ニューヨークでの打ち上げ
打ち上げの店に着くと次々とマイクロバスから降りて店の中に入った。
カンナに続いてバスを降りようとした綾子がよろけると後ろから誠が支えて
「大丈夫か?」
と聞いた。
「ごめん。大丈夫」
と綾子が笑うと誠は腕を離し
「少し痩せたんじゃない?」
と心配そうに言った。
「そう?」
と綾子が言うと
「ツアー大変?」
と誠は聞いた。
「…まあね。甘く考え事過ぎてたかも」
と綾子が笑ってると後ろからきた和が
「誠、目を離すとすぐに綾子に近付いて…油断も隙もない」
と言った。
「はあ?変な誤解しないで下さいよ。だいたい綾子から聞いてますけど、ツアー中は仕事に集中するためにそうゆう意味のわからない焼きもちやかないんじゃ無かったんですか?」
と誠が言うと
「アメリカツアーはさっき終わったの。ヨーロッパに行くまでは平常運転に戻るんだよ。なあ、綾子?」
と和は昨日買った手袋をはめてる綾子と手を繋いだ。
「ニューヨークに来てまでバカップルですか?」
と誠がため息つくと
「ナゴミさん、恥ずかしいからやめよう」
と綾子は言った。
「いいじゃん。もう、仕事モードは終わり」
と和が笑うと
「何が仕事モードですか…。綾子、嫌がってますよ」
と誠は笑ったが、綾子が和のことをナゴミさんと呼ぶことに少し違和感を感じた。
「どうした?羨ましいのか?」
と和が笑ってると三人のやり取りに気付いたカンナが
「あっ、綾子ちゃんと手繋いでる。わたしも繋ぎたい」
と綾子の逆の手を握った。
「おまえ、いい加減にしろよ」
と和が言うと
「何よ。別に和と繋ぎたいって言ってる訳じゃ無いんだしいいでしょ?」
とカンナは言った。
「はあ?そんなに手を繋ぎたいなら誠に繋いでもらえよ」
と和が言うと
「えっ、俺?」
と誠は驚いた顔をした。
「いいじゃん。カンナはSperanzaのファンなんだしファンサービスしてやれよ」
と和が言うと
「私は綾子ちゃんの方がいい。和が誠君と繋げば?」
とカンナは言った。
「…カンナ?」
と誠がどこかで聞いたことがある名前だなと思って綾子を見ると、綾子は和とカンナのやり取りをとても疲れた顔で見ているのに気付いた。
「…綾子?」
と誠が声をかけると二人に挟まれた綾子は
「大丈夫」
と口を動かし声にならない声で誠に笑った。
それぞれに席に着こうとしているとボストン同様にカンナは綾子の隣に座った。
「…本当、いい加減にしろよ」
と和が言うと
「和は向こうの席に座ったら?ほら、空いてるよ」
とカンナは言った。
「和さん、俺が向こう行くんでここに座って下さい」
と隼人が綾子の隣の席から立ち上がろうとすると
「大丈夫。せっかくSperanzaが集まったんだし和に気を使う必要ないよ。和、子どもじゃないんだから向こう座りなよ」
とカンナは言った。
「…」
和がムッとして空いてる直則の隣の席に向かって歩いていくと
「本当、大人げない。綾子ちゃんもあんな旦那さん持って大変だね」
とカンナは言った。
「いえ…」
と綾子が笑うと
「そうだ。あのね、綾子ちゃんにお土産あったの」
とカンナは持ってきた鞄からラッピング袋を取り出して綾子に渡して
「開けてみて?」
と言った。
「いいんですか?」
と綾子がキレイに包装されたラッピング袋を開けると冬物のストールと帽子が入っていた。
「可愛い…」
と綾子が笑うと
「でしょ?これから寒くなるでしょ?気に入ってくれた?」
とカンナは聞いた。
「はい。自分じゃあまり買わないから…。でも、いいんですか?」
と綾子が言うと
「いいのよ。これ、私のデザインした物なの。絶対に綾子ちゃんに似合うと思ったんだ」
とカンナは言った。
「カンナさんがデザインしたんですか?」
と綾子が聞くと
「うん。小さいけどお店やっててデザインとかも自分でしてるんだ」
とカンナは笑った。
「スゴいですね」
と綾子が言うと
「そんなことないよ。お店はスタッフに任せっきりにして私は自宅でデザインの方ばかり。私、モデルよりも家でのんびり暮らす方が合ってるんだ」
とカンナは言った。
「モデルだったんですか?」
と渉が聞くと
「そう。カンナって名前で昔やってたのよ。知ってる?」
とカンナは笑った。
「だからどこかで見たことあるなって思ってたんですよ。綾子、高校生の時に一緒にカンナさん出てる雑誌見たよな?それで香住が…」
と
言いかけたところで隼人に足を蹴られて渉はハッとして話をやめた。
「雑誌?見てくれてたんだ」
とカンナは言うと
「でも、あの頃から自分はモデルやめたいなって思ってたのよ」
と言った。
「そうなんですか?」
と綾子が聞くと
「うん。モデルの仕事ってやりがいあったけど私は違うなって思ってたの。でも、なかなかモデルやめる決心つかなくてね。和が私の背中を押してくれたのよ」
とカンナは言った。
「和…さんが?」
と渉が聞くと
「うん。やらないで後悔するよりやって後悔しろって。その一言で決心ついて事務所やめてニューヨークに来ちゃったのよ」
とカンナは笑った。
「…ナゴミさん、スゴいですね」
綾子が作り笑いをすると
「…ナゴミさん?」
と渉は言った。
「どうしたの?」
とカンナが聞くと
「いや…。綾子がナゴミさんって呼ぶのって…」
と渉は綾子を見た。
「なに?」
と綾子が聞くと
「…いや」
と渉は言葉に困ったが隼人は
「なんでナゴミさんって呼んでるの?なにか、あったのか?」
と渉が聞けないことをはっきりと聞いた。
「別に何もないよ。なんで?」
と綾子が笑うと
「なんでじゃ無いだろ?…ちょっと待ってろ」
と言って隼人は立ち上がり少し離れた所に座ってるSperanzaのマネージャー陣の所に行き少し話をして戻ってきた。
「あっちの席と代わってもらうから移動しよう」
と隼人が言うと
「えっ?どうしたの急に?」
とカンナは聞いた。
「そうだよ。どうしたの?」
と綾子が言うと
「いいから。向こう行くぞ」
と隼人が言ったので綾子は椅子から立ち上がったが綾子に続いてカンナも立ち上がると
「カンナさんごめん。4人で話したいから」
と隼人は言った。
「えっ?」
とカンナが驚いた顔をすると
「4人で久しぶりに集まったしいろいろ話したいんだよね」
と隼人は言った。
「でも…私、邪魔しないし…」
とカンナが言うと
「すぐ戻ってきますから。それまでナゴミさんたちと昔話でもしてて下さい」
と綾子は笑った。
綾子たちが席を移動しているのを見た直則が
「あれ?4人であっちの席に移動してるけど、どうしたんだろ?」
と言うと
「さあ?」
と和は言った。
「さあ?って…。気になるなら行けばいいじゃん。カンナちゃんはついていかなかったみたいだし」
と直則が言うと
「4人で話したいんだろ?」
と和は言った。
「そうなの?」
と直則が聞くと
「まぁ、後で何話してたか聞けばいいだけだらか」
と和は言った。
一方、マネージャー陣の囲まれて座ってるカンナは
「どうして4人だけで話をしてるんですか?マネージャーさんは一緒にいなくていいの?」
と山下に聞いた。
「別にあの4人なら大丈夫ですよ。それに俺たちがいると話したいことも話せない時もありますし」
と山下が言うと
「でも、男の中に女の子一人で話なんて…心配にならないんですか?」
とカンナは聞いた。
「あの4人なら大丈夫ですよ。それを言ってたら今回のツアーだって男の中に綾子1人ですよ」
と山下が言うと
「それは和が一緒にいるから…」
とカンナは言った。
「…」
結城がカンナの言葉に少し違和感を感じてると
「カンナさんは一体何がしたいんですか?」
と山下は聞いた。
「何ってなに?」
とカンナが聞き返すと
「和さんが目的なのかと思えば今日は綾子にベッタリだし。和さんと綾子の仲を壊して最終的には何が目的なんですか?」
と山下は聞いた。
「別に私は綾子ちゃんと仲良くしたいだけで、二人の仲を壊したいなんて思ってないですよ」
とカンナがムッとして言った。
「本当ですか?…僕にはそうは見えませんけど」
と山下は言った。
すると、前の席に座ってた結城が
「山下、言い過ぎだぞ」
と言ったので山下は
「…すみません」
と謝った。
「カンナさん、過去にカンナさんとナゴミは週刊誌に撮られたこともありましたし、実際にボレロのマネージャーからあなたの所にナゴミが通ってるって話も聞いてました。でも、それは過去のことでしょう。ナゴミも心を入れ換えて生活してますし綾子は男の中でいくら頑張っていてもやっぱり女性です。カンナさんみたいなキレイな方が突然現れたら過去のこととはいえ気になるし不安にもなじゃないでしょうか?」
と結城が言うと
「…」
とカンナは黙ってしまった。
「実は噂だけで実際には関係を持ってなかった人もいますし、二人の間にも何も無かったのかもしれません。けど、それは和とカンナさんの二人にしかわからないことでしょ?いくら和とカンナさんがそうゆう関係じゃなかったと言っても和が不特定多数と関係を持っていた過去があるのは事実だし綾子は信じないのではないでしょうか?」
と結城は言ったあと
「でも、夫婦の問題にまで私たちマネージャーは立ち入ることは出来ませんからね。ただ、仕事に影響が出るようなことになると困りますけど」
と言った。




