スタジオでの会話
23日、レコーディングをしている合間にドラムの佐藤が
「奏、毎日毎日学校終わったらスタジオと曲作りと遊ぶ暇なしだな」
と言った。
「でも、好きなことばかりやってるんで楽しいですよ」
と奏が笑うと
「相川さんに怒られてばかりなのに?相川さんが厳しいってのは聞いてたけど、ここまで厳しいなんて思ってなかったからビックリしたよ」
と佐藤は言った。
「でも、それはもっと出来るはずだって期待してくれてるから言われるんだと思えば大丈夫ですよ」
と奏が笑うと
「前向きだな。まぁ、言ってもムダだと思えば言わないだろうしな。俺もそう思っておこう」
と佐藤は笑った。
「今日頑張れば明日明後日はオフだしな。奏、クリスマス楽しみだな」
と大川が笑うと
「えっ?」
と奏は驚いた顔をした。
「相川さんと石井ちゃんが話してるの聞いちゃったよ。札幌にお泊まりデートに行くんだって。石井ちゃん、高校生なのにって心配してたぞ」
と大川が笑うと
「…石井さん」
と奏は少しムッとした顔をした。
「怒らない怒らない。石井ちゃんだってみんなにバラすつもりで言ったんじゃないんだから。いいなぁ…俺も行きたいなぁ。ホワイトクリスマスか…」
と大川が言ってるとスタッフが
「そろそろ再開するのでスタジオ戻って下さい」
と言った。
「はいはい。じゃ、お仕事再開しますか」
と佐藤がタオルを頭に結ぶと大川も
「よし、明日から奏は旅行だし日付変わらないうちに仮録り終わるよう頑張るか」
と膝をパンと叩いて立ち上がって言った。
奏がコントロールルームで佐藤のドラムに合わせてギターの練習をしていると
「おはようございます」
と佐伯がドアを開けたのに続いて和も
「おはようございます」
と言って部屋に入ってきた。
「おはようございます」
と大川や潤が緊張した顔で姿勢を正し挨拶すると奏もギターを弾く手を止めて
「おはようございます」
と言った。
「これ、和さんからの差し入れです」
と佐伯が紙袋を石井に渡すと
「わざわざすみません。奏君、和さんにお礼言って」
と石井は言った。
「お忙しいなかすみません。ありがとうございます」
と奏が頭を下げると
「和、突然来るとみんな驚くだろ。今日は休みか?」
と相川は聞いた。
「近くで仕事してたんですけど、早く終わったんでちょっと様子を見に寄ってみました」
と和が笑うと
「そっか。今日は仮オケ録りだけどゆっくり見てってくれよ」
と相川は言った。
「じゃ、遠慮なく。…佐伯、俺は自分で帰るから事務所戻っていいよ」
と和が言うと
「えっ、いいんですか?」
と佐伯は聞いた。
「いいよいいよ。最後まで見てくつもりだし」
と和が言うと
「はい。じゃ、明日は11時に迎えに行きますから遅れないで下さいね」
と言って佐伯は帰っていった。
レコーディングが続くなか和は後ろのソファーに座りジッと様子を見ていたが、何も言わずに座ってることがかえって奏たちに緊張感を与えていた。
「よし、お疲れ。次はギター録りになるから休憩」
と相川がマイクに向かって言うと和は立ち上がり相川の隣に座ると
「リズム隊、上手いですね」
と言ったので
「だろ?前々からこの二人のことは気になってたんだよ」
と相川は笑った。
その話を少し離れたところで聞いてた大川が
「ナゴミさんが俺たち上手いって。めちゃくちゃ嬉しいんだけど」
と嬉しそうな顔をすると
「俺も嬉しいわ。ドラムやってて本当良かった。奏も頑張れよ」
と佐藤は奏の肩をバンバンと叩いて喜んだ。
「佐藤さん、痛いですって…」
と奏が笑うと
「ごめんごめん。ほら、お詫びにナゴミさんの差し入れのイチゴ大福やるからさ。奏、甘いもの好きだろ?」
と佐藤はイチゴ大福を奏に渡して笑った。
「ありがとうございます」
と奏がイチゴ大福を一口食べてると和が側に来て
「奏、大福食べるなんてずいぶん余裕だな」
と笑った。
「あっ、ナゴミさん!」
と大川が姿勢を正すと
「そんな緊張しなくていいから。ほら、大福喉に詰まったら困るし」
と和は言って奏の隣に座って
「で、どう、レコーディングは?相変わらず怒られっぱなしか?」
と聞いた。
「はい…まぁ…」
と奏が言うと
「でも、とても頑張ってますよ。ギターも上手いですし」
と石井は言った。
「じゃ、このあとのギター録り期待してもいいんだな」
と和が笑うと奏は一瞬ムッとした顔をしたあとニコッと笑い
「ナゴミさん、僕は時間がかかるので先に帰ったらどうですか?綾子さんも待ってるだろうし」
と言った。
「奏、ナゴミさんにそんな口の聞き方したらダメだろ?ナゴミさん、すみません」
と佐藤が言うと
「別に大丈夫だよ。俺も若い時は生意気だったし自信があるから言えるんだよな?」
と和は意地悪な笑顔で言った。
「それは…」
と奏が困った顔をすると
「今日は綾子も遅くなるって言ってるし時間あるから最後まで見させてもらうよ。いやぁ、楽しみだな」
と笑った。
「…」
奏がますます困った顔をしてると相川がやってきて
「和、新人いじめもいい加減にしてくれよ。奏、気にしないでいつも通りやればいいから」
と言うと
「いじめてないですよ。俺は奏のギター弾いてるのを見たこと無いんで楽しみだって言っただけですよ」
と和は言って
「ほら、練習しなくていいのか?なんなら俺が見てやろうか?」
と言った。
スタジオに入り、奏がギターを持つと
「このギター借りてもいい?」
と和は言った。
「どうぞ」
と奏が言うと和はギターを手に取り奏の座ってる正面に椅子を持ってきて座ると
「マイクオフになってるし敬語やめようよ」
と言った。
「…」
奏が何も言わずギターを弾き始めると和は楽譜を見ていたが、奏が途中で何度も手を止めてるのを見て
「そこ、気になるの?」
と聞いた。
「はい。移動がスムーズに出来なくて遅れてしまって…」
と奏が言うと
「どれ…」
と和は楽譜を見て奏がつまづいたところをサラッと弾いた。
「えっ?なんで?」
と奏が言うと和はニヤッと笑い
「それは技術の差だね。教えて欲しい?」
と聞いた。
「はい。教えて下さい」
と奏が感心した顔で言うと
「じゃ、敬語やめたら教えてあげるよ」
と和は言った。
「…でも、石井さんがいくら親子でも仕事では先輩と後輩だから敬語使わないとだめだって」
と奏が言うと
「でも、ここにいるのは俺と奏だけだろ?誰に聞かれる訳じゃないんだから敬語は使わなくていいよ」
と和は言った。
「でも…」
と奏が言うと和はマイクの音量をオンにして
「石井、ちょっと来て」
と言った。
「えっ…やめてよ」
と奏が言ってる間に石井はスタジオに入ってきて
「はい。何かありましたか?」
と和に聞いた。
「あのさ、今は二人だけだから敬語使うなって言ったんだけど石井に怒られるから普通に話せないって言うんだよ。なぁ、俺が敬語使うなって言っても奏は敬語使わなきゃダメなのか?」
と和が言うと石井は慌てて
「そんなことないですよ」
と言い奏を見て
「奏君、相手の人がいいって言ってくれた時は普通に話していいから」
と言った。
「はい…」
と奏が言うと
「用はそれだけなんだけどさ。あと、奏は口数少なくてちょっと生意気に見えるかもしれないけど、気長に見てやって。綾子も石井によろしくって言ってたし」
と和は言った。
「はい!奏君は確かに口数は少ないですけど、とても礼儀正しくてまわりに気を使える子なのでスタッフもみんな誉めてるし安心してください」
と石井が言うと
「そっか。それは安心したよ。みんなに迷惑かけてないか心配してたから」
と和はニコッと笑った。
石井がスタジオから出てくと
「女の人に愛想振りまいて…。母さんに言うからね」
と奏が言うと
「はあ?どこが振りまいてるんだよ。そんなこと言うと教えてやらないぞ」
と和は言った。
奏と和のやり取りをコントロールルームから見てた相川が
「和のやつ、楽しそうだな」
と言うと
「奏君もスゴいリラックスした顔してますしね」
と石井は言った。
「そうだ。石井ちゃんはさ、奏が新人で主題歌に抜擢されたりCDだって売れてるのにまるで他人事みたいにまるで気にしてないのを変わってるなって思ったことない?」
と相川が聞くと
「思ったことありますし、今でも思ってますよ。なんて欲のない子なんだろうっていつも思いますし」
と石井は言った。
すると相川は笑いながら
「欲のない子か…。本当は逆だよ逆。奏は貪欲だから今の状況に満足してないんだよ」
と相川は言った。
「奏君が貪欲ですか?」
と石井が驚いた顔をすると
「奏はね、和や綾子を目標にしてるから今の自分には全然満足してないどころか、自分はまだまだなんだと思ってるんだよ」
と相川は言った。
二人の話を後ろで聞いてた佐藤が
「ナゴミさんや綾子さんを目標にって、ずいぶん目標が高いですね」
と話に加わると
「そう思うだろうけど、奏は真剣にそう思ってるからね。主題歌やオリコンのチャートで10位に入ったと言ってもピンときてないんだよ。主題歌は俺のおかげ10位に入ったのは主題歌のおかげ。自分の力だとは思ってない。だから、すぐ消えたら恥ずかしいからって彼女にもデビューしたこと内緒にしてるらしいよ」
と相川は笑った。
「じゃ、いつになったら言えるんですかね」
と佐藤が笑うと
「さあ?いずれ表に出て活動するようになったら言うんじゃない。その前に彼女の方は勘づくと思うから先に話せばいいと思うんだけどな」
と相川は言った。




