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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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桃の思い出と二人

二人が付き合い始めた日、和は禁断の果実…桃は綾子だと言った。

「私だけのなっちゃんになって。…他の人と抱き合ったりしないで。…他の人のことろに行かないで」

と言った綾子に和は

「綾子がいれば何もいらない。綾子だけの俺だよ」

と言った。

明け方、和は綾子を抱き締めながら

「もう二度と他の女と遊ばないし、二人で会ったりもしない。この先、もしも俺に女のマネージャーがついても絶対に二人で飯にもお茶にも行かないから安心して」

と言った。

「本当?他の女の人と二人で会わない?」

と綾子が言うと

「本当だよ。約束する、絶対に会わないよ。…信じられない?」

と和は聞いた。

「…」

綾子が黙ってると

「じゃあ、約束を破った時の罰を作ろうか?」

と和は言った。

「罰?」

と綾子が言うと

「うん。俺は絶対に約束破らない自信あるからどんな罰でもいいから綾子が決めて」

と和は言った。

すると綾子は少し考えてから

「じゃあ、約束破った時は…私と別れてくれる?」

と聞いた。

「えっ?別れる?」

と和が驚いて綾子から離れると

「きっと、なっちゃんが約束破る時は、約束を忘れた時か約束破っても会いたい人がいる時だと思うから…。その時は無理してまで一緒にいて欲しくないし…。なっちゃんが他の女の人と二人で会うの…嫌…だから…別れて」

と綾子はうつむいて言った。

今まで綾子がどれだけ傷付いて我慢してきていたかを考えると胸が痛くなった和が綾子を強く抱き締めて

「わかったよ。その時は別れよう。…でもね、そんなことは絶対に起きないから。約束忘れないし綾子よりも会いたい人なんて絶対に出来ないから。ねぇ、安心して」

と言うと、綾子は小さく頷いたので

「大丈夫だよ。今までもこれからもずっと綾子だけだよ。綾子がいれば何もいらないよ」

と和は言った。


和のくれた桃を食べながら綾子はボロボロと涙を流していた。

あの日、和は自分のことを愛してると言って同じように愛して欲しいと震えていた。

ずっと言っちゃいけないと思っていた気持ちを素直に言っていいんだと思うと嬉しくて嬉しくて嬉しくて和の胸に飛び込んだ。

初めてのキスが恥ずかしくて仕方なかったけど、何度も何度も二人でキスして和は愛してると言ってくれた。

綾子は和が約束を破ったことばかりにこだわって、あの日の特別で大切な思い出を忘れてた自分が恥ずかしくて思えた。

…和は桃のことまで覚えていてくれたのに。

あの頃と変わらずずっと自分を愛し続けてくれてるのに…。


一方、和は

『おやすみ。愛してるよ』

と綾子にlineを送るとベッドに入り

「寒い…」

と呟き丸くなった。

一人で眠るにはキングサイズのベッドは大きな過ぎて寒い。

綾子が隣にいてくれたらこんなに寒く感じないのに…。

綾子はあの日約束した通り、自分と別れようとしている。

もし気持ちを切り替えてしまったら二度と自分のところには戻ってこないだろう。

何もなかったような素振りで接してくるとは思うけど、それはまわりに余計な心配をかけないため。

それに自分がイライラしてしまい、まわりもピリピリとした空気になるのを避けるために気持ちが無くても一緒にいてくれるような気がする。

綾子の心は自分に向いてなくても…仕事の一環として…綾子は我慢するんだろう。

綾子が側にいてくれれば他に何もいらないってずっと思っていたけど、綾子が側にいても綾子の心が自分に向いていなければ意味がない。

綾子は向日葵と桃を渡した意味をわかっているだろうか?

昔、禁断の果実の話をしたことを綾子は覚えているだろうか?

一度手に入れてしまうと二度と手離すことが出来ない果実、昔のようにお隣のお兄ちゃんには戻れないことがわかっていても手に入れたかった果実が綾子だ。

綾子は付き合い始めた日のことを綾子は覚えているだろうか?

自分の胸に飛び込んできて好きだって言われた時にどれだけ嬉しかったか綾子は知ってるだろうか?

初めてキスしたとき心臓が飛び出てしまうんじゃないかってぐらいドキドキと緊張していたのを必死に隠して余裕あるふりをしていたことを綾子は気付いていただろうか?

初めて綾子を抱いた時、綾子は痛みで顔を歪ませながらも自分を受け入れてくれた。

そんな綾子を見て愛されてることを実感し肌を合わせることがとても貴く幸せなことなんだと泣きそうになったのを綾子は知ってるだろうか?

そして今もその気持ちに変わりがないことを綾子は知ってるだろうか?

手を繋ぐだけで心が暖かくなることやキスするたびにドキドキしてること、肌を合わせるたびに幸せを実感してることを知ってるだろうか?

「寒いよ。綾子…」

と和は呟いた。

この感覚はプロポーズ出来なかったあの日に似ている。

部屋に飾ってあった向日葵を見つめ、向日葵と自分を重ね合わせたあの夜。

でも、今回はあの時とは違う。

綾子の判断に従うだけの自分じゃない。

最後の悪あがきになるかも知れないけど、綾子がまだ気持ちを切り替えてない今、自分の出来ることをしよう。

何が出来るかはわからないけど…。


次の日、和は綾子の泊まってるホテルに来た。

フロントに綾子が外出しているか確認すると綾子はまだホテルの中にいた。

「お呼び出ししましょうか?」

と聞かれた和は

「大丈夫です。自分で訪ねてみます」

と言って綾子の部屋の前にきた。

昨日みたいに会うことを拒否されたら…と少し怖くなりインターホンを押すのを迷っていると突然ドアが開いた。

「あっ…」

と綾子が驚いた顔をしたので

「おはよう。…一緒にご飯食べに行かない?」

と和は笑顔で言ったが、その顔は緊張で少しひきつっていた。

部屋を出た綾子が

「…一人で行けば?」

と冷たく言ってエレベーターの方へ歩いていくと

「待って。どこ行くの?」

と和は慌てて後を追った。

二人でエレベーターに乗ってる間も綾子は和のことを見ることをせず黙ってスマホをいじっていたので和も綾子の斜め後ろに立って黙っていた。

綾子がホテルを出ると後を追って歩いていた和が追い付いて

「ねぇ、どこ行くの?」

と聞くと

「別にどこでもいいでしょ?」

と綾子は言った。

「…休みも最後なんだし、一緒に過ごそうよ」

と和が言うと

「別に私は一人でいいし」

と綾子は言った。

「そんなこと言わないでさ…」

と和が綾子の手を握ろうとすると綾子はサッと手をポケットにしまい

「ああ、寒い」

とわざとらしく言った。

「…」

和は落ち込んだ顔をしたが綾子はそれに気付かないのか気付かないふりをしてるのかサッサと歩いて行ったので

「待ってよ。どこ行くんだよ」

と和は聞いた。

「別にどこでもいいでしょ。ついて来ないで」

と綾子が言うと和は更に落ち込んだ顔をしたので綾子は立ち止まりため息をついて

「ついて来たいなら勝手にすればいいでしょ。でも、私はあなたと話すことないから話しかけないでね」

と言って歩き出したので和も綾子に遅れをとらないように歩き出した。

隣同士で歩きながらも話をしない綾子はタイムズスクエアの写真を撮ったあとブロードウェイでホットドッグとコーヒーを買って食べたので、和も同じように食べた。

次に綾子はメトロポリタン美術館に立ち寄りダリの磔刑をじっと見ていた。

綾子の隣に立つ和はダリの作品の中でもこの絵が特に好きだったので綾子が自分の好きな絵に興味を持ってることが嬉しい発見で笑顔になってしまったが、綾子は和の顔をチラッと見てサッと歩き出したので和も綾子の後を追った。

美術館を見て終わると綾子は五番街へと移動した。

気になる店の前で立ち止まり店の中を見てまわったが服を買って荷物を増やす訳にはいかないので少し残念そうな顔をして綾子は店を出てきてたが、比較的荷物にならなそうなマフラーと帽子は買った。

綾子がレジに行くと

「俺が払うよ」

と和は言ったが綾子はそれも無視して自分でお金を払ったので最後には和もだんだんと気分が悪くなってきた。

その後、二人は夕食を食べたがその時も綾子は何も話さなかった。

無言の夕食が終わり和がお金を払ったが綾子はやっぱり何も言わない。

何を話しても聞いてはもらえないし目が合ってもすぐにそらされる。

綾子の行きたいところをただついて歩くだけ…。

勝手にしろ話しかけないでと言われたのについて来たのは自分だけど、ここまで無視されてまで一緒にいる意味があるのだろうか?と和が疑問に思い始めてると

「これ…」

と綾子はエンパイアステイトビルのエクスプレスパスを和に渡した。

「あっ…」

と和がやっと自分の方を見てくれた綾子に一瞬喜ぶと

「別に行かなくてもいいけど。私は一人で行くし」

と綾子は言ってまた一人で先に歩いていった。

「はぁ…」

と和はため息をついてパスを見た。

ツアーが決まってすぐにニューヨーク最後の夜には一緒に夜景見たいと言って綾子が手配したパス。

…一緒に見たいと言ってたのに、今は一人で行くと言って一人で歩いて行ってる。

隣を歩くだけでも良いと思ってたけど、一緒に歩いていたって同じものを見たり食べたりしても何の会話もない。

二人でいたって一人より孤独を感じる…。

こんなことに何の意味もないと思った和の足取りが徐々に遅くなり綾子から少しずつ遅れをとるようになったが綾子は和が遅れてることに気付かないのか先を歩いていく。

もう、無理かもしれないな。

和は綾子の後ろ姿を見ながらそう思った。


一方の先を歩く綾子は少しずつ足取りが遅くなってる和とこれ以上距離が出来ないようにと、ショーウインドウを見ながら歩いてるふりをして歩調を合わせて歩いていたのだが和はその事に気付かなかった。


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