表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
247/356

まえぶれ

一件のパブに入ると和たちは2組のテーブルに案内されいつものようにメンバー組とマネージャーとコーディネーター組に座ることになった。

綾子が椅子に座るといつものように隣に和が座ろうとしたが

「ちょっと、綾子ちゃんの隣は私が座るのよ。和はこっち」

とカンナは綾子の隣に座り逆隣に座るように和を促した。

「…」

和が少しムッとした顔をして椅子に座ると

「なにムッとしてるのよ。いい男が台無しよ」

とカンナは言った。

「いちいちうるさいな…」

と和が呟くと

「和、聞こえてるわよ。どうしてそんなに感じ悪い人になっちゃったのよ。昔はもっと優しかったのに」

とカンナは言ったあと

「ねぇ、綾子ちゃんなに飲む?あっ、和はオレンジジュースかしら」

と笑った。

食事や飲み物が運ばれてきてほろ酔いになってくると

「私と和は特別な友だちだったのよ。一緒に夢を語ったりいろいろ相談したりされたり…」

とカンナは懐かしそうに綾子に言った。

「そんな記憶ないな…。嘘ついてるだろ?」

と和が言うと

「嘘じゃないわよ。朝まで二人で夢を語り合ったりしたじゃない?」

とカンナは言った。

「夢ですか?」

と綾子が聞くと

「そう。でもね、和の夢って大きいんだか小さいんだか…」

とカンナは笑った。

「カンナ、飲み過ぎじゃないか?」

と和が言うと

「飲み過ぎてなんかないわよ。綾子ちゃん、和の昔の夢聞きたい?」

とカンナは笑った。

「…えぇ。…まぁ」

と綾子が作り笑いすると

「ほら、綾子ちゃんは聞きたいんだって」

と言ってからカンナは

「和の夢はね、結婚して子どもが産まれたら自転車の乗り方教えてあげたり宿題見てあげたり学校行事に参加したりする事だったのよ」

と言った。

「そうなんですか」

と綾子が言うと

「それからね、子どもはたくさん欲しいって言ってたんだよ。自分が一人っ子で兄弟いる人が羨ましかったからたくさん兄弟作ってやりたいんだっていつも言ってたな」

とカンナは言った。

「…そうだったんですか」

と綾子が平然を装い言うと

「カンナ、本当いい加減にしろよ」

と和は言った。

「なに、怒ってるの?昔話じゃない」

と言うとカンナは

「で?子どもは何人いるの?和は多ければ多いほどいいって言ってたけど」

と綾子に聞いた。

「子どもは…」

と綾子が言葉に困ると

「何人でもいいだろ。綾子も答える必要ないから」

と和はムッとした顔で言った。

「ごめんなさい…」

と綾子が謝ると

「何で綾子ちゃんが謝る必要あるの?和、もっと優しくしてあげなよ。そうやってナゴミのイメージばかり大事にするの疲れるって言ってたけど、いまだにそんなの演じてるの?本当は甘えん坊のくせに…綾子ちゃんぐらいには素を見せてなさいよ」

とカンナは言った。

「…」

カンナの話を聞いて綾子が一瞬だけ顔を曇らせたことに気付いた奏太が

「…綾子?」

と心配そうに声をかけると綾子はいつもと同じ笑顔に戻った。

「カンナ、いい加減にしろよ」

と和が言うと

「何よ。本当のこと言ってるだけじゃない。和なんて格好つけてるけど、寂しかったり嫌なことがあると私の予定なんて関係なしに家にやってきて朝まで寝かしてくれないし…どんだけ迷惑だったと思ってるのよ。それにさ、本当は膝枕してもらうのが大好きな寂しがりやの甘えん坊だったくせに」

とカンナが言ったので

「えっ?」

と綾子は驚いた顔をした。

「本当、いい加減にしろって」

と和が怒り口調で言ったが聞いていないカンナは

「いっつも膝枕して欲しいってうるさかったのよ。綾子ちゃん、言われるでしょ?」

と綾子に笑った。

「いえ…」

と綾子が困惑した表情を浮かべたので

「綾子、誤解するなよ。それは」

と和が話をしようとしてると山下が側にきて

「綾子、日本からMV撮影の資料送られてきたので確認してもらえないかな?」

と聞いた。

「えっ?資料?」

と綾子が我に戻って聞くと

「はい。スケジュール表とかも送られてきてるので…。明後日にはスタッフ陣もニューヨーク入りするのでもし変更したいところがあったら早めに決めなきゃならないから」

と山下は言った。

「撮影?綾子ちゃん、ニューヨークでMV撮影するの?」

とカンナが聞くと

「はい。Speranzaの」

と綾子は言った。

「Speranzaの撮影なの?スゴいね。…じゃあ、しばらくはニューヨークにいるの?」

とカンナが更に聞くと

「まぁ、1週間ぐらいは」

と綾子はこたえた。

「そうなの?じゃあさ、ニューヨークでも会おうよ。今度は和抜きでさ。ねぇ、連絡先交換しない?」

とカンナが笑うと

「カンナ、綾子は忙しいから」

と和は言った。

「そうなの?でも、ランチぐらいは出来るんじゃない。私は綾子ちゃんにいつでも合わせるよ」

とカンナはスマホを取りだし

「ねぇ、交換しよう」

と言った。

綾子がカンナに押しきられて連絡先を交換してるのを山下や直則たちサポートメンバーが心配そうにしているなか和はとても不機嫌そうな顔をしていた。

「和、なんでそんな顔してるの?あっ、もしかして和も連絡先交換したいの?仕方ないな…。でも、私は和には連絡しないよ」

とカンナが笑うと

「交換なんてしたくないよ」

と和は言ったが

「もう、素直じゃないな。ほら、スマホ出して。昔のよしみで特別に教えてあげるから」

とカンナは言った。


山下と一緒に隣の席に移動した綾子に

「綾子、大丈夫か?」

と結城は聞いた。

「なにがですか?」

と綾子が聞き返すと

「何って…彼女…」

と結城は言った。

「ああ、明るい人ですよね」

と綾子が笑うと

「そうゆう意味じゃなくてさ」

と結城は言った。

「本当だよ。なんなんだよ、あの女」

と山下も言うと

「昔の友だちって言ってたからそうなんじゃない?それよりも、早く資料見せて」

と綾子は言った。


パブを出てストリートを歩いていると

「ねぇ、もう一件行こうよ」

とカンナは言った。

「無理。俺たち疲れてるの」

と和が言うと

「なによ…ケチ。じゃあさ、綾子ちゃん二人で行こうかな」

とカンナは綾子の腕に手をまわした。

「綾子も無理。女二人危ないでしょ」

と和がため息をつくと

「だったら和だけ帰ってみんなで行こうよ」

とカンナは言ったが

「俺たちもちょっと無理かな。疲れてるから寝たいし…明日移動だから」

と和樹は言った。

「そうなの…。久しぶりにみんなに会ったんだし、綾子ちゃんともっと話したかったのに」

とカンナがさっきまでの明るさがまるで嘘のように寂しそうな顔をすると

「あの…ニューヨーク公演のあとに打ち上げあるから、カンナさんもいらっしゃったらどうですか?」

と綾子は言った。

「綾子、余計なこと言うな」

と和が言うと

「だって、せっかく出会えたんだしカンナさんはニューヨーク公演にも来てくれるんですよね。打ち上げにはSperanzaのメンバーも来るし…」

と綾子は言った。

「Speranza来るの?…でも、関係ない私が行くと迷惑でしょ」

とカンナが言うと

「そんなことないですよ。私も男ばかりに囲まれるより同性の人いると、いろんな話出来て楽しいし。…結城さん、ダメですか?」

と綾子は聞いた。

「えっ…あっ…」

と結城が和を見ると、とても不機嫌そうな顔をしていたが、ここで断るといかにも綾子に気を使ってるのが見え見えで綾子が余計な心配するかもしれないと思い

「いいですよ。後で詳しいことを連絡しますので連絡先をお聞きしてもいいですか?」

と言った。

「ちょっ…結城さん、いいんですか?」

と山下と佐伯が止めに入ったが

「1人増えたぐらいでどうってことないよ」

と言ったので

「本当ですか?うわぁ…嬉しい。綾子ちゃん、今度はもっと話しようね」

とカンナは嬉しそうに言った。


宿泊するホテルの部屋に入った和は早々に荷物を出そうとしている綾子を後ろから抱き締めて

「やっと二人きりだね」

と言った。

綾子は荷物を取り出す手を止めて和の腕に触れようとしたが一瞬迷ってから再度リュックから荷物を出しながら

「もう遅いんだし早くシャワー浴びてきたら?」

と笑った。

「…」

綾子が平然を装っていなるけど明らかにいつもと様子が違うことに和は気づいていたが、あえてそのことにふれないで

「じゃあさ、一緒にシャワー行く?」

と綾子の頬にキスをした。

「ごめんね。私、メール確認しなきゃならなくてまだ行けないのよ」

と綾子が言うと

「じゃあ、終わるまで待ってるよ」

と和は言った。

すると、綾子は和の腕を離して仕方ないなと言うような顔をして

「すぐ終わるから、ナゴミさん先にシャワー使っちゃって」

と言った。

「…なんでナゴミさんって呼ぶの?」

と和が呟いたが、あまりにも小さな声で聞こえなかった綾子が

「なに?」

と聞いたが和は綾子の頭を撫でて

「じゃ、俺先に使わせてもらうけどあんまり無理するなよ」

と言った後に綾子の頬にもう一度キスをして

「終わったらおいでね」

と言った。


和の浴びるシャワーの音が聞こえてくると綾子はベッドの上にPCを開いてメールのチェックを始めた。

今回、人数の関係で同行出来なかった伊藤からの撮影でのヘアメイクについてのメール、スタイリストからの衣装についてのメール、北原からの撮影スケジュールについてのメールと次々と目を通していたが内容は全く頭に入ってこなかった。

今までもナゴミと過去に関係のあった人に会ったことはあるし話もしたことがある。

正直、平然を装っていたが毎回少し面白くない気持ちにはなっていた。

けど、話をするうちにその人は若狭和ではなく、ナゴミと関係のあった人だとわかるからそれ以降に引きずることは無かった…と思う。

だけど、カンナは違う。

和が怒ったり笑ったりとあんなにも素の自分を見せるのはカンナが特別な存在だったからのような気がする。

いや、きっと特別な存在だったんだ。

他の女性は知らなかった…私だけが知っていたはずのことを知っている。

子どもがたくさん欲しかったことも、本当は寂しいがり屋で甘えん坊なことも。

…そして膝枕が好きなことも。

「…」

綾子はマウスをクリックする手を止めてため息をついた。

全て過去のこと。

今さら気にしたってどうにかなることじゃない。

けど和と腕を組んだり頬をつねったり…和は嫌がっていたけど、本気で怒ってはいなかった。

綾子は短く切り揃えてある自分の爪を見て

「カンナさんのネイル…可愛かったな」

と呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ