お風呂での会話
結城たちが帰ったあと奏は自分の部屋に戻り相川に出された宿題…スピンオフドラマの主題歌に決まったSad loveのエンディングを作り直しをしようとPCを開き曲を聴いていた。
「…」
エンドレスの主題歌が決まったと言われた時、とても嬉しかったし、fateが作ったのと同じ映画の主題歌を自分が作って歌えるなんて夢のようだと思った。
けど、こうやって一人で曲を聴いてると本当に大丈夫なのだろうか?と不安が押し寄せてきた。
清雅のこともエンドレスのことも本当に自分で大丈夫なのだろうか?
こんなチャンスが次々と舞い込んでくるなんて普通に考えておかしい。
もしかしたら、長い夢を見てるとかドッキリかなにかなのかも…。
「…んなわけは無いよな」
と奏がマウスをクリックして曲を聴き直そうとしているとドアをノックする音がして
「奏、開けるよ」
と綾子の声がした。
「どうぞ」
と奏が言うとドアが開いて
「お風呂入っていいよ」
と洗い立ての髪をタオルで拭きながら綾子は言った。
「わかった。もう少ししたら行くよ」
と奏が言うと
「…宿題もう始めてたんだ」
と綾子は言った。
「うん。日曜日までって言われたから…」
と奏が言うと
「そっか…大変だね。って言うか、これからどんどん大変になってくるだろうけど頑張ってね」
と綾子は笑ったあと
「今日はごめんね」
と謝った。
「何が?」
と奏が聞くと
「清雅さんに曲作ってたこと…余計なことしちゃってたね」
と綾子は言った。
「そんなことないよ」
と奏が言うと
「私ね、奏が清雅さんに歌ってもらうって言った時スゴい安心したんだ」
と綾子は言った。
「なんで?」
と奏が聞くと
「曲作りながらも奏の曲を使ってもらう方が良いんじゃないかな?って思ってたの。誠も良い曲だったって言ってたし…奏が言ってた通り新人でこんなチャンス滅多にないからさ。でもね、奏もパパも嫌なら断ればいいのにって思いもあってね…」
と綾子は言ったあと
「さっ、今日はいろいろあって疲れたでしょ?明日も学校だし早くお風呂入って寝ちゃいなさい」
と言ってドアを閉めた。
「…」
奏が脱衣室で服を脱いでいるとバスタオルと和の服が置いてあったので奏は手を止めた。
「…父さん、風呂入ってる?」
と奏がバスルームのドアを開けて声をかけるとバスタブに浸かっていた和が
「ああ、もうすぐ出るから入っていいよ」
と言った。
奏がバスルームに入りシャワーを浴び始めると和が大きなため息をついたので奏は髪を濡らしながら
「疲れてるの?」
と聞いた。
「いや…。ちょっとさ、綾子に言い過ぎたかなって思って…」
と和が言うと
「母さん?」
と奏は聞いた。
「さっきまでさ、一緒に風呂入ってて奏も大きくなったなぁって話しててさ。なんか嬉しいような寂しいような気がするって綾子が言うからさ…」
と和が話してると
「子ども作ろうか?って話したの?」
と奏は聞いた。
「なんで?」
と和が驚いた顔すると
「そりゃ…いつものパターンだから」
と奏は言った。
「…そっか」
と和が納得した顔をすると奏は髪に洗いながら
「でもさ、そんなのいつものことでしょ?母さん、別に何も言ってなかったよ」
と言った。
すると和は
「言い過ぎたのはその事じゃないんだけどね」
と言ってもう一度ため息をついた。
「違うの?でも、気にすること無いんじゃない。母さん普通だったし」
と奏が言うと
「父親と母親では考え方がちょっと違うんだよな…」
と和は言った。
「何の話?」
と奏が聞くと
「ん?ほら、さっきの清雅さんの仕事の話。綾子が奏が断った時のために曲を作ってたって言ってたじゃん」
と和は言った。
「あ、うん」
と奏が今度は身体を洗いながら言うと
「俺はどうしてそんな余計なことするんだって思ったんだよね。そんなことしても奏のためにならないって思ったし、断ってもいいんだなんて何でそんな甘いこと言ったんだろうって思って怒っちゃったんだ」
と和は言った。
「そうなの?」
と奏が言うと
「うん。俺も初めはどうしていいのか迷ったけど曲を何度も聴いてるうちに、この曲は絶対に売り出した方が良い曲だって思ったんだよね」
と和は言った。
「…」
奏が身体を洗う手を止めて和の話を聞いてると
「あの曲は歌うのが難しいうえに新人の曲を節目に起用するなんて清雅さんらしいなって思ったんだ。それに清雅さんが歌うってことで奏に興味を持ってくれる人もいるしスゴいチャンスだとも思ったし」
と和は言ったあと
「あとは清雅さんなら、ちょちょっと作詞するだけでお金も入ってくるしね。小遣い稼ぎになるなって」
と笑った。
「ちょちょっとって…」
と奏が身体を洗いながら笑うと
「でもさ、綾子は違うんだよな。やっぱり母親だから奏が傷付いたり悩んだりするのが可哀想って思うし心配みたいなんだよ。俺は傷付いたり悩んだりする経験も大切だって言っちゃったんだけど、よくよく考えたら父親と母親では考え方が違うのかなって風呂に入りながら思ってさ」
と和は言った。
「…」
奏がなんて言っていいのか困りながらシャワーを浴びていると
「でもさ、奏が泣くなんて思ってなかったからビックリしちゃったな」
と和は笑った。
「…ちょっとよけて」
と奏が少しムッとした顔でバスタブに足を入れると
和は奏が入れるように端によけた。
奏がバスタブに浸かると
「俺が余計なことを言ったせいで悩ませて悪かったな」
と和は言った。
「そんなことないよ…。元々は俺が言い出したことだったし…」
と奏が言うと
「でもさ、今日奏の話聞けて嬉しかったな」
と和は言った。
「そう?」
と奏が恥ずかしそうに言うと
「うん。俺を輝かせる曲を作れるようになりたいって言ってくれたのも嬉しかったし、俺と綾子が叶えられなかった夢を叶えたいんだって言ってくれたのもスゴい嬉しかったよ」
と和は言った。
「でも、結局は…」
と奏が言うと
「さっきも言ったけど、俺は清雅さんに歌ってもらうのが一番いいと思うし奏の選択は間違ってないと俺は思うよ。ただね、奏が俺のことをそんなにも考えてくれたってことが嬉しいんだよ」
と和は言った。
「そう」
と奏が恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうに言うと
「こうやって奏が大人になってくのは嬉しいんだけど少し寂しいな。一緒に大福買いに行ったことなんて昨日のことのようなのにな」
と和は言った。
「懐かしいね。幼稚園の頃行ったよね?」
と奏が言うと
「そうだな。あの頃の奏は可愛かったな…。それがいつの間にかこんなに大きくなっちゃって俺や綾子と同じ道を歩こうとしてるんだもんな…」
と和は感慨深そうに言った。
「でも、この先どうなるかわかんないよ」
と奏が言うと
「そりゃな…。もしかしたらやっぱり弁護士になりたいって思う可能性もあるしなんとも言えないけど…。けどさ、奏も17なんだしそろそろ好きな子の1人でも」
と和は突然話を変えた。。
「別にいいよ。そうゆうの」
と奏は言ったあとに
「そう言えばさ、父さんって女の子と付き合ってた時ってマメに連絡とかしてた?」
と聞いた。
「連絡?なに、どうしたの。奏、付き合ってる子いるの?」
と和が身を乗り出して聞くと
「俺じゃないけどさ。友だちがマメに連絡しないとダメだみたいな話してて。そうゆうものなのかな?って思って」
と奏は聞いた。
「別に無理する必要はないと思うけど…。でもさ、好きな子相手だと連絡しちゃうな」
と和が言うと
「そうゆうものなの?」
と奏は聞いた。
「俺はね。結婚する前…って今もだけど綾子今なにしてるかな?とか会いたいな…それが無理なら声だけでも聞きたいなとか思うとちょっとの時間でも連絡しちゃうな。あっ、でも付き合う前にツアーで地方回っててさ。連絡たいのをグッと堪えて綾子から連絡くるの待ってたことがあったんだよ。綾子から連絡きたらめちゃくちゃ嬉しいなってワクワクして待ってたんだけど全然来なくてさ」
と和が言うと
「よく覚えてるね」
と奏は言った。
「そりゃ覚えてるよ。2週間ぐらい綾子の声聞けなかったんだから…」
と和が言うと
「だったら連絡すれば良かったじゃない」
と奏は言った。
「いいや。待てば待つほど後の喜びが増すと思って待ってたんだよ。でもさ1週間ぐらいしたら、もしかしたら具合悪くて寝込んでるのかな?とか最悪入院とかしてるかもってだから連絡してこれないかもしれないって不安になってきてさ。綾子に何かあったかもしれないから東京帰りたいって言ったら村上さんに怒られてさ」
と和は言った。
「そりゃそうでしょ」
と奏が笑うと
「だけどさ、心配で心配で仕方なかったんだよ。そしたら由岐が綾子は元気だしテスト勉強してるから安心しろって言ってきてさ」
と和は言った。
「良かったじゃん」
と奏が言うと
「良くないよ。なんで由岐と連絡取り合って俺にはしないの?って感じじゃん。もうさ、ムカつくって言うかガッカリしたって言うかさ…」
と和は言った。
「母さん、由岐ちゃんと仲いいもん。仕方ないよ」
と奏が言うと
「そうゆう問題じゃないんだよ。でさ、東京帰ってきて綾子に聞いたよ。なんで由岐に連絡して俺にしないんだって。そしたら何て言ったと思う?」
と和は聞いた。
「何って…父さんに用がないからじゃない」
と奏が言うと
「おまえ、はっきりと言うな…。でもこたえは違うんだよ。由岐が話したのはじいちゃんで俺が綾子に何かあったかもしれないって心配してるから綾子の様子聞いてくれたってだけの話」
と和は言った。
「…なにそれ。くだらない」
と奏が呆れた顔をすると
「だろ?俺も力抜けたよ」
と和は言ったあと
「まぁ、これは今思ってもくだらない出来事だったなって思うけど、奏も彼女出来たらなるべく一緒にいたり連絡とったりした方がいいよ。たくさん話してお互いのことを知ると今まで以上に相手のことを理解出来るようになるし、ほったらかしすると相手は不安になるからね」
と和は言った。




