それぞれの新年 2
「ドロップキックしてやるよ」
と琳が言うと
「やれるもんならやってみろよ。倍返ししてやるから」
と奏は笑った。
「嘘だって。奏にドロップキックなんてされたら骨折するだろ?」
と琳が笑うと
「なぁ、向こうの方が赤くなってきたしそろそろ日の出じゃね?」
とさっちゃんは言った。
「本当だ。スマホ準備しないと」
と勇次郎がスマホを取り出すと奏たちもスマホを取り出した。
「日の出と飛行機ってタイミング良く収まったりしないかな」
とさっちゃんが言うと
「そんな偶然あるわけ無いだろ?」
と奏は笑った。
「おお、いよいよじゃね?」
と琳が言ってる間に空と海が真っ赤に染まりオレンジ色の太陽がゆっくりと海から顔を出してきた。
「おっ、きたきた」
と言うと奏たちは次々とスマホを使って写真を撮った。
「俺も連写にすれば良かった」
とさっちゃんが言うと
「後で画像送るよ」
と言って奏はlineを開いて
『あけおめ。今年もよろしく』
とメッセージを入れて初日の出の写真をナナに送った。
「早速、彼女に送ってるよ」
と琳が言うと
「送れって言われたからさ」
と奏は言った。
「今までの奏なら面倒くさいって言ってたのにな」
と琳が笑うと
「言ってたか?」
と奏は言いながら今度はInstagramを開いた。
「インスタも更新するの?」
と琳が聞くと
「しないと石井さんに怒られるからさ。…本当、面倒くさい」
と琳は言った。
「出たよ、奏の面倒くさい」
とさっちゃんが笑うと
「やっぱり彼女と仕事は違うんだな」
と琳も笑った。
一方、クリスマスに奏と泊まったホテルにある展望室で日の出を待ってるナナは
「東京は日の出したみたいだよ」
と一緒に来ているユイナに言った。
「本当だ。武志からも送られてきた。やっぱり向こうは早いね」
とユイナは言ったあと
「こっちももうすぐだね。スマホ準備しておかないと」
とスマホを東の方角に向けた。
日の出の写真を撮ったナナとユイナはそれぞれの写真を見せあったあと、それぞれ写真を奏とユイナの彼氏の武志に送った。
エレベーターを待つ列に並んでるとあちこちにいるカップルを見て
「ああ、なんかリア充ムカつく」
と呟いた。
「リア充って、ユイナだってそうでしょ?」
とナナが言うと
「そうだけどさ。なんで帰省しちゃうかな…。クリスマスもバイトだったしさ」
とユイナは言った。
「仕方ないじゃん」
とナナが笑うと
「そうだけどさ…。まぁ、向こうには勇次郎君いるし安心なんだけどね」
もユイナは言った。
「勇次郎君?」
とナナが言うと
「武志が東京帰ってから知ったんだけど武志と勇次郎君って従兄弟だったんだって」
とユイナは言った。
「従兄弟?」
とナナが聞くと
「そうなの。なんまらスゴい偶然でしょ?だから勇次郎君に武志が浮気しないように見張っててって頼んどいたんだ」
とユイナは言った。
「へぇ。まぁ、武志君は浮気しそうにないけどね」
とナナが笑うと
「そうだ。武志から勇次郎君の通ってる高校の話とかも聞いたよ。なんまらスゴい進学校でT大に合格者も出すような学校らしいよ」
とユイナは言った。
「T大?」
とナナが驚いた顔をすると
「みたいだよ。勇次郎君も多分T大目指してるんじゃないかって言ってたし、もしかしたら奏君もそうなんじゃない?」
とユイナは言った。
「まさか…。そんなこと聞いたことないし、T大目指すような人がバイトなんてしないしょ?」
とナナが笑うと
「でも、うちらが東京行った時に奏君に勝てるのはゲームぐらいしか無いってみんな言ってたしょ?きっと勉強しなくてもいいぐらいなんまら頭いいんだよ」
とユイナは言った。
「そうなのかな…」
とナナが言うと
「まぁ、武志が大袈裟に言ってるだけかも知れないけどね。あっ、エレベーターきた」
とユイナは言った。
エレベーターを降りた二人はカフェに入った。
「あれ、ナナ。キャラメルマキュアートって珍しくない?」
とユイナが聞くと
「甘いの飲みたくて…オールで疲れたのかな?」
とナナは笑った。
「確かに疲れたよね。家帰ったら爆睡しそう…」
とユイナが笑うと
「だよね。うちなんて電車乗り越しちゃいそうで怖いよ」
とナナは笑った。
「だったら奏君とlineしながら帰ったら?そしたら寝ないですむんじゃない?」
とユイナが笑うと
「いいよ。奏君もオールだったろうし眠いだろうからさ」
とナナは言った。
「…でもさ、せっかく本当のカレカノになったのにナナも奏君もバイト忙しくて連絡とれなかったんでしょ?出来るときに連絡取り合わないと」
とユイナが言うと
「それはそうなんだけどさ…。お金貯めなきゃなんないし」
とナナは言った。
「まぁ、長い休みは稼ぎ時だからね。首都圏のインターンシップも受けるからお金貯めなきゃなんないのもわかるけどさ。やっぱり向こうの企業狙ってるの?難しくない?」
とユイナが言うと
「難しいとは思うけどやるだけのことはやってみようと思ってさ」
とナナは言った。
「そっか…」
とユイナは言うとスマホのInstagramを開き
「あっ、カナデが更新してる!うそ、エンドレスの映画の主題歌もやるの?」
と驚いた顔をした。
「カナデ?」
とナナが聞くと
「ああ、奏君じゃないよ。ほら、うちが注目してる新人のカナデ。最近はネットで第2のナゴミとか言われてるし絶対人気出てくるよ。ナナもチェックしてみなよ」
とユイナは言った。
「第2のナゴミねぇ。それってナゴミの真似してるってこと?顔も出さないし、なんまら不細工とかだったらどうする?それでもカエデの方がいい?」
とナナが笑うと
「そりゃうちだってナゴミが一番だよ」
と言ってユイナはカナデのInstagramをナナに見せて
画像をタップすると
「ほら、この楓の葉っぱのなんて『子どもの頃はもっと大きかった気がする』って書いてあるんだよ。言われてみたら確かにって思うけど普通はそんなこと考えないじゃん。それから、これは最近のだけど『天空の景色』ってラピュタの世界でしょ?」
とユイナは笑った。
「まぁね」
とナナが言うと
「全然興味無いって顔して」
とユイナは言った。
「そんなこと無いって。…あれ、この写真ってファクトリーじゃない?」
とナナが言うと
「そうなのよ。クリスマスに更新されたのだけど札幌に来てたみたいなんだよね。ほら、ホワイトイルミネーションのもあるんだよ」
と言って写真をタップした。
「イルミネーション…」
と呟いたナナがクリスマスイブに二人で写真を撮ったことを思い出していると
「いいなぁ…。きっとクリスマスデートしたんだろうな」
とユイナは言った。
「そうだね」
とナナが笑うと
「ファクトリー行ったりイルミネーション見たりってナナたちと同じデートコースだし、どこかで会ってたりしてね」
とユイナも笑った。
「そうかもね。でもさ、そう言われるとなんか親しみを感じるかも。うちもフォローしてみようかな?」
とナナがスマホを取り出すと
「Kanade0903jnだよ」
とユイナは言った。
「カナデ?カエデじゃなかった?」
とナナが笑うと
「違うよ、カナデだよ。ナナの彼氏と同じ名前のカナデ。同じ名前なんだから応援してあげなよ」
とユイナも笑った。
Instagramをフォローし写真を見てたナナは
「あれ?これって奏君が送ってきたのと似てる…」
と初日の出の写真を見て言った。
「どれ?」
とユイナが言うと
「この初日の出の写真」
と言って奏が送ってきた写真を開いて見せた。
するとユイナは自分のスマホを隣に並べ
「…本当だ。似てるって言うよりほとんど一緒じゃない」
と言った。
「…」
ナナが驚いた顔をしていると
「…ねぇ、もしかしてカナデって奏君なんじゃない?」
とユイナは言った。
「えっ…」
とナナが驚いた顔をすると
「そんなわけないか。偶然同じところで初日の出見ただけだよね」
とユイナは笑った。
「…そうだよね」
とナナが笑うと
「でも、スゴい偶然が重なるよね?同じようにクリスマスをこっちで過ごして初日の出も同じところで見て名前まで一緒なんて。これは応援しないわけにいかないよね?」
とユイナは笑った。
「…」
ナナが写真を見比べてると
「さあ、そろそろ帰ろうか?ナナも明日からまたバイト始まるんでしょ?今日ぐらいゆっくり休まないとね」
とユイナは言ったあと
「あっ、奏君と電話デートするからゆっくりも出来ないか」
とユイナは笑った。




