クリスマスの夜 1
スマホをきった奏がドアを開けると
「ごめんね、遅くなっちゃった。…って、部屋暗いけど寝ちゃってたの?」
と言いながらナナは部屋に入ってきた。
「クリスマスツリー照らしてみようと思ったんだけど電気ついてると灯りが見えないでしょ?だから消してた」
と奏が言うと
「確かに見えないもんね」
と笑いながらナナはバックに着替えをしまった。
「なにかおかしいこと言った?」
と奏が聞くと
「違う違う…。なんかさ、奏君ってやっぱり女の子っぽいなって思って」
とナナは笑った。
「女っぽい?俺が?」
と奏が聞くと
「だって、甘いもの好きだし、イルミネーション見て目をキラキラさせるし、そのうえ灯り消してツリー照すとか…女の子っぽいって言うか…ロマンチストなのかな?」
とナナは笑った。
「ロマンチスト?そんなこと言われたことないな…」
と奏が言うとナナはスマホを手に取り
「でも、ツリーなんまらキレイだね。これも写真撮っておこうかな?」
と写真を撮り始めたので
「あのさ、一緒に…」
と言って奏は黙ってしまった。
「ん?」
とナナが奏の方を見ると
「…なんでもない。シャワー行ってくるから先に寝ててもいいよ。ベッド好きな方使って」
と奏はシャワールームに入っていった。
写真を撮るのをやめてナナはベッドに座るとテーブルに並べられツリーの灯りに照らされてキラキラ光ってるガラスのオブジェを見て
「…本当、ギャップありすぎ」
と笑ったあとテーブルの端に置かれてるリボンのかかった小さな箱を見て
「完璧彼氏だな…」
と苦笑いしてベッドに横たわった。
奏は頭からシャワーを浴びて目を閉じていた。
ナナが好きだって自覚したことで、今まで普通にしてたことが出来ない。
一緒に写真撮ろうなんてよくも簡単に言えてたなと自分で自分に感心した。
メイクを落としパジャマ姿のナナが可愛くて仕方ないが、そんなことは恥ずかしくて言えない。
自分のことを笑うナナの髪をクシャクシャと撫でたいと思っても出来ない。
好きって怖い…臆病になる…。
「平気で出来る父さんってスゴいわ」
と奏は呟くと顔を上げて髪をかきあげて
「おもいっきりフラれてスッキリするか…」
と言った。
奏がシャワールームから出てくるとナナは目を閉じて寝たフリをした。
奏はナナが布団に入らず寝てるのを見て
「ナナさん、風邪ひくよ。布団入りな。…ねぇ、ナナさん」
と言ったがナナは目を閉じて寝たフリを続けたので
「…本当、参るよな」
と奏は呟き苦笑いをした。
フラれてもいいから好きだって告白しようと覚悟を決めたのに、相手は既に寝てる…。
本当にツキから見放されてると言うか…やっぱり運を使い果たしてしまったのだろうかとため息をつきながらテーブルを見ると、奏が置いたナナへのプレゼントの横にもう1つ小さな箱が置かれていた。
「…ナナさん、起きて。ねぇ、起きてよ。これ、もらっていいの?」
と奏はナナに聞いたがナナは寝たフリを続けた。
参るよなと自分に呆れてる奏のために買ったはいいけど、もしかしたら奏の趣味に合わなくてガッカリした顔をされたらどうしよう、本当は要らないのに無理して喜んでるフリをされたら…と考えるとナナは目を開けることが出来なかった。
「ねぇ、ナナさん」
と奏は言ったあと
「俺のわけないか…」
と呟いてベッドの脇の床に座ると頭をベッドに乗せナナの顔を見た。
薄暗い部屋の中でツリーの灯りに照らされるナナの顔はいつまでも見ていたいと思うほど可愛く愛しい気持ちになった。
ナナが自分のことを好きになってくれたらいいな…と奏は思ったが、次の瞬間には好きな人が出来るまでの限定の付き合いと初めから言われてるし、もともと自分のことなんて眼中にないんだと思うと悲しすぎて涙が出そうになった。
…フリなんてしてても何の意味もない。
こんな関係続けても悲しいだけ。
もう、やめよう…。
…けど、今だけ…ナナが眠ってる今だけ…ナナに気付かれない今だけはナナを独り占めしたい…ナナに触れたい。
奏はナナを起こさないように静かにゆっくりと腕を伸ば柔らかいナナの髪を触り髪を撫でた。
愛しい気持ちがさらに増してくる。
愛しい気持ちが大き過ぎて泣きそうになる…。
一方のナナは目を閉じていたが、もしかしたら奏に聞こえてしまうのではないかと思うほど心臓がドキドキしていた。
どうしてそんなに大切なものを扱うかのように優しく髪を撫でるんだろう?
もしかしたら、奏も自分と同じように好きでいてくれてるのだろうか?
…勘違いしてたと言ってた意味が私が勘違いするようなことをしてくれたら喜ぶと思ってたという意味じゃなく、奏自身が本当の恋人のように付き合ってるって勘違いしてたって意味だったら…。
ナナが目を開けると奏は慌てて手を引っ込めて
「ごめん…。違うんだ…。髪がグシャグシャだったから直してあげようとして…」
と言った。
「奏君?」
とナナが言うと
「本当にごめん。…キモいよね?…もうしないから…本当にごめん」
と奏は立ち上がり机の方へ歩いていった。
まさか、ナナが目を覚ますなんて考えてなかった。
寝てるナナの髪を触るなんて絶対に変に思われる…と奏は恥ずかしさと不安と後悔でいっぱいになりながらPCを開いた。
もうダメだ…もう限定の付き合いでさえ出来なくなる…と奏が思ってると
「奏君。ねぇ、奏君」
とナナは言った。
「…」
奏が震える手でPCにイヤホンを差し込んでいるとナナは奏の前にプレゼントの箱を置いて
「これ…絶対に奏君に似合うと思って選んだの。それから、このネックレスもありがとう。スゴい嬉しい…」
とナナは暗がりで奏には見えなかったが真っ赤な顔をして言った。
すると奏はナナの方を見て
「ごめんなさい」
と頭を下げた。
「えっ?」
とナナが言うと奏は頭を上げて
「気を使わせてごめんね。本当はあの人のプレゼント選びたかったんでしょ?なのに俺のなんか買わせちゃって…。ネックレスもさ、お揃いとかキモいよね?捨てていいから。もうさ…気を使わないで」
と無理に笑った。
「なにそれ?」
とナナが聞くと
「ごめん…。宿題やらなきゃなんないんだ。もう、勝手に触ったりとかしないから寝て」
と奏はイヤホンを耳につけてスケッチブックを開きペンを持つと仮オケの入ってるファイルをクリックした。
「奏君…」
とナナが何度も声をかけたが目を閉じて曲を聞いてる奏にはナナの声は聞こえなかった。
「…奏君!」
と大きな声をあげるとナナはPCからイヤホンのジャックを抜いた。
「ちょっと!」
と奏は慌てて停止ボタンをクリックして
「ナナさん、やっていいこととダメなことあるから」
と言った。
するとナナは怒った顔で
「何が宿題よ…音楽聴いてるだけじゃない」
と言った。
「ナナさん、何が面白くないのかわかんないけど本当勘弁して。ねぇ、イヤホン返し」
と奏が言うと
「返すわけないしょ」
とナナは言った。
「…なんでそんなことするの?本当返してくれないと困るんだけど」
と奏は手を差し出したがナナは手を引っ込めて
「…返さないって言ってるでしょ」
と言った。
「…そんなワガママ可愛くないよ」
と奏が言ったがナナは返そうとしなかったので
「あのさ…いい加減にして。怒りたくないけど本当怒るよ」
と奏はため息をついた。
「…そんなに音楽聴くの大事?」
とナナが聞くと
「うん。宿題終わらせないといろんな人に迷惑かかるから」
と奏は言った。
「私と話終わってないのに聴かなきゃなんないほど大事なの?」
とナナが聞くと
「…話終わったでしょ。…謝ったじゃん。…これ以上何をすれば許してくれるの?」
と奏は言った。
「終わってないしょ。奏君が勝手に話して謝ってってそれだけでしょ。うちの話を聞こうともしないで勝手に終わったことにしないで!」
とナナはイヤホンを奏の投げて
「勝手にすればいいしょ。もう嫌だ。奏君、何考えてるのか全然わかんない!そんなに大事なことあるなら来なきゃ良かったじゃない!無理してまで来てもわらなくても良かった……付き合ってるフリだってしてくれなくてよかった…」
と言って座り込んで泣き出してしまった。




