誠と相川
「で、奏の曲を2曲聴いてもらったんだけど、率直な感想は?」
と相川が聞くと
「そうですね。上手いと思いますよ。俺が思ってたより歌も上手いですね。もう少し感情の入れ方の強弱をはっきりしたらもっと良くなると思いますけど…。デビュー当時の渉と比べたら数倍上手いんじゃないんですかね」
と誠は笑ったあと
「ギターも上手いですね。さすが小さい時からギター弾いてただけあって技術もあるし、良い音を出すなって思います。曲に関しては…俺が意見して良いのかどうかわからないので」
と誠は言った。
「どうして?」
と奏が聞くと
「俺が口出しすると俺の色がついちゃうだろ?人それぞれ癖とか好みとかあるし、奏は奏の好きな色で作らないと。…相川さんは俺よりいろんな色を持ってるから奏の曲に合った色を選んでアドバイス出来るかもしれないけど、俺にはそこまで出来ないからさ」
と誠は笑った。
「まぁ、それが俺の仕事だからな。誰でも出来たら俺みたいなジジイなんて用無しになっちゃうだろ?」
と相川は笑うと
「じゃ、話は終わりってことで。どうする奏?送ってくか?それとも泊まってくか?」
と聞いた。
すると奏は時計を見て
「まだ10時過ぎだし電車で帰ります」
と言った。
「電車でって。こんな時間だし俺も帰るから相川さんに送ってもらえよ」
と誠が言うと
「大丈夫です」
と奏は言ったが
「バーカ。奏を送るついでに俺も送ってもらおうって思ってんだよ。そこ、察しろよ」
と誠は奏の頭をクシャクシャっと撫でた。
自宅の前まで送ってもらった奏が車を降りて
「ありがとうございました」
と頭を下げると
「ゆっくり休めよ。それから、友だちにあんまり心配かけんなよ」
と相川は笑った。
「はい。気を付けます」
と奏が言うと
「綾子に、明日寝坊するなよって言っといて」
と誠は言った。
「はい」
と奏が笑うと
「じゃ、面倒な奴を送んなきゃなんないから行くわ」
と言って相川の車は走り出し見えなくなった。
奏の家から出発して大通りに出た車の中で
「忙しいのにすまなかったな…」
と相川は誠に礼を言った。
「別に大丈夫ですよ。思いがけず奏の曲も聴けたし…相川さんをアシに使える貴重な経験も出来るし」
と誠が笑うと
「奏の曲…実際、どうだった?」
と相川は聞いた。
「…どうって。正直に話して良いんですか?」
と誠が聞くと
「ああ。正直に言ってくれ」
と相川は言った。
「じゃ、正直に話しますけど…高校生が作った曲だとは思えなかったですし、歌も綾子に見せてもらった文化祭の映像よりずっと上手いと思いました」
と誠が言うと
「そっか。だよな」
と相川呟いた。
「和さんと綾子それから由岐さんの血を受け継いでるからなんですかね。やっぱり血筋って言うか…生まれ持った才能なんでしょうね。羨ましいですね、俺はあんな曲を作れないですし、高校生であれだけ歌えるなんて普通あり得ないですよね」
と誠が言うと
「確かに血筋と言うか才能を受け継いでると思うよ。ボイトレも受けず訓練もしないであれだけの歌唱力…表現力を持ってるのは和の才能を受け継いでるってことだよな。曲に関しては才能だけじゃなくて、環境も関係してるんじゃないかと俺は思うんだ」
と相川は言った。
「環境…」
と誠が呟くと
「奏は産まれる前から音楽に触れてきたからね。それに産まれてからも綾子はスタジオにベビーベット置いて奏をそこに寝かせながら作曲してたし、幼稚園に行くまで綾子がスタジオにいるときは奏もスタジオで遊んでるって生活してきたし、楽器だって好きな時に遊べる環境にあったし、自分の意思に関係なく隣に音楽があるのが普通だったらからね」
と相川は言った。
「確かに…」
と誠が言うと
「あとはピアノ教室かな?」
と相川は言った。
「ピアノ教室ですか?」
と誠が聞くと
「ピアノ教室の先生に音大付属目指せと言われて音楽理論も勉強したらしいよ。そのおかげで基本が出来てるから奏は曲の構成が上手いんだよ。それに、基本を知ってる上でわざと理論を無視した曲の作り方をしたりもするけどその匙加減が上手いって言うか…。まぁ、それは綾子の影響だな。綾子もわざとそうゆう作り方するときあるし…」
と相川は言った。
「才能、環境、指導者…音楽やるために産まれてきたみたいですね」
と誠が言うと
「だな」
と相川は笑ったあと
「俺たちから見たら羨ましいよな。…本人は理想が高過ぎて自分の価値を知らないみたいだけど」
と言った。
「理想?」
と誠が聞くと
「理想って言うか、奏は自分と比較する対象が普通とは離れてるんだよ。俺も結城さんもそれは間違ってるって言ったんだけど。まぁ何にしろ奏は自分を過小評価し過ぎるんだよな…」
と相川は言った。
「そうなんですか?…ちなみに奏の理想って?」
と誠が聞くと
「両親だよ」
と相川は言った。
「両親?」
と誠が言うと
「そう。和や綾子みたいな曲作ってギター弾いて和のように歌う。それが奏の理想で比較する対象なんだって」
と相川は言った。
「目指すのは良いけど自分と比較するなんて…普通しないでしょ」
と誠が驚くと
「でも、実際そうなんだよ。和や綾子みたいに出来ないから自分はまだまだダメだって思ってるみたいでさ。誰に何を褒めてもお世辞を言われてるとしか思わないみたいだよ」
と相川は言った。
「マジっすか…。まぁ、天狗になるより常に向上心を持ってる方が良いとは思いますけど…。和さんや綾子みたいにって言うのは…。才能とかだけじゃなくて経験の差もありますからね…」
と誠が言うと
「なんだよな…」
と相川は言ったあと
「ところで、誠に聞いてみたかったんだけど実際のところ奏の曲って売れると思う?」
と聞いた。
すると誠は
「その前にちょっと聞きたいんですけど、奏が相川さんが自分の曲をエンドレスの主題歌に推薦してくれるって話してたんですけど…本当ですか?」
と逆に相川に聞いた。
「ああ。エンドレスのスピンオフドラマの主題歌を歌うミュージシャンを紹介して欲しいって頼まれたからな。それにドラマの主題歌歌うミュージシャンに映画のも頼みたいって話もされたからチャンスだと思ったんだよ。…それに俺は奏だからって理由だけじゃなくてドラマの台本と曲のイメージがスゴい合ってると思ったからな」
と相川が言うと
「それってやっぱり今日聴いた曲ですよね?」
と誠は聴いた。
「そのつもりだけど。…タイアップは無理だと思うか?」
と相川が聞くと
「いえ、想像してたよりずっと良い曲作りますし歌も上手いし…。エンドレスの世界観と合ってると思うんで多分大丈夫じゃないかな?とは思うんですけど…」
と誠は言った。
「けど?」
と相川が聞くと
「エンドレスの主題歌なんて無理だと思って清雅さんに曲を歌ってもらった方が良いって言っちゃったんです。でも、余計なこと言っちゃったかなと思って…」
と誠は言った。
「そんなことないよ。実際、清雅が歌えば注目してもらえるだろうし。…それは俺もわかってるんだけどさ」
と相川が言うと
「俺、なんで清雅さんが歌いたいって言ってるのに奏が曲の提供を嫌がったり、綾子が代わりに曲を作ったりしてるのか意味がわからなかったんですけど、曲聴いて理由がわかったような気がします」
と誠は言ったあと
「あの曲って和さんのために作った曲ですよね?」
と聞いた。
「あっ…。うん、まぁ…」
と相川が言うと
「ですよね。曲がまんま普段の和さんですもん」
と誠は言った。
「だよな…」
と相川が呟くと
「和さんと綾子は知ってるんですか?」
と誠は聞いた。
「綾子はどうか知らないけど和には俺から全部話したよ」
と相川は言った。
「全部って言うと?」
と誠が聞くと
「あの曲は和をイメージした曲だけど、奏は自分が和のことをどんな風に見てるか知られるのが恥ずかしくて嫌だから聴かせたくないって言ってたって話したよ。だから、奏は曲を流した時に慌てたし怒ったんだってことも…」
と相川は言った。
「和さん、それ聞いて何て言ってました?」
と誠が聞くと
「じゃあ、何で俺のところに作詞の仕事持ってきたんだって怒ったと言うか…動揺してたな。今すぐ返事は出来ないから作詞の話は保留にして欲しいとも言ってたよ」
と相川は言った。
「そっか…。和さん、どうするんですかね」
と誠が呟くと
「和がどうするかよりも奏が清雅の話は断るって言ってるから和の作詞の話も消えるんじゃないかと俺は思うんだよな」
と相川は言った。
「…そうなったら和さんは詞付けないんですかね」
と誠が聞くと
「どうだろうな…」
と相川は呟いた。
 




