他愛ない話 2
「付き合わないの?」
と言う奏の何気ない声にナナがチクッと胸を痛めてると
「ねぇ、聞いてる?」
と奏は聞いた。
「あっ、うん。聞いてるよ」
「で?どうするの?」
「うーん…。どう思う?」
「どう思うって聞かれても…」
「だよね。聞かれても困るよね?ごめんね」
「いや…、役に立てなくてごめんね」
「そんなこと無いよ。それに…断ろうかなって思ってたところだし」
「そうなんだ。まぁ、ナナさんモテそうだしね」
「はぁ?私が?どこをどう見たらモテそうなんて思うの?」
とナナが驚きの声をあげると
「そうかな?面白いしモテそうだけど…」
「あのさ…奏君の中で面白いって誉め言葉なのかな?」
「…どうかな?でも、ナナさんは何か言ったりするとスゴい反応良いから面白いしさ」
「なにそれ」
「だって、ちょっとナゴミの真似したりしたら真っ赤な顔したり面白いじゃん」
「あ…そ」
「ほら、またそうやってふて腐れるところとかも…からかいたくなるよね」
「からかうって…」
「コロコロ表情変わるのとか見てて飽きないし…モテると思うけどな」
「そうかな?…ちなみにだけど奏君はどんな子が好き?」
「俺?俺は…特にないかな?」
「ないの?タイプの子とかは?」
「ないかな」
「ほら、髪が長い子とか胸が大きいとか…」
「胸がデカイ子は…目がいくけど」
「いくんだ?」
「そりゃ…まぁ…」
「うわぁ…。なんか嫌だわ。奏君、エロいわ…。引くわ…」
とナナが嫌そうな声で言うと
「引くって言われてもさ。男なら普通でしょ。それに大丈夫。ナナさんは印象に残るほどの胸は無かったような気がするから」
と奏は笑ったので
「そりゃ、私はそんないいもの持ってないけど…失礼だよ」
とナナはムッとした声で言った。
「ごめんごめん。でもさ、ナナさんが胸が大きい子はって聞くから言っただけだし」
「そう…だけどさ」
「じゃあさ、ナナさんのタイプはどんな人?」
「私?私は…」
とナナが言いかけると
「あっ、ナゴミか!」
と奏は笑った。
「うん。まあね」
とナナが曖昧にこたえると
「でもさ、実際にナゴミみたいな人ってどうなんだろう?」
と奏は聞いた。
「どうって?」
「だって、昔のナゴミは女遊びスゴかったらしいよ。心配絶えないよ。そんな人がタイプ?」
「タイプって言うか…憧れだから。私の妄想の中ではナゴミは私にだけ優しいの」
「まぁ、妄想するのは勝手だからね。でも、母さんはツラかったみたいだよ」
「そうなんだ…。って言うか、本当に女遊びスゴかったの?」
「母さんと付き合い始めるまではね。割り切った関係だったって父さんは言うけど…」
「お母さんだってモテたでしょ?本当に彼氏とかっていなかったのかな?」
「母さん、ギターに夢中だったらしいからね。ご飯食べるのも忘れて弾いてたらしいし…」
「そんなに?」
「うん。あっ、今でもそんな感じの時あるかも。スタジオ籠ってると父さんが呼びに行っても曲作りに夢中で全然ご飯食べにこないし…」
「奏君の家にスタジオあるの?」
「まぁね。今日も仕事から帰ったきて母さんスタジオに籠って曲作ってるよ」
「スゴいね。Speranzaの曲?fateの曲?」
「さあ?後で困らないように余裕あるときに曲作るんだってしか聞いてないから…」
「そうなんだ。大変だね」
「って思うでしょ?俺もそう言ったら大変にならないために作ってるんだから大変じゃないんだって言われたよ」
「前向きだね」
「だね。けど、それって勉強とかも同じだよね?明日しよう明日しようなんて思ってると絶対やんないで後で大変な思いするじゃん」
「あぁ、確かに。今度こそは毎日勉強しようって思うんだよね。結局は続かないんだけどね」
「そうなの?俺は後で大変な思いしたくないから毎日コツコツやるけど…」
「そうなんだ…優等生だね。私とは違う…」
「優等生って訳じゃないよ。後で大変な思いしたくないからと勉強するの面白いからね」
「面白い?なにそれ?私、面白いなんて一度も思ったことないよ」
「そう?解けない問題が解けた時とか嬉しいし…。知らないことを知るのって面白くない?」
「…そうゆう考え方出来たら面白いのかも知れないけど。私は無理だな。面白くなるほど勉強出来ないし…」
「でも、大学行ってるんでしょ?」
「それは…ね。でも、大学選んだのも高校の時に憧れてた先輩が入った大学だからって不純な動機だし…」
「そう?母さんも英語だけは出来たから推薦してもらえるって理由で大学選んだし…。将来何になりたいとか無かったみたいだよ」
「そうなの?」
「英語教師の資格持ってるけど教師になりたい訳じゃなかったみたいだし…」
「そりゃ、Speranzaやってたからじゃない?大学入る前からプロになろうって思ってたんでしょ?」
「それも思ってなかったみたいだよ。プロになんてなれるわけないと思ってたみたいだし。高校卒業してスカウトされてから初めてプロになることを意識したって言ってたよ」
「そうなんだ。お兄さんとかがプロでやってると自分もって思わないのかな?」
「逆なんじゃない」
「逆?」
「多分だけど、自分のまわりに同じことしてる人がいると無意識に比べちゃうじゃん。だから、自分は無理だなって思うんじゃないかな」
「そっか…。確かにユイナには彼氏がいるのに私にはいなくて自分は一生彼氏出来ないかもって思うもんね」
とナナがしみじみと言うと奏は笑いだし
「それ母さんとは違うんじゃない?」
と言った。
「そう?」
「そうだよ。ってさか、ナナさんってそんなに彼氏欲しいの?」
「そりゃ、ユイナが彼氏と仲良くしてるの見ると羨ましいなって思うし欲しくなるよ」
とナナは言ってから少し考えて
「奏君は友だちに彼女出来たら自分も欲しいなって思わない?」
と聞いた。
「あんまり」
と奏がこたえると
「あんまりってことは、やっぱり少しは思うんでしょ?」
とナナは恐る恐る聞いた。
「まぁ、仲良くしてるの見ると幸せそうな顔してるしね。でも、友だちを優先しちゃったりして怒られたりケンカしたりしてるの見ると…ちょっとね。俺、絶対に友だちとか自分を優先しちゃう気がするし相手の人が可哀想じゃん」
「…奏君って意外と優しいんだね」
「意外とってどうゆうこと?俺、優しいよ」
「嘘っ。私には優しくないよ」
「そう?でも、別に優しくする必要ないし」
と奏が言ったのでナナは胸がズキッと痛くなった。
「…ちょっと酷いんじゃない?私も女の子なんだよ。優しくしてよ」
とナナが無理に明るい声で言うと
「そう?でも、ナナさんと話すのは気を使わなくていいからラクなんだけど…」
と奏は言った。
「ラク?」
「うん。最近いろいろ考えること多くて頭の中がぐちゃぐちゃしてたんだけど、こうやって話してる間は忘れてて本当気持ちがラクになったし」
「ふーん」
「ある意味ナナさんって俺にとって特別だよな」
「特別なの?」
「うん。特別だと思うよ。ナナさんって俺のことあれこれ聞いてこないでしょ?」
「そうかな…」
「そうだよ。だから、余計なことを考えないでこうやってくだらない話も出来るし…。琳たちと同じって感じで特別な人って感じする」
「琳君たちと一緒ね…」
「不服?」
「そんなことは無いけど…。一応ね、私も女の子だからさ」
「女の子だとは思ってるよ。だから、余計に特別。俺、ナナさん以外にこうやって話せる女の子いないからさ」
「そっかそっか…。私って貴重だね」
「うん。貴重」
「…なんかさ、そんな素直に言われるとちょっと困るって言うか…照れるわ」
とナナが恥ずかしそうに照れて言うと
「フフッ。ごめん、もう無理。特別って言ったらどんな反応するかなって思ったら想像した通りの反応するんだもん。本当面白い」
と奏は笑いだした。
「…なによ」
とナナがとても小さな声で呟いたが、聞こえなかった奏が笑いながら
「本当、ナナさん最高だよ。こんなに笑ったの何日ぶりだろ?あんなに悩んでるのバカみたいに思えてきた。笑いすぎて腹痛いわ」
と言ったのでナナは仕方ないなと言う感じでため息をつくと
「でしょ。私、貴重でしょ?」
と言った。
「うんうん。貴重だよ。ああ、ナナさんみたいな子がいたら毎日楽しいんだろうな」
「そう?またからかってるんじゃないでしょうね」
「からかってないって。マジでナナさんみたいな子がいたら一緒にいても飽きないし楽しいだろうな」
と奏が笑いながら言うと
「じゃあさ…私と…付き合ってみる?」
とナナは言った。




