クリスマスデート 4
19時40分の少し前に1時間前に別れた場所へナナが戻ると既に奏は戻っていた。
「奏君、早いね」
とナナが言うと
「そう?俺も今戻ったところだよ。迷子になりそうになって焦ったよ」
と奏は言ったあと
「ねぇ、腹減ったんだけど。飯行こうよ」
と言った。
ナナの予約した店に入ると店内はカップルやファミリー連れで賑わっていて
「人気の店なんだ…。よく予約できたね」
と奏はナナに聞いた。
「そりゃね。10月から予約してたら大丈夫でしょ」
とナナが言うと
「そんな前から予約してくれてたの?」
と奏は驚いた顔をした。
「うん。クリスマスディナーなんて食べたことなかったし、前からここのお店に来てみたかったから張り切って予約しちゃった」
とナナが笑うと
「そっか。俺なんてコンビニおにぎりしか食べさせてあげれなかったのに…」
と奏は笑った。
店員が飲み物のオーダーを聞きに来ると
「ナナさん、何飲むの?アルコール?」
と奏は聞いた。
「奏君は?」
とナナが聞き返すと
「俺は…ウーロン茶で」
と奏は言った。
「じゃ、私もウーロン茶」
とナナが言うと
「かしこまりました」
と店員は戻っていった。
「俺に気を使わなくても良かったのに」
と奏が言うと
「酔って何か変なことでも言っちゃったら困るからいいの」
とナナは言った。
「変なこと?」
と奏が聞くと
「うん。まぁ、気にしないで」
とナナは笑った。
コース料理が次々と運ばれてきて食べているとナナは奏を見て
「奏君、食べ方キレイだね」
と感心したように呟いた。
「そう?」
と奏が言うと
「うん。私なんてフォークとナイフであたふたしてるのに、スゴい慣れてる感じで…。なんだろう?育ちの良さを感じる」
とナナは言った。
「育ちの良さなんてないよ」
と奏は笑ったあと
「由岐ちゃんやまこちゃんと出掛けるとフレンチとか食べさせられるから慣れてるって言えば慣れてるけど。ばあちゃん家育ちだし育ちは良くないよ」
と言った。
「ゆきちゃん、まこちゃん?」
とナナが聞くと
「ああ、ボレロのユキとSperanzaの誠。昔から自分の子どもみたいに可愛がってくれておじさんって言うと怒るからそう呼んでるんだ」
と奏は言った。
「そうなんだ。じゃ、タケは?」
とナナが聞くと
「タケちゃん。カンジはカンジ君。隼人は隼人君で渉はわっ君」
と奏は言った。
「渉と誠以外はそのままなんだね」
とナナが笑うと
「そうだね。何のひねりもないね」
と奏は言った。
「そういえば、文化祭の動画見てたら奏君ってカナって呼ばれてたよね?」
とナナが言うと
「そうだね。奏って呼ぶ奴とカナって呼ぶ奴いるよ。でもさ、後輩とかにカナ先輩とか言われるとなんか嫌だよね。女みたいじゃん」
と奏は言った。
「そうかな?いいじゃない。私もカナちゃんとかカナ君って呼ぼうかな?」
とナナが笑うと
「いや…カナちゃんはちょっとさ。だいたい、ナナさん年上なんだから君付けなんてしないで奏でいいのに」
と奏は言った。
「いやいや。…そこまで図々しいことは出来ないよ」
とナナが言うと
「図々しいかな?俺はそう思わないけど」
と奏は言った。
「だったら奏君だって一応彼氏なんだしさん付けやめて呼び捨てしてくれていいんだよ」
とナナが言うと
「それはさ。一応、年上だし無理でしょ」
と奏は笑った。
「そう?ナナさんって言われると他人行儀だし距離感じるよ」
とナナが言うと
「そっか。ナナ…ねぇ。徐々に練習して言えるように努力するよ」
と奏は言った。
食事を終えて外を歩いていると
「さっきは気付かなかったけど、街路樹とかもイルミネーションされてるんだね」
と奏は言った。
「うん。札幌のクリスマス気に入ってくれた?」
とナナが笑うと
「うん。東京よりずっといいね。この寒さも慣れてくるとクリスマスって感じで気持ちいいし」
と笑ったあとすれ違うカップルが肩を寄せて手を繋いだり腕を組んで歩いてるのに気付いた奏は
「…あのさ、手…繋ぎたいとか腕を組みたいとか思う?」
と聞いた。
「えっ?」
とナナが驚いた顔をすると
「いやさ、気付くの遅かったけどカップルって手を繋いだり腕を組んでたりするじゃん。ナナさん、したいの我慢してたのかな?って思って」
と奏は言った。
するとナナは演技で付き合ってるから無理して気を使ってくれてるのだと思い
「そこまで気を使わなくても大丈夫だよ。一緒にいてくれるだけで充分嬉しいから」
と笑った。
「…別に気を使って言った訳じゃなくて、逆にナナさんが俺に気を使ってるのかなって思ったから」
と奏が言うとナナは奏が責任を自分に押し付けてきてるような感じがして
「私は気を使ってないよ。ってかさ、奏君はどうなの?奏君はどうしたいの?」
と聞いた。
「俺…?俺は…」
と奏が考えてると
「ゴメン。意地悪な質問しちゃったね。忘れて」
とナナは笑った。
「うん…。でも…」
と奏がどうしようかと困ってると
「気にしないで。ほら、イルミネーション見えてきたよ。これ、彼氏と一緒に見るの憧れてたんだ」
と笑った。
「…」
奏は自分がどうしたいのかと言うことを考えていたが、答えは見つからなかった。
…けど、1つだけわかったことはナナにこんな風に無理に笑って欲しい訳じゃないと言うことをだった。
ナナの喜ぶ顔や笑ってる顔が見たくてナナの希望を叶えてやりたいと思ったから手を繋ぎたいのか聞いただけだで気を使ったりしてる訳じゃないのに…。
すれ違うカップルは幸せそうに笑ってるのに…ナナだってあんな風なデートを楽しみにしてたはずなのに自分のしてることはナナに無理して笑わせてるだけ…。
そんなことをさせてる自分が嫌だし、他の男の話を聞いたり過去の男に会ったことで変に苛立ち心がモヤモヤしてる自分も嫌だと奏は思った。
「奏君じゃないけど、寒いね…」
とナナが笑いながら両手を口元に持っていきハーッと息を吐いてるのを見てた奏に
「どうしたの?」
とナナは聞いた。
「…なんでもない」
と奏は笑ったあとテレビ塔の方を見て
「ライトアップされた鉄塔とクリスマスツリーで本当キレイだね。あっ、クリスマスツリーがハートの形してるじゃん」
とスマホを出して写真を撮ってると
「奏君ってさ、イベントあんまり好きじゃないのかなって思ってたけど実は大好きなんだね」
とナナは笑った。
「イベント?…イベントにはあんまり興味ないけどこれは別物でしょ?」
と奏は笑ったあとまわりをキョロキョロと見てから一組のカップルのところへササッと歩いていった。
「…」
突然、自分を残してカップルと話を始めた奏にナナがどうしたのだろうと思ってると奏はカップルと一緒にナナのところに戻り
「写真撮ってもらえるようにお願いしてきたんだ」
と言った。
「写真?」
とナナが聞くと
「うん、ここをバックに撮ってもらおうよ」
と奏は笑った。
奏とナナが並んで立つと
「もう少し近付いて」
と奏のスマホを持った男が言ったので奏はナナの側に寄った。
「ちょっと近すぎない?」
とナナが言うと
「いいじゃん。せっかくなんだし」
と奏は笑ってナナの手を握った。
「ちょっと…」
とナナが奏の方を見て驚いた顔をしてると
「じゃ、撮りますよ」
と男は写真を撮って
「あっ、彼女さん横向いちゃいましたね。もう一枚撮ります?」
と奏に聞いた。
「はい。お願いします」
と言うと奏は
「ちゃんと向こうむかなきゃ」
と笑った。
「だって急に手繋いだりするから…」
とナナが言うと
「いいじゃん。ほら、待ってくれてるんだから前向いて。ちゃんとしないと後で意地悪するよ」
と奏は笑った。
写真を撮ってもらったあとも手を離さず奏が歩いていると
「もう、手離してもいいよ」
とナナは言った。
「なんで?手繋ぐの嫌?」
と奏が聞くと
「嫌って訳じゃないけど」
とナナは小声で言った。
「あれ?向こうに建物ある。夏に来たときなかった気がするんだけど、あれなに?」
と奏が聞くと
「クリスマス市だよ。雑貨とか売ってるんだよ」
とナナは言った。
「そうなの?…ねぇ、ちょっと見てってもいい?」
と奏が言うと
「うん。行こう」
とナナは笑った。




