北海道へ
クリスマスイブ、奏が遅めの朝食を食べてると
「北海道は寒いからね。カイロ持っていった方がいいよ。あと、靴はブーツね。底の平らなのは滑るからダメよ。あと、転んだら濡れるから着替えは多めに持ってね」
と綾子は言った。
「綾子、その話は昨日もしてたよ。奏だってわかってるって」
と和が言うと
「だって、北国を甘くみたら痛い目にあうのよ。本当、寒いし道は滑るし…」
と綾子は言った。
「大丈夫だよ。多目に着替え入れたしカイロも持ったから」
と奏が言うと
「あと昨日渡したコンドームは忘れず持っていけよ。彼女と一緒の時に買うのって気まずいし、初めてだともたついたりするかもしれないけど気にするこないから落ち着いてな」
と和は言った。
「ちょっと、なっちゃん。なんでそんなこと息子に言うの?恥ずかしくないの?」
と綾子が言うと
「なにいってるの?大事なことなんだからキチンと教えないと」
と和は言った。
「父さん、もらっておいて悪いけど使うようなことないと思うんだよね…。返すから二人で使ったら?」
と奏が言うと
「今は使わないと思っててもその時になったら使うことになるかもしれないだろ?とりあえず、持つだけ持って行きな」
と和は言った。
「でも…」
と奏が言うと
「でもじゃない。いいから持ってきな」
と和は言った。
奏が部屋でスーツケースにコンドームを入れようかどうしようか迷ってコンドームケースを見ていると
「奏、入っていい?」
とドアの向こう側から声をかけてきたので奏は慌ててコンドームケースを入れてスーツケースを閉め
「いいよ」
と言った。
綾子はドアを開けると奏の荷物を見て
「ギターも持ってくの?」
と聞いた。
「うん。時間あったら曲作ろうかと思って」
と奏が言うと
「偉いわね。…でも、歌詞作る宿題も出てるんでしょ?あれこれやろうとしても大変よ。荷物も多くなっちゃうしギターは置いてって楽しんできた方がいいんじゃない?」
と綾子は言った。
「…うん。そうだね」
と奏が言うと
「あのね、さっきパパが話してたことだけど…」
と綾子は言った。
「父さん?」
と奏が聞くと
「その…。彼女と泊まるときに使うからって…渡されたんでしょ?」
と綾子は気まずそうに言った。
「あっ…ああ」
と奏も気まずそうに言うと
「別にね、そうゆうのは急がなくてもいいと私は思うよ。彼女のことを大切にしたいから急ぎたくないって言うのもあるだろうし、そうゆう優しさは彼女にもキチンと伝わると思うし大事にされてるんだって嬉しいと思うのよ」
と綾子は言った。
「…うん」
と奏が言うと
「無理してすることじゃないし、お互いにもっと深くお互いのことを知りたいと思った時にすればいいと思うし…。それにね、別にそうゆうことをしなくても一緒にいて一緒のお布団に入って眠るってだけでもとても幸せな気持ちになれることだしいいんだよ」
と綾子は言ったあと
「あっ。でもね、別にしちゃダメだって言ってるわけじゃないからね。ただ、勢いとかその場のノリとかではして欲しくないからさ」
と言った。
「わかってるよ。大丈夫、安心して」
と奏が言うと
「なんか変な家族だよね。親子でこんな話するなんて」
と綾子は笑った。
「まあね。でもさ、うちの家って感じじゃん。そうゆうのも普通に話せるのってさ」
と奏が言うと
「そうだね。…奏、クリスマス楽しんできてね」
と綾子は笑った。
奏我慢荷物を持ってリビングに降りてくると和がPCを見ていた。
「あれ、母さんは?」
と奏が聞くと
「もう行ったよ。特別仕様に髪型セットしなきゃならないから入り時間も早いんだって」
と和は言った。
「特別仕様?」
と奏が聞くと
「真っ白なフェザーのエクステも編み込んでクリスマスバージョンにするんだって」
と和は笑った。
「スゴいね」
と奏が言うと
「クリスマスぐらい休みでもいいのにな」
と和は笑った。
「父さんは休み?」
と奏が聞くと
「俺ももうすぐ迎えくるよ。でも、今日は夕方で終わりだから帰ってきて飯の準備でもしてるよ」
と和は言った。
「二人でどっか行ったりしないの?」
と奏が聞くと
「迎えに行ってドライブデートしようかと思ったんだけど綾子も疲れてるだろうからさ。家でまったり過ごすことにしたよ」
と和は言ったあと
「奏ももうすぐ行くんだろ?」
と聞いた。
「うん。空港でお土産買ってきたいしそろそろ行こうかと思ってた」
と奏が言うと
「電車も混んでそうだし気をつけていけよ。あと、北海道ついたら俺と綾子と相川さんにはlineすれよ」
と和は言った。
「わかってるよ」
と奏が言うと
「じゃ、土産話楽しみにしてるからな。楽しんでこいよ」
と和は奏の頭をクシャクシャと撫でた。
和にもらったバックを肩にかけスーツケースを持った奏はクリスマスと言うこともあり普段よりも込み合う電車に揺られ空港に向かった。
空港に着き、搭乗手続きを終わらせると奏はナナへのお土産を見ようと何件かの店を見てまわりマカロンを買った。
お土産なんて簡単に選べると思っていたが、今まで女友達もいない奏はこうゆうときに何を選ぶのがいいのかわからなかったし何度も電話で話したけど好きな食べ物も聞いたことがなかったので何が欲しいかもわからなかったので、とりあえず女子受けしそうな感じのマカロンを選んだ。
飛行機に乗ると奏はバックからPCを取りだしイヤホンを付けた。
出来ることなら北海道に着くまでに歌詞を作り終えたいと思い目を閉じて曲を聞いていたが、飛行機が離陸して少しするとそのまま眠ってしまい目が覚めて窓の外を眺めると水平線の向こうに陸が見えていた。
「…」
まだ目が完全に覚めてない奏がボーッと窓の外を眺めてるとどんどん陸地が近付いてきてシートベルトのサインがついた。
「…!」
シートベルトのサインがついてもうすぐ着陸するんだと言うことに気付いた奏は、歌詞を1つも作らず眠ってしまったことに焦りを感じた。
ヤバい…26日には仮録りなのに歌詞が出来てないどころかイメージやテーマさえも作れてない。
今夜はナナも一緒にホテルに泊まることになったからもしナナが自分より遅くまで起きてたら作ることも出来ないかもしれない。
じゃあ、朝早く起きて作れば…。
それか、東京に帰る飛行機の中で作ればどうにかなるだろうか?
…果たして作れるのだろうか?
奏は飛行機が着陸するまで頭の中でグルグルと考え飛行機が空港に着きタラップを降りて荷物の受け取りを待っている間も奏は歌詞をどうしようかと悩んでいたが、スーツケースを手に取り到着口に向かって歩いているうちに自分でも驚くほど開き直り
「まあ、出来なきゃ出来ないで仕方ないか…。帰ってから考えよう」
と呟きながら到着口を出ると
「奏君!」
とナナが奏に近付いてきた。
「あっ、ナナさん。どうしたの?待ち合わせ、札幌駅だったでしょ?」
と奏が驚いた顔をするとナナはニコニコと笑い
「どうせだから空港まで来ちゃった」
と言った。
二人でプラットホームに立ち電車を待ってると奏は手をコートのポケットに入れて
「めちゃくちゃ寒いんだけど…」
と言った。
「手袋とか持ってきてないの?」
とナナが聞くと
「一応持ってきたけど、こんなに寒いと思ってなかったからスーツケースに入れてきちゃったよ。北海道、甘く見てた」
と奏は呟いた。
するとナナは
「1泊なのにずいぶん荷物持ってきたね。何、入ってるの?」
とスーツケースを見て言った。
「何って…着替えとかシャンプーとか。あっ、カイロも持ってきたよ。…でも、琳たちにお土産頼まれてるからそれ入れるためにほとんど空だよ」
と奏が言うと
「手袋って今必要なものだよね?なんで、そっちに入れてくるかな」
とナナは笑った。
「だね。失敗した。本当、寒い。早く電車来ないかな…」
と奏が言うとナナは自分のポケットからカイロを取り出して
「はい。これ使って。ちょっとは暖かくなるよ」
と奏に差し出した。
「いいよ。ナナさん、寒くなるでしょ?」
と奏が言うと
「大丈夫。私は手袋履いてるから」
とナナは手袋を奏の顔の前に出して笑ってると電車がホームに入ってきた。
「本当、ナナさんて子どもみたいで飽きないね」
と奏が笑ったが電車の音で聞こえなかったナナは
「えっ?なに?」
と聞き返したが
「なんでもないよ。ああ、風が痛い…。早く電車乗りてぇ…」
と奏は言った。




