綾子と仲間
次の日、学校に行くと綾子の側に渉がやって来て
「綾子、昨日のあのダサい男って何なの?」
と聞いてきた。
「何々?綾子に男?話聞かせてよ」
と香住と雅司もやって来て身を乗り出して
「綾子からそうゆう話出るのって初めてじゃない」
「だよな。俺は綾子はギターしか愛せない女なのかと思ってたよ。で?どんな男?やっぱりバンドやってんの?」
と聞いてきた。
「いや、違うから。お隣の人」
と綾子が言うと
「お隣の人と付き合ってるんだぁ。で?どんな人?」
と香住がワクワクしながら聞くと
「いや、どんな人って言われても付き合ってなし…お兄ちゃんの友達だし」
と綾子は言った。
「なんだ。付き合ってないんだぁ。でも、どうなの?綾子はその人好きなの?」
と香住は聞いてきた。
「いや…」
と綾子が言葉に困ってると
「俺が女ならあれはないな」
と渉はため息をついた。
「渉見たの?」
と雅司が言うと
「あぁ、昨日の夜遅くなったから綾子を送って行ったら、突然ボッサボサ頭で眼鏡かけたスエットの男がが綾子に抱きついてきて」
と渉は話を始めた。
「腹減ったから早く帰ろうって言うんだよ。で、綾子が離そうとしても全然離れなくて何か気持ち悪いんだよ」
と渉は言った。
「マジ?何それ?不審者っぽくない?大丈夫なのその人?」
と香住は心配そうに言った。
「う…うん。普通とはちょっと違うけどいい人だよ」
と綾子が言うと
「でも、マジあーゆー男は女居たこととか無さそうで妄想と現実の違いとか分からなそうだから、突然何をするか分かんねぇぞ。綾子、隣の人だからとか兄貴の友達だからって安心しないで気を付けろよ」
と渉は本当に心配そうに言った。
なっちゃん、女居たこと無いとか言われてるし、不審者だと思われてるよ。
和が皆の憧れてるナゴミだとバレるよりも可愛そうな事になってるじゃないかと綾子は思った。
放課後、綾子たちは部室で新曲の練習をしていた。
「ちょっとさ、俺と隼人だけで合わせてみようよ」
とドラムの健太が言ったので、綾子はアンプからシールドを抜いてギターを弾き始めた。
「あ、loverじゃん。お前がボレロ弾くなんて珍しいな」
と渉が隣に座って言った。
「渉、この曲知ってるの?」
と綾子が聞くと
「知ってるよ。インディーズの頃のアルバムに入ってる曲だろ?俺、この曲聞いてボレロのファンになったんだよ。お前もボレロ好きじゃないみたいな顔してこんな昔の曲知ってるんだな」
と渉は笑った。
「私、インディーズの頃のボレロの方が好きなんだよね。でも、あんまりインディーズの曲知ってる人っていないじゃない。渉が知っててビックリした」
と綾子も笑った。
「『僕の存在する場所は君だけなのに
どうして君を遠くに感じるの?
あとどれくらい夜を越えたら
この想いが君に届く~♪』」
綾子のギターに合わせて渉がボレロのloverを口ずさんだ。
「俺さ、中学の時に好きだった同級生いて文化祭でこの曲唄ってから告白したんだよ」
と渉が話始めた。
「マジ?で?どうなったの?」
と綾子が乗り出して聞くと、渉は恥ずかしそうに俯いて
「俺の友達のこと好きだって断られたよ」
と言った。
「あ…」
と綾子がすまなそうにしていると
「で、フラれた後もこの曲聞いて泣いて…。そのあと暫くしてからボレロのライブでこの曲聞いたら、ナゴミってどんだけ相手の事を想って作ったんだろうってぐらい切ない歌い方してて男ながらにナゴミに惚れたって思った思い出の曲」
と渉は笑ったが
「私はこの曲聞くと楽しかった昔の事を思い出すんだよね。お互い思い出の曲だね」
と綾子はギターを弾きながら寂しい顔で笑った。
次の日の昼休みに隼人が綾子たちの教室に走ってきて
「ビックニュース!俺たちがライブのトリに決まった!」
と息を切らせながら言った。
「マジ?うわー、緊張する」
「こりゃ、最高のライブにしなきゃなんねぇな!」
等と渉たちは大喜びをしていた。
「綾子、良かったね。当日のヘアメイクに私も気合い入るわ」
と香住が言うと
「対バンに呼ばれる事多くなったけど、トリ初めてだから震えちゃうよ」
と綾子は泣きそうな顔をして香住の手を握った。
放課後、綾子たちはファミレスに寄ってライブの曲順を考えていた。
「5曲やるんだろ?だったら、初めは一番盛り上がるこの曲で…」
と隼人が曲名が書かれている紙を指差して言った。
「だと、次はこれで、こう流れて…最後は新曲?」
と渉が言うと
「新曲を最初にやってもいいんじゃない?」
と健太が言った。
「でもさ、まだ練習足りないから最初からコケたら恥ずかしくない?」
と綾子が言うと
「そうだよな。じゃ、新曲は最後に持っていくか?」
と隼人が言うと綾子たちも納得した。
その後、香住も混じり話をしていると
「綾子だぁ」
怪しいサングラスの男と一緒に綾子たちの隣の席に席に座ろうとしたボサボサ頭でスエット姿の和が嬉しそうな声をあげた。