移動日
次の日の朝、和が朝食を食べに行こうと部屋を出ると偶然同じ時間に部屋を出た
「和、おはよう」
と直則と和樹が声をかけてきた。
「おはよう」
と言って和があくびをすると
「綾子は?」
と和樹は聞いた。
「まだ寝てるよ」
と和が言うとエレベーターのボタンを押しながら
「まだ寝てる奴に、あくびしてる奴。昨夜どんだけ頑張ったんだか…朝からお疲れ気味なんて羨ましいな」
と直則が笑うと
「久しぶりに一緒に寝たけど二人とも疲れてたし、のりちゃんが想像してることは一切無かったけどね…」
と和はあくびをした。
「無かったの?」
と和樹が驚いた顔すると
「無いよ。別に俺は綾子の体温とか匂いとか感じながら寝れれば満足だし」
と和は言った。
「逆にやらしいな…」
と和樹が言うと
「やらしくないよ」
と和は言った。
「で、綾子にカンナちゃんのこと聞かれたの?」
と和樹が聞くと
「聞かれたって言うか」
と和は言った。
「そりゃカンナちゃんはスキンシップ激しいし和とあれだけ仲良くしてたら気になるよな。うちの嫁なら一晩中尋問だよ」
と直則が言うと
「そうゆうのは何も言わないんだけどさ」
と和は言った。
「言わない?じゃ、何言われたの?」
と和樹が聞くと
「カンナのネイルが可愛かったって言ってた」
と和は言った。
「ネイル?全然気づかなかったけど、そんな可愛いネイルしてたか?」
と直則が言うとエレベーターに乗り込みながら
「男はそうゆうのあんまり見ないけど、女は見るんじゃない」
と和樹は言った。
「そうなのか?」
と直則が言うと
「それに綾子はギター弾くから爪伸ばせないし、そうゆうのに憧れたりもするんじゃないかな」
と和樹は言った。
「憧れね…」
と和が呟くと
「でもさ、ネイルに憧れるとか可愛いもんじゃん。あれこれ聞かれるのもうんざりするよ。そうゆうの言わない綾子は本当に良い奥さんだよ」
と直則は言った。
「良い奥さん過ぎるのもね。俺は思ってることはキチンと言ってもらいたいんだよね。あの時みたいなことは二度と嫌だからさ」
と和が言うと
「あの時?」
と直則は聞いたが
「まぁ、いろいろあったんだよ」
と和はため息をついた。
「ま、詳しくは聞かないけどカンナちゃんはどうにかした方が良いんじゃない?今度の打ち上げにも来るんだし」
と直則が言うと
「わかってるけどさ…。でも、どうしようも無いじゃん。動けば動くだけ綾子が勘違いしそうだし」
と和とこたえてるとエレベーターのドアが開いたので
「プライベートな話はこれで終わりな」
と言ってエレベーターを降りた。
移動のバスに乗った綾子はいつもと変わらない様子で
「寝過ぎちゃって起きたら9時過ぎで慌てて準備しちゃったよ」
と笑いながら話した。
「綾子のノーメイクなんて見慣れてるし肌キレイなんだからわざわざ化粧しなくても良いんじゃない?」
と和樹が言うと
「でもね、メイクしないと落ち着かない感じするんだよね。ほら、ライブ前に肩を叩いてもらうのと同じ感じ」
と綾子は言った。
「それとは違うでしょう」
と奏太が笑うと
「同じだよ。スイッチ入らないもん」
と綾子は言った。
「スイッチって…綾子はいくつスイッチ持ってるの?」
と和が笑うと
「ライブスイッチにfateスイッチにSperanzaスイッチ…あとはたまにお母さんスイッチもあるよ」
と綾子は言った。
「ずいぶん多いな」
と和樹が笑うと
「でしょう。無いのは女の子スイッチだけだね。まぁ、特に必要ないから無くてもいいんだけどね」
と綾子は笑った。
ニューヨークのホテルに着くとサポートメンバーはオフに入り街に繰り出したが和と綾子はホテルの一室で地元メディアの取材を受けた。
「いいなぁ。俺も街に出たい」
と和が呟くと
「あと1社で終わりだから頑張れよ。夕方は街に出て美味しいもの食べよう」
と結城は言った。
「美味しいものね…。日本食食べたいな」
と和が言うと
「ナゴミさん、そんなワガママ言っちゃダメだよ。今回はワガママ言わないって決めてきたでしょ」
綾子は言った。
「いいじゃん。ここにいるのはマネージャーだけなんだしさ。綾子もナゴミさんなんて呼ばなくていいから」
と和が言うと
「そうゆう訳にはいかないわよ。キチンと区別しなきゃ」
と綾子は言った。
「でもそこまで徹底しなくても良いんだよ。ナゴミさんなんて他人行儀な呼び方、聞いてる方が違和感あるしさ。クリスなんて俺に和と綾子は不仲なのかって何度も聞いてくるし…」
と結城が言うと
「そうですよね。もっといつもらしくしてる方が見てて安心しますしね。特に和さんがいつストレスが爆発して機嫌悪くなるかわからないから、ヒヤヒヤしますし…。綾子さん、和さんのこと甘やかしてあげて下さいよ」
と佐伯は言った。
「だってさ。だから、まずはその呼び方やめなよ」
と和が言うと
「…でも、最近ずっとナゴミさんって呼んでたからクセになったみたいで呼びやすいんですよね」
と綾子は笑った。
取材が終わりニューヨークの街に出ると辺りは夕暮れ時になっていた。
タクシーに乗り、和の希望した日本食レストランでご飯を食べたあと
「じゃあ、ここからは自由行動になるから。…明日の集合時間、忘れるなよ」
と結城は言った。
結城たちと別れると和は綾子の手を握ろうとしたが綾子が手をコートのポケットにしまったので
「…手繋ぐの嫌?」
と聞いた。
「えっ…そんなことは無いけど。手を出してると冷たくて」
と綾子がこたえると
「確かに冷たいな。とりあえず手袋買って、それから手繋ごうか?」
と和は笑った。
買った手袋をはめて
「やっぱり暖かいね。もっと早くに買えば良かった」
と綾子が笑うと
「そうだね。手は綾子の商売道具だからね。もっと大事にしないと」
と和は綾子の手を握った。
「…商売道具ね」
と綾子が苦笑いすると
「違う?」
と聞いた。
「違わないけど」
と綾子が言うと
「でもな、俺にとっては魔法の手かな?」
と和は笑った。
「魔法の手?」
と綾子が聞くと
「そうだよ。こうやって手を繋いだり膝枕してくれた時に優しく髪を撫でられると安心する。綾子に愛されてるんだって実感させてくれる魔法の手だよ」
と和は言った。
「愛されてるって…」
と綾子が笑うと
「愛されてない?」
と和は綾子の顔を見て言った。
「…そうゆうのは簡単に言わないんだよ。価値が下がっちゃうでしょ」
と綾子が顔をそらすと
「そう?俺は価値が下がるなんて思わないけどな。好きだから好きって言いたいし愛しいと思うから愛してるって言いたいし…言わなくてもわかるだろって言われてもやっぱり言葉で伝えたいし伝えて欲しいな」
と和は言ったあと綾子の顔を覗きこんで
「今はキスしたい」
と言ってチュッと唇にキスをした。
ホテルに戻る帰り道
「12月に来たかったな」
と綾子が呟くと
「何で?」
と和は聞いた。
「12月ならクリスマスシーズンになるでしょ。イルミネーションとかマーケットとか行ってみたかったなって思って」
と綾子が笑うと
「ロンドンぐらいだとマーケット始まってるだろうし行こうか?」
と和は言った。
「そうだね。オーナメントとか欲しいな…」
と言ったあと綾子は
「でもな。今年は奏はデートだろうし…」
と言った。
「デート?」
と和が聞くと
「そうでしょ。彼女出来たんだもん。クリスマスは家族となんて過ごさないよ」
と綾子が笑うと
「マジ?彼女出来たの?」
と和は驚いた顔をした。
「うん。相川さん言ってたよ。知らなかった?」
と綾子が聞くと
「全然知らなかった。相川さんからも一度も連絡なんて来ないし。何で綾子に来るの?」
と和は言った。
「奏がお世話になってるから様子聞くのに連絡取ってるだけだよ」
と綾子が言うと
「そっか…。奏に彼女ね。綾子、寂しいんじゃない?」
と和が笑うと
「そんなこと無いよ」
と綾子は言った。
「本当?…もし、寂しいならもう1人子ども作っちゃう?」
と和が笑うと綾子は顔を曇らせたので
「冗談だよ。冗談。そんな真面目に考えるなよ」
と和は笑った。
「そうだね。忙しくて無理だもんね」
と綾子も笑うと
「でもさ、久しぶりに仲良くしたいな。ねぇ、ホテル戻ったらしよ」
と和は綾子の耳元で言った。
「明日、ライブあるでしょ」
と綾子が言うと
「大丈夫だよ。ね?身体も冷たくなっちゃったし二人で暖まろう」
と和は笑った。




