ツアー終了
5ヵ所を回ったヨーロッパツアーも今夜のロンドン公演で終了となった日、和がベニューに入るといつものように客席からステージを眺めているとクリスが話しかけてきた。
「fateとのツアーも今夜が最後だと思うと寂しいね」
とクリスが言うと
「そうだな。でも、クリスのおかげでとても刺激的で一回りも二回りも成長出来る良い旅が出来たよ。ありがとう」
と和は言った。
「ツアー回ってみてどうだった?途中で綾子は精神的にも疲れが見えてたけど」
とクリスが聞くと
「そうだね。今まで恵まれた環境でばかりやってきたからね。自分たちのことを誰も知らないところで演奏するとかもほとんど無かったし、その人たちにどうアプローチしていくかが大変だったし、四六時中団体行動をしなきゃならないってことも初めてだったからチーム内でぶつかったりしたこともあったけど…今となってはfateが成長するために必要なことだったのかなって気もするよ」
と和は言った。
「綾子ともニューヨークで派手にぶつかったんだって?」
とクリスが笑うと
「なんで知ってるんだよ」
と和は言った。
「綾子から聞いたんだよ。疲れやいろいろなことが重なったとはいえ、みんなの前で大人げないことをしたってかなり反省してるみたいだよ」
とクリスは笑ったあと
「でも、ヨーロッパに来てから綾子は変わったね。アメリカを回ってた時は常に肩に力が入って息切れ寸前って感じがしたけど、少し余裕が出来てきたのか肩の力が抜けて良い感じになったよ。…それに和の綾子ラブも復活したし。やっぱり二人は仲良くしてなきゃ見てる方も心配になるから良かったよ」
と言った。
「でも、クリスのクルーは驚いた顔して、あの二人いつの間にくっついたんだってうちのクルーに聞いてきたらしいよ。で、夫婦なんだって説明したら目が飛び出るぐらい驚いてたって」
と和が言うと
「まぁね。うちのクルーは僕が綾子にアプローチしてると思ってたみたいだからね」
とクリスは笑ったあと
「来年には単独でアメリカまわるんだろ?」
と聞いた。
「まだ、正式には決まってないけど」
と和が言うと
「そのときは、今回のお礼で俺がサポートで一緒にまわろうか?」
とクリスは言った。
「やだよ。クリスがサポートなんてしたら、俺たちがステージ出る前にライブ終わったと思ってお客がみんな帰っちゃうよ」
と和が言うと
「大丈夫。カギかけてベニューから出れないようにしておくから」
とクリスは笑った。
その日のライブにはfateにとっては最終日と言うこともあり日本からわざわざ来てくれた観客も多く、fateのライブは今までで一番盛り上がった。
クリスがアンコールの最後で和と綾子をステージにあげると、綾子はギターを弾き和はクリスと一緒に歌を歌った。
曲が終わり和とクリスがバグし綾子もクリスのバックバンドのメンバーと次々とバグをした。
最後にクリスが綾子のところにきてバグをし頬に軽くキスをすると観客からは割れんばかりの歓声が上がった。
「Thank You fate!Thank You London!Thank You!」
とクリスが何度も何度も繰り返し叫ぶなかfateにとっての初めてのワールドツアーは終えた。
スタッフも交えた打ち上げ会場につくと和の挨拶が始まった。
「日本でのジップツアーから始まり台湾香港をまわり、これでもかってぐらい故障するポンコツバスに揺られてアメリカ縦断してヨーロッパ…ついにロンドンを終えることができました。今回のツアーはこれからの課題が数多く見つかったツアーでしたが、とりあえずその話は今日は抜きにして楽しみましょう。5ヶ月間、お疲れ様でした!乾杯!」
と和が言うと全員がグラスを掲げた。
「綾子、お疲れ」
と石井がお酒をつぎにくると
「お疲れさまでした」
と綾子は笑った。
「あれ?全然飲んでないんじゃない?」
と石井が言うと
「はい。前に飲み過ぎて余計な騒ぎ起こしちゃったんで自粛中なんです」
と綾子は言った。
「余計な騒ぎ…?ああ、ニューヨークでか?派手に騒いだんだって」
と石井が笑うと
「はい。本当、穴があったら入りたくなるようなことしちゃったんで」
と綾子は苦笑いした。
「でもさ、たまにはいいんだよ。俺だって若いスタッフに怒鳴りつける時あるから」
と石井が言うと
「それは私も同じですよ。私の場合は怒鳴りはしないかわりにチクチクと」
と綾子は笑ったが
「いやいや、綾子の場合はチクチク言ってるうちは良いんだよ。首を傾げて何も言わなくなるとヤバいってのはみんな知ってるからね」
と石井は言った。
「確かにそうですね。綾子が黙って首を横に振ってやれやれって顔してるときは、まわりに呆れかえって何も言えなくなってる時ですからね」
と山下がやってきて言うと
「そうかな?…お腹空いたとか眠たいなって時も黙ってるよ。もう休憩しようよって感じで」
と綾子は言った。
「いやいや、ライブあととか人目つかないところで壁を蹴ってたりするだろ?」
と山下が笑うと
「そんなことしないよ。ナゴミさんじゃないんだから」
と綾子は笑った。
「俺がどうしたって?」
と和樹と一緒にやってきた和が言うと
「和はライブ後に壁蹴ってるって綾子が」
と石井は笑った。
「はあ?そんなことしないよ」
と和が言うと
「しそうな顔してるときあるでしょ」
と綾子は言った。
「そんな過激派じゃないよ」
と和が言うと
「でも、和は本当細かいところまで厳しいんだなって思ったよ。和は音も演出もって全部厳しい」
と和樹は笑った。
「そりゃ、やるからには良いものにしたいからね。でも、このチームはもっと出来る能力持ってるからこれからも厳しくいくよ。ねぇ、石井さん」
と和が笑うと
「和は常に貪欲で満足することを知らないからな。でも、それがスタッフたちの良い刺激にもなるし成長にも繋がるんだけどな。…でも、俺は和の陰に隠れてあまり目立たなかったけど綾子の厳しさに驚いたよ」
と石井は笑った。
「そうですか?」
と綾子が言うと
「初めはあまり感じなかったけど、自分にもスタッフにも本当厳しいね。名古屋での東京帰ります事件から始まり福岡大阪の点滴生活。それにワールドツアーで見せた根性は並の女じゃ無理だよ」
と石井は笑った。
「名古屋懐かしいですね。明日まで言われたことを修正出来て無かったら東京帰りますって言ったと思ったら本当に荷物まとめちゃって…俺ジップに運びましたからね」
と山下が笑うと
「ジップ入りしたら山下君が綾子の荷物を楽屋に持ってきて新幹線手配してるからスタッフ全員が真っ青になって作業したもんな。それまでって綾子は和に比べたらそれほどうるさく言わないから後回しにしてた部分ってスタッフにもあったんだと思うんだよ。申し訳ないけど和に言われたことをキチンとしないと後でこぴっどく怒られるってのがみんなの中であったから、そっちが最優先で次に綾子って感じでさ。本当、申し訳なかったよ」
と石井は言った。
「でも、それからは言ったことはキチンとやってくれるようになったんで…」
と綾子が言うと
「そりゃね。綾子を怒らせるとヤバいってのにみんな気付いたからね」
と石井は笑った。
「福岡大阪では点滴打ちに行くわ暇さえあれば寝てばかりいるわで、どこか悪いんじゃないかと心配してたよ」
と和樹が言うと
「心配かけてゴメンね」
と綾子は謝った。
「何とも無かったから良かったけどさ。で、少し時間あいてワールドツアー。なんかfateの話が来てレコーディングしてツアー始まってって振り替えるとスゴい充実したあっという間の一年だったな。って、まだ3週間ぐらいあるけど」
と和樹が笑うと
「そうだよ。かず君も日本帰ったらまだ仕事あるんでしょ?」
と綾子は聞いた。
「今田さんがクリスマスライブするから、すぐにリハ始まるんだよ。それが終わんないと休めないね。和たちは?」
と和樹が聞くと
「俺たちはどうなんだろ?」
と和は山下に聞いた。
「綾子はSperanzaの仕事がメインですね。まぁ、年末まで頑張ればfateの曲作りとレコーディングに入りますから」
と山下が言うと
「fateから離れて寂しくなるなって思ったけど、またすぐに集合なんだな」
と和樹は笑った。
次の日、アメリカ、ヨーロッパとともにまわったたくさんの荷物と一緒にチームfateの20人がヒースロー空港に着くと
「最後にみんなで記念写真撮りましょうか?」
と現地コーディネーターが言った。
搭乗手続きを終え全員揃って写真を撮ってるとき
「ニューヨークでも撮ったよな」
と和は隣の直則に言った。
「ああ、ポンコツバスと別れる時にな。今、思うとあれはあれで良い我が家だったよな。次々といろんなことが起きて退屈しないバスだったもんな」
と直則が笑うと
「でも、今度はもう少しまともなバスが良いよな」
と和も笑った。
写真を撮り終え現地スタッフと別れたチームfateのメンバーは出国ゲートの中に入った。
搭乗までの時間にベンチに座り綾子がスマホをいじってると
「何してるの?」
と和が隣に座って聞くと
「インスタを更新しようと思って…。ほら、さっき撮った写真使って。なんて書こう…」
と綾子はスマホを和に見せて言った。
「ツアー終了でいいんじゃない?」
と和が言うと
「それ、昨日なっちゃんが更新するときに書いたでしょ。どうしよう」
と綾子が言うと
「アメリカの終わりはThanks U.S.A.だったから今度はThanks Euroでいいんじゃない?それか、Good Luck Euroとか…」
と和は言った。
「そうだね」
と言って綾子はスマホをいじり
『Good Luck Euro』
と書いて20人で撮った写真をInstagramにアップした。




