クリスマスの終わり 4
セキュリティゲートの前まで歩いてきた奏は、もうナナはいなくなっているだろうか?それともその場でまだ泣いているんだろうか?と気になり振り向いてみた。
「…」
涙でグシャグシャの顔で自分を見てるナナに愛しさと離ればなれになってしまう切なさ…そしてすぐに東京に戻ってしまう申し訳なさで胸がいっぱいになったが、それをナナに悟られないように笑いながら手を振るとナナもグシャグシャの顔で笑い手を振り返していたので奏はもう一度手を振るとセキュリティゲートを通り搭乗待合室に入ると自分の乗る飛行機の搭乗ゲートに出来てる列に並んだ。
サラリーマン風の少し疲れた顔をしている人、楽しそうに話をしている家族連れ、東京に遊びに行くであろう友人同士や恋人たち、…もしかしたら自分と同じように1人で東京に戻るのかもしれない人。
羽田に向かう同じ飛行機に乗るのに目的はそれぞれ違いそれぞれの旅がある。
ボーディング・ブリッジを歩く奏は自分は薄情なのかもしれないと自分で自分に少し呆れてしまった。
ナナと離れたくない…もっと一緒にいたい…ナナに笑って欲しいと思っているのに頭の中には歌詞が浮かんできている。
考えてみたら、今朝だって幸せそうなナナの寝顔を見ながら歌詞を作り相川に送った。
「…まるで利用してるみたいだな」
と呟くと奏は飛行機の入口に一番近い窓からターミナルの方を見ると、手すりから少し身を乗り出してナナが自分の方を見ていた。
なんであんな可愛いことしてるんだよ。
隣にいる子どもと一緒じゃん。
と思いながら小さく笑い奏が手を振るとナナも手を振り返してきたので奏は飛行機に乗り込んだ。
座席に座ると奏は机の上にPCを置きスマホを見た。
『歌詞、修正無しでOK』
と言う相川のlineのメッセージを奏が見てるとCAが
スマートフォンの電源を切るように言ったので、奏はスマホを机の上に置いて窓の外を眺めると、ゆっくりと動き出す飛行機はターミナルから少しずつ離れ滑走路へと移動し始めた。
離発着の順番待ちで数分の間滑走路で待機してる飛行機の中で奏はターミナルを眺め、まだあの場所で身を乗り出してナナが自分の乗った飛行機を見てるのだろうかと考えた。
子どもみたいに、ちょっとしたことでも無邪気にはしゃいだり笑ったりするナナ。
髪を撫でた時に微笑むナナ。
からかったり冗談を言って意地悪をした時、それを素直に受け真面目に考え悩んだり怒ったりするナナ。
不慣れな自分が緊張や恥ずかしさでカッコ悪い姿を見せた時にそれを笑わず嬉しいと言ってくれたナナ。
脳裏に次々とナナの姿が浮かび奏の目頭は熱くなってきた時、飛行機は飛び立つ準備が整い離発着をするメイン滑走路に入った。
滑走路に入ると飛行機は一気にスピードをあげ加速しナナのいるターミナルの前をあっという間に横切ったかと思うと次の瞬間には上空へと飛び立った。
厚い雪雲を通り抜け雪雲を見下ろすように安定飛行を始めるとシートベルトのサインが消えた。
奏はインスタに北海道の大地の写真を載せようとスマホを窓の外に向けたが写ったのは晴れ渡る空の下に広がる真っ白な雲だけだった。
「まぁ、いいか…」
と呟くと奏はアルバムの中にあるナナと二人で撮った写真を見て微笑み頭を浮かんできた言葉をスケッチブックに次々と書き出すとPCを開き歌詞作りを始めた。
羽田空港に着き到着ロビーに出ると奏はため息をついた。
1時間半前まで北海道にいたのがまるで夢か幻だったのではないだろうか?と思える光景。
慌ただしく早足に歩く人々。
真っ白な銀世界の大きな空は見慣れたビルに囲まれた小さな空に…。
どれもこれも北海道とはまるで違う。
北海道はまるで別の世界のように感じる…。
奏は電車に揺られながら寂しく笑うとスマホを開き
『天空の景色』
とメッセージを入れてインスタを更新した。
お土産でいっぱいのスーツケースを引く奏が自宅の前に着くと家の灯りが光っていたので
「ただいま…」
と奏がドアを開けると
「よう、おかえり」
とリビングのドアを開けた由岐が言った。
「由岐ちゃん、どうしたの?えっ?えっ?いつ日本に帰ってきたの?」
と奏が驚いた顔をして聞くと
「今日の昼だよ。奏のこと驚かそうと思って黙ってたんだ」
と由岐は笑った。
リビングに入るとなぜか相川と誠がソファーに座りテレビを見ていて、和と綾子はキッチンで食事の準備をしていた。
「奏、おかえりなさい」
と綾子が言うと
「奏、北海道は楽しかったか?」
と和は聞いた。
「ただいま。楽しかったよ」
と奏がコートを脱ぎながら言うと
「そりゃそうだよな?俺がプレゼントしてやった旅行だもんな。楽しくなかったって言われたら泣きたくなるわ」
と相川は笑った。
奏は荷物の中から
「これ、父さんと母さんに…」
とチーズタルトを渡すと
「これとこれはまこちゃんと相川さん。…由岐ちゃんのは…」
と奏がすまなそうな顔をすると
「いいって。俺がいるの知らなかったんだし。綾子からもらうから」
と由岐は笑ったあと
「奏のお土産は家に送った荷物の中に入ってるから明日にでも持ってくるな」
と言った。
食事の準備が終わった和がミトンをはずしながら
「おい、明日も来るつもりか?こっちも忙しいんだからいい加減にしてくれよ」
と言うと
「なに?和は明日も仕事なのか?休みなのかと思ってた」
と由岐は笑った。
「…お前と違って年末ギリギリまで仕事だよ。ここて暇なのは由岐だけだよ」
と和がムッとした顔をすると
「そうなの?じゃ、休みの間は奏と出掛けようかな。奏、どこ行きたい?」
と由岐は聞いた。
「あっ…俺は…」
と奏がチラッと相川を見ると
「由岐、奏も製作とレコーディングで暇なしだから無理だな。たまに帰ってきたんだし親父さんたち連れて親孝行でもしてきたらいいんじゃないか?」
と相川は笑った。
「レコーディング?…そう言えば、ジェネラインと契約したって言ってたもんな。それも俺がいない間に…」
と由岐が笑うと
「お兄ちゃんいたら大変だったろうね。絶対ダメだって反対して大騒ぎになってたんじゃない?」
と綾子は笑った。
「そんなことないよ。奏がやりたいなら俺だって応援するし」
と由岐が言うと
「絶対嘘だよ。私の時スゴかったじゃない」
と綾子は言った。
「そうか?覚えてないな…」
と由岐が言うと
「あの時の由岐さん怖かったですよね?綾子なんて由岐さんに怒鳴られて固まって動けなくなってたし」
と誠は笑った。
「そうだったか?全然覚えてないな…」
と由岐が言うと
「年取ると都合の悪いことは忘れるようになるからな」
と和が笑ったので
「お前だって同い年だろ?和は都合の悪いことは忘れるようになったのか?まだ早いだろ」
と由岐も笑った。
その後、クリスマス料理がダイニングテーブルに並ぶと由岐のツアーの話やfateのツアーの話などをしながら賑やかな時間を過ごした。
毎年とは言えないけど、家族が揃うクリスマスには必ず出てくる料理…和や綾子がいなくても隣の綾子の実家でも毎年出てくる料理を食べながら奏はなぜか寂しい気持ちになった。
東京に戻りいつもの生活に戻ったけど…そこにナナはいない。
奏が寂しそうな顔をしているのに気付いた綾子が
「そうだ。奏の彼女ってなっちゃんの大ファンだったよね?クリスマスプレゼントになっちゃんのオフショットでも送ってあげたら?」
と言った。
「俺?」
も和が驚いた顔をすると
「和のファンなんて趣味悪い子だな」
と由岐は笑った。
「趣味悪いってどうゆうことだよ」
と和が言うと
「どうせなら家族写真にしたらどうだ?彼女、綾子のファンでもあるんだし愛しい彼氏の写真だって欲しいだろ」
と相川は笑った。
「そんなの送って大丈夫なんですか?」
と誠が心配そうに聞くと
「大丈夫だって。奏の彼女は二人のこと知ってても誰にも言わないで黙っててくれてるんだし、奏がそうゆうのに敏感なの誠だって知ってるだろ?」
と相川は笑った。
「…でも」
と誠が言うと
「奏が選んだ女なんだから信用すれって。まぁ、奏に彼女が出来て寂しいのもわかるけどさ」
と相川は言ったあと
「ほら奏、スマホ貸せ。撮ってやるから」
と言った。
奏がスマホを渡すと3人は並んで座ったが
「やっぱり俺も一緒に写るかな…。和ちょっとよけろよ」
と由岐は和と奏の間に入った。
「おい、これじゃ誰がメインかわかんないだろ?」
と和が言うと
「何言ってるんだよ。俺だって家族だぞ。文句あるなら綾子の隣に座ればいいだろ?」
と由岐は奏の肩に腕を回して笑った。
「…」
和がブツブツ言いながら綾子の隣に座り肩に腕を回すと
「じゃ、撮るからな。…もう少しみんな近くに寄って」
と相川は言ってスマホのシャッターをきった。




