす事も多かった。
インテリアや食器など二人で選んだものが部屋に少しずつ増えてくること、綾子と一緒に料理をしたりのんびりと過ごす事に和は幸せをとても感じていた。
「本当に、綾子がいると俺は何もいらないな…」
と和は呟いた。
「突然どうしたの?」
と綾子が聞くと
「突然って訳じゃないけど、綾子がいるから俺は頑張れるんだなってさ。綾子がいないと自分が絶対ダメになる自信あるもん」
と和が言うと
「何その自信。変なの」
と綾子は笑った
「綾子がいるだけでこんなに満たされた気持ちになれるなんて本当にスゴいよ。俺、一生綾子に勝てないよ」
と和は綾子を抱き締めて
「絶対、綾子だけは失いたくないよ…」
と言った。
次の日、昼過ぎまでベッドで寝ていた和は綾子の顔色が悪い事に気づいた。
「綾子?具合悪いの?」
和は綾子の額に手を当てると
「最近、大学終わってスタジオにこもってたけど、なっちゃんの顔を見たら気が抜けたみたい」
と綾子は笑った。
「本当?あんまり無理するなよ。綾子は頑張り過ぎるから」
と和が心配そうに言うと
「大丈夫。アルバム作る終わったら少し余裕出来るようになるし…」
と綾子が言うと
「個人活動始めるんだっけ?」
と和は聞いた。
「うん。渉と誠はソロデビューで隼人は雄大さんと新しくバンド組むんだって」
と綾子が言うと
「綾子は?」
と和は聞いた。
「私はSperanzaのアルバム終わったら清雅さんのレコーディングかな?…その後は少しのんびりと活動していこうかって話してる。でも、清雅さんの曲が思うように作れなくて今煮詰まってる感じなんだよね」
と綾子が笑うと
「清雅さんに曲書いてるんだ…」
と和は呟いてから
「清雅さんのレコーディング終わってからでいいからさ。俺にも曲書いてよ」
と言った。
「なっちゃんに?」
と綾子が言うと
「俺さ、綾子の曲を初めて聴いた時から俺も歌ってみたいって思ってたんだよ。ソロアルバム出すときに社長に頼んだけど断られて…。Speranza以外で作るときは俺が一番初めに作ってもらおうと決めてたから清雅さんに先を越されたのはちょっとショックだけど、俺にも書いてよ」
と和が言うと綾子は笑って頷いて
「今までのなっちゃんのイメージが変わっちゃうな曲書くよ」
と言った。
翌日、事務所でボロレのメンバーとミーティングに来ていた和は
「綾子、何か調子悪そうだったんだけど、結城さん何か聞いてる?」
と結城に聞いた。
「別に何も聞いてないけど?そんなに具合悪そうだっのか?」
と結城が言うと
「綾子は疲れだって言ってたけど、スケジュール厳しいんじゃないの?」
と和は言った。
「今はレコーディングだけで他の取材は入れてないけど、篠田に確認してみるよ」
と結城が言うと
「綾子も自分たちのアルバムに清雅さんの曲作りって精神的にキツいんじゃないの?和も自分が癒されるばかりじゃなくて、綾子のことを癒してやらんと」
とタケが言った。
「別に俺は無理させてないよ…多分。でもどうだろ?やっぱり2日も泊まらせたら疲れるのかな?」
と和が言うと
「久しぶりだからって無理させたんだろ?寝かせてやったの?」
とタケが言った。
「バカ、おまえみたいな猿と違うから俺は無理なんてさせないよ」
と和が言うと
「まぁ、綾子も結婚の事話題に出なくても意識してるだろうし、いろいろ考えて疲れてるだろう」
とタケは言った。
ボロレがそんな話をしている頃、綾子たちはレコーディングをしていたが、メンバーも相川も篠田もみんな顔色の悪い綾子のことを心配していた。
「綾子、最近全然食べないし顔色もわるいぞ」
と相川が言うと
「そうですか?私は全然平気ですけど」
と綾子は笑った。
「でもさ、一度病院で診てもらった方がいいんじゃない?明日にでも俺が連れて行こうか?」
と篠田が言うと
「大丈夫ですよ。先週診てもらってきたけど貧血だって言われて薬もらってるから」
と綾子は言った。
「そうか?だったらいいけど…本当無理するなよ」
と相川と篠田は言って顔を合わせた。
「はい、大丈夫です。ツラい時は言いますから」
と言って綾子はトイレに行こうと部屋を出た。
「俺、ちょっと心配だから話してきます」
と誠が言うと
「そうだな。おまえは一番仲良いし聞いてみてくれ」
と相川は言った。
誠が綾子の後に続いてスタジオの外に出ると、和のマネージャーの吉川が立っていた。
「吉川さん、どうしたんですか?」
と綾子と誠が驚いた顔をして挨拶をすると
「いや、綾子の調子が悪そうだってナゴミが心配してるから様子見に来たんだよ。どう?大丈夫?」
と吉川は言った。
「はい。なっちゃんには言って無かったんですけど最近貧血気味で…でも他は大丈夫ですから」
と綾子が言うと
「だったらいいんだけど…」
と言ったあと吉川は綾子に
「あのさ、ちょっと二人で話出来るかな?」
と言って誠を見た。
「あ…俺、トイレに行こうと思ってたんだよ。じゃあ綾子、あんまり長くなるとみんな心配するから早くしろよ」
と言って側を離れた。
「じゃ、あっちに座って話そうか?」
と吉川は少し離れたところにあるベンチに綾子を連れて行った。
誠は前から吉川が綾子と和の事を良く思ってないのをしっていたのでわざわざ綾子に会いに来るには理由があるはずだと思い、綾子たちに気付かれないように二人の様子を隅のから見ていた。
「休みは和と会ってたんだろ?なかなか一緒にいさせてやれなくてごめんな」
と吉川が言うと
「そんな…。休みを合わせてくれたりして会える時間を作ってくれて感謝してます」
と綾子は言った。
「今度は香港のツアーラストが終わった2週間後だな。まぁ、ツアーが終わったらアルバム製作に入るから会える時間も増えると思うよ」
と吉川は言ったあと
「…実は綾子にお願いがあるんだけど」
と言った。
「お願いですか?」
と綾子が聞き返すと
「まぁ、4年前から和と綾子が大学卒業したら結婚するって話があるのは知ってたけど、和はツアー終わったら正式に綾子にプロポーズして結婚するって言ってるんだ」
と吉川は言った。
「…!」
陰で聞いてる誠は綾子から結婚の話など聞いた事が無かったので驚いた。
「で、本当に申し訳ないお願いだとはわかってるんだけど、その話を断ってくれないか」
と吉川は言った。
「ど…どうゆうことですか?」
と綾子が聞くと
「別に別れて欲しいって事じゃ無いんだ。少し待って欲しいんだ」
と吉川は言ったあと
「ボレロはこれから世界進出、ワールドツアーとみんなが見ていた夢を実現させていくんだ。だから、それが成功するまで3年…いや2年でいいから結婚するのを待ってもらえないか?」
と言った。
「なっちゃんはこの話、知ってるんですか?」
と綾子が聞くと
「恥ずかしながら、ナゴミは俺の話なんて聞かないよ。俺が一生懸命ナゴミやボレロの事を考えてもあいつは聞く耳持たない。俺を信用してないんだ」
と吉川は落ち込んだ顔をして言った。
「確かに事務所だって初めから結婚することを前提に綾子と契約したし今回も更新した。けど、交際と結婚じゃファンも見方をかえるし時期が悪い。あと2年待つようにナゴミと話をしてくれないか?」
と吉川は綾子に頭を下げた。
「吉川さん。頭を上げて下さい」
と綾子が言うと
「じゃ、ナゴミを説得してくれるのか?」
と吉川は言った。
「ごめんなさい。今すぐこたえは出せません。けど、私は私なりに結婚について考えてみます。次になっちゃんに会った時は自分で考えた答えを伝えます。もしかしたら、吉川さんのお願いは聞けないかもしれませんけど、考えるだけ考えてみます。それでいいですか?」
と綾子が言うと
「そうだよな。すぐに結論が出る話じゃないよな」
と吉川は言った。
「すみません」
と綾子が謝ると
「でも、ちょっとでも考えてもらえるなら俺としてはありがたいよ」
と吉川は言った。




